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「モスバーガーのミートソースは13回変わっている」50年ウケ続ける究極の方法

プレジデントオンライン / 2021年7月30日 11時15分

モスフードサービス上席執行役員 マーケティング本部長の安藤芳徳さん - 筆者撮影

ハンバーガーチェーン・モスバーガーで最も売れる商品が「モスバーガー」だ。1972年の創業以来の看板商品で、これまで売り上げた個数は累計13億個以上にのぼる。なぜ売れ続けているのか。モスフードサービスマーケティング本部長の安藤芳徳さんに聞いた――。

■アメリカの人気ハンバーガーを日本人向けに改良

「モスバーガー」は1972年のモスバーガー創業当時から販売してきた看板商品だ。

どのようなきっかけで誕生したのか。「モスバーガー」を展開するモスフードサービス上席執行役員でマーケティング本部長の安藤芳徳さんは「創業者の櫻田(慧・元会長)が、アメリカにある老舗『トミーズバーガー』のハンバーガーを参考にし、日本人の味覚に合うように改良したのがモスバーガーだった」と話す。

「トミーズバーガーのハンバーガーはチリソースが入っているのが特徴でした。しかし、味をそのまま再現しても、チリソースの辛さは当時の日本では受け入れられない状況でした。そこで、日本人に親しまれているミートソースに着目し、まろやかでコクのある味を出すことに注力しました。ミートソースを主体に辛味を出しているのがチリソースなので、チリソースをいかにマイナーチェンジさせ、日本人の口に合う味を作り出すかが肝だったのです。単に辛味を抑えるといった引き算の思考ではなく、日本人の繊細な味覚にも合う理想の味を求め、納得のいくミートソースが完成するまで100回以上の試作を繰り返しました」

■ミートソースは「13回」リニューアルされてきた

ミートソースはこれまでに13回ものリニューアルを重ねている。

安藤さんは「時代の変遷に合わせて、求められる消費者嗜好の変化に対応してきた」と説明する。

累計13億個以上の販売数を誇る「モスバーガー」
画像提供=モスフードサービス
累計13億個以上の販売数を誇る「モスバーガー」 - 画像提供=モスフードサービス

「ヒット商品だからと、何も変えずに販売し続ければ、いずれ時代の変化についていけなくなり、短命で終わってしまう。本質的なおいしさやこだわりは変えず、その時々の時代背景や食のトレンドを見極めていく気概が非常に大切なのです。だからこそ、おいしさを引き立たせる要素として、ひときわ重要視しているミートソースを何度も刷新してきました」

だが、リニューアルしたからといって、その味が必ずしも消費者に支持されるとは限らない。

モスバーガーはどのようにして、時代に合った味を見出しているのか。

「味のリニューアルを行うときは、もちろん定量的なデータに基づいた科学的分析も参考にしますが、最終的には担当者の経験値や感覚を重視しています。というのも、最適化されたデータや定量的側面を重視すると、どうしてもロイヤル顧客が求める味に寄ってしまう。常連でモスバーガーのファンだからこそ、ポジティブで積極的な回答をもらえやすい分、そこだけに注目していたのではお客様の潜在的ニーズに合わせた味を出せないと考えています。ロイヤル顧客に飽きられないで、かつ新規のお客様にもおいしく食べてもらえる味を追求する姿勢を貫くように心がけています」

■リニューアルは「食材ごと」に行う

さらに、ハンバーガーを構成するバンズ、パティ、ミートソースそれぞれで、リニューアルするタイミングをずらしているという。

「一斉にリニューアルに踏み切らない最大の理由は、客離れを回避するためです。もし仮にバンズの味が不評であれば、最悪元の状態に戻せばいい。パティもミートソースも同時にリニューアルすると変数が多くなってしまい、不評の原因を究明しづらくなります。

直近ではテイクアウト需要の増加から、2019年7月にはパン生地の保水性を高め、しっとりとした食感が長持ちするようなバンズにリニューアルしました。そして2020年7月に、今度はミートソースのリニューアルを行っています。味に深みやコクを加えるために、液体塩麹や酢などの隠し味を入れ、また玉ねぎや挽き肉といった具材の大きさにこだわり、ソースだけでも食感を得られるように工夫を凝らしました」

■「手間と暇」で飽きない味を提供する

他方、ハンバーガー業界はマクドナルドやロッテリア、バーガーキングなどの競合がひしめく激戦となっている。

モスバーガーはどのような差別化を意識しているのだろうか。

近年、鳥貴族など異業種からハンバーガー業界へ参入する動きも見られるが、「業界全体が盛り上がり、成熟するほどモスバーガーの良さが際立つ」と安藤さんは言う
筆者撮影
近年、鳥貴族など異業種からハンバーガー業界へ参入する動きも見られるが、「業界全体が盛り上がり、成熟するほどモスバーガーの良さが際立つ」と安藤さんは言う - 筆者撮影

「モスバーガーの強みは、47都道府県全てに店舗を有していて、全商品同じ値段で提供していること。北は北海道、南は沖縄の離島まで約1300店舗あり、どこに行ってもおいしさを想起してもらえるのは、モスバーガーだからこそできることです。また、調理における『手間と暇』のバランスを大切にしています。モスバーガーらしい手作り感が損なわれないような製造工場での加工や、店舗での調理におけるひと手間など、毎回食べても飽きないおいしさを体現するためには、両者における絶妙なバランスが重要になってくるわけです。定番かつシンプルながら、モスバーガーならではの独創的な品質を届けられるのは他社が真似できないことだと自負しています」

■子供向け「モスバーガー」で将来のファンを育てる

そして、競争激しい業界だからこそ、マーケティング戦略を立てる上では「顕在的ニーズと消費者の本当のインサイトには、時差があることを念頭に置いている」と安藤さんは語る。

「あまり食のトレンドや流行を先取りしすぎても、消費者の本当に気持ちに応えられず、結果として受け入れられないことが多いと思っています。モスバーガーに関しても、流行に敏感なアーリーアダプターを狙って何度か失敗しているので、マーケティングをする上では社会的な成熟度や消費者の反応を意識しています。王道で不朽の商品だからこそ、慎重に世の中の体温を推しはかりながら、モスバーガーらしさを訴求できるように努めています」

2020年7月にはファミリー層向けの「ワイワイモスチーズバーガーセット」を発売した。2009年から販売されている子供向けセットメニューの「モスワイワイセット」のラインナップに、モスバーガーを子供向けにアレンジした商品を加えたのだ。将来に向けて、「モスバーガー」という商品のファンを増やすことが狙いだ。

モスバーガーの将来のファンを作るため、子供向けの商品として発売した「ワイワイモスチーズバーガーセット」
画像提供=モスフードサービス
モスバーガーの将来のファンを作るため、子供向けの商品として発売した「ワイワイモスチーズバーガーセット」 - 画像提供=モスフードサービス

「往年のファンは50代を迎え、モスバーガーからそろそろ卒業していく年齢に差し掛かっているため、モスバーガーをまだ知らない層にもアプローチする必要があると考えています。『ワイワイモスチーズバーガーセット』はモスバーガーから生のオニオンとマスタードを抜いて、子供でも食べやすいように工夫した商品。親子で一緒に味わいながら、モスバーガーを好きになってもらい、将来のファンになってもらえるような狙いで販売しています」

■アフターコロナを見据えて、カフェ業態に注力

昨年から続くコロナ禍により、飲食店は軒並み苦境に立たされている状況だ。先行き不安な社会情勢のなか、モスバーガーはどのような対策を行っているのだろうか。

Oisix(オイシックス)とコラボしたミールキットの商品が好評を得たことを受け、今後はECによる冷凍食品の物販も準備しているという
筆者撮影
Oisix(オイシックス)とコラボしたミールキットの商品が好評を得たことを受け、今後はECによる冷凍食品の物販も準備しているという - 筆者撮影

「リベンジ消費で80%くらいはお店に戻ってくると考えています。デリバリーに関しては2019年から早々に取り組んでいたので、今後も主力のチャネルとして運用しつつ、アフターコロナを見据えた業態『モスバーガー&カフェ』を、これから店舗拡大していく予定です。モスカフェのDNAを受け継いだ業態で、朝食やディナータイムはもちろん、ドリンクメニューを充実させることで、ティータイムも利用いただけるような形で展開していきます。食事やリモートワーク、カフェ利用など多様なニーズを持ったお客様が入れる業態を作っておけば、たとえ揺り戻しが起こって価値観や志向が変化しても対応できると思っています」

このように、「時代や世の中の変化に柔軟に対応していく力こそ、モスバーガーが長年愛されてきた所以だ」と安藤さんは強調する。

「資本力があって企業が生き残るわけではなく、時代が変わろうともフレキシブルに対応できるかどうかが大事です。現時点では、テイクアウトの売上が7割くらいですが、アフターコロナでは揺り戻しによってイートイン需要が必ず復活してくるでしょう。そんなときでも、消費者ニーズに応えられるように、商品や店舗業態をあらかじめ準備しておけば、変化に屈することなく生き残ることができる。それこそがモスバーガーの強みであると捉えています」

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古田島 大介(こたじま・だいすけ)
フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。

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(フリーライター 古田島 大介)

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