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スウェーデンでは12歳が「税金で170万円のウォータースライダーをレンタル」を決められる

プレジデントオンライン / 2021年8月6日 15時15分

ウォータースライダー - 写真提供=Paula Aivmer

福祉の国として知られる北欧・スウェーデンでは、若者の投票率が85%と日本の約30%を大きく突き放している。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんも輩出したスウェーデンでは、なぜ政治に関心を持つ若者が多いのか。ヨーロッパの若者政策を研究する両角達平さんは「若者協議会という団体で若者世代の声を反映させ、まちづくりを若者自らの手で行う環境が整っている」という――。

※本稿は、両角達平『若者からはじまる民主主義』(萌文社)の一部を再編集したものです。

■12~17歳の101人の若者が約350万円の予算を自由に使える

スウェーデンの西にある人口規模第二の都市ヨーテボリ市には「若者協議会(Ungdomsråd)」なる取り組みがある。若者協議会は、ヨーテボリにいる12~17歳の101人の若者から構成される。10の行政区に分かれるヨーテボリ市のすべての区からネットの選挙で選ばれた若者である。

2015年夏、ヨーテボリ市若者協議会は毎夏に開催される「ヨーテボリ文化祭」で、140メートルのウォータースライダーを借りようと提案。しかし、このウォータースライダーのレンタル料は決して安くはなかった。

ヨーテボリ市若者協議会は毎年30万スウェーデンクローナ(約350万円)の予算が市から充てられており、活動費として使うことができる。しかし、ウォータースライダーはこの半分の額に及ぶものであり、ヨーテボリ市若者協議会の「12万円以上の出費がある場合は、自治体からの許可が必要」という定則に従う必要があった。そこで若者協議会は、ウォータースライダーを借りる目的を「ヨーテボリのすべての若者が出会う場となり、若者の社会統合を促進し、若者協議会の活動を広めること」と掲げて、ヨーテボリ市と協議をした。最終的には、予算の許可が下り、提案・実現に至った。

このように若者協議会では、理事になった若者が比較的自由に計画を立て、予算をもとにオリジナルな企画を実際に実現させている。

若者協議会の運営を担う理事は、毎年11月にインターネット上で開催される選挙で選ばれる。年に5回の定例会があり、小規模な会議は毎週開かれる。会議では、自分たちがやりたいこと、今この街で課題となっていることなどを話し合う。5つの委員会で話し合われたことは、若者が決定し、行動を主導する。若者協議会はヨーテボリ市に設置されているので、市役所のコミュニケーション部に属する専従の職員も配置される。職員が若者協議会をサポートし、活動の実現を支援している。

若者協議会の設置はヨーテボリ市の議会(Kommunfullmäktige)により、2004年に決定された。ヨーテボリ市が若者協議会と積極的に連携する形を取ったことにより、市議会に議席を持つすべての政党の市議が、若者協議会と直接会合をする義務が命じられた。そのような機会のひとつに諮問会議がある。諮問会議とは、若者協議会が特定の課題について市議らと意見交換をする会議である。

■聴かれるだけでなく実現する若者世代の声

2015年の諮問会議では、若者協議会の大きな関心事である地方選挙における16歳選挙権導入や公共交通機関の無償化などが議題として扱われた。若者協議会が、公共交通機関をすべての若者が無償で利用できるようにすべきと主張するのは共生社会の実現と正義のためだという。保護者に経済的に依存している若者もいるので、裕福な家庭で育った若者と、そうではない家庭で育った若者の間に格差が出てしまう。若者協議会のある若者はこう主張する。

「大人は自分の人生を自由にできますが、若者は大人ほど簡単に経済力をすぐに付けることができず、街や学校に閉じ込められがちです。だから若者が自由に移動できるようにする必要があります」

意見をする若者協議会の若者
写真提供=Edvin Johansson
意見をする若者協議会の若者 - 写真提供=Edvin Johansson

さらに、市内を自由に移動できることは、余暇・文化の活動を享受する権利の実現に不可欠だと付け加えた。若者協議会は、新たな交通計画づくりにも参画しており、ヨーテボリのすべての若者が学校の近くのバスや路面電車を無償で利用できるように働きかけた。

その結果、平日19時から22時まで若者の公共交通機関の無償利用と「夏休みカード」が実現した。夏休みカードとは12歳から17歳の若者が、夏休み期間中に、市のバスや路面電車を自由に利用できることを許可するカードだ。このように若者の提案が、単に「聴かれる」だけでなく実現に至る。これこそ「若者の社会への影響力を高めること」である。

このように地域社会に若者世代の声を反映させ、影響力を高めるのが若者協議会である。自分たちで活動を組織し、政治家や行政関係者などとの対話集会を開いたり、請願書を送ったり、時にはデモ行進などをして、地域社会に影響を与える活動を、若者自らの手でやっていく。若者による、まちづくりの活動そのものである。

■若者は「参画」と「表現」によって民主的な権利を実現する

2016年のスウェーデン全国若者協議会の代表であったガブリエル・ヨハンソンさん(当時21歳)もまた、そのようにして活動を始めた若者の一人だ。

「政治には興味があったけど、政党活動には興味がなかった」

そう答えるガブリエルさんにとって、若者協議会の活動は、「政治っぽさ」や「政党色」を気にせずに社会参画ができる絶好の機会であった。2016年の夏に話を伺ったとき、ガブリエルさんは若者が政治に影響を与えて民主的な権利を実現する方法を2つ教えてくれた。1つは、「参画」だ。例えば、市議会を傍聴すること、請願書を書くこと、政治家や政策形成者と直接会うことなど、つまりは社会に自ら参画することである。もう1つは、「表現」だ。これには、メディアへの発信、公の場でのスピーチなどが該当する。最近では、スマートフォンのアプリを用いた手法もあり、「Speak App」というハーニンゲ市で開発されたアプリでは、市政への質問や提案が簡単にできるようになっている。このアプリは若者を中心に人気を集めた。

★ヨーテボリ市若者協議会 Göteborgs Ungdomsråd
【対象年齢】12~17歳
【会員数】101人(メンバー81人、理事20人)
【理念】
●若者が若者協議会、地域の行政、政治家に影響力を発揮できるようになること
●若者自身が話し合う内容を決めること
【予算】年間350万円
【組織】学校委員会、人道委員会、文化・余暇委員会、都市委員会、活性化委員会
【主な活動】
●政治家や行政への提言・質問・意見具申
●活動の企画・実施
●委員会の開催
【最近の活動】
●地方選挙における16歳選挙権の導入の提言
●若者の公共交通機関の時間限定の無償利用可(実現)
●ウォータースライダー祭りの開催(2015年)

■全国の若者協議会を取りまとめるSUR

ガブリエルさんの肩書きは「スウェーデン全国若者協議会」の代表である。これは、スウェーデン語表記ではSveriges Ungdomsråd(SUR)で、英語訳をするとSwedish Youth Councilである。この組織は、先述した各地域で活動する若者協議会を、取りまとめる全国組織である。首都・ストックホルムに本部の事務所を構え、全国の若者協議会を会員団体とし、各地の若者協議会の活動をサポートをしたり、意見を取りまとめる役割を担う。

2016年度全国若者抗議会代表(2016年度)のガブリエルさん
2016年度全国若者抗議会代表(2016年度)のガブリエルさん

SURの本部の理事会は、全国の加盟している若者協議会から12人が選挙で毎年選出される。その中の5人は有給の職員で、代表・副代表、組織取締役、管理人、渉外から構成される。選ばれる人は25歳が上限なので、若さが保たれる仕組みになっている。ガブリエルさんももちろん選挙で選ばれて代表になったが、任期は1年で、1年後には代表の座を退いている。

気になるのはこれらの多様な活動を支える基盤となる財源である。SURは、加盟している若者協議会からの団体会費に加えて、スウェーデンの若者政策を管轄する政府機関のスウェーデン若者・市民社会庁の若者団体向けの助成金も財源としている。この財源を、スタッフの給与、事務費、リーダーシップ研修などに充てているので、持続可能な運営ができる。

■SURは「若者の社会参画の専門家」

各地の若者協議会と彼が代表を務めるSURとの関係性についてガブリエルさんはこう教えてくれた。それぞれの若者協議会はスウェーデンの全国各地の自治体、県を拠点に活動を展開している。そして若者協議会は「公式」の若者協議会と「非公式」の若者協議会の2種類があるという。「公式」な若者協議会とは、SURの会員団体として登録している若者協議会だ。「非公式」とは、とくに何にも所属することなく、地域で独自に活動をしている若者協議会だ。スウェーデンには全国に約130の若者協議会が存在するとされているが、そのうち半分近くがSURの会員である「公式」の若者協議会だ。自治体や行政と連携しているかどうかで「公式」「非公式」となるわけではない。ヨーテボリ市の若者協議会は市の全面的なバックアップがありながら、SURに加盟している「公式」な若者協議会である。

両角達平『若者からはじまる民主主義』(萌文社)
両角達平『若者からはじまる民主主義』(萌文社)

SURに加盟をして晴れて「公式」となった若者協議会は、会費納付の義務(初年度は無料)はあるものの、それと引き換えにさまざまな特典を得られる。全国各地にある同じように会員である若者協議会と交流ができたり、若者協議会の運営の研修会に無料で参加できたりする。地域の若者協議会をサポートする方法は多岐に渡る。全国に点在する300~400人ほどの若者が一堂に会する集会を年4回開催し、これに併せて交流会やリーダーシップの研修会を実行したり、資金調達のアドバイスをしたり、若者政策を担当する省庁や自治体関係者との橋渡しをしたりする。

また、加盟をすると「若者が社会に影響を与える方法」についてまとめた書籍が配布される。SURは活動の歴史が長いので、若者が社会に影響を与えるさまざまなノウハウが蓄積されている。そのため、ときどき政治家から「どうしたら若者から政治に関心を持ってもらえるのか?」と相談が入ることもあるという。そうした場合には、これらの書籍を送ったり、その地域の学校やユースセンターに足を運ぶなどして、若者の社会参画の専門家としてアドバイスを行なったりしている。

■「おもしろいことをやりたい」「社会を変えたい」若者が集うSUR

SURは、若者協議会が地域で始まり、全国組織のSURに加盟してもらうまでの6つのステップをパンフレット「若者協議会を始めよう!」にこうまとめている。

1.おもしろいことをやってみたい若者や社会に何かしら変化をもたらしたいことがある若者を集めて、グループをつくろう。

2.グループで最初に取り組むことを決めよう。

3.自治体や区の委員会とやり取りをして、支援しくれる人や資金調達に関する情報を集めよう。

4.若者協議会の立ち上げの際や運営にサポートが必要なときはSURに相談しよう。

5.SURと連絡を取って面談をして、加盟のメリットを知ろう。

6.SURに加盟しよう。

このようにして、SURは全国組織に所属するメリットを提示して会員団体を増やしているのである。

■若者の主体性を何よりも大事にする

そもそも若者協議会はどのようにして結成されるのだろうか。「非公式」な若者協議会は、このように始まることが多いという。

1.SURのスタッフの若者が学校に呼ばれて、「民主主義の権利と若者ができること」について講演をする。

2.刺激を受けた若者が自分たちでできることを始めようと、一念発起して若者協議会を立ち上げる。

3.独自に活動を続けたり、SURに加盟したりする。

議論をする若者協議会
写真提供=Paula Aivmer
議論をする若者協議会 - 写真提供=Paula Aivmer

若者協議会を始める最初のステップが「おもしろいことをやってみたい若者や社会に何かしら変化をもたらしたいことがある若者を集めて、グループをつくる」であるが、ここに若者協議会が大切にしていることのひとつである若者自身の「主体性」が表れている。ガブリエルさんによると、スウェーデンでは1990年代に若者協議会の設置を全国の自治体に一律で義務付けるべきかどうか、という議論が沸き起こったという。そうすることでどの自治体においても持続的に、若者の声を取り入れることが可能になるという提案が挙がったからだ。しかし結局、義務化は無しになった。その理由は、若者協議会の設置が一律で義務化されると、若者が望んでいないにもかかわらず若者協議会への参画が強制されかねないからだ。この出来事は、スウェーデンの若者協議会の性格を、「若者の主体性を何よりも大事にすること」と決定付けたともいえる。

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両角 達平(もろずみ・たつへい)
国立青少年教育振興機構 青少年教育研究センター研究員
1988年長野県生まれ。大学在学中より若者の社会参画について、ヨーロッパ(特にスウェーデン)の若者政策、ユースワークの視点から研究。専門領域は欧州の若者政策論、ユースワーク。共訳書に『政治について話そう!―スウェーデンの学校における主権者教育の方法と考え方』(アルパカ)がある。

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(国立青少年教育振興機構 青少年教育研究センター研究員 両角 達平)

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