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「誰も言及しない真実」美しい子供は、人に好かれ、優秀だと見なされ、実際に頭もいい

プレジデントオンライン / 2021年7月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eclipse_images

最先端の科学では人間の脳=こころの謎が次々明らかになってきている。著書『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(幻冬舎)でその全貌を紹介した作家の橘玲氏は「外見は疑いなくパーソナリティに影響を与えている。ある研究によると、顔立ちのよい子どもはそうでない子どもに比べて好意的な扱いを受け、人気も高く、実際に頭もいい」という──。

※本稿は、橘玲『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■ヒトが生きてきた環境=社会はとてつもなく複雑

ここでは“わたし=スピリチュアル”を8つの要素に分類した。

橘玲『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』(幻冬舎)
橘玲『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(幻冬舎)

●スピリチュアルのビッグエイト
①外向的/内向的
②楽観的/悲観的(神経症傾向)
③同調性
④共感力
⑤堅実性
⑥経験への開放性
⑦知能
⑧外見

パーソナリティがばらつくのは、ヒトが生きてきた環境=社会がとてつもなく複雑だからだ。そこでは生存と生殖の効率を最適化する戦略がひとつに決まらず、あちこちでトレードオフが生じる。これによって、どのような環境でも誰かが生き残れるように“生き方の傾向”が正規分布するようになったのだ。

■男は知能の高低差が激しい

「外向的/内向的(報酬系)」と「楽観的/悲観的(損失系)」は進化のなかでもっとも古く、哺乳類や鳥類をはじめ多くの動物でパーソナリティの個体差が観察されている。「同調性」「共感力」「堅実性」は向社会性のパーソナリティで、言語を獲得したヒトが親密で複雑な「評判社会」を形成したことで急速に発達した。

共感力には明らかな性差があり、堅実性は平均が同じでも女に比べて男の方が分散が大きい(どちらのサイドでも極端なケースは男が多い)。同調性は「ヒトの本性」だが、平和で安定した社会ではばらつきが生じる。

「経験への開放性」は進化のなかでもっとも新しいパーソナリティで、美や芸術、文化の誕生に関係している可能性がある。

ビッグファイブのパーソナリティから「知能」が除外されているのは、知識社会においてその影響力がとてつもなく大きいからだろう。

知能に関しては、男女で平均は同じだが、分散は男の方が大きい(極端に知能が高い者と、極端に知能が低い者は男に多い)ことと、男は空間把握能力(数学・論理的知能)に優れ、女は言語的能力に優れているとの性差が(批判はあるものの)多くの研究で示されている。

■「美しい子ども」という不都合な事実

「外見」は疑いなくパーソナリティに大きな影響を与えているが、自尊心との関係(魅力的な外見をもつ者は自尊心も高い)以外はほとんど研究の対象になっておらず、心理学における「暗黒大陸」と化している。

その理由は、外見が現代社会においてきわめて大きな価値をもつにもかかわらず、その分布が不均衡なため、研究者がテーマとして取り上げるのを躊躇しているからではないだろうか。

外見のちがいを扱った数少ない研究では、魅力とパーソナリティの関係についてこう書かれている(※1)

見た目の美しい子どもたちの4分の3がうまく環境に適応でき、人に好かれ、優秀だと見なされるが、見た目のさえない子どもたちでは、その割合は4分の1にすぎない。顔立ちのよい子どもはそうでない子どもに比べて好意的な扱いを受け、人気も高く、実際に頭もいい。この「頭がよくなる」という効果については、美しさと頭脳の関連を示す具体的な事実も根拠もないとして疑問視されることが非常に多かった。しかし、この説の論破を試みたものさえも含むすべての調査が、子どもの美しさと知能につながりがあると明らかにしている。(中略)11歳の子を対象とした英国の調査は、その関連性を否定するために実施されたものなのに、結果的には正しいことを認めざるを得なくなった。

「経済格差」ばかりが大きく取り上げられるが、思春期以降の若者にとって死活的に重要なのは、給料が数万円(時給が数百円)多いか少ないかではなく、性愛を獲得できるかどうかの「モテ/非モテ格差」だろう。

アメリカの大学生を被験者にした「お見合い」実験では、モテるかどうかは「外見の魅力」がすべてで、「男らしさ/女らしさ」を含む性格も、成績がいいか悪いかも、モテにはほとんど関係なかった。

女性の写真を使った日本の実験でも、「デートに誘いたい」「恋人にしたい」理由は「美しさ」が飛びぬけて多かった(※2)。――日本社会で大きな問題になっているひきこもりは「非モテ」問題だが、この「不都合な事実」には誰も触れようとしない。

これらのパーソナリティは長大な進化の過程で発達したもので、遺伝学、脳神経科学、大脳生理学などによってかなりの程度まで説明でき、今後、解明はさらに進んでいくだろう。

※1 キャサリン・ハキム『エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き』共同通信社
※2 越智啓太『美人の正体 外見的魅力をめぐる心理学』実務教育出版

■環境決定論の残酷な「差別」

「氏(うじ)が半分、育ちが半分」といわれるように、遺伝と環境の相互作用によって一人ひとりのパーソナリティがつくられていく。行動遺伝学は長年、一卵性双生児と二卵性双生児を比較するなどして遺伝の影響を検証してきたが、パーソナリティの遺伝率は平均すれば50%程度とされている。

知能については年齢とともに遺伝率が上がり、思春期を過ぎると70%を超えることがわかっている。音楽やスポーツの能力も遺伝率が80%近くなる。性格や才能、認知能力から精神疾患に至るまで、人生のすべての領域に遺伝がかかわり、その影響は一般に思われているよりもかなり大きい(※3)

ここで重要なのは、「極端なものほど遺伝率が高くなる」という法則だ。

恋人から別れ話を切り出されたとか、仕事で失敗して上司から叱責されたとか、さまざまなネガティブな出来事によって抑うつ的な気分になることは誰にでもあるだろう。

もちろんここにも遺伝の影響が働いていて、それが「打たれ強い」とか「こころが折れやすい」という傾向に関係するのだろうが、日常的なうつや不安の原因の多くは環境によるものだ(転校や転職で心理的な問題が解消するのはこのためだ)。

平均付近(平均+−1標準偏差以内の全体の70%)では生得的なものよりも環境の影響の方が大きいとすると、あるときは外向的で別の機会には内向的になったり、日によって楽観と悲観が入れ替わるのはよくあることだ。この場合、(「あのひとは外向的/内向的」などの)パーソナリティのレッテルを貼るのは適切ではない。

だがうつ病や双極性障害(躁うつ病)、統合失調症のような精神疾患になると、遺伝率は70~80%まで上がる。こうした症状は、環境を変えたくらいでは容易に変化しない。精神疾患は「病気かそうでないか」の二者択一ではなく連続体(スペクトラム)で、極端な症状ほど遺伝の影響が大きくなる(※4)

日本ではいまだに、自閉症のような発達障害や統合失調症などの精神疾患の子どもに対して、「やっぱり子育てに問題があるんじゃないのか」とのこころない決めつけがあり、ただでさえ困難な境遇を強いられている親をさらに苦しめている。

「リベラル」な社会では、遺伝の影響を語ることは「ナチスの優生学と同じ」と徹底的に忌避され、子育てや家庭環境の影響が過剰に強調されている。

こうして、一部の恵まれた母親が「自分はいかにして子育てに成功したのか」を得々と語り、その陰で子どもの問題はすべて「親が悪い」とされることになった。

「なにもかも生まれたときに決まっている」という遺伝決定論は誤りだが、その一方で、「子育てですべてが決まる」という極端な環境決定論が残酷な「差別」を生み出しているのだ。

※3 安藤寿康『遺伝マインド 遺伝子が織り成す行動と文化』有斐閣
※4 ケリー・L・ジャン『精神疾患の行動遺伝学 何が遺伝するのか』有斐閣

■家庭環境より子供集団内でのキャラに起因

パーソナリティの遺伝率が5割ということは、残りの半分は環境の影響になるが、行動遺伝学ではこれを「共有環境」と「非共有環境」に分けている。

これは何度も指摘してきたことだが、行動遺伝学のもっとも驚くべき知見は、遺伝の影響が(リベラルなひとたちが望んでいるより)ずっと大きいことではなく、共有環境の影響がほとんどゼロにちかいことだ。

共有環境というのは、成育にあたってきょうだいが共有する環境のことで、(諸説あるものの)家庭環境=子育てと考えればいいだろう。非共有環境というのは、きょうだいが別々に体験する環境のことだ。

日本だけでなく世界じゅうで、子どもの人生は子育ての巧拙によって決まると当然のように信じられている。だが行動遺伝学は、この常識がきわめて疑わしいとの膨大な知見を積み上げてきた。ほとんどの研究で、パーソナリティにおける共有環境(家庭環境)の影響はものすごく小さいのだ。

晴れた日にパパイヤを食べる家族
写真=iStock.com/Anna Frank
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Anna Frank

だとしたらなにが子どもの人生を決めるかというと、それは遺伝と非共有環境になる。

惜しくも2018年に亡くなった在野の発達心理学者ジュディス・リッチ・ハリスは、「非共有環境とは子ども集団のなかでのキャラ(役割)のことだ」という独自の理論を20年以上前に唱え、「子育ての努力には意味がないのか」との論争を巻き起こしたが、いまだにこれを超える説得力をもつ理論をアカデミズムは提示できていない(※5)

――それにもかかわらず発達心理学者の多くは、いまだに行動遺伝学の頑健な知見を無視して、母子関係(最近では父子関係も)の重要性をひたすら強調している。

※5 ジュディス・リッチ・ハリス『子育ての大誤解 重要なのは親じゃない』ハヤカワ文庫NF

■「同じだけどちがう」という二重のアイデンティティ

徹底的に社会的な動物であるヒトは、自分を集団と一体化すると同時に、集団のなかで自分を目立たせるというきわめて複雑なゲームをしている。それぞれの集団には固有の“しるし”があり、それを身につけていないと排除されてしまう。

これが“アイデンティティ(帰属意識)”で、人類が進化の大半を過ごした旧石器時代には、集団に属していない個体は生き延びることができなかった。

子ども時代に誰もが思い知らされたように、特定の「友だちグループ」に所属するには、ファッションや音楽、ゲーム、スポーツの趣味など、暗黙の“しるし”を共有しなければならない。

子どもたちは“しるし”の微妙なちがいをたちまち見分けて、「仲間」か「よそ者」かに分類する。こうして、特定の集団(“ギャル”や“パリピ”)に属することで固有のパーソナリティを身につけていく。

だが、たんに自分を集団と一体化させるだけでは、子孫(遺伝子)を最大化するという進化の適応(「利己的な遺伝子」の目標)を達成できない。

異性を獲得するためには、その集団のなかで目立つ「個性」をつくらなければならないのだ。紛らわしいことに、この個性も“アイデンティティ(自分らしさ)”と呼ばれている。

生存(生き延びるために特定の集団に一体化すること)と生殖(異性を獲得するために集団のなかで目立つこと)のためには、社会的アイデンティティと個人的アイデンティティを巧みに操らなければならない。

この「同じだけどちがう」キャラ(役割)を、わたしたちはパーソナリティとして知覚するのだ。

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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー。2005年発表の『永遠の旅行者』が山本周五郎賞の候補に。他に『お金持ちになる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない』『上級国民/下級国民』などベストセラー多数。

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(作家 橘 玲)

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