「本の読み聞かせ方が全然違う」わが子を東大に逆転合格させる親のマネできそうでできない技
プレジデントオンライン / 2021年8月3日 11時15分
■無名高校から東大合格する子の親がしていた「本の読み聞かせ」法
みなさんは、東京大学の学生には大きく2つのタイプがいることをご存じでしょうか。
ひとつは、開成や灘、桜蔭といった偏差値の高い中高一貫校出身のエリート。頭のいい小学生として難関の中学受験を見事突破し、その後も成長を続けた人たちです。
もうひとつは、偏差値が高くない全国的には無名な学校出身の非エリート。もともと学力は高くありませんが、工夫・努力によって「逆転合格」した人たちです。
僕は後者に属します。自慢できる話ではありませんが、小さい時から筋金入りの勉強嫌い。中高時代は、高3になるまで部活(吹奏楽など)やゲームに明け暮れ、ろくに受験対策の勉強をしていませんでした。
ちなみに高3時の模試の偏差値は55程度。東大受験生の中では、下から数えたほうがずっと早く、模試の判定は最低のEランクでした。
そんな僕のような非エリートかつ勉強意欲に乏しい高校生が奇跡的に東大の壁を突破する。そこにはさまざまな理由が考えられます。面倒見のいい教師との出会いや、親の献身、ライバルとなる受験仲間の存在など……。
多くのケースでは、そんな人々との出会いにより、モチベーションが急上昇しています。しかし、これだけではありません。僕は、これに加えて「幼い頃の親の育て方がひと味違うのではないか」と強く思うのです。
■部活に明け暮れ、模試は最低E判定でも「国語」だけは強かったワケ
ここに『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』(以下『一発逆転本』、プレジデント社)という本があります。
10人の非エリート系東大生とその親に「なぜ東大に逆転合格できたのか」を丹念に取材したインタビュー集です。実は、僕自身も取材されたのですが、出来上がった本を読むと、あることに気づきました。
それは、わが家を含め東大に逆転合格した10組の親子のすべてが、「読み聞かせ」を重視した子育てをしていたということです。試しに周りの東大生に聞いてみると、やはり「読み聞かせしてもらうのが大好きだった」という学生ばかりでした。それはエリート系、非エリート系の区別に関係なく、小さい時はみな読み聞かせをされていたのです。
もちろん、読み聞かせは、子供を持つ親であれば、ほとんどの方がするでしょう。でも、前出の『一発逆転本』を読むと「ひょっとして、東大へ一発逆転した家庭は、読み聞かせの質や量が、その他の家庭と違ったのではないか」という仮説が浮かび上がってきたのです。
■親の読み聞かせが「国語得意」で「読解力ある」子に育てた
僕らのような非エリート系が、急激に成績を上げて、逆転合格できたことの要素のひとつに「国語力の高さ」があげられます。
僕ら「逆転合格組」の東大生たちは、文系・理系に関係なくほとんどが「国語が得意」と答えます。文字や文章に対する恐怖感、嫌悪感がないのです。
大学センター試験(現在の大学共通テスト)では5教科7科目で高い回答率を求められ、東大での個別試験ではより難解な問題に挑みます。そうした東大受験において、「読んだ内容を理解する力(=読解力)」や「粘り強く読む力」は合格するための必須条件です。膨大な量のテキストを読み、暗記し、知識として運用しなければいけません。ですから、「読むのが苦手」というだけで、このレースからふるい落とされてしまうのです。
逆に言えば、「読解力がある」ということは、東大に限らず、受験において非常に有利になります。この能力が勉強に一役買っているであろうことはほぼ間違いありません。読解力こそが、「東大逆転合格」のカギになったのです。
そして、この「読解力」という曖昧な能力は、幼い頃の読み聞かせによって身についているのではないか。僕はこのように考えています。
つまり、僕らの親が、僕らが読書好きになるような育て方をしたからこそ、国語の運用能力が身についたのではないか。その結果として、僕らは圧倒的不利な条件・状況下からでも、東大に「逆転合格」して受かった。
■わが子を東大に入れる読み聞かせの極意 1「親自身が楽しむこと」
そうした仮説・視点で、『一発逆転本』を読み直し、近しい東大生への聞き取りをしました。その結果、子供の国語力を飛躍させる「読み聞かせの2つの極意」を発見したのです。
まず、ひとつつ目。それは「親自身が楽しみながら読み聞かせしている」ということでした。本に登場する10人の東大生の親、そして僕の友人の東大生の親、そのすべてが「本を読むのが大好きな親」もしくは「読み聞かせ自体がとても好きな親」だったのです。一般的には「子供の教育のため」という意識を持って読み聞かせをする親が多い中、東大生の親は、子供はどうあれ、自分が好きだから読み聞かせをしていたのです。
例えば、『一発逆転本』に登場する現在法学部3年のTさん(男性)。
彼の母親は、取材に対して「私が本好きだったので、絵本の読み聞かせは自分としても至福の時間だった」と語っています。読んでいる最中、ストーリーに感情移入しすぎて、わが子を差し置いて泣いてしまうことも珍しくなかったといいます。
僕の母も読み聞かせが大好きでした。母は学生時代に演劇部に属していたこともあり、絵本の読み聞かせをするときにも臨場感たっぷりに演技を交えながら読んでくれました。しかも、その冊数がとにかく半端ない。なんと、図書館で数十冊の本を借りて来ては、1日で全部を読んでくれたというのです。
■わが子を東大に入れる読み聞かせの極意 2「子供を存分に楽しませる」
もうひとつの極意は、これまでにもすでに触れていることですが、「子ども自身も読み聞かせをとても楽しんでいた」ということでした。
先ほどのTさんや、僕自身も母の「読み聞かせ時間」を毎晩とても楽しみにしていて、自分から読み聞かせをねだっていたようですし、何度も何度も気に入った本をせがむということもあったようです。いずれの母親も、仕事や家事で疲れていたにもかかわらず、「今日はこれでおしまい」などと打ち切らずに、子供が満足いくまで付き合ってくれました。
『一発逆転本』に登場する教養学部2年のMさんの家庭では、母親の本好き・活字好きが伝播して、Mさん本人も母親に負けず劣らずの本好き・活字好きになったといいます。特に彼女の活字好きの度合いは群を抜いていて、「表(おもて)から文字が読めないから嫌だ」という理由で、紙芝居を全く読まなかったというほどです。
また、同書で紹介されている教育学部3年のTさんのエピソードも印象的です。彼女は幼稚園の頃から『かいけつゾロリ』(ポプラ社)シリーズの絵本がとても好きでした。そんな彼女のことを思ってか、両親は知恵を絞ってオリジナルの「ゾロリ」の謎解きを作ったそうです。著者がつくった物語を親子でふくらませ独自の世界を作り上げたのです。
このようにして、子供が「逆転合格」する家庭の親たちは「自らも楽しみつつ」「子供たちも存分に楽しませながら」、中身の濃い読み聞かせ時間を共有していました。
■読み聞かせで子供は日本語の「文章の型」を脳にインプット
しかし、なぜこのような読み聞かせが国語力の向上に役立ったのでしょうか。
読み聞かせは、一見単純でありながら、言葉の学習においてなくてはならない役割を担っています。実は、未就学児や小学校低学年のような子供にとって、「読み聞かせ」こそが最高の学習方法なのです。
外国語学習をするにあたって一番効果的な勉強法は「とにかく多くの例文を頭にインプットすること」だと言われています。
ひと通りの単語や文法を学習したら、後は実践練習として、「覚えた単語や文法が、実際にどのようにして使われているのか」を確かめるのが、最高に効くのです。
受験英作文の指導では、初めは例文暗記から入ります。それは全く使い方を知らない外国のコトバの「型」を覚えるためです。例文を暗記することによって、「文章の型」を覚えることができます。この「文章の型」を崩さないように、単語を入れ替えたり、時制を変えたりすることによって、さまざまな表現を学ぶというのが、英作文の勉強の王道なのです。
■「リンゴは赤い」基本の構文には無限の可能性が秘められている
ある人が「リンゴは赤い」という文を覚えたとしましょう。中1英語レベルのシンプルな文ですが、この構文は無限の可能性を秘めています。
例えば「リンゴ」を「カラス」に、「赤い」を「黒い」に変えることによって、「カラスは黒い」という文章を作ることができます。
他にも「リンゴ」を「夏」に、「赤い」を「暑い」に変えれば、「夏は暑い」にできますし、もっとうまく、複雑に変形させれば「昔はよかった」のような、一見すると全く異なった文章を生み出すこともできます。
日本語で行う「読み聞かせ」も、この「例文学習」を時間として最適だったのです。
生まれたばかりの赤ん坊には、母国語である日本語でさえも「未知のコトバ」です。でも、われわれの外国語学習と、彼らの第一言語習得とには、全く異なった点があります。
それは、赤ちゃんにはベースとなる母国語の知識すらないということです。
当然ですが、生まれたばかりの赤ちゃんは文字が読めません。ですから、日本語を学習する手段は「音声としての日本語」と「目の前で行われている光景」とをリンクさせながら、音と意味を結び付けていくという作業に絞られます。
そういった環境下で、絵本は最高の教材となりえます。平易な言葉に、わかりやすい絵で状況が説明されているためです。もしくは、親の演技で意味を理解できることもできる。ある言葉が何を指しているのかわからなくても、読み手の親に質問すればいい。
こういった「例文のパターン学習」は、つまるところ「楽しみながら国語を無意識に学んでいた」ということになります。これこそが、東大生たちの「本好き」や「読解力がある」という能力につながっているのではないでしょうか。
■「親が楽しんでやるか嫌々やるか」わが子に東大逆転合格させる極意
東大生たちが講義で使う書籍は難解なものが少なくありません。また、彼らはプライベートでも何冊もの分厚い本を同時進行で読んでいる。それは、本を読むのが好きだという思いが根底にあるからできることに違いありません。
多くの東大生が学業やバイトなどに忙しい中でも、誰にも強制されずに、あくまで自主的に「本を読む」という習慣やモチベーションの根源は、きっとこうした幼い頃の読み聞かせにあったのではないでしょうか。
東大の友人たちに「どうして本好きになったんだと思う?」と尋ねると、ほぼ全員が「親が本好きで楽しそうに読んでいたのに、つられて自分も好きになった」という返事が返ってきました。
たかが読み聞かせ、されど読み聞かせ。親が楽しんでやるか、嫌々やるか。読み聞かせに対するモチベーションを子供たちは敏感に感じ取ります。
感情移入して登場人物のセリフを読んで、作品の世界観を立体的に楽しむ。そうやって「読み聞かせ」を楽しめるよう工夫をしてみる。こうした試みが、20年後になって「わが子の東大逆転合格」という形で返ってくるのかもしれません。
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現役東大生
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、一浪の末、東大合格を果たす。現在は、全国の子供たちに勉強を教えるYouTubeチャンネル「スマホ学園」にて授業を行うなど、精力的に活動している。著書に『東大式節約勉強法 世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』『東大式時間術』(ともに扶桑社)。
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(現役東大生 布施川 天馬)
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