「経営コンサルが2週間体験」ギグワーカーとして配達員をしてもいい人の条件
プレジデントオンライン / 2021年7月30日 9時15分
※本稿は、えらいてんちょう『しょぼい起業で生きていく 持続発展編』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■“しょぼい起業”と“ギグワーク”は補完関係にある
私が推奨する「失敗する可能性が極めて低い」しょぼい起業で、かりに統計上99%の人が成功していても、残り1%の人が失敗で受けるダメージには何の慰めにもならない。政治・経済・宗教と、各所で大言壮語ばかり吐いているように見えるかもしれませんが、私は常々、そうしたミクロの視点を忘れてはならないと考えております。
では、しょぼい起業でもし失敗したらどうするか。あくまでも現時点でのベストとして、私は「Uber Eatsで“保険”をかけろ」と回答したいと思います。
あなたが開いた店のフードデリバリーにUber Eatsを使え、というのではありません(使っても構いませんが、売上の35%を手数料として取られますから、しょぼい起業としてはまず割に合わないでしょう)。目指すべきは「店主として稼げないときは配達員になって補う」というハイブリッドな経営です。
ハイブリッド車が、エンジンのトルクが出ない低速にモーターを使うことでエコに走るかのごとく、「その時々、どちらかで稼げば無理なくやっていける」という自信を持つことで、長期的な成功に向かう足元を固めるのです。
「しょぼくても地に足着けた実店舗の主」であることと「大資本のオンラインプラットフォームに乗って好きなとき稼ぐギグワーカー」という立場は、かなり対照的です。ただそれだけに、足りないところを補い合う関係としては理想的であり、なんなら一方ずつではなく、同時に両立していくことも考えられます。
「理屈ならどうとでも言えるだろ」という声も聞こえてきそうですが、安心してください。これは私自身が2週間、実際にUber Eats配達員を務めた上での結論です。
なぜUber Eatsがしょぼい起業の保険となりうるのか、以下では私の実体験を交えて説明することにしましょう。
■「時間自由」は「かけもち自由」
私がUber Eatsの配達員にチャレンジしたのは2020年8月中旬の約2週間。日ごろから夜行性なのと、炎天下での消耗を避ける狙いで、主に21時から翌1時までの時間を充てて、自宅最寄りの繁華街である東京・池袋エリアを、普段の足であるママチャリで回ってみました。
初期投資は、街でよく見るあの黒いバッグの購入費用である4000円のみです。
配達をしていた2週間は、本書の執筆準備をはじめ、子どもの世話といった家事、さらに趣味のオンライン将棋をときおり楽しむ余裕もあり、体調に合わせて時間調整もしました。
何しろ手元のスマホアプリを一押しすれば、その場ですぐ配達員モードに入ることができ、また終わるときも同様ですから、他のことを自由に、いくらでもかけもちできるわけです。
今回のチャレンジは別にUber社とのタイアップでも何でもありません(今後オファーがあれば考えます)。それでも、「いつどれだけ働くか、そのときの気分で自由に決められるのは本当に素晴らしい」というのが正直な感想でした。
■週5日8時間稼働で路頭に迷わない
念のためにUber Eatsの仕事内容を説明しますと、専用アプリで指定される店に行って受け取った料理(中身が傾いたりこぼれたりしないよう、お店側がかなり工夫しています)を、同じくアプリで指定された場所(アクセスがわかりにくい場合、チャットや通話で注文者と連絡が取れます)に持っていって渡すだけです。
必要に応じて地図アプリも見るくらいで、よほどの方向音痴でない限り、とくに難しいことはありません(「配達先に路上を指定される」といった謎オーダーもちらほらありますが、そのうち慣れます)。
配達1件で得られた報酬は500円ほど。私の脚力や地理感覚は、まあ人並みと自覚していますが、店も注文も多く数がさばける都心部を選んだこともあり、マイペースにやっても1時間あたり最低2件、運と努力で4件近くまでこなせました。
これはつまり「時給1000円以上はほぼ確実、頑張れば2000円が見える」ということですから、週5日・8時間稼働まで覚悟すれば、路頭に迷うようなことはまずありません。「特別な知識・経験がなくても、好きなとき・好きなだけできる仕事」の対価としては満足な水準と感じます。
さらに言えば「勤務中の事故などをカバーする保険が自動でつく」「最短3日・遅くとも1週間強で入金」という条件も、こんにち個人事業主に提示される内容としては普通に良心的な部類でしょう(むろん、こうなるまでに待遇改善を求めて声を上げた人々の尽力があったことは忘れてはなりません)。
■時間も服装も働き方も自由で月収100万円
東京都心の地理を究めたメッセンジャー経験者が、宅配仕様に改造したバイクを使い「コロナ禍まっただ中にUber Eatsで月収100万円」を達成したことが、一時ネット上で話題となりました。
この方はいわば「配達のプロ」であり、しょぼい起業のかたわら参入しようとするわれわれとは次元が違います。それでもインタビューの中でUber Eatsの仕事を好む理由として挙がったとおり、「時間も服装も働き方も自由」なのにもかかわらず、ここまで稼げるというのは夢のある話でしょう。
もちろん、よいことばかりではありません。
「注文の入り具合には地域差が大きく、効率よく稼げるエリアばかりではない」「長時間配達するなら、自転車やバイクにそれなりの投資が必要」というのも事実であり、実際のところ慣れない荷物をしょって、普段使いのママチャリを走らせた私は、ほどなく腰痛に見舞われました。
坂の少ないエリアで、しかも1日4時間だけの稼働にもかかわらずです。
住む場所、予算、かけられる時間、それに体力もまちまちですから、万人向けのアドバイスは難しいところです。ただもし、私が池袋エリアで配達員を長く続けるなら、月2000円(と、30分を超えるごとに100円〔※〕)で電動アシスト自転車が借りられるシェアリングサービスを試しながら、似たような中古を相場の3~4万円で買って元を取る戦略を考えたと思います。
※クレジットカードかドコモ携帯の契約が必要。交通系ICカードでの日極め払いは割高で、対応箇所も少ない。(新宿区自転車シェアリング)
■「人生の主導権を誰かに譲り渡したくない」
以上、私自身のトライアルを踏まえて申し上げますと、少なくとも東京近辺、あるいは似たようなシェアサイクルの仕組みがある名古屋・大阪・仙台などの都心部では、しょぼい起業を軌道に乗せるまで、あるいは運悪く行き詰まったとしても、再起するまでの間「電動アシストシェアサイクル配達員」として働けば十分やっていけるでしょう。
誰かの善意や公的扶助を当てにしない完全な自助努力を前提とした場合、しょぼい起業に目下かけられる“保険”としては、これがもっとも万人向けで確実と思います。
「ギグワーカー」というあいまいな立場は、ともすれば批判の的となりますが、それは結局「収入源や意志決定をすべてプラットフォームに譲り渡し、生殺与奪を握られるような働き方が不安定だから」というのが根本的な理由だと思われます。
しょぼい起業に関心を抱く人はすでに経済的・精神的に独自の道を模索しており、また少なからず「人生の主導権を誰かに譲り渡したくない」というタイプでしょうから、この点での心配は杞憂といえます。
また、立場があいまいだからこそ、多くの店舗の舞台裏を見て回ることがなんとなく許されているのも事実なのです。あなたの目的意識が明確で、また健全な好奇心を失っていなければ、ギグワーカーの世界は有益な刺激に満ちています。
ムダのないチェーン店のオペレーションからヒントを得たり、要領を得ない指示出しに振り回されて反面教師を得たり、あるいは1つの厨房にいくつもの専門店の看板を掲げた「ゴーストレストラン」から飲食業の最新サバイバル術をキャッチしたりできるのが、しょぼい起業とギグワーカーを兼ねるハイブリッド経営の真髄です。
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起業家、経営コンサルタント
略称「えらてん」。本名・矢内東紀(やうちはるき)。1990年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。バーや塾の起業の経験から経営コンサルタント、YouTuber、著作家、投資家として活動中。2015年10月にリサイクルショップを開店し、その後、知人が廃業させる予定だった学習塾を受け継ぎ軌道に乗せる。17年には地元・池袋でイベントバー「エデン」を開店させ、事業を拡大。日本全国で一時最大10店、海外に1店(バンコク)のフランチャイズ支店を展開。
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(起業家、経営コンサルタント えらいてんちょう)
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