「DXは起業よりも難しい」絶対に選んではいけない"旗振り役"のタイプ
プレジデントオンライン / 2021年8月2日 9時15分
※本稿は、鈴木康弘『成功=ヒト×DX デジタル初心者のためのDX企業再生の教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■既存事業でのDXは「起業」よりも難しい
「DXに何度も挑戦していますが、なかなかうまく進まないのです」
最近、企業の担当者から、このような相談を受けることが多くなりました。
話を聞くと、その原因は「推進体制」にあることがほとんどです。これは、DXの担当者が経営者と二人三脚で協力しつつ、組織横断で動き、外部を巻き込んでDXを成功に導くことです。
私は経験上、既存事業でDXを推進するほうが、起業より難しいと思っています。その理由は、「環境の違いによる人の意識」にあります。ゼロからの起業であれば、関係者の意識も未来を向いているので、体制をつくりあげることはそれほど難しいことではありません。
一方、DXの場合は、既存のビジネスの成功体験を一度捨てたうえで、新しい意識で体制をつくりあげる必要があります。ところが成功体験を持つ組織で新しいことをしようとすると、必ず抵抗に遭います。当然、体制づくりの難易度は上がります。そのため、推進体制の構築は、未来に起こり得ることを十分想定して、慎重すぎるくらいに行う必要があります。
デジタル推進体制を作る際は、この「環境下の違いによる人の意識」に注意を払うことが欠かせないのです。
■能力だけでリーダーを抜擢してはいけない
まず大切なのは、リーダーの選定です。
プロジェクトを率いるデジタル推進リーダーは、“経営者の右腕”とも言える存在です。経営者が最も信頼できる人を任命し、二人三脚で辛苦を共にしながら推進していくべきです。
これは経営者の方に常々アドバイスしていることですが、会社の変革を実施する場合、周囲から多くの声が聞こえてきます。それらに翻弄されないためにも、推進リーダーには、心から信頼できる人を任命することが大切なのです。けっして能力だけで任命してはいけません。猜疑心を持つことなく、「運命を共にできる」と本心から思える人を任命します。
なお、「運命を共にする」以上、何かあったときには経営者に後ろ盾になってもらうことも大切です。とくにデジタル推進リーダーは、新しいビジネスの枠組みをつくる役割があるため、既存のビジネスに関わっている人たちの抵抗を生みやすい傾向があります。ときには、経営者を後ろ盾にして対処していきましょう。
私自身もDXのリーダーを担っていたとき、様々な抵抗に遭い、苦労を強いられたことがあります。面と向かって意見を言うのではなく、表には出ない老練な手口で足を引っ張ってきたのです。その際、経営者に後ろ盾になってもらったことで、窮地を脱することができました。
経営者の信頼を得て後ろ盾になってもらうためには、経営者への報告・相談を定期的に行い、信頼を積み重ねていくことが何より大事です。
■メンバーは「立候補制」がベスト
リーダーが決まったら、次はメンバーの選定です。メンバーは、全社員を対象に、「立候補」で選定することをおすすめします。全社員の中から選ばれたメンバーは、使命感を持って仕事をしてくれるからです。
DXは長い道のりです。順調なときもそうでないときもあります。私自身も、最初はグループの各方面からメンバーを任命してもらいました。ところがプロジェクトが暗礁に乗り上げると、任命されたメンバーは、一転して自己保身に走る人が多くなりました。
対して、自ら立候補した人は、当初の使命感を忘れることなく、共に苦難を乗り越えてくれました。これらの経験から、推進メンバーは全社を対象に、立候補で決めることが望ましいと言えます。
メンバーの選定は、同質化を避けるために様々な部署から選定します。一部の部署から選出して進めると、同質化を生みやすく、現場と意見が乖離してしまいがちです。様々な部署から選出し、全社視点で動くことにより、縦割り組織を融合させます。すると、自然と全社が動き出します。普段あまり交流がないメンバー同士が集まることで、互いに刺激し合い、斬新なアイデアが生まれるからです。
また、メンバーには部署を代表しているという意識を持ってもらうことで、各々の部署を巻き込むことも期待できます。
■他社からもプロジェクトに参加してもらう
ただ、自社のメンバーのみだと、アイデアが煮詰まってしまうことがあります。他社からもプロジェクトに積極的に参加してもらうことで、新しい風を吹き込むことが可能になります。
私もデジタル責任者を担っていたときには、取引先やIT企業、メディア企業などの異業種の方々に入ってもらいました。すると、自社では考えもつかなかった斬新なアイデアがたくさん出てきました。
DXを進めるうえで、顧客や社会の視点を持つことは必須です。外部のメンバーをオープンに参加させることで、新たな視点を得ることが期待できます。
推進リーダーやメンバーのスキルが足りない場合があります。そのときは無理をせず、足りないスキルを明確にして、初期段階から経験豊かな外部サポーター(外注会社)をつけることが重要です。
ただし、丸投げは厳禁です。ある一定期間、そのスキルを自社のものとする前提で力を借りることが、自社を強くすることにつながります。とくに足りないスキルは「変革スキル」であるケースが多いので、変革経験のある人材を選定するといいでしょう。変革経験者には、新規事業の立ち上げや起業など、ゼロベースからビジネスを立ち上げた経験のある人をサポーターにつけることをおすすめします。
■ローテーションの繰り返しが強い会社を育てる
DXは、長い時間をかけて進めていく全社変革です。当然、一朝一夕には成就しません。推進プロジェクトのメンバーは、様々な苦労をしながら進めていくことになるでしょう。その過程で彼らは“変革人材”として、驚くほど成長していきます。人材育成という点からも、とても貴重な場となることでしょう。
私は、デジタル推進体制は、ローテーション制にすることをおすすめしています。半年~1年ごとに定期的にメンバーをローテーションさせることで、多くの人材を育てる場となるからです。また、プロジェクトを経験した後、メンバーが自部門に戻ることで、変革文化を現場に浸透させることも期待できます。
ローテーションをくり返すことにより、変革人材が増え、現場への浸透も進み、やがて会社全体が、変革に強い会社へと成長していくのです。
デジタル推進体制の構築は、大胆かつ慎重に行う必要があります。
「なぜ、ここまで苦労して内部でやる必要があるのか」と思う方も多いかと思いますが、英国の歴史家のエドワード・ギボンが次のような名言を遺しています。「改革は内部からなるもので、外部からもたらされるものではない」
まさに、改革は内部からなるものです。その改革を実行するうえでは、経営者が最も信頼できるリーダーを選び、メンバーは立候補制で募ったうえで、定期的にローテーションを行う。この一連の動きが、職場のDXを加速させるエンジンとなるはずです。
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デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年富士通に入社。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイ・ホールディングスグループ傘下に入る。14年セブン&アイ・ホールディングス執行役員CIO就任。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。著書に、『アマゾンエフェクト! 「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』(プレジデント社)がある。
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(デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木 康弘)
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