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「なぜ女性は男性よりクルマの駐車が苦手なのか」運転技術ではない脳科学的な説明

プレジデントオンライン / 2021年8月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

女性は男性よりクルマの駐車が苦手という実験結果がある。なぜそうなるのか。『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)を出した脳科学者の西剛志氏は「男性と女性では『脳の使い方』が違う。男女のいさかいの原因は、脳のバイアスにあるかもしれない」という――。

■同じものを見ても、汚いと感じる人と感じない人がいる

「汚い部屋」というとどんなイメージを持ちますか?

足の踏み場もないほどものが散らかっている部屋でしょうか? それとも、食べた後のものがテーブルに置かれている部屋でしょうか? 換気をほとんどしていない空気がよどんでいる部屋でしょうか?

あなたがイメージした部屋は、きっと汚い部屋だと思います。ただし、そこには「あなたにとっては」という条件が付きます。

あなたがイメージした部屋を見て、「汚い部屋」と思わない人がいます。それも、自分が予想している以上の人が汚いと思わない場合があります。

世の中には、ものが散らかっていても、まったく気にならない人がいます。同じように、食べた後のものがテーブルに置いてあっても、空気がよどんでいても、平気で過ごせる人もいます。

あなたがイメージした部屋を見ても、「どこが汚いの?」と首をかしげる人は、いくらでもいます。

その理由は、脳の性格の違いにあります。いわば、脳のバイアスのかかり方の違いです。

■夫婦ケンカの原因になり得る「脳の性格」

以前、こんなことがありました。ある夫婦から「ケンカが絶えない」と相談を受けたことがあります。話を聞くと、ケンカの原因は、部屋が散らかっているのに何もしない夫でした。

妻の言い分は、「散らかっているのに、どうしてきれいにしないの?」。夫の言い分は、「汚くないから今やらなくてもいいよね」。そんなやりとりから、毎度もめごとに発展するとのことでした。

妻のほうが正しい気もしますが、夫は汚くないと思っているのですから、片づけに積極的にならないのもわかります。

夫婦が見ている部屋は、もちろん同じです。それなのに、妻は「汚い」、夫は「汚くない」。この違いはどうして生まれてしまうのでしょうか?

2人の感じ方が異なるのは、2人の脳タイプが違うからです。私たちは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、いわゆる五感で情報を処理しています。

どれも同じように使っていると思っていますが、手を使って何かをするときに無意識に利き手を使うことが多いように、五感にも優先的に使う感覚器とそうでない感覚器があります。

男女の頭の中で歯車が回っているグラフィック
写真=iStock.com/Youst
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Youst

■視覚タイプ、聴覚タイプ、体感覚タイプ……

1996年に、ニューヨーク大学の教育学者であるリースマン博士によって、人それぞれ学習するときに異なる感覚器を使っていることが報告されましたが、その特性から分類されるのが脳タイプです。

私も2000名以上の人を見てきましたが、脳タイプは3つに分かれます。

タイプ1 視覚を優先する視覚タイプ
タイプ2 聴覚を優先する聴覚タイプ
タイプ3 触覚、味覚、嗅覚などを含めた体の感覚を優先する体感覚タイプ

私個人なデータですが、日本の脳タイプを調べると、視覚タイプ44%、聴覚タイプ18%、体感覚タイプ38%という結果も出ています。先ほどの夫婦は、妻が視覚タイプで夫は体感覚タイプでした。

ものが散らかっている状態を見ると「汚い」と感じる妻がイライラするのはわかりますが、視覚情報よりも体感覚が優位に働く夫は、見ただけでは「汚い」と感じられません。夫が悪いわけでもないのです。

そこで私がしたことは、夫にものが散らかっている状態を体で感じてもらうことでした。夫に、「散らかっているものをすべて布団の中に詰め込んで、くるまってみてください。どんな気分ですか?」と聞くと、「こんな状態を妻は体験していたんですか。これは嫌ですね。申し訳なく思ってきました」。

その結果、妻が感じる「汚い」を、夫もようやく理解することができ、以降はもめることが極端に少なくなったといいます。

脳タイプが異なると、夫婦間でも、わかりあえないことはよくあることなのです。

■「同じものも違って見える」右利きと左利きの決定的な違い

右と左の絵、どちらが笑っているように見えますか?

【図表1】どちらが笑っているように見えますか?
イラスト=福田玲子
【図表1】どちらが笑っているように見えますか?(出所=『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』) - イラスト=福田玲子

右利きの人は右、左利きの人は左のほうが笑っているように見えます。

実はこの絵は、左右反転しただけで、右も左も同じ絵です。それでも、どちらかが笑っているように見える。不思議ですよね。そのうえ、多くの方が右の絵のほうが笑っているように見えると答えます。

これは、人間は右視野よりも左視野を重視しがちな認知傾向があるからです。

この認知傾向は「シュードネグレクト効果」というバイアスであり、右利きの人は、特にその傾向が強く表れるといいます。つまり、右の絵が笑っているように見えると答える人が多くなるのは、人間の約9割は右利きだからと考えられます。

ただし、統計学上のことなので、もちろん例外もあります。右利きの人が左の絵が、左利きの人が右の絵が笑っているように見える場合もあります。

■見ている世界、印象はがらりと変わる

魚の絵を描くときは左を頭にするのが一般的ですが、魚屋さんに並べられている魚も、お皿に盛られた焼き魚も左が頭になっています。

これは、左視野にある情報を重視する、人間の認知機能が生み出した慣習の1つといえます。ひと目で「これは魚だ」とわかるようにと、人々の間でつくられていったのでしょう。

左側重視を恋愛術に活かそうと、左側への視線を意識したヘアスタイル、メイク、ファッションなどのアドバイスをする人たちまでいます。意中の相手がいるときは、左側に座るようにと指南する人までいます。

左利きの場合は、右側重視になる人も多いようです。ちなみに、もともと左利きの私は、左のほうが笑っているように見えます。あなたが左利きなら、同じように左の絵が笑っているように見えたかもしれませんね。

このように右利き、左利きという違いでも、見え方が変わってきます。

2人で同じものを見ても、左側にある情報を重視するか、右側にある情報を重視するかが異なり、見ている世界、見たものの印象ががらりと変わります。夫婦でも同じ人を見ているのに全然違う印象を持っていたり、テーブルの上のものの配置の好みが違うことがありますが、優先する視野の違いが原因かもしれません。

■彼女が駐車が苦手なのは、脳のせいだった

さて、問題です。

車は、何番の駐車場に止まっているでしょうか?

【図表2】車が止まっているのは何番でしょうか?
イラスト=福田玲子
【図表2】車が止まっているのは何番でしょうか?(出所=『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』) - イラスト=福田玲子

この問題を多くの人に試してみると、簡単にできる人と、なかなかできない人がいて驚かれるかもしれません。

答えは、87番です。

西剛志『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)
西剛志『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)

これは、駐車場の数字を180度回転しないと答えられない問題です。

見える角度を想像で変える。ここにも脳のバイアスが作用してきます。

男性と女性の脳の使い方で、大きな差が認められているのが「メンタルローテーション」、つまり空間認識能力です。メンタルローテーションは、二次元または三次元のものを、頭の中で回転する能力で、男性のほうが比較的得意だといわれています。ここにも脳のバイアスがあるのです。

なぜ男女でこのような脳のバイアスの違いが生まれたのかというと、これもはるか昔の男女の役割に基づくようです。

太古の昔、男性の仕事は狩猟。獲物を探し、捕獲したら外敵に横取りされないように安全かつ確実に持ち帰らなければなりません。そのためには、最短ルートを脳内に描ける能力が必要だったのです。

メンタルローテーションの男性優位を立証するものとして、よく例えられるのが車の運転です。例えば、車線変更が苦手という女性は少なくありません。

駐車場「タイムズ」を運営するパーク24が車の運転技術に関するアンケートで、「苦手な運転技能は何ですか?」と質問したところ、「車線変更」と答えた女性は男性の3倍、「合流」と答えた女性は男性の3.2倍もいたそうです。

■性差による「脳のバイアス」も

ドイツのルール大学ボーフムのクラウディア・ウルフ博士が行った実験でも、運転技術に関する男女差が明確になりました。

アウディA6(セダン)という車を使って、3つの方法(頭から/バック/縦列駐車)で駐車し、正確性と時間を計ったところ、女性は男性よりも平均して20秒多く時間がかかったそうです。そして、時間をかけても、男性のほうが正確性が高かったといいます。

駐車スペースに整列する車のグラフィック
写真=iStock.com/arthobbit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/arthobbit

このことが示すのは、運転の上手下手というわけではなく、男性と女性とでは、頭の中で視点を反転させる処理にバイアスがかかるため、見えるものが変わってくる可能性です。

昔、クライアントの営業職の方から「お客様にデスクの反対側から資料をお見せするときに、説明がいつもスムーズにできないんです。逆から資料を見ると、何と書いてあるかわかりづらくて……」という相談を受けたことがあります。

メンタルローテーション力が高いと、資料を逆さにしても簡単に読めますが、低いとなかなか読めません。そこで、私がアドバイスしたことは、「相手の隣りや斜めに座れるような円形のテーブルがあるカフェやラウンジを探してみてください」ということでした。

それ以来、資料を同じ側から説明できると交渉がうまくいくようになったようで、「業績まで上がりました」といううれしい連絡がありました。自分の脳のバイアスを知ると、対処方法もあるということです。

■脳を知れば人間関係のトラブルは避けられる

いずれの差も、あくまでも統計的にみられる有意な差であり、この限りではないことを念頭に置いていただければと思いますが、あなたがわかる、覚えている、見えているからといって、そのことを同じように、相手がわかる、覚えている、見えているとは限りません。

それぞれに脳のバイアスがかかるので仕方のないことだということは、認識していただければと思います。

『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』には、ほかにも、知っておきたい「脳のバイアス」が紹介されています。知っておけば、夫婦関係や親子関係、職場の人間関係をスムーズにするのに役立つことでしょう。また、伝えたいことをスムーズに相手に伝えるために、コミュニケーション力を根本から高めるためにも有効です。

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西 剛志(にし・たけゆき)
脳科学者
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、知的財産研究所に入所。2003年に特許庁に入庁。大学院非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内物質など最先端の仕事を手掛ける。2008年に世界的にうまくいく人達の脳科学的なノウハウを企業や個人向けに提供する会社を設立。現在は脳科学を生かした子育ての研究も行い、幼稚園・保育所の先生/保育士/保護者向けの講演会、分析サービスなどで10000名以上をサポート。横浜を拠点として、全国に活動を広げている。

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(脳科学者 西 剛志)

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