男性視聴者の眼福になっても女子選手が「肌露出多めのユニフォーム」を支持する理由
プレジデントオンライン / 2021年8月2日 14時15分
■ドイツ体操女子「性的な対象として扱われていることへの抗議」
競泳、陸上、体操……テレビで東京五輪のさまざまな種目を見る機会が増えた。改めて実感するのは世界最高峰のアスリートたちの均整がとれ引き締まった体型の美しさである。
そんななか体操女子団体に出場したドイツチームのウエアが話題になった。レオタードではなく、足首まで覆う「ユニタード」を着用していたからだ。
近年、女性アスリートの盗撮や下半身をクローズアップした写真がネットに拡散される問題が深刻化している。筆者も本欄で、「 肌露出多めのユニフォームは是か非か“女性陸上アスリート”赤外線盗撮の卑劣手口」(2020年11月7日配信)という記事を書いた。
「女性アスリートが性的な対象として扱われていることへの抗議」というドイツチームのアクションは、ユニフォームの在り方に一石を投じたものの、チームは予選9位で決勝に進むことはできなかった。
体操競技では体を覆うユニフォーム着用も国際ルールで認められている。だが、ユニタードが今後のトレンドになるかといえば、今回の結果を考えると主流になりにくいと思われる。なぜなら、選手たちは何よりも「結果」を最優先に考えているからだ。
かつてシンクロナイズドスイミングと呼ばれたアーティスティックスイミングでは、「脚を長く見せるために」意識的にハイレグタイプの水着を選んでいる国が少なくない。審判の判定法には当然レギュレーションはあるが、芸術性が関わってくる種目では目に映った時の印象が採点に表れる可能性がある。そうなると少しでも有利になるかもしれない(もしくは、不利にならないようにと)ビジュアルのウエアを選ばざるをえなくなる。
■ビーチハンドボールはビキニ拒否で罰金
一方、東京五輪ではないが、2021年7月上旬に開かれた女子ビーチハンドボール(五輪種目ではない)のヨーロッパ選手権でノルウェーがビキニパンツを拒否して、短パンを着用したことが波紋を広げた。
国際ハンドボール連盟のユニフォーム規定に違反したため、1500ユーロ(約19万円)の罰金を科された。同連盟の規定では、男子ビーチハンドボールの選手は「膝上10cmの短パン」なのに対して、女子選手は「ビキニの側面の幅は最長で4インチ(約10cm)まで」「脚の付け根に向かって切り込んだ形のぴったりとしたビキニパンツ」を着用しなければならない。
しかし、ビキニパンツ着用のルールを疑問視する人は多く、このニュースが伝えられるとさまざまな批判が起きた。抗議の意味を込めて、罰金を肩代わりするチームや選手と関係のないアーティストまで現れたのだ。
男女でウエアの規定に大きな差があるのは不自然と言わざるをえない。なぜ、こんなことになったのか。ビーチハンドボールは国内でほとんど知られていないため、ビーチバレーに置き換えると理解できるかもしれない(ビーチバレーは2012年以降ビキニが強制ではなくなった)。
日本で女子のビーチバレーが注目されたのは浅尾美和に代表されるように、ウエアを含めたビジュアル面が大きい。連盟としてはまだまだマイナーな種目であるビーチハンドボールを盛り上げたいという狙いがあったと推測できる。
もっと端的に言えば、男性視聴者にアピールすることで競技への関心を高め、その結果、スポンサーやテレビの放映権料を獲得したいといった狙いが透けて見える。歴史的にみれば、スポーツのユニフォームはこうした商業的な背景を反映しているケースが少なくない。
■「性を強調」するユニフォームのドレスコードは変わる可能性も
ただし、「性を強調」するユニフォームのドレスコードは今後、変わる可能性もある。
ノルウェーの女子選手たちは大会前に男子と同じような短パンを履きたいという要望を連盟に提出したところ、「罰金」もしくは「失格」の可能性を伝えられたという。それでも選手たちは、短パンで強行出場した。その結果、失格ではなく、罰金で済んだことは今後の変化を期待できるといえるかもしれない。SNSなどで世論を味方につけたことも大きい。
スポーツ界の「罰金」で思い出されるのが、「バスケの神様」と呼ばれた元NBAのスター選手マイケル・ジョーダンだ。現在でも絶大な人気を誇る「エアジョーダン」というシューズは“規約違反”から熱視線を集めて、大人気モデルへと発展した歴史がある。
当時のNBAは規定で白以外のシューズは認められていなかった。しかし、ナイキはジョーダンに所属チームのカラーである「赤と黒」のデザインを提供。履いた場合は毎試合5000ドルの罰金が課せられることになっていたが、それをナイキが払い続けたという逸話がある。
これが抜群のプロモーション効果を生み、マイケル・ジョーダンとエアジョーダンは“神”のような存在になった。さらにその後、NBAでは白以外のシューズも認められるようになったのだ。
■アスリートたちは動きやすさでウエアを選んでいる
話を東京五輪に戻そう。7月30日からはオリンピックの花形種目である陸上競技が始まった。トラックを疾走する女性スプリンターや、フィールドを舞う女性ジャンパーたちの大半は上下が分かれたセパレート型のユニフォーム(腹部が肌露出)を着ている。それは日本人選手も同様だ。
日本代表のユニフォームはアシックスが提供しているが、上下とも複数パターンが用意されており、何を着用するかは選手が自分で選べるようになっている。肌の露出が気になる選手は、一般的なランニングシャツ+ランニングパンツでもOKだ。
しかし、セパレート型のユニフォームを選ぶ選手が多いのは「動きやすさ」を最優先に考えているからだ。アシックスの担当者も、「選手は着やすくて、動きやすいウエアを求めています」と話す。とりわけ0.1秒、0.01秒単位でメダル争いをしている短距離用のユニフォームは「すべての動作の負荷を軽減する」ように設計されており、動きのパターンに応じた工夫が細部に施されている。
各国の選手を見ても、セパレート型のユニフォームが多いだけでなく、丈が極端に短いパンツを履いている選手もたくさんいる。その理由は、短距離やハードル、跳躍の選手はダイナミックな動きをするため、脚の付け根部分の生地がだぶつくのを極力回避したいということである。だぶつき感があるとそれがストレスになってパフォーマンスに少なからず影響を与えると訴える選手は多い。
そして、もうひとつ大きな理由がある。単純明快、トップ選手が着ているから、他の選手もそれにならっているのだ。国内の主要大会でも女子選手のユニフォームはセパレート型が主流になっている。一般的なランシャツ+ランパンはデザイン的にも古臭く時代遅れという感覚が選手たちの中にはあるのだろう。
■露出少なめのスーパーヒロインが登場すれば、そのスタイルがはやる
一方で男子マラソンではランシャツ+タイツ(膝上あたりまでのハーフタイプ)という組み合わせが急増している。世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)が好んで着用しているスタイルだ。日本人では大迫傑(Nike)が同じスタイルでシカゴと東京で日本記録(当時)を樹立。国内トップ選手もまねる選手が続出しており、3月のびわ湖毎日マラソンでもランシャツ+タイツの鈴木健吾(富士通)が日本新記録の快走を見せている。
とはいえ、現状は陸上女子のユニフォームは全体的に露出の多いセパレート型が主流だが、全身タイツ型ののウエアを着る女子のスーパーヒロインが登場すれば、そういうスタイルがはやり、人々に認知にされる可能性もある。
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スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
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