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「このままでは中国の属国になる」最悪シナリオ回避のため日本に残された"唯一の選択肢"

プレジデントオンライン / 2021年7月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3dmitry

中国は2030年までに世界最大の経済大国になるとみられている。日本はどうすればいいのか。経済評論家の加谷珪一さんは「中国に製品を買ってもらう立場だと、中国経済圏に取り込まれてしまう。それを防ぐには、製造業中心の産業構造を変える必要がある」という――。

※本稿は、加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■すでに中国経済圏に取り込まれつつある

2030年にも中国が米国を抜いて世界最大の経済大国になると言われています。この現実を考えると、日本がいつまでも米国頼みでいることは不可能です。コロナ禍で世界的なサプライチェーンが見直され、世界経済のブロック化が進むのであれば、米国がアジアから手を引いてしまう可能性も十分にあり得ます。中長期的には、米国抜きで中国とどう対峙するのか日本独自の戦略が必要となるでしょう。

筆者はあまり賛成できませんが、もっとも手っ取り早いのが、中国の経済圏に自ら入り込んでしまうという戦略です。

中国メーカーに日本製の部品を販売したり、東南アジアに生産拠点をシフトした中国の製造業に対して部品や工作機械を提供したりすることで、日本は中国から対価を得ることができます。中国が消費経済に移行した場合でも、日本の消費者向け製品は中国でも人気がありますから、積極的に中国の消費市場に的を絞った商品を展開すれば、14億人の巨大市場で販売することができるでしょう。

資生堂やサントリーなど中国の消費市場に完全に馴染んでいる日本メーカーはたくさんありますし、伊藤忠商事のように商社の中からも、中国企業と日本企業の仲介を強化するところが出てきています。日本経済の屋台骨である自動車産業についても、中国市場向けに安価なEVを大量生産できれば、生産ラインを維持することができるかもしれません。

このやり方であれば、製造業を中心とした日本の産業構造を大きく変える必要はありませんから、国内産業や労働者への影響は最小限で済むと考えられます。しかしながら、この道を選択した場合、最終的には人民元経済圏に日本が取り込まれてしまう可能性は高いと考えざるを得ません。

■経済活動を中国にコントロールされてしまう

ここでは人民元経済圏に取り込まれるという穏やかな表現にしましたが、現実はもっと厳しいものとなるでしょう。日本が人民元経済圏に取り込まれてしまった場合、日本は経済活動の多くを中国にコントロールされてしまいますから、場合によっては中国の属国のような地位に転落してしまう可能性も否定できないのです。

現時点では中国との取引についても、人民元と円の間にドルが入り込むケースがほとんどですが、中国は自国通貨である人民元覇権の確立を目指しています。ゆっくりとしたペースにはなるでしょうが、日中の貿易がさらに拡大すれば、日本円と人民元の直接取引の比率が増え、知らないうちに日本経済は人民元経済圏に引きずり込まれていきます。加えていうと、いくら日本の製品が人気だといっても、日本は売る側で中国は買う側となり、立場は圧倒的に先方が有利ですから、中国を顧客にする以上、様々な面で日本は譲歩を強いられるでしょう。

一部の論者は日本にしか作れない製品を提供すれば、立場は弱くならないと主張すると思いますが、これはビジネスの現場を知らない人の願望に過ぎません。

アップルのiPhoneには日本メーカーが製造した部品がたくさん搭載されており、ある意味では日本が存在しなければアップルはビジネスを続けることができません。しかし現実に日本メーカーは、アップルから猛烈な値引き要請を受けており、中にはほとんど利益を出せていない企業もあります。

 アップルストア
写真=iStock.com/ozgurdonmaz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ozgurdonmaz

アップルは常に複数の調達先を競わせ、主導権を確保できるよう画策していますし、1社しか供給先がない場合には、競合になり得る企業に対して巨額の資金援助まで行って競争状態を作り出そうとします。実際、アップルは液晶の調達をめぐってシャープとジャパンディスプレイを激しく競わせ、ジャパンディスプレイには工場の建設資金まで提供していました。双方とも果てしない値引き合戦を余儀なくされ、体力を消耗してしまったことは業界では有名な話です。

このようにモノを買う側というのは圧倒的に有利な立場であり、質の高い製品を持っていれば大丈夫というのは幻想に過ぎません。中国を顧客として製造業を続けていくのであれば、中国に対する発言力は大幅に低下すると考えてよいでしょう。

■消費主導型に移行すれば中国と距離が保てる

中国経済圏に取り込まれることを回避したいという場合には、輸出によって経済を成り立たせる産業構造から完全に脱却する必要があります。

日本はすでにGDPの6割近くが個人消費となっており、徐々に消費主導型経済にシフトしています。これから日本は人口が急激に減っていきますが、それでも当面は1億人の消費市場が国内に存在しているわけですから、これをフル活用すれば、国内の消費で十分に経済を回すことができます。輸出に頼る必要がなければ、対外的に譲歩を迫られる材料が大幅に減りますから、中国に対しても一定の距離を確保することができるでしょう。

日本は完全に消費主導型経済にシフトする必要があります。これが実現できれば、基本的な経済活動は自国内で完結しますから、中国との利害関係を最小限に食い止めることができ、結果的に中国との距離も確保できるでしょう。

消費主導型経済を実現するためには、国内の産業構造の転換をより積極的に進めていく必要がありますが、消費主導型経済といっても製造業の輸出をすべてなくす必要はありません。世界屈指の消費大国である米国にも数多くの輸出産業が存在します。しかしながら、消費主導型経済においては、大量生産を基本とした付加価値の低い製造業は成立しにくくなります。価格交渉などで可能な限り強い立場を維持できるよう、付加価値の高い製造業だけを残すよう政策誘導を行う必要があります。

製造業である以上、中国企業を顧客にする必要があるのは同じですが、付加価値が高く、他に製造する国が少ない製品であれば、買い手有利という構造は変えられないにせよ、日本が過度な妥協を強いられる場面を減らすことができます。

どうしても高付加価値型へのシフトが進められない業界については、可能な限り国内向けのサービス産業への転換を促し、労働者のスキルアップや転職支援といった策を実施する必要があるでしょう。

中国も消費主導型経済へのシフトを進めているとはいえ、日本と同様、輸出産業がなくなってしまうわけではありません。日本が輸入する製品については、中国にとってみれば日本がお客さんということになりますから、この金額をできるだけ大きくすることが中国からの過度な干渉を防ぐ防波堤となります。

■日本の金融市場オープン化も急務

金融市場の整備も重要です。トランプ政権は対中政策の一環として、中国の通信会社であるチャイナテレコムやチャイナモバイルなど3社の米国上場を廃止させましたが、これは本当に愚かな政策だと筆者は考えます。

中国の主力企業がわざわざ米国への上場を望んだのは、中国の資本市場が整備されておらず、米国市場に頼らなければ十分な資金調達ができないからです。米国で資金を調達するという流れが確立した後で、それをひっくり返すのは容易なことではありません。これをうまく継続できれば中国企業は米国の資本市場への依存が続きますから、資金源というもっとも重要な部分を米国が握ることができます。

しかも外国企業を上場させることは、資金の還流という意味でも重要です。大量の輸入によって海外に流出したドルが余剰となった場合、通貨価値の毀損を招くリスクがあります。しかし米国にたくさんの企業が上場していれば、海外に流出したドルは、それらの企業への投資という形で米国に戻ってくるので、ドルの価値を維持できます。

クリミア戦争の際、英国は敵国であるロシアの資金調達を黙認しました(※)が、対立する国に自国の金融システムを使わせるというのは、極めて高度な国家戦略であり、発達した金融市場を持っている国だけの特権です。

日本の資本市場は米国とは比較にはなりませんが、十分にオープン化が進んでいない中国と比較すれば、まだまだアドバンテージがあります。日本の資本市場をさらにオープンにして、中国企業が日本で資金調達を行う事例を増やすことができれば、確実に外交の武器として使うことができるでしょう。

東京証券取引所
写真=iStock.com/GOTO_TOKYO
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GOTO_TOKYO

※クリミア戦争(1853~1856年)は、ロシアの南下政策をめぐってロシアとトルコの間で起こった戦争。ロシアは戦争にかかる資金を自国の市場で調達できず、トルコを支援する敵国である英国で調達するしかなかった。当時の英国は基軸通貨ポンドを持ち、世界の金融市場を支配しており、いつでもロシアの資金源を断てる強い立場にあった。

■外国企業を締め出すのは愚の骨頂

かつての日本は米国と同様、オープンな金融市場の構築を目指していましたが、安倍政権以降は、外国企業の上場は抑制する方向性となっており、市場はむしろ内向きになっています。国内世論も外国企業を上場させるのはケシカランといった単純で幼稚な意見が増えており、金融市場を武器に外交を展開するといった発想からは遠ざかりつつあります。このような状況では中国を資金面で牽制するということができなくなりますから、日本にとっては大きなマイナスとなります。

中国との距離を保ちたいのであれば、消費主導型経済へのシフトと同時並行で金融市場のオープン化を進め、日本市場と関係を持たないと企業活動を維持できない中国企業を増やしていかなければなりません。

ちなみにスイスやアイルランドなど、高度な金融サービスが存在する国は、極めて付加価値の高い製造業も活発になる傾向が顕著です。つまり、金融市場と高度な製造業は完全に両立できる存在です。国民生活の多くは消費主導型経済で支え、高度な金融市場と高付加価値製造業を外交的な武器として使うことによって、中国と距離を取りつつ、日本独自の経済活動を展開することが可能となるのです。

■最大の壁は国民の消費マインド

しかし、こうした新しい経済システムを確立するためには、どうしても超えなければならない壁があります。それは国民のマインドです。

輸出主導型経済の場合、基本的な需要は海外にありますから、日本国内の事情はあまり影響しません。海外の需要さえうまく取り込めれば、経済は回っていきますから、輸出主導型経済は比較的容易に実現できます。実際、発展途上国が経済成長を目指して採用する戦略のほとんどは製造業の強化を通じた輸出振興策です。

しかし消費主導型経済において需要を作り出すのは自国民ですから、国内の消費者が積極的にお金を使う環境を作れなければ消費主導型経済は実現できません。

個人消費を活発にするには、企業の生産性を向上させ、賃金を引き上げるとともに、可能な限り貧困に陥る人をなくす努力が必要です。人間1人が消費できる財やサービスには限度がありますから、貧困率が高いと低所得者の消費が伸びず、消費には悪影響が及びます。諸外国を見ても、徹底的な弱肉強食で、貧困率が高く推移する一方で、極めて大きなビジネスチャンスが存在する米国は例外中の例外で、それ以外の国が消費を活発にするためには、貧困をできるだけ減らす努力が必要となります。

消費主導型経済の主役となるサービス業で高い生産性を実現したり、高度な金融サービスを確立したりするためには、国民が高いITスキルを身につけなければなりません。そのためには、貧困率の低下と同じく、大学の無償化など教育政策を充実させることが重要となります。

■他者に寛容な社会にすることが大事

そして何よりも大事なのは、多様性があり、他者に寛容な社会を構築することです。

加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)
加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)

生活を楽しむことを否定したり、他人を差別したり誹謗中傷したりする人が多い社会では、決して個人消費は拡大しません。新しいことへのチャレンジが難しかったり、外国から多くの人材がやってくることを忌避したりする風潮も消費経済には完全にマイナスとなります。

経済学において消費を増やす絶対的な方法というものは存在しておらず、国民のマインドに大きく依存するというのが現実です。この点において日本社会あるいは日本経済には多くの課題があると考えるべきでしょう。

日本国内の社会風潮と対中国政策というのは一見すると無関係のようですが、実は水面下ですべてつながっているのです。高度で豊かな消費社会を作るという目の前の努力をしっかりと積み重ねれば、それこそが、もっとも効果的な対中戦略となるはずです。

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加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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