「1泊250万円のホテルで大豪遊」日本をしゃぶり尽くしたバッハ会長が次に狙うもの
プレジデントオンライン / 2021年7月27日 17時15分
■バッハの、バッハによる、バッハのための東京五輪
バッハの、バッハによる、バッハのための東京五輪が始まった。
開催国の国民の多くが開催を望んでいない五輪は史上初であろう。
朝日新聞の「朝日川柳」に載った一句が、今回の東京五輪の本質を的確に表している。
「バッハ言う国破れても五輪あり」
世界205カ国と地域から1万人の選手・関係者が集まり、五輪後に「五輪株」とでもいうような感染力の強い変異株が生まれ、日本人が苦しんでも、トーマス・バッハIOC会長(67)らIOCの幹部たちは、「知ったことではない」というのであろう。
フランスのル・モンド紙東京特派員は「日本はIOCの囚人になっている」(朝日新聞7月24日付)と報じた。
アメリカのワシントン・ポストで、これまで多くの五輪を取材してきたマイク・ワイズが、「現代スポーツ史上、最も厚顔で、人類より傲慢さを重視した、お金目当ての大会」と批判し、「金銭欲の金メダルはIOC、銀メダルはNBCユニバーサル、銅メダルは日本の大会組織関係者」だと揶揄していると朝日新聞(同)が伝えている。
■お抱え料理人を帯同させ、「1泊250万円」に宿泊
金儲(もう)け五輪で銅メダルを授与された組織関係者だが、実態は「IOC貴族」たちにしゃぶり尽くされているようだ。週刊現代(7/24日号)でノンフィクション・ライターの森功がこうリポートしている。
バッハが宿泊しているのは虎ノ門にある「The Okura Tokyo」の1泊250万円のインペリアルスイートルームだそうだ。
だが、バッハが払うのはIOCの規定で、最大で1泊4万4000円までだから、その差額を日本側が払わなければならない。
泊まるだけではなくバッハは、室内の調度品もすべてIOC御用達に替え、料理人も外国から連れてきているというのである。オークラ側は、客のプライバシーに関わるとして答えてはいないが。
組織委によれば、今年の3月時点の東京五輪の経費は1兆6440億円になり、その中でIOC幹部たちの「おもてなし」代を含めた大会運営費が7310億円にもなるという。このままいけば経費は3兆円を超えるのではないかといわれるが、そのツケは必ず国民に回ってくる。
サンデー毎日(8月1日号)で元長野県知事の田中康夫がこう話している。
「長野県知事に当選の2000年は、1998年の冬季長野五輪の宴の後。五輪招致の帳簿は焼いたと居直っていた長野県は財政再建団体転落寸前だった」
公文書管理に消極的な安倍晋三や菅義偉は、東京五輪の過剰接待や使途不明金を知られるのが嫌で、同じことをするかもしれない。
■まさに“呪われた”としかいいようがない惨状
そんな国民の不安を象徴するように開会当日は雲の多い日だった。そのため航空自衛隊のブルーインパルスが空に描こうとした五輪マークは雲と重なってはっきり見えなかった。
1964年の東京五輪開会日は快晴で、空にくっきり五輪のマークが浮かんでいたことを思い出した。
夜8時から始まった開会式も、前回とは比べものにならない薄っぺらなものに見えたのも、直前まで不祥事が続出したためであろう。
開会式の演出を指揮する元電通マン・佐々木宏が、タレントの渡辺直美を侮辱する演出プランを出していたことが発覚して辞任。
開会式直前に、式の作曲を担当していた小山田圭吾の「障害者イジメ」が明るみに出て辞任に追い込まれた。さらにショーディレクターを務める元お笑い芸人・小林賢太郎の「ユダヤ人差別発言」が報じられ解任と、まさに“呪われた”としかいいようがない惨状で、組織委の中からも「開会式は中止すべきだ」という声が上がったのである。
開会式中継に抜擢されたNHKの和久田麻由子の声も心なしか沈んで聞こえた。
■経済団体トップもスポンサー陣も出席しなかった
唯一といってもいいのではないか。オールド野球ファンを歓喜させたのは、長嶋茂雄(85)が王貞治、松井秀喜と聖火ランナーとして現れたときだった。
長嶋もこの日を楽しみに、昨年秋から過酷なリハビリに取り組んでいたそうだ。足取りはおぼつかないが、左手でトーチを掲げる立姿は現役時代を彷彿とさせるほどカッコよかった。
亡くなった長嶋の妻は、前回の東京五輪のコンパニオンで美しい人だった。巨人軍の9連覇は翌年から始まった。
開会式の前日、天皇はバッハらIOC関係者19人と面会した。だが事前に報じられていた通り、開会宣言に「祝う」という言葉はなく、「記念する」に変更された。
各国首脳の数はリオ五輪の半分。経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体のトップ全員も出席を見合わせた。
最高位のスポンサーも、トヨタ自動車、パナソニック、味の素、P&G、NTT、NEC、富士通、TOTO、日本郵政、JR東日本が、社長ら経営幹部たちは出席せず、トヨタは国内のテレビCMまで放送しないことにした。
全米に放映権を持つNBCが7月24日に明らかにしたところ、開会式のアメリカの視聴者は約1670万人だったという。これは1988年のソウル五輪を下回り、過去33年で最低だったそうである。
■「試合を夕方に」と選手が訴えるほどの暑さ
何とも哀愁漂う寂しい船出となった東京五輪だが、元々は安倍晋三首相(当時)らの「嘘」で招致にこぎつけたことが、今回の五輪の不幸の始まりだった。安倍首相は2013年9月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会でこう演説した。
「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」
汚染水はいまだに統御されておらず、「アウト・オブ・コントロール(制御不能)」であるこというまでもない。
さらに東京都は、夏に開催することについて、「この時期の天候は晴れることが多く、温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスできる理想的な気候」と抜かしたのだ。
酷暑に多湿。早速、テニスのノバク・ジョコビッチ(セルビア)らが、「暑すぎる、試合時間を夕方に変更してくれ」といい出しているが、当然のことである。
いっそのこと室内競技以外、すべての競技を夕方から深夜にしたらどうか。無観客だから選手たちが同意すればできるはずだ。放映権を持っているNBCに気兼ねして、熱中症で倒れる選手が続出したらどう責任を取るのか。
復興五輪も消え、コロナに打ち勝つこともできず、無観客で外国からの観光客もゼロでは、「お・も・て・ナシ」である。
■“ぼったくり”で儲けたバッハ会長の「野心」
日本人の多くが、東京五輪開催がコロナ感染拡大につながらないか不安でいる中、菅首相だけは開催にこぎつけたことをよろこんでいるようだが、不吉なデータがあると毎日新聞(7月24日付)が報じている。
前回の東京五輪のときの首相は池田勇人だったが、開会式1カ月前にがんのため入院療養させられた。開会式には入院先の許可を取って出席するが、翌日辞任を表明。翌年死去。
1972年の札幌五輪のときは佐藤栄作首相だったが、3カ月後に沖縄返還を実現して6月に退陣を発表した。
1998年の長野五輪は橋本龍太郎首相。五輪は日本の景気回復に役立つと期待したが、大会の5カ月後の参院選で自民党が大敗して、引責辞任に追い込まれた。
そして極めつけは、東京五輪が開催されるはずだった昨年、安倍首相が持病の悪化を理由に辞任したのである。
菅首相の場合は橋本ケースに当てはまるかもしれない。
一将功成りて万骨枯るの図である。東京五輪を開催すれば成功不成功に関わらず、日本やNBCから“ぼったくり”できると高笑いしているのはバッハIOC会長だけであることは間違いない。
だが、功成りカネを儲けたバッハIOC会長には、もう一つの「野心」があると週刊文春(7月29日号)が報じている。
■広島で平和を祈念したという“実績”が欲しかった
週刊文春によれば、バッハの任期は2025年までだが、その彼が最後に狙っているのは「ノーベル平和賞」だというのだ。
元西ドイツのフェンシング金メダリストとはいえ、クーベルタンの五輪精神を蔑ろにし、莫大なカネのかかるバカ騒ぎの祭典にしただけの男になぜ、という疑問は当然だろう。
その切り札としてバッハがやろうとしているのが、北朝鮮へ行って金正恩朝鮮労働党総書記と会い、拉致問題を解決する“仰天”プランだというのである。
そのためには、何としてでも原爆被災地・広島を訪れ、被爆者と面会する必要があったのだろう。7月16日、地元民が反対する中、平和記念公園へ行き、被爆者の梶矢文昭と短い対面をして、すぐに帰京してしまった。
「バッハ氏にとっては、広島を訪問し、平和を祈念したという“実績”が何より大事だったのでしょう」(組織委最高幹部)
利用できるものは何でも利用するが、用済みになれば非情に切り捨てる。それがバッハ流処世術のようだ。
IOCの会長選を“鳥人”といわれたウクライナの棒高跳びの英雄、セルゲイ・ブブカと争ったとき、セネガル人のラミン・ディアク(世界陸連前会長)に協力してくれと頼み込み、票をまとめてもらって当選した。
■「北朝鮮に行きたい」と安倍前首相に要望
だが、ディアクに東京五輪招致で日本側から賄賂をもらっていた疑惑が出て、フランス当局の捜査対象になると、「バッハ氏はIOC会長として捜査当局に陳情すらしなかった」(IOC関係者)。
バッハが金正恩と会談したのは2018年3月だったという。その1カ月前の平昌冬季五輪で、韓国と北朝鮮の女子アイスホッケー合同チームができて話題になった。
バッハと会った金正恩は、「凍り付いた北南関係が五輪を契機に氷解したのは、IOCの功労だ」と述べたそうである。
その後も、森喜朗や安倍晋三に取り入り、2019年のG20大阪サミットに招かれたときには、「スピーチで北朝鮮に触れたい」といい出して森に止められた。安倍には、「北朝鮮に行きたい。拉致被害者の救出に協力したい」と申し出て、安倍から「こちらのルートでやります」と断られている。
しかし、この男のことだから、機を見て北朝鮮に入り、平壌での冬季五輪開催をエサに、金正恩と拉致問題を話し合うということをやりかねない。
IOCが資金面をバックアップして平壌冬季五輪を開催させるが、その前に拉致被害者たちを日本へ返せ。万が一、それが実現できればノーベル平和賞も夢ではないかもしれない。
■「五輪の終焉」を見据えてしゃぶり尽くすつもりか
私は、バッハの行動の背景には、遠からず来るであろう「五輪の終焉」を見据えているような気がしている。五輪カードが利用できる間に徹底的にしゃぶり尽くすということだ。
2024年のパリと、2028年のロサンゼルス、2032年のブリスベンは決まったが、開催国に名乗りを上げる国は年々少なくなっている。2004年の五輪開催には11都市が立候補したが、2024年はわずか2都市だった。
肥大化しすぎて、開催国には多額のコストがかかるのに経済効果には疑問符が付く。そのため、都市が手を上げようとしても、住民たちの反対で辞退に追い込まれるケースが相次いでいるのだ。
招致にこぎつけても、開催後には莫大な負債が残り、国民は長い年月を「借金」で苦しめられることになる。
儲かるのはIOCやアメリカの大メディアNBCだけである。オランダのように五輪招致はしないという国や都市が増えてくるはずだ。
特に今回の東京五輪は、コロナ対策に加えて無観客、観光客ゼロだから、恐ろしいほどの赤字が出ることは小学生でも分かる。
日本のケースを反面教師として、これから五輪を招致しようと考えている国々が検討すれば、到底間尺に合わないからやめようとなるはずだ。
■「なんとかわいそうなオリンピックだろう」
作家の沢木耕太郎は週刊文春(5/20日号)に寄稿した「悲しき五輪」の中でこのようにいっている。
沢木はこの時点で、予定通り東京五輪が開催されても、紀元前8世紀に始まった古代オリンピックが関係者による不正や買収が横行して消滅したように、19世紀に始まった近代オリンピックも、同じような理由で滅びの道を歩んでいるのではないかと見ている。
そして、外国からの支持もなく、国内においても7割以上が開催に反対していることに、「なんとかわいそうなオリンピックだろう」と慨嘆するのである。
バッハIOC会長はNHKのインタビューで、「(東京五輪開催は=筆者注)世界の人々の希望と結束の象徴になる」と語った。だが実際は「日本人の不安と分断を象徴する五輪」になってしまっている。
かわいそうな東京五輪というしかない。パリ、ロサンゼルス、ブリスベンが決まっているが、五輪の終焉はそう遠くないかもしれない。(文中敬称略)
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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