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"ラ王世代"にはない価値観「これ絶対うまいやつ!」というラーメンが若者に大人気なワケ

プレジデントオンライン / 2021年8月5日 8時15分

2020年に発売された「これ絶対うまいやつ!」という袋麺が30代の若者世帯で人気だ。日清の担当者が開発中に気づいた、この世代の特徴とは――。

■商品タイトルに若者言葉を起用

コロナ禍で迎えた2年目の夏。ワクチン接種が進む一方で、感染拡大の影響もあり、旅行や「外食」を控える人も多いでしょう。

よく言われる通り、2020年は「おうちご飯」など、巣ごもり消費が顕著でした。なかでも好調だったのが“麺類”。同年の総務省「家計調査」(二人以上世帯)によると、麺類の消費支出額(1世帯当たり)はすべての月で前年を上回り、とくにGWや夏休みの期間中、前年(19年)を大きく上回りました。

そんななか、順調に売り上げを伸ばした商品の一つが、20年9月に発売された「日清 これ絶対うまいやつ!」(以下「これ絶対うまいやつ!」/日清食品)。

いわゆる若者言葉を商品のブランド名に起用し、翌年3月まで(2020年度)の売り上げが、当初の計画の275%を記録する大ヒット商品に成長しました。

ブランド名から分かる通り、メインターゲットは若年ファミリー(おもに30代)。その理由について、「弊社の袋麺ユーザーの中心層は、40、50代。30代ファミリー層から強く支持される新商品を作りたかった」と話すのは、日清食品マーケティング部の資逸晴亮(すけいつせいすけ)さん。

■30代男性に見られる独特の“欲求”

商品コンセプトは、同ターゲット層が好む「国道沿いのラーメン店で出されるような、濃くてうまいラーメン」。

パッケージにも、3種の味(後述)を電飾看板に掲げた国道沿いのラーメン店の外観を描き「濃くてうまい味を、家庭でも楽しめる」とのイメージを表現しました。

一方、開発段階で現・30代男性には、他の年代にあまり見られない、独特の“欲求”があることが分かったそう。一体、どんな欲求なのでしょう?

■ターゲットは自由な時間もお金も少ない男性たち

それを知るために、同年代・既婚男性の“懐事情”から見てみましょう。

男性は、いまだに結婚すると「お小遣い制」となる人たちが少なからず存在します。ある調査によると、20~60歳夫の5割弱(45.2%)がお小遣い制(21年 UOCC調べ)。

その金額はというと、別の調査で、ライフステージ別に最も小遣い額が多いのは「未婚男性」(約4万6000円/月)で、逆に最も少ないのが「既婚・子アリ男性」。とくに少ないのは「未就学児のみいる世帯」、その多くはおそらく若いパパ(約2万8000円/月)で、未婚との差は2万円弱/月にものぼります(21年 新生銀行調べ)。

また現・30代男性は、完全なるイクメン世代で、一般には結婚して子どもができると“時間”にも余裕がなくなる。つまり、「これ絶対うまいやつ!」のメインターゲットである夫たちは、自由になるお金も時間も少ないのではないかと想像がつくのです。

■開発段階で見えた男性の意外な心理

彼らの多くは、休日やアフター5に「あの名店に、うまいラーメンを食べに行こう!」と思っても(コロナ禍でなくても)、現実には気軽に出向きにくい。

そんなジレンマを抱えるなか、「ならば家庭で、国道沿いのラーメン店の味を味わいたい」と思った男性たちは、同時に何を発想するのか?

開発段階で、資逸さんたちが彼らの微妙な心理を探った結果、意外なことが見えてきたといいます。

それは、「自分が好きなラーメンを、妻や家族にも食べさせてあげたい」との思いです。

昭和~平成半ばに30代だった男性たち(おもに現・40代後半以上)の多くは、ラーメン店に「隠れ家(知られざる名店)」や「ガッツリ飯」「男のロマン」といったイメージを強く抱いていて、筆者が取材しても、「結婚後に妻を連れていきたい」や「子どもに食べさせたい」との声はほとんど聞こえてこなかった。

ところがイマドキの30代男性は、一般に女性と同じく「共感力」が強い世代。自分が食べて美味しければ、たとえラーメンでも牛丼でも、「妻や子にも食べさせたい」となる。

20年9月の発売直後にオンエアされた「これ絶対うまいやつ!」のCMでも、そんな男性たちの欲求が再現されています。

テレビCM「日清 これ絶対うまいやつ 麺恋歌篇」(2020年)(写真提供=日清食品)
テレビCM「日清 これ絶対うまいやつ 麺恋歌篇」(2020年)(写真提供=日清食品)

冒頭で「麺恋歌」と題した曲(湘南乃風「純恋歌」の替え歌)に合わせて「♪うちのラーメン ご家庭の味~ ほんとは濃いのが食べてぇよ~」と男同士、力強く踊る男性たちが映し出されたあと、そのうちの一人が家庭で、妻と思しき女性にラーメン(「これ絶対うまいやつ!」)を作って一緒に食べる……、といったシーンが映ります。

同じ男性でも、冒頭の「男同士、外で踊る」やんちゃな顔と、「妻と共に、家ナカで食べる」優しい顔とは、大きくイメージが違う。

ここに、現・30代の夫(父親)の微妙な心理、すなわち「なかなか(独身時代のように)外食できない」、あるいは「仕事中に立ち寄った(国道沿いの)ラーメンの名店の味を、せめて家で家族にも食べさせてあげたい」といった切なる思いが、上手に表現されていると言えるのではないでしょうか。

■1日10杯のラーメンを食べ歩き

肝心の「味」については、19年7月以降の開発段階で「2、3カ月間、国道沿いのラーメン店を食べ歩いた」と、同マーケティング部の中村圭佑さん。開発担当者が二人組で出向き、多い日は1日10杯のラーメンを食べたため、「一時期は10キロぐらい太った」そう。

その甲斐あって、目指すべき味は、都心の名店(おもに駅前)に多い“繊細”な味とは違い、“くっきり、ハッキリ”した濃いめの味だと分かったとのこと。

そこで、麺にはフライ麺に比べてカロリー低めながら、ストレートでもコシがしっかりした「ノンフライ麺」を採用。スープは“くっきり、ハッキリ”を連想させる、パンチの効いた「背脂醤油」「濃厚味噌」「豚骨醤油」という3種の味を用意したこともあり、「『ほかの味はどんなだろう』と、2、3種の味を並買する方も多いんです」と中村さん。

代表的な喫食シーンは、小学校低学年ぐらいまでの子をもつ家族が、土曜や休日のお昼に「ラーメンでも食べようか」と手軽に作るような風景だといいます。

そもそも袋麺は、トッピングや調味料のひと工夫によって味に変化をつけやすいことから、子どもから大人まで幅広い世代が食べやすい食カテゴリー。資逸さんも子どものころ「学校帰りの土曜のお昼に、袋麺をよく食べた」とのこと。昭和生まれの筆者もそうでした。

■チキンラーメン、ラ王との決定的な違い

対する平成後半以降は、少子化が進行。18歳未満の子がいる世帯(約23%)のうち、「一人っ子」世帯が約44%と、「子が二人」(約42%)をわずかに上回り、いまやニューファミリーでは「家族3人(子一人)」が多数派になったのです(17年「国民生活基礎調査」)。

そこで、昭和発売の「チキンラーメン」や、平成初期発売の「日清ラ王」での人気の5食パックとは違い、令和発売の「これ絶対うまいやつ!」は、3食パックに。

結果的に、メーカー希望小売価格は「95円程度/パック」となり、ラ王(111円程度/パック)などより、価格面でさらに手に取りやすくなったと言えるかもしれません。

■若者言葉を商品名にするリスク

それにしても、気になるのは「これ絶対うまいやつ!」とのブランド名です。

一般に袋麺は、先の「チキンラーメン」や「ラ王」のように、ロングセラーとして長く売れ続けている商品が多い。

一方で、いわゆるイマドキの若者言葉をタイトルにすれば、たとえば「チョベリバ」(90年代半ばの流行語。「超ベリー・バッド」の略)や、「激おこぷんぷん丸」(2013年ごろの流行した語。「激怒している状態」の意)のように、数年後には「古い」「死語」などと言われてしまう可能性もある。

その辺りについて、開発段階で迷いはなかったのでしょうか?

「売場でパッと見て2、3秒でどういう商品なのかが分からないと、手にも取ってもらえない時代。若い世代をターゲットにするなら、分かりやすく親しみやすいブランドにしなければ認知されないと考えました」と資逸さん。

もちろん「SNSでの拡がりも意識した」とのこと。時代背景として、若い世代の「ググるよりタグる」の普及もあるようです。

■ハッシュタグに使われている言葉は拡散されやすい

「ググるよりタグる」は、インスタグラムなどで「#(ハッシュタグ)」をフォローできるようになったころ(17年末)から顕著になった現象。

このころから若い世代を中心に、わざわざグーグルなどの検索エンジンで調べる(ググる)より、あらかじめフォローしておいたお気に入りのハッシュタグ(「#ラーメン」など)を基に調べるほうが、手間がかからないとの考え方が広がりました。

10~50代の男女に聞いたある調査(21年 ゼネラルリサーチ調べ)では、すでに5割以上が「情報収集などでSNSの検索機能を使う」と回答。また20歳前後の男性に「商品情報収集の際、何を参考にするか」を聞いた別の調査でも、「検索エンジン(グーグル、ヤフー等)」を使う割合は上から2番目にとどまり、1位は「ツイッター」、3位も2位とほぼ同率で「ユーチューブ」でした(20年「SHIBUYA109 lab.」調べ)。

つまり「これ絶対うまいやつ!」のように、SNSやユーチューブですでにハッシュタグに使われているような語は、発売当初から商品名が拡散、認知されやすいと考えられます。

■「鼻セレブ」「お~いお茶」……商品タイトルの変更で大ヒット

昭和から平成半ばにかけて、売上を大きく伸ばしたのは、おもにブランド名を「覚えやすい」「想起しやすい」名に変えた商品でした。

たとえば80年代の抗菌防臭靴下「通勤快足」(レナウン/「フレッシュライフ」から変更)や、世界初の缶入り緑茶「お~いお茶」(伊藤園/「缶入り煎茶」から変更)、2000年代の「鼻セレブ」(ネピア/「モイスチャーティシュ」から変更)など。

一方、平成後半~令和に入り、人気タイトルの傾向はSNS検索の「引っかかり」や「ツッコミやすさ」に移った。先の「これ絶対うまいやつ!」や、「湖池屋プライドポテト」(17年発売/湖池屋)などは、「本当に“うまい(美味しい)”の?」や「“プライド”ポテトって、ナニ?」などツッコミどころがあり、タイトル自体もSNSで話題にのぼりやすい。

「10年後に古くならないか?」との懸念はあれど、いまや数秒で認知されなければ手に取ってもらえない時代。「これ絶対うまいやつ!」は、あえて時流にのった奇抜なブランド名を付けたからこそ、成功した好例と言えるのではないでしょうか。

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牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター
マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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(マーケティングライター 牛窪 恵)

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