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「コロナ患者は受け入れたくない」病院がすぐ逼迫するウラにある"エグいお金問題"

プレジデントオンライン / 2021年7月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

ワクチン接種率は上がってきたが、日本人が依然として感染を恐れているのは、医療機関のコロナ患者受け入れ体制が拡充しないからだ。精神科医の和田秀樹さんは「もともと厚生労働省による規制などが原因で赤字経営が多い民間病院はコロナ患者を受け入れるとますます苦しくなる」という――。

※本稿は、和田秀樹『コロナの副作用!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■開業医を重視し、勤務医を軽視する

日本医師会は、開業医と勤務医がおよそ半数ずついる組織なのですが、開業医の意見が強く、開業医の利益を守ることには積極的ですが、勤務医や勤務医が勤める民間病院に関しては「我関せず」の態度をとることがもっぱらです。

民間病院の協会としては、公益社団法人全日本病院協会がありますが、残念ながらあまり力がありません。それもあって、民間病院の多くが疲弊しています。

日本の医療において、私が最もいびつだと思うのが、開業医と勤務医の収入格差です。開業医の収入は、民間病院の勤務医の2〜3倍です。このことも、日本医師会が開業医のためには積極的に活動するのに、勤務医のためにはあまり活動しないことと無関係ではないでしょう。

ちなみに、外来診療中心の開業医と、病床のある民間病院の勤務医との間に、2〜3倍もの収入格差がある国は、海外のどこを探しても日本以外にありません。

アメリカでは病院に1泊入院すると最低でも約2000ドルとられます。単純に1ドル100円換算で約20万円です。これに対して、日本では、特別な部屋や高度治療を必要とする入院を除けば、1万円台から数万円で安く抑えられています。

外来収入より、入院収入が多い病院ほど、儲からない仕組みになっており、当然、そこに勤める勤務医の収入も多くはありません。

開業医は、外来診療に特化しているケースが多く、病床があっても数床で、こちらのほうが儲かる仕組みになっています。

これは、日本医師会が開業医のために活動してきた結果でもあり、診療報酬が改定されるたびに、民間病院は割が悪くなっているのに、開業医は既得権益が維持され続けてきました。この「病院診療は割が悪くて儲からず、外来診療は割が良くて儲かる」という、日本の医療制度も非常に大きな問題です。

■なぜ民間病院の多くが疲弊しているのか?

東京は、土地代や建物代も高く、人件費も高いため、多くの病院が赤字です。東京には大きな病院がたくさんありますが、純粋に民間の大病院はあまりありません。

他方、地方は違います。徳洲会グループが選挙のたびに何十億円も用意できたのは、それだけ儲かっていたからです。

ではなぜ、東京では病院が儲からず、地方では病院が儲かるのか。東京でも地方でも診療報酬の点数が同じだからです。収入が同じなら、経費が安いほうが儲かる、という単純な話です。

また、病院に対しては、病床数に対して必要な医者や看護師の人数に決まりがあります。これを守るためには、医者や看護師の人員削減や効率化を行うことができず、逆に医者や看護師の人員を確保できなければ、病床数を減らすしかありません。

こうしたこともあって、慢性的に医者不足に陥っている病院の倒産や統廃合が進みました。

日本医師会はこれに対しては何も言いません。日本医師会にとって民間病院の問題は自分たちの管轄外ということなのでしょう。

現在、高齢者の入院が増えていますが、高齢者は慢性病での入院が多いという特徴があります。一般的には、他の入院患者よりも、慢性病の高齢入院患者のほうが手間がかからないため、病気の急変には注意が必要ですが、ひとりの医者が高齢入院患者を多数診ることが可能です。

しかし、現在は病床数に対して必要な医者の数が決まっているため、このようなひとりの医者が規定よりも多くの高齢入院患者を診ることは許されていません。厚生労働省が、こうした規制を緩和すれば、病院はより多くの高齢患者の受け入れが容易になります。

和田秀樹『コロナの副作用!』(ビジネス社)
和田秀樹『コロナの副作用!』(ビジネス社)

もちろん療養型病床という治療をあまり行わないで済む代わりに医師や看護師も少ない病院という特例はありますが、診療報酬は大幅に低めに設定されています。

このように一般病院に規制緩和を厚生労働省が行わないのは、短期入院型のアメリカ型の医療を目指しているからです。高齢者が増えているのに、高齢者向けの医療の仕組みを変えることなく済ませているから、民間病院がどんどん疲弊しているのです。

全日本病院協会に力があれば、こうした現状を私たちに訴え、現状を変える活動を行うことができるのでしょうが、残念ながら、私たちに対しても、役所に対しても、もの申す力が弱いため民間病院は疲弊する一方です。

■民間病院が新型コロナ病床を増やしたくない理由

民間病院の多くは、新型コロナ病床を設置することに後ろ向きです。

病床を満床にしていれば、それなりに儲かる病院では、新型コロナ病床を設置すると、そこに人員をとられてしまうため、それ以外の病床も閉じなければならなくなります。

これはあくまで私の想像ですが、厚生労働省がこれまで病床数や医者や看護師の人員数など民間病院を厳しく規制してきたため、厚生労働省から「病床を新型コロナに回せ」と言われることに反発している側面もあるかもしれません。

マスクを着用した若い医師
写真=iStock.com/imacoconut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

あるいは、新型コロナ担当に命じた医者が、「(自分の)子どもがいじめられるのが嫌だから辞めます」などと言って開業してしまうと、病院は非常に困ります。だから、こうした「やぶ蛇」を避けるために、新型コロナ病床を設置できないことも考えられます。

厚生労働省の病院に対する医者の人員の確保という縛りが、大学医学部の教授たちに医者を回す特権を与え、一方で民間病院の経営状態の悪化を招いているのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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