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東京五輪にかこつけて文在寅大統領が日本から引き出したかった"ある内容"

プレジデントオンライン / 2021年7月26日 15時15分

韓国・ソウルの大統領官邸である青瓦台で行われた閣議で発言する文在寅大統領=2021年7月6日(写真=EPA/時事通信フォト)

■文大統領は日本に来て何をするつもりだった?

7月19日、韓国大統領府は、東京五輪開会式に合わせた文在寅(ムン・ジェイン)大統領の訪日を見送ると発表した。その理由は、訪問しても“成果の実現”が困難になったからだと報じられている。今回は、文大統領が目指した訪日の意味は何か、経済の側面から考察したい。

文氏が目指した成果はいくつか考えられる。まず、韓国の経済界が対日関係の修復を重視していることは大きいだろう。それに加えて、文氏が重視する北朝鮮との宥和・統一に向けて資金面での協力を取り付けることが東京五輪に合わせた来日の遠因との見方もある。そのほかにも想定外の展開に備えてドル資金の確保を目指すなどさまざまなことが思い当たる。

今後、わが国は1965年の日韓請求権協定など国家間の最終的かつ不可逆的な合意に基づき、毅然と、是々非々の姿勢で韓国に対応すればよい。そのために政府は、わが国の企業がより積極的にモノづくりの力を磨き、米中などから必要とされる状況を目指すべきだ。

 

■強硬だった対日姿勢に「変化」が

政権発足来、文大統領は安全保障面を米国に依存し、その一方で経済面では中国との関係を重視した。また、外交政策面では北朝鮮との宥和・統一を目指し、わが国には厳しい姿勢をとった。

ただし、徐々にではあるが、文大統領の対日姿勢は幾分か変化しているように見える。1月に元徴用工などへの損害賠償問題に関して文氏が「資産が現金化されることは、日韓双方にとって好ましくない」と述べたことはそう考える要因の一つだ。その上で韓国政府はわが国に首脳会談の実施を求めたと報じられている。

その背景には、韓国経済の構造的な特徴が影響しているだろう。結論を先に述べれば、韓国の経済が安定して推移するために、わが国との通商、および金融面での関係は抜きにできない。それは一朝一夕に変わらない。

まず、通商面に関して、韓国経済の牽引役に位置付けられる半導体産業は、わが国企業との取引を強化しようとしてきた。2019年7月にわが国の経済産業省がフッ化水素、フッ化ポリイミド、レジストの3品目の対韓輸出管理を厳格化すると表明した後、サムスン電子などの韓国企業トップは訪日して半導体部材の在庫確保などに動いた。

■韓国の半導体産業のために対日関係を修復したい

その後、高純度の半導体部材の対韓輸出は減少傾向となってはいない。また、今年6月に韓国の経済団体である“全国経済人連合会”(わが国の経団連に相当する組織)は、相星孝一駐韓大使を招いた懇談会を開催し、わが国に民間レベルでの交流を促進するよう要請を行った。

半導体
写真=iStock.com/MACRO PHOTO
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MACRO PHOTO

今後、韓国経済にとっての対日通商関係の重要性はさらに増すだろう。サムスン電子とSKハイニックスはファウンドリー事業の強化に取り組んでいる。微細化を推進し世界のファウンドリー市場のシェアを獲得している台湾積体電路製造(TSMC)は、後工程での製造技術の強化に向けてわが国企業や研究機関との連携を進めている。

その状況下、韓国の半導体産業の成長のために対日関係を修復して、より円滑な貿易や直接投資の実施を目指すことは重要だ。そのために、文氏はわが国との首脳会談を目指したとみられる。

■ドル資金の流出リスクは軽視できない

次に韓国経済全体での資金繰りを考えた場合にも、文政権にとってわが国との関係強化を目指すことは重要だ。特に、デルタ株など新型コロナウイルスの感染再拡大が世界経済に与える影響は過小評価すべきでない。

現時点で韓国の経済は相応の回復力を維持しており、早晩、資金が海外に流出するリスクは低く抑えられている。しかし、中長期的な展開を考えた場合、潜在的なドル資金の流出リスクは軽視できない。過去、世界経済の先行き不透明感が高まり始めると、韓国の企業や金融機関がドル資金を調達するコストが上昇し、韓国経済と金融市場の不安定感が高まってきたからだ。

それは、2020年3月上旬から中旬にかけての韓国経済と金融市場の混乱を振り返るとよく分かる。当時、世界全体に新型コロナウイルスの感染が拡大した。その結果、想定以上に感染の拡大が世界経済を減速あるいは後退させるとの懸念が高まり、多くの投資家がリスクの削減を急ぎ、新興国通貨売り・ドル買いのオペレーションが急増した。

■今後、回復ペースは鈍化する恐れ

その中で、外需依存度が高く、国内では不動産価格の高騰によって家計の債務問題などが深刻化する韓国からは急速にドル資金が海外に流出したのである。最終的に韓国は米連邦準備理事会(FRB)からのドル資金の融通によってドル不足を克服した。

韓国
写真=iStock.com/NicolasMcComber
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicolasMcComber

当時、アジア通貨の取引に従事していたベテランのファンドマネージャーは、「昨年春の韓国の金融市場における流動性の枯渇は、1997年秋のアジア通貨危機の発生による市場混乱を彷彿とさせるものだった」と話していた。

少し長めの目線で韓国経済の先行きを考えると、感染再拡大や韓国銀行が示唆し始めた金融引き締めによって、韓国経済の回復ペースは鈍化する可能性がある。すでに中国経済の回復力に息切れ感が出始めていることも見逃せない。

今すぐ、昨春のような混乱が起きるとは考えられないが、万が一の展開に備えて韓国の政府内に日韓の通貨スワップ再開を目指す動きが出始めている可能性はある。それも文氏がわが国との首脳会談を目指した理由の一つだろう。

■日本は是々非々の姿勢で臨むべきだ

文大統領の訪日が見送られはしたものの、報道されている内容では文氏は対日関係の修復に依然として意欲を持っているようだ。今後も文氏はわが国との首脳会談などを目指すことによって経済運営や対北朝鮮政策の推進に関する成果を世論に示そうとする可能性がある。

わが国に求められることは、これまで同様に、韓国に対して是々非々の姿勢で臨むことだ。歴史問題などに関しては、過去の国家間の合意内容に従った対応を、韓国に、冷静に求める。

その一方で、わが国は国際社会への責任を果たすために輸出管理を適切に運営しつつ、民間企業の意思決定に基づいた経済取引を推進すればよい。それは対韓国だけでなく、対中国や、対台湾などとの関係にも当てはまる。

つまり、わが国に求められることは、現時点で比較優位性を発揮している高純度の半導体部材や半導体の製造装置、産業用ロボットなどの工作機械を生み出すモノづくりの力を磨き、その優位性を引き上げることだ。世界経済のデジタル化は加速している。

■これまで以上にモノづくりの力を支える政策を

特に、変異株による感染再拡大によって生産工程の省人化などを支えるファクトリー・オートメーションへの取り組みは、これまで以上のスピードで進む可能性がある。それに加えて、自動車の電動化によって、バッテリーや車載半導体などの生産能力拡大も主要国経済にとって重要性が増している。それらは、わが国製造業の追い風になるだろう。

わが国の政府に求められることは、目先は何よりも国内の感染対策を徹底する。その上で、製造業の競争力向上に向けて高付加価値のモノづくりの力を支える政策を進めることだ。具体的には、量子技術の実用化や6G通信技術の開発サポートなど、先端分野で取り組むべき対象は多い。

最先端分野の技術を支える素材の創出は、自動車や機械産業の成長も支えるだろう。そうした企業の取り組みを強くサポートすることによってわが国は、米国、中国、台湾や韓国などから、これまで以上に必要とされる立場を目指さなければならない。そうした取り組みがわが国と国際世論の関係強化を支え、自国の主張に対するより多くの賛同を得ることにつながるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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