「五輪が終わればマンション価格は下がる」と信じる人をこれから確実に襲う悲劇
プレジデントオンライン / 2021年7月29日 11時15分
■嫌気が差すほど質問されてきた
ちなみに、私はこのタイトルのようなことは一切言ったことがない。しかしながら、これまで何度も尋ねられている。嫌気が差すほどの回数だったために、自社の会員制サイトの動画レクチャーで「2度とこの質問はしないでくれ」という解説動画まで出した。オリンピック開催年を迎え、この結果も明らかになりつつある中、真実はどこにあるのかを明らかにしよう。
デマ・都市伝説・陰謀論など、まことしやかな話を信じる人は多い。それを信じる人の多くが口をそろえることは、「みんながそう言っているから」というものだ。そうした論調は大手メディアが情報を作為的に出すことから作り上げられるケースが多い。そこで最も重要な役割を果たすのは、「見出し」だ。多くの人は見出ししか読まない。オンラインニュース、新聞、雑誌、テレビ、動画だろうが、タイトル・見出し・サムネイルは最も編集に力が入るところで、記事を読むと見出しと全く違う話になっていることも多い。
また、その道の権威ある者の見解として、もっともらしく話を展開していく。結論をぼやかすために、賛否の両論を併記するテクニックもある。それでも、見出ししか読まない人には、本来あやふやな結論が事実であるかのように認識されることになる。
■不動産が大きく下がったタイミングは戦後2回
そもそもこのタイトルの話は全く根拠がない。しかし、もっともらしく感じるので、メディアの見出しを賑やかに飾る。予想は何を言っても「当たるも八卦当たらぬも八卦」という扱いである。ちなみに、私は人口予測・着工戸数予測・需給バランス予測・価格予測などを25年の間仕事にしているので、予測が外れるようだと仕事がなくなるリスクを常に抱えている。
これまで不動産が大きく下げたタイミングは戦後2回しかない。1つはバブル崩壊であり、もう1つはリーマンショックである。どちらも起きた原因は、不動産に資金が流れなくなったことだ。バブル崩壊は総量規制によって起こった。総量規制は、1990年に当時の大蔵省から金融機関に対して行われた行政指導で、土地取引に流れる融資を抑えるために始まった。急騰する不動産価格の上昇は止まり、貸し渋り・貸し剥しを大規模に実施したために、それまで融資していた不動産の担保価値が下がり、多くの不良債権を生み出すことになる。不動産価格の下落はその後10年以上続いた。
■官僚に言われると金融機関は従わなければならない
ここで、変だと思わないといけないことが2つある。1つは、官僚も金融機関も自分が不動産価格の乱高下の主役であるのに、不動産への見識が全くと言っていいほどなかったことだ。自分が1億円貸して買わせた土地を、次買う人に5000万円しか貸さなければ価格は大幅に下がるしかない。不動産を手元資金だけで買う人はほぼいないものだ。
もう1つは、官僚から言われると金融機関はもれなく従わなければならないということだ。今は、大蔵省は財務省と金融庁となった。金融機関を指導する立場は金融庁である。その厳しい監督・管理は「都銀13行」「大手20行」と呼ばれた各行が3つのメガバンクに再編するほどの力を持つ。
■値上がりの要因は2013年からの金融緩和
逆に不動産価格が上がる時の要因は決まっている。不動産にこころよく金融機関がお金を貸してくれる時だ。1億円の不動産を買うなら、9割程度ローンを借りるものだ。会計が分かる人なら、貸借対照表上の資産1億円に対して、債務9000万円+自己資金1000万円でバランスすることになる。つまり、債務が引きやすいと資産はインフレするし、債務が引きにくいと資産はデフレするのだ。
最近の値上がりは、2013年に始まる。アベノミクスの3本の矢の1つ目は金融緩和だ。金融緩和すると、日銀から市中の銀行に大量の資金が貸し出される。銀行はその借入金を誰かに貸し付けないと金利分だけ損をする。そうした時は、決まって不動産への貸し出しが増える。担保が取れるからだ。つまり、金融緩和は資産インフレを必ず招くのだ。それに加えて2013年9月に東京がオリンピック招致に成功する。オリンピックまでは建設需要が旺盛になることは必至で、建築単価が上がるからこそ不動産価格が上がるというシナリオはまんざら嘘ではない。
■2025年までは値上がりする確率が最も高い
本来のオリンピック開催時期の2020年を過ぎたのだから価格はもう下がり始めてもいいが、予想に反して不動産価格は高騰している。コロナ禍で家に対する需要は変わった。「もう1部屋欲しい」という世帯が増え、マンションも戸建ても供給戸数を買いたい世帯数が上回る事態になっている。こうなると、車のように同じものを大量生産することができない、その立地固有の不動産は価格が上がり始める。
それならば、需給バランスが崩れたら価格が下がるかというとそれはあまり起こらない。マンションの供給戸数が多い企業は大企業で、財務力があるので売り急ぐ必要性がない。戸建ては売れ残ると値引きが始まるが、それも原価割れするほど下がることはない。「下がりにくく、上がりやすい」というのが需給バランスでの不動産価格変動の特徴である。
それ以上に不動産価格に影響を与えているのは、金融緩和を異次元で実施している日本銀行に他ならない。アベノミクスの実行のために首相が任命した黒田東彦日銀総裁の任期は当初2018年までだった。この金融緩和はインフレ率2%に達するまで行うと公言されているが、2%にほど遠い状況が続いている。そして、黒田日銀総裁は再任されたことで、金融緩和も2023年まで行うことが決まった。インフレ率2%が達しないならば、2023年まで土地購入資金は潤沢に流れ続け、その2年後までの建設期間を経て、2025年まで価格は値上がりする確率が最も高くなっている。
■大したことのないマンションが1億円する時代になった
こんな先読みしやすい事態を8年も続けたので、首都圏のマンションは6割増し、地方のマンションは2倍以上の価格に高騰した。庶民の年収は変わらない中で、大したことのないマンションが1億円する時代になった。単純に言って価格は高いと思う。
しかし、これは国・政治家・日銀・官僚(特に財務省)にとっては想定の範囲内で、あえて資産インフレという副作用を放置してきた節がある。その理由は、少子高齢化だからだ。高齢者は稼げないが、不動産や株などの資産だけはたくさん持っており、近いうちに相続税で回収することができる。その資産をインフレさせれば、国の膨れ上がった借金は返す目途が立つ。デフレが問題なのは、デフレによって国の借金は重たくなるだけだからだ。しかし、その反動で、現役世代の持てる者と持たざる者の格差は、この8年間で3000万円程度生まれている。
■価格が下がる確率は、高くもなければ低くもない
今回、日銀は自分で幕引きはできない。インフレターゲットに達していないからだ。しかし、金融庁は口先で介入することはできる。バブル崩壊の時と同じだ。不動産開発業者への融資は止められる。また、それを行うだけの理由もある。それはインフレ率のかなりの割合を占める家賃がコロナ禍で下がり始めたからだ。賃貸マンション開発はコロナ禍の需要減退で賃料が下落しており、土地を高く買うシナリオが崩れている。金融庁はこれまでも理不尽な指導を行ってきているので、これだけの理由でも引き締めの根拠は十分にある。
こうなると、土地取得資金が減り、地価が下がり、建築需要も減退し、マンション価格は下がり始めるかもしれない。その確率は高くはないが、低くもないと考えておいた方がいい。しかし、そうなるにしても、2年後なので、東京オリンピックが終わったから下がったのではなく、不動産への資金の流れとなる蛇口が閉まったからなのである。
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スタイルアクト代表
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業。監査法人トーマツ系列のコンサルティング会社、不動産コンサルティング会社を経て、1998年にアトラクターズ・ラボ株式会社(現在のスタイルアクト株式会社)を設立、代表取締役に就任。著書に『マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書)、『独身こそ自宅マンションを買いなさい』(朝日新聞出版)など多数。分譲マンション情報サイト「住まいサーフィン」(https://www.sumai-surfin.com/)、独身の住まい探し情報サイト「家活」(https://iekatu.com/)を運営している。
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(スタイルアクト代表 沖 有人)
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