「過激な反日発言で大人気」ポスト文在寅の大本命にあがる"韓国のトランプ"の正体
プレジデントオンライン / 2021年8月4日 10時15分
■文政権批判ばかりで評判が落ち始めた尹錫悦前検察総長
韓国世論調査機関リアルメーターの最新調査(7月26~27日調査)によると、次期大統領候補の2強となっているのが尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長と、李在明(イ・ジェミョン)京畿(キョンギ)道知事である。尹前総長の支持率は27.5%、李知事は25.5%となっており2強が接戦を繰り広げていることがわかる。
尹錫悦前検察総長(60)は、検察官時代に朴槿恵(パク・クネ)元大統領への捜査を行い、文政権下では収賄罪などで起訴された曺国(チョ・グク)元法相への捜査指揮を執ったことで知られるカリスマ的な人物だ。「公正」であることを旨とし、「私は人に仕えない。法に仕えるのみだ」との言葉で知られる硬骨漢として国民人気が高い。
時の政権に忖度(そんたく)せず権力におもねらない捜査を行ったことで、「検察改革」を推進しようとした文政権と激しく対立して検察総長の座を去り、次期大統領選への出馬を表明したのだ。
「早い段階から次期大統領候補の呼び声が高かった尹氏ですが、いざ政治家として見るとその言葉は文政権批判ばかりで、あるべき国家観に欠けるという評価がメディア内で出始めています。検察官・官僚としては素晴らしい人物だが、政治家としては未知数ではないかというのです。保守候補として立候補するにもかかわらず、保守系最大野党「国民の力」への入党を7月末までためらっていたところも政治家としての迷いが見えます。
また『公正』を看板にしているにもかかわらず、7月2日に義母が詐欺罪などで実刑判決を受けたことも大きなマイナスになっています」(韓国人ジャーナリスト)
高い前評判がありながら、支持率が伸び悩み気味の尹錫悦氏だが、日韓関係については現実的な考えをしていると言われている。
■人気が取れる「反日」ではなく、日韓関係の正論を貫けるか
記者会見でも「イデオロギー偏向的な竹槍歌を歌っているうちにここまで来た」と尹氏は文政権の対日外交を強く批判しており古い価値観からの脱却を訴えている。「竹槍歌」は朝鮮王朝末期の抗日反乱を題材にした歌で、曺国が反日を鼓舞するときに引用したことでも有名になった歌だ。
「日韓関係は修復不可能なところまで悪化している。外交は現実主義に立脚すべきだ。元徴用工問題や慰安婦問題、安全保障協力、貿易対立などの懸案を全部一緒に1つのテーブルの上に置いて議論するグランドバーゲン(包括合意)方式でアプローチする必要がある」
とも尹錫悦氏は語る。文政権では「不可逆的解決」をうたった2015年日韓合意(慰安婦合意)を骨抜きにするなど、国際常識や正論を無視した言動で日韓関係を悪化させてきただけに、こうした指摘は正鵠(せいこく)を得ているという声も少なくない。尹氏は保守系候補として、日米との安全保障協力を深め中国や北朝鮮を牽制する立場を取ることも示唆している。
韓国政治家にとって「反日」は、手軽な人気取り策として知られている。支持率が伸び悩むなか、尹錫悦氏は今後も日韓関係において正論を貫けるのか。注目すべきポイントだろう。
■少年工から弁護士に立身出世した李在明京畿道知事
一方で「韓国のトランプ」と評されて、過激な言動で存在感を高めているのが与党候補の李在明氏(56)だ。
李在明氏は弁護士を経て京畿道城南市の第19、20代市長(2010年7月~2018年3月)を歴任、2018年7月から京畿道の第35代知事を務めた人物。政治家としての特徴はその発言力にある。
「朴槿恵であれば親子の物語であり、文在寅であれば盧武鉉(ノ・ムヒョン)との物語が注目されたように、韓国の大統領選は『個人の物語』が重要視されると言われています。李在明氏はその点もとても巧みで、出馬表明に際し『貧しい環境で危機をチャンスに変えてきた』と強調したように、自らが少年工から苦労して弁護士になり立身出世を遂げた物語を常に語ります。国民の共感を得ることができる政治家と言えるでしょう。
2018年に不倫疑惑が浮上した際に、噂された女優から『身体の特定の部位にホクロがある』と暴露され、李在明氏が大学病院で身体検査を受け潔白を証明しようとしたことがありました。先の7月6日、与党大統領選候補によるテレビ討論会で対立候補から再びこの話を蒸し返されときに、李在明氏は『どうしろというんだ。ここでズボンを下ろしましょうか?』と切り返して大騒動になりました。トランプと同じように過激だけど愛嬌もある点も人気を集める要因になっています」(ソウル特派員)
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/670/img_37a32c5383b0ded92e41fff5200ad9791823805.jpg)
一方で対日政策は過激路線。東京五輪組織委員会の竹島表記論議に対して「歴史的記録も残すことを兼ねて東京オリンピックボイコットを検討すべきだ」と述べたり、「(大韓民国の建国は)親日勢力と米占領軍の合作」と主張するなど、歯に衣着せぬ発言と“反日色”の強いスタンスを一つの売りにしている。
■文政権以上に日韓関係が悪化する可能性も
李在明氏は知事時代から「忘れたころに毒キノコのようによみがえる過去史妄言もまた、親日残滓(ざんし)をきちんと清算できなかったから」と発言するなど、抗日(いわゆる反日)政策を重要視してきた。
「李在明は2019年から京畿道で『親日残滓清算プロジェクト』を進めてきており抗日政策を重視していました。プロジェクトの調査では『親日人物257人』、『親日人物が作った校歌89曲』などが批判のやり玉として挙げられた。彼が大統領になったら文在寅政権以上に日韓関係は悪化する可能性が高いと言われています」(同前)
![机に置かれた日本と韓国の国旗ペア](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/4/670/img_d48e71bc17a26fa76e9a209acda8672c277098.jpg)
李在明氏は与党「共に民主党」の大統領候補ではあるが、文在寅政権とは距離があり党内基盤は弱いとされている。しかし、大衆人気が高いことで韓国メディアでは「大統領選の本命」と見る向きもある。
■文政権後継として期待されるエリート李洛淵元首相
現在、第三の候補として注目を集めているのが李洛淵(イ・ナギョン)元首相(68)だ。先に紹介したリアルメーターの調査では李洛淵氏は16.0%の支持を集め3位となっている。尹前総長の支持率27.5%、李知事の25.5%とはやや差があるが、今後の情勢次第では十分に挽回可能な位置にいると言える。
李洛淵氏は7月5日に大統領選への出馬を正式表明し、文在寅政権の正統後継候補として名乗りを上げた。
「李洛淵氏は金大中(キム・デジュン)政権下の2000年に与党から国会議員選挙に出馬し初当選。盧武鉉政権では報道官を任され、文在寅政権では首相を務めた左派政党のエリート議員です。文在寅大統領の支持率40%を支えてきた『岩盤支持層』と呼ばれる層は、親文派である李洛淵氏に好意を持っているとされ、反文派である李在明には嫌悪感を示しています。長らく与党内で次の大統領候補と言われてきた政治家が李洛淵氏なのです」(前出・韓国人ジャーナリスト)
先に紹介した東京五輪組織委員会の竹島表記を巡り、李洛淵氏は「日本が最後まで拒否した場合、韓国政府は五輪のボイコットなど断固たる対応を取らなければならない。独島に対するわれわれの主権を守るためにできる全てのことをする」と猛批判した。文在寅政権の後継を意識するあまり、その発言を先鋭化させているのだ。
■知日派だが支持層を意識して発言が過激に
李洛淵氏の知人はこう解説する。
「知日派と知られる李洛淵氏は大統領選候補になるまで、左派内ではバランスの良い発言をする人物として知られていました。現在、発言を過激化させているのは『岩盤支持層』の支持を取り付けるための“方法”なのだと思います。
李洛淵氏は東亜日報政治部記者時代に、慰安婦問題におけるアジア女性基金の支援活動について丁寧に紹介する記事を書くなど、慰安婦問題では日本バッシング一辺倒だった韓国メディア人としては一線を画す存在でした。
日本駐在経験もあり日本語も堪能。日韓関係についても『お互いの国の政治家が相手国を理解することが重要。その意味では韓国社会を理解してくれる森喜朗氏を私は信頼している』と語っていたこともあります。全羅南道知事をしていた時代には日本の地方自治を熱心に研究しており、高知県と姉妹都市協定を結び、日本都市との空路開設に尽力するなど地方外交を重視していました。彼の本音は『日韓友好』にあると私は思っています」
つまり李洛淵氏の本質は反日ではなく、対日政策については必ずしも文在寅政権路線を踏襲するとは限らない、というのだ。そこで今後の焦点となりそうなのが、文氏を支持してきた『岩盤支持層』と反日を好む韓国メディアや世論と、李洛淵氏がどう向き合っていくのか。与党の左派候補としての立場もあり難しい舵取りが求められることになる。
![韓国・ソウルの商店街](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/a/670/img_bac4a2dd050dccb46897bfa3bdf3971b303573.jpg)
■“反日パフォーマンス優先主義”が日韓関係を悪化させた
与党・「共に民主党」は党内選挙を9月4日から始め、10月には最終的な大統領選候補を決定すると公表している。まずは与党内候補の2強、李在明氏と李洛淵氏がどのような言論バトルを繰り広げるのかに注目である。
日韓関係を悪化させてきた大きな要因の1つが、韓国政治家の“反日パフォーマンス優先主義”にある。その視点に基づいて各候補者を分析していくと、ポピュリストを自称し過激発言で支持を集める李在明氏が、日本サイドとしては一番警戒すべき大統領候補者だと言えるだろう。
同じ与党候補者でも、李洛淵氏は政治家としては知日派ということもあり関係改善を期待したいところだが、懸念は前述したように左派支持層との兼ね合いか。野党候補である尹錫悦氏のスタンスは基本的に現実路線なので、より穏健な日韓関係を模索していくであろうことが予想される。
次期大統領に誰が選出されるかによって日韓関係は大きな影響を受けることになる。
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ジャーナリスト
1970年生まれ。南アフリカ・ヨハネスブルグで育つ。「FRIDAY」や「週刊文春」の記者を経て、2019年にジャーナリストとして独立。日韓関係、人物ルポ、政治・事件、スポーツなど幅広い分野で記事執筆を行う。著書に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)など。
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(ジャーナリスト 赤石 晋一郎)
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