「私の家族も被害者に」ネット広告のプロが"サプリや化粧品をネットで買うな"と訴える理由
プレジデントオンライン / 2021年7月31日 11時15分
■コロナ禍でも膨張し続けるインターネット広告市場
インターネット広告市場が拡大を続けている。
電通の調査によれば、2020年、インターネット広告市場は2.2兆円を超え、テレビなどのマスコミ媒体の市場規模と並んだ。
2020年は感染症の影響により、マスコミ媒体等を含めた広告費全体は減少している。その中で、インターネット広告市場は成長を続けた。
筆者は、この「インターネット広告市場の成長」に懐疑的だ。なぜなら、違法な広告があまりにも多いからだ。「拡大」というより「水ぶくれ」という表現の方が実態に合うのではないか、と筆者は考えている。
今年5月、第一三共ヘルスケアグループの化粧品ブランド「ブライトエイジ」で、不適切な広告が出稿されていた、との報道があった。広告出稿側もそれを認め、謝罪している。
また、7月4日には大正製薬グループのスキンケア商品「Shirosae」でも不適切な広告があった、との報道があった。Shirosaeの販売元は取材に対し「当該広告は配信停止した」と答えている。
しかし、Shirosaeの違法広告は、まだ出ている。筆者が著名サイト「Togetter」を見ていたところ、ツイートまとめの下の広告エリアに、違法広告へのリンクがあった。
飛び先ページは下記のような表示であった。
このShirosaeの広告ページにも違法表現があった。下記に挙げる。
このキャプチャ部分の表現では、水分量の多い他社化粧品を誹謗している。これは、薬機法で禁止されている「他社誹謗」にあたる違法表現だ。
インターネット広告には怪しいものが多い。そのことには、おそらく多くの人が同意するだろう。今回のこの報道では、大手製薬企業グループまで、違法広告に手を染めていることが明らかになった。そして、事後の対策も十分ではなさそうだ。
■アフィリエイターの売り上げの9割が法人
こうした違法広告は、アフィリエイターや広告代理店が作成している。
「アフィリエイター」といえば個人のイメージが強い。しかし、こういった広告を作っているアフィリエイターは、あなたがイメージしているものとは、おそらく少し違う。
6月10日、消費者庁主催の「アフィリエイト広告等に関する検討会」が開かれた。この会合は継続的に開催され、令和3年中をめどに結論を出す予定になっている。
この検討会ページには、会合で使われた資料がアップされている。その中の「資料4 アフィリエイト広告をめぐる現状と論点」に、下記の記述がある。
「アフィリエイターの数は個人が圧倒的に多いが、売上高でみると、逆に法人が8~9割を占める」とある。現在のアフィリエイト業界では、個人は力を持っていない。一般の人が目にするアフィリエイト広告の多くは、法人が作ったものだ。
法人格を持つ会社が、たくさんの資金を使ってアフィリエイトサイトを作成・運営し、大きな金額を稼いでいる。
■残されたドル箱「アドアフィリエイト」
5年ほど前まで、多くのアフィリエイターは、Googleの検索結果上位を狙うことを基本戦略としていた。自然検索結果からたくさんのユーザーに流入してもらい、商品を紹介し、報酬を得る、というものだ。
しかし、近年はアフィリエイトサイトの検索順位は下落する傾向にあった。そのため、この手法は通用しづらくなっていた。アフィリエイト業界から去った個人アフィリエイターは多い。
この状況を経て、注目が集まってきた手法がある。「アドアフィリエイト」だ。前述のTogetterの広告枠を使った手法もこれにあたる。
アドアフィリエイトでは、アフィリエイターがニュースサイトなどの広告枠を買って自サイトにアクセスを集め、アフィリエイト報酬を得る。この手法は、先ほど挙げた消費者庁の資料にも載っている。
アドアフィリエイトの利点は、結果がすぐ出ることと、規模の拡大がしやすいことだ。ただ、金銭的リスクが大きいという欠点もある。
アドアフィリエイトでは、まずアフィリエイターが広告枠仲介会社などの広告枠を買う。そして、その広告枠に、自社のアフィリエイトサイトへのリンクを表示する。
アドアフィリエイトでは広告枠を買うので、お金はかかるが、閲覧者を集めるのは簡単だ。そして、アフィリエイトサイトで紹介している商品が売れれば、報酬が支払われる。
利益が出ることが確認できたら、アフィリエイターは広告枠を買う予算を増やし、規模の拡大を行う。商品がたくさん売れれば、多くの報酬が支払われる。これがアドアフィリエイトの利点だ。
一方で、アドアフィリエイトの欠点は、赤字が出る可能性があることだ。
アドアフィリエイトの場合、最初に広告枠を買う必要がある。そして、商品が売れなければ、広告枠を買ったお金を回収できない。その場合は、赤字になってしまう。
■アドアフィリエイトは違法広告を増やす
アドアフィリエイトの手法を使ったアフィリエイトサイトは、違法広告だらけだ。
アドアフィリエイトという手法自体は、悪いものではない。実際に今も、モラルを持ってアドアフィリエイトに取り組んでいる事業者は存在する。しかし全体としては、法律を守る気のない事業者が多いという現状がある。
アドアフィリエイトは、金銭的リスクが大きい。広告枠を買ったお金をアフィリエイト報酬で取り戻さなければ、赤字になる。そのため、広告内で過激な訴求をしがちになってしまう。
組織としての方針変更に心理的負担があることも、現在の状況を引き起こしている。アフィリエイターの主役は法人だ。法人は個人と違い、ウェブサイトの運営方針を変更することが難しい。
個人アフィリエイターなら、アドアフィリエイトで失敗した場合、自身の意思のみで事業から撤退する判断ができる。
しかし、法人の場合はサイト制作者・運営者が複数人であるため、方針変更には心理的負担と時間がかかる。そのために撤退の判断ができず、違法な表現をしてでも利益を追う傾向がある。
広告枠の値段がオークション形式で決まることも、過激な広告表現の原因になっている。
アフィリエイター側が表示回数を増やし利益を追うには、広告枠を買うための入札単価を上げる必要がある。そして、入札単価を上げるには、それに見合うだけの利益が出ていなければならない。
過激で強い訴求の広告は、違法表現になりがちだが、利益は出やすい。その結果、違法広告を作っている事業者が広告枠を勝ち取り、経済的に成長していく。
■違法な事業者が儲け、適法な事業者が駆逐されていく
今回の薬機法違反広告を例にとって、どのように違法広告が作成され、流通していくのかを簡単に説明しよう。図表2を載せた。
まず、化粧品等の商品のメーカーが、アフィリエイターや広告代理店に広告を依頼する。次に、アフィリエイターや広告代理店は、広告仲介会社の広告枠を買う。広告仲介会社は、あらかじめ契約していたウェブサイト運営会社から広告枠を仕入れる。
この流れで、アフィリエイターや広告代理店に広告枠が提供される。アフィリエイターや広告代理店が違法広告を作る事業者であれば、ウェブサイトの広告枠の中に違法広告が表示される。
筆者として特に強く問題視しているのは、「適法な事業者が駆逐され、事業ができなくなる」ことだ。
適法で穏当な広告表現をしている事業者は、利幅が小さくなるので、広告枠を買うオークションで負けることが多い。そのため、法律を守っている事業者は、実質的には広告を出せなくなる。広告が出せなければ、事業を継続することは難しい。
違法な事業者が儲かることは、一歩譲れば、許容できるかもしれない。しかし現状では、法律を守る事業者が撤退せざるを得なくなっている。この状況を、筆者は断じて許せない。
■「騙してナンボ」になったインターネット広告業界
本稿では、インターネット広告が汚れてしまっている様子を記述してきた。インターネット広告業界の少なくない企業たちは、違法な手段で利益を得ている。
その違法な広告で被害を受けているのは一般消費者だ。一般消費者は、薬機法違反の広告、景品表示法違反の広告、外見蔑視広告などを見せられ、惑わされて、商品などを購入してしまう。
現在のインターネット広告業界は、そういった消費者からお金を巻き上げることによって成り立っている部分が大きくなっている。
「いまどき、インターネット広告を信じる奴はバカだ」と言う人もいるかもしれない。確かに、そういう面もあるだろう。しかし、バカだったとしても、騙していいということにはならない。
私の家族も、違法な広告のカモになったことがある。
■違法広告の訴求効果は極めて高い
「雑穀麹の生酵素」という商品がある。筆者の家族はこの商品を買った。
「雑穀麹の生酵素」の販売元「株式会社モイスト」は、平成31年3月29日に、消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けた。返金と訂正広告を行っている。
命令文書は消費者庁のサイトにPDFファイルで公開されている。
「雑穀麹の生酵素」は、「飲むだけで痩せられるダイエットサプリ」と広告されて販売されていた。これを買った私の家族は太り気味だ。コンプレックスを刺激されて買ったのだろう。
私の家族は、私が違法広告調査の仕事をしていることを知っている。それでも、こういうものを買ってしまう。違法広告の訴求効果がいかに高いかを思い知らされた。
私からこの家族へ、この事実を伝える際には、心が痛んだ。「そのサプリは消費者庁が問題にしてるやつだから、飲まないほうがいい」とひとこと伝えるにとどめた。
私の体験は単なるサンプルのひとつにすぎない。しかし、違法な広告を通して商品を買っている消費者がたくさんいることは、間違いのない事実だ。現在のインターネット広告業界は、こうした消費者被害を土台にして成り立っている部分が大きくなっている。
■美容健康商品はインターネットで買うべきではない
このように、現在のインターネット広告は信用に値しないものになっており、その規模も拡大している。もちろん、適法なインターネット広告もたくさんある。しかし、その判別は一般消費者には不可能だ。
著者としては、美容や健康に関する商品はインターネットでは買わず、近所のドラッグストアで買うことを勧める。
インターネット通販を主な販売手段としている事業者は、違法な商売をしても簡単に逃げることができる。行政から厳しい指摘を受けても、販売をやめて、会社を潰してしまえばそれで全てが終わる。
新たな会社を作るにしても、必要な費用は30万円程度と小さい。だから、気軽に違法な広告を打てる。
一方、街に店舗を構えるドラッグストアはそのように逃げることはできない。
閉店するには、数千万円の店内在庫を処分しなければならない。店舗を建物のオーナーに返すには、内装の原状回復工事が必要で、数百万円程度はかかる。敷金も百万円単位で吹き飛ぶ。更に、悪評の影響は単一店舗にとどまらず、同じブランドのドラッグストア全店舗に及ぶ。
そのような構造があるので、実店舗を持つドラッグストアは、経済合理性の観点で法律を守る。仮に経営者や店長が悪人であっても、法律を守ることが最適解になる。だから、実店舗を構える事業者は、インターネット通販を主な販売手段とする事業者よりも信頼できる。
インターネット広告は巨大な闇市となった。わざわざ危険な場所でモノを買う必要はない。美容や健康に関する商品は、近所のドラッグストアで買うべきだ。
■儲けられるとしても違法広告は掲載すべきではない
ウェブサイト側として違法広告を消す手段も存在している。「広告枠の単価に一定の上限を定める」というものだ。
最近、違法広告を排除したウェブサイトの事例がある。気象庁のサイトだ。気象庁は2020年9月15日にサイト内でのウェブ広告の運用を開始したが、不適切な広告が数多く表示され、運用を即日停止していた。
その後、2021年7月19日から広告の掲載を再開し、違法広告を排除した結果、広告収入の予測値が年間2.4億円から年間800万円まで減ったという。これは貴重な事例だ。ウェブサイト側が違法広告へ強い対策を打った場合の、収入変動のサンプルのひとつだからだ。
ウェブサイトから見れば、広告枠を高く売りたいのは当然のことだ。しかし、広告枠を極端に高い金額で買う事業者は、違法広告を打っている可能性が高い。だから、高い値段がついていることに惑わされてはならない。
広告枠を売る単価に一定の上限を定めれば、相対的に違法業者の比率は薄まる。
広告枠の単価に上限を定めることは、ウェブサイトにとって広告収入の減少を伴う苦しい決断になるだろう。とはいえ、いますぐ広告収入の違法性を小さくするためには、簡単で即効性のある手段とは言える。
なにより、何も対策をしなければ、インターネット広告への信頼は、これからもさらに地に落ちていくだろう。
インターネット広告業界は、岐路に立っている。痛みを受け入れて違法広告を排除し、健全な広告を掲載するウェブサイトが増えることに期待したい。
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デトリタス社長
1977年生まれ。埼玉県出身。東北大学大学院理学研究科物理学専攻卒。日鉄ソリューションズ、NEXCOシステムズなどを経てデトリタスを設立。インターネット広告業界の不正対策事業を行っている。薬事法管理者・コスメ薬事法管理者、ソフトウェア開発技術者。NHKクローズアップ現代プラス「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」など、テレビや新聞の取材に応じて違法広告のデータ提供を行っている。
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(デトリタス社長 土橋 一夫)
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