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「これぞ弁当界の大谷翔平」新記録を更新中の"200円ウインナー弁当"開発秘話

プレジデントオンライン / 2021年7月22日 11時15分

5本のウインナーが並ぶ「ウインナー弁当」 - 撮影=西田香織

ローソンストア100で6月末から販売している「ウインナー弁当」(税抜き200円)が同社の弁当史を塗り替えるホームラン級の売り上げを記録している。生みの親である同社運営部長の林弘昭さん(42)に舞台裏を聞くと、そのシンプルな見た目からは想像がつかない商品開発の苦労と、同社ならではの販売戦略が見えてきた――。

■メインになれない具材、ウインナーを主役に

ゴマのかかった白いご飯と、きれいに並んだ5本のウインナー。「超シンプルで潔い」「カップ麺だけだとなぁって時に買いたい」。発売当日からSNSをにぎわせた弁当が誕生したきっかけは「なんで世の中にはウインナーがメインの弁当がないのだろう」という林さんの素朴な疑問だった。

2002年、前身の「九九プラス」に入社した林さんは、これまで一貫して運営畑を歩んできた。各店の売り上げを最大化するのが林さんの仕事だ。商品の売れ行きや客の行動を現場でつぶさに観察しながら、店長やオーナーと店舗運営について日々作戦を練っている。

製品開発は本業ではないが、林さんの熱意からこれまでいくつも人気商品を世に送り出している。代表作の一つは「たくわんマヨロール」(現在は終売)。細切りのたくあんとマヨネーズを和えてコッペパンにはさんだ惣菜パンで、滋賀県のご当地パン「サラダパン」から着想を得たという。

「家庭の弁当にもコンビニの弁当にもウインナーは入っていますが、絶対にメインになれない具材だったんです。それをあえて際立たせたら面白いんじゃないかと」

林さんがウインナー弁当というアイデアを思いついたのは、今から約10年前のこと。脳裏に浮かんだのは、パック売りの白米を半分に寄せて、空いたスペースにウインナーを詰めた弁当だった。競合他社にそんな商品はない。「初めてやればお客さんがびっくりするはず。ローソンなど他のコンビニと同じことをやっていてもだめだと思っていました」と振り返る。

ウインナーを唯一の主役に据えるという発想には、自身の嗜好も多分に影響しているのだろう。球児だった高校生時代、母親が作ってくれた弁当でウインナーは常連のおかずだった。現在も、妻と娘の3人暮らしの冷蔵庫には必ず袋入りウインナーが常備されており、「日曜の朝ごはんには大体出てきますし、夜ご飯を食べている途中にちょっとおかずが足りない時には自分で炒めて食べちゃいます」と、はにかみながら明かす。

林弘昭さん。1978年生まれ。2002年に大学を卒業し、九九プラス(現ローソンストア100)に入社。店長やエリアマネジャーなどを経て17年に関東第二運営部部長。店舗運営やフランチャイズコンサルタントに携わる。
撮影=西田香織
林弘昭さん。1978年生まれ。2002年に大学を卒業し、九九プラス(現ローソンストア100)に入社。店長やエリアマネジャーなどを経て17年に関東第二運営部部長。店舗運営やフランチャイズコンサルタントに携わる。 - 撮影=西田香織

■「弁当の顔にならない」却下続きに異動で白紙

それほどのウインナー愛があっても商品化への道のりは遠かった。商品開発から販売戦略まで担当するマーチャンダイザー(MD)に折に触れて直談判した。その結果、何度も工場で試作品を作ってもらったが、周囲からは「う~ん」という微妙な反応しか返ってこない。社内会議にかけても「見た目のバランスが悪い」「そもそも弁当の顔にならない」と却下された。

近畿運営部にいた2015~16年には5、6回試作をし、発売寸前までこぎ着けたものの、自身の異動で白紙に。「あそこで実現していれば近畿限定で発売できたんですけど、頓挫しました」と悔しさをにじませる。

「確かに、ウインナーだけで顔になるかといわれたら『う~ん』となりますが、直接消費者に訴えかるものがあれば響くことがあります。『他にはない』というのは売りになるはずだと思っていました」

林弘昭さん
撮影=西田香織
林弘昭さん - 撮影=西田香織

今年に入って転機が訪れる。近畿運営部時代、ボリュームに特化した4個入りのおはぎを一緒に商品化した知己のMDが弁当の開発担当になった。すぐさま「何とかウインナー弁当を実現できないか」と相談したところ、「それはいける!」。念願のGOサインが出た。

■「もう少しゴマふって」と突き返した試作品

「価格は200円」「メインのウインナーは5本程度でケチャップをかける」。林さんが商品化に向けて挙げた条件は具体的かつハードルの高いものだった。

当然、唯一の主役にはこだわる。ウインナーの色でも悩んだ。

「赤ウインナーではさすがに古臭すぎるし、いまは売り場も小さくなっています。だれもが思い浮かべる普通のウインナーを弁当にしたほうがいいと思いました」

試作する側にも負担は大きい。そもそも5本で200円という価格設定はかなり厳しいからだ。試作品ではウインナーが2本しかない場合もあった。林さんは「他のおかずがないんだから、それでは成立しない」と突き返した。

それでも、ウインナーが長すぎるもの、輪切りにされてご飯の上にのせられたもの、塩コショウがかかったもの……。イメージに合うものがすぐ出てくるとは限らない。林さんは試作品を全て実食し、細部まで修正を重ねた。MDも予算に合うものを必死で探し回ってくれた。

「ご飯にゴマをふってほしいと要望したんですけど、試作品ではほんのちょっとしかふってなくて。これならないほうがいいくらい少なかったので『もう少しふって』と追加オーダーしました」

完成した弁当はサイズ感、見た目ともに林さんが最初に頭に浮かんだイメージそのもの。“隠し具材”のスパゲッティは、整列したウインナーがずれないためのクッション役を務めているという。

ごまの量にもこだわりが
撮影=西田香織
ごまの量にもこだわりが - 撮影=西田香織

商品開発では“素人”の林さん。「料理は見た目というだけあって食欲をそそる外見が必要です。普通はウインナー弁当のような商品は作れません」と話し、実現できたのはMDの苦労や取引先の協力があってこそ、と感謝を口にする。

■売れ行き視察で草加西町店から新高島平店まで行脚

完成した「ウインナー弁当」は6月30日、関東限定で販売を開始した。林さんは各店舗に発売に至るまでの経緯を説明し、販促用のポップも自ら手配した。午前8時、自宅近くの草加西町店から、自身が担当する埼玉、千葉、東京エリアの約20店舗を視察。最後に新高島平店を訪れた時には午後8時を回っていた。

各店舗ではリアルタイムの売れ行きが把握できる。通常、弁当は朝方に売れにくいがウインナー弁当は予想外に良く、昼はいったん落ち着いたものの、夕方から一気に売れ始めた。

完成した「ウインナー弁当」
撮影=西田香織
完成した「ウインナー弁当」 - 撮影=西田香織

気難しい店舗のオーナーからも電話があった。林さんが「まさかクレームだろうか」とドキドキしながら電話を取ると、開口一番「ウインナー弁当、売れてるからこういうのどんどん作ってくれ!」「次もあるのか⁉」と励まされた。

林さんは「こんな商品は本当に珍しい。これはいけるな、と思いました」と振り返る。

■ロングセラー「ひじきご飯弁当」を追い抜く

ローソンストア100の最近の話題商品では、ブリオッシュ生地のパンにクリームをぎっしりと挟んだスイーツ「マリトッツォ」(税抜き100円)が好調だが、発売当初から「これはいける」という売れ方をするのは一握りで、すぐに売り上げが落ちることも珍しくない。

ロングセラー商品の「ひじきご飯弁当」
ロングセラー商品の「ひじきご飯弁当」(写真提供=ローソンストア100)

約20種あるローソンストア100の弁当のうち、これまでの不動の一番人気は、ひじきにミートボールやちくわ天、玉子焼きなどがのった「ひじきご飯弁当」(税抜き200円)だ。10年近く前から販売しているロングセラー商品で、主要客層である40~50代男性だけでなく女性、シニアまで幅広い層の支持を集めている。

林さんはウインナー弁当の開発にあたり、これに並ぶ「店舗当たり1日3個以上コンスタントに売れる弁当」を目標に掲げていた。同じ価格帯で違うコンセプトをもつことで、売り上げのベースになる商材を作るのが狙いだった。

ウインナー弁当の発売から約10日、売れ行きを尋ねると満面の笑みが返ってきた。「目標の2倍以上です。ここまで売れるとは思っていなかった。野球界で例えれば、大谷翔平選手のような大活躍です」。

目標だったひじきご飯弁当を追い抜き、ウインナー弁当は断トツのトップに躍り出た。大反響を受けて、関東に限定していた販売エリアを8月にも全国に拡大する予定だ。林さんは「これまでいくつか商品を提案してきましたが、今回が一番根付いて販売を続けられるのではないかと思います」と期待を込める。

■「いろいろ食べたい」「好きなものだけ食べたい」需要にマッチ

なぜ社内の予想をはるかに超えてウインナー弁当は売れ続けているのか。ローソンストア100の分析は次の通りだ。

・購入層は男女比65:35。特に30~40代男性に支持されている
・普段弁当を買う人と比べて新商品、話題ものが好きという特性の購入者が多い
・差別化が難しいシンプルな商品を妥協せず突き詰めた
・結局おいしくないと売れない。値段と味と量に納得してもらえた

実はウインナーだけをおかずとした弁当は、東京・亀戸と御徒町に展開する24時間営業の弁当屋「キッチンDIVE」でも販売しているのだが、「量がとても多い。うちとはコンセプトが異なる商品です」と林さん。

「ランチを500円で収めたいのに、外で買うと弁当だけで終わってしまいます。でも、うちのウインナー弁当なら、カップラーメンに加えてドリンクを買っても500円以内。いろいろなものを食べたい、好きなものだけ食べたい、という多様なニーズに合うのではという狙いがばっちり当たったのだと思います」

食べ合わせの提案は、コンビニよりは低価格で、スーパーよりは規模が小さいローソンストア100ならではの工夫だ。あまり店内を移動しなくても商品が選べ、短時間で買い物が済むというメリットがある反面、客単価は上がりにくい。そこで、肉類の近くに調味料を置く、豚肉の横にカレーの材料をそろえるなど、小さなスペースで関連商品やメニューを提案し、客単価を上げていく工夫が必須になる。

写真提供=ローソンストア100

ちなみに、林さんがおすすめするウインナー弁当のお供は、ローソンストア100独自商品のカップラーメン「大盛ねぎラーメン」だ。税抜き100円なので、もう2品買ってもワンコインで済む。

■客の動向だけでは同じような商品しか生まれない

コンビニ業界は、目新しいものを即座に取り入れながら、客のニーズに応えて絶えず進化し続けている。その中、ウインナー弁当の構想を10年間温めた林さんに“売れる商品を作る極意”を聞いてみた。

「お客さまの動向だけ見ていると、いつもと同じような商品しか作れません。お客さまが実は気にしていないところを、店側が気にし過ぎると失敗してしまう。むしろ、店側が『これ』というこだわりを持つことが大事である気がします」

ウインナー弁当を掲げる林弘昭さん
撮影=西田香織
ウインナー弁当を掲げる林弘昭さん - 撮影=西田香織

一方、ローソンストア100には毎日野菜やたまごを買い求める「スーパー的」な使い方をする客も多い。「売り場や新商品がとんがり過ぎるとだめ。商品のリニューアルはもちろん大事ですが、食卓に出てくるものがきちんと常時そろっていることで、うちに対するニーズはさらに高まると考えます」とも話す。

今回のヒットを受け、同社ではおかず単品弁当のシリーズ化も視野に入れている。ウインナーと同様、これまでスポットライトが当たらなかった新たな主役が登場するかもしれない。

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澤田 明(さわだ・めい)
プレジデントオンライン編集部
1990年生まれ。一橋大学卒業後、2013年共同通信社入社。横浜支局、甲府支局、大阪支社社会部を経て、2018年から福井支局で原発や行政・経済をメインに取材。2021年プレジデント社に入社し、プレジデントオンライン編集部にて編集業務に当たる。

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(プレジデントオンライン編集部 澤田 明)

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