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「高速走行時の空気抵抗が激減」燃費が25%も改善する"車間2mの隊列走行"を実現する方法

プレジデントオンライン / 2021年8月11日 9時15分

トンネル内を、自動運転技術を使って隊列走行 - 提供=ソフトバンク

大型車の高速走行では、エネルギー消費の4割以上が空気抵抗だといわれる。このためクルマが自動運転にかわり、車同士で車間距離を調整できるようになれば、燃費が大幅に改善されると考えられている。ジャーナリストの中村尚樹さんは「車間2メートルの無人隊列走行なら、トラックの燃費は25%も改善するといわれている。このためには5Gの導入が欠かせない」という――。

※本稿は、中村尚樹『最前線で働く人に聞く日本一わかりやすい5G』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■法律で認められている自動運転の内容

自動車に代表されるモビリティに関連したキーワードとして、“CASE”が注目されている。「自動車がインターネットでつながること」「自動運転」「シェアリング」、それに「電動化」を意味する4つの英単語の頭文字を並べて作った言葉だ。中でも5Gで特に注目されているトピックスのひとつが、自動運転に関する話題である。改正された「道路交通法」の一部と「道路運送車両法」が2020年4月に施行され、自動運転は「レベル3」の段階に入った。

自動車の自動運転技術は通常、0から5まで6段階のレベルで定義されている。レベル0は運転の自動化がない、従来のタイプである。レベル1は「運転支援システム」で、ステアリング、アクセル、ブレーキのいずれかをシステムがサポートする。レベル2はADAS(Advanced Driver-Assistance System=先進運転支援システム)と呼ばれ、ステアリングと、アクセル、ブレーキのうちの複数の操作をシステムがサポートする。2015年にアメリカのテスラがはじめて実用化した。レベル2までは、あくまで運転するのはドライバーであり、いわゆる「自動運転」のカテゴリーには入らない。

レベル3で「条件付き運転自動化」となり、クルマが運転の主体となる「自動運転」の世界になってくる。条件付きで自動運転が可能となるが、緊急時はドライバーが対応しなければならない。

レベル3の法律改正ではドイツが先行したが、EUがレベル3を認めていないため、法的に実用化の問題がクリアされたのは、日本が世界ではじめてである。

■法律で解禁されても実用化できるとは限らない

法律でレベル3が解禁されたといっても、省令や告示で様々な制約が課せられている。実際に可能な自動運転はいまのところ、高速道路で乗用車が車線変更をせずに、同一車線を低速走行する場合に限られる。

乗用車に比べて重量が重く、車体も大きなトラックは、まだ自動運転の対象とはされていない。

レベル4の「高度運転自動化」が可能となれば、基本的にはすべての運転操作をシステムが担うことになり、運転手の負担は大きく軽減される。レベル5の「完全運転自動化」となると、運転は機械任せにでき、「無人トラック」が実現するかもしれない。

ただ残念ながらレベル4以上になると、技術的にも、法的にも課題が多く、いつ実現するのかわからない。そこで運輸業界は、乗用車とは違った自動運転のアプローチに注目している。それが自動運転技術の中でもすでに実用化されているレベル2の先進運転支援システムを使った隊列走行だ。

■後続車に運転手が乗らない、無人隊列走行システムが実現する

隊列走行とはその名の通り、何台かのトラックが隊列を作って走行する。自動運転ではないため、先頭のトラックには従来どおり、運転手が乗って運転する。

ポイントは2台目以降である。先頭のトラックと後続するトラックを、電子連結技術を使って常時通信させるのだ。先頭車両の運転手の運転操作がリアルタイムで後続車両に伝えられ、ADASで車両を制御することで、すべての車両が一体的にコントロールされる。これがCACC(Cooperative Adaptive Cruise Control=協調型車間距離維持支援システム)と呼ばれる、自動運転技術を使った隊列走行である。

すでに実用化されているACC(Adaptive Cruise Control=追従型クルーズコントロール)では、後続車が自身のレーダーやカメラ、センサーで先行車との車間距離情報を取得し、車間距離制御を行う。その際、双方の車両間で通信は行わない。

これに対しCACCではACCでの車間距離制御に加え、先行車の運転に関する情報を車車間通信によって後続車が取得する。つまり、車車間通信を必須としているかどうかが両者の最大の違いである。

後続車に運転手が乗らない、究極の隊列走行は「無人隊列走行システム」と呼ばれる。後続車に運転手が乗る場合は「有人隊列走行システム」である。もし無人隊列走行が実現すれば、運転手不足対策として大いに役に立つことになる。

有人隊列走行の場合でも、後続車の運転手は、車線変更をする場合のハンドル操作と緊急時以外は運転操作に介入せずCACC任せにできるため、運転手の負担軽減に役に立つ。

■無人隊列走行で期待される意外なメリット

それだけではない。数台のトラックを一体制御できることで、安全性の向上が期待される。

現状では交通事故のほとんどが何らかの人為的なミスによるものである。一体的に数台のトラックを制御することは、衝突事故の防止にもつながるのだ。

電子連結技術を使うことで、車間距離も変わってくる。通常は安全確保のため、高速道路では例えば時速80キロで走行するときは80メートル、100キロで走行するときは100メートルと、速度をメートルに置き換えた距離をとるよう推奨されている。しかしこのように車間距離を大きくとると、車体は空気抵抗を強く受けることになる。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のリポートによれば、大型車の高速走行では、エネルギー消費の4割以上が空気抵抗だといわれるほどだ。

しかし車両間の通信を行うCACCを使うことで、人間が前方の車両のブレーキランプを認識してブレーキを踏むときより、車間距離を大幅に短くすることが可能となる。すると後続車の空気抵抗が大幅に減って、かなりの燃費改善効果と、排気ガスが環境に与える負荷の削減が期待されるのだ。各種先行研究によれば、車間距離10メートルで約10%、4メートルで約15%、2メートルでは約25%も燃費が改善されると推定されている。

■将来的には先頭車も含めた遠隔運転も可能に

全体として車列が短くなれば、渋滞の緩和にもつながる。個々の車両間で連絡がない現状では、先行車両が速度を落とすと、後続車両は衝突を避けるため、先行車両の減速よりもさらに速度を落とすので、渋滞の原因となる。

しかしCACCでは隊列で一体的に加速や減速が行われるため、渋滞が起こりにくくなる。さらに、隊列走行の技術を応用すれば、運転の状況を外部の運行管制センターから遠隔監視することが可能となり、安全運転の確認や、配送状況の確認にも役に立つ。

さらに技術が進めば、遠隔操作で運転をコントロールすることにより、先頭車も含めた遠隔運転が可能となる。隊列走行車には様々なセンサーや制御装置が搭載されている。隊列走行車が個別に走行する場合も、こうしたセンサーや装置を利用して無駄な運転操作をなくし、経済的な省エネ運転が可能となる。

目的地がバラバラな乗用車と違って、特定の都市間の物流を担う運輸業界は、隊列走行のメリットは大きいと期待している。現状では主に、高速道路での利用が想定されている。

KDDI 名古屋ネットワークセンターの一室に設置された遠隔管制卓
提供=KDDI
KDDIは愛知県で5Gを活用した乗用車の遠隔型自動運転実証実験を実施 - 提供=KDDI

■ドイツやアメリカなど各地で実証実験が行われている

「プラトーン」という軍隊用語がある。小隊という意味だ。これを踏まえ、縦列を組んでの走行技術が、海外ではプラトゥーニング・テクノロジーと呼ばれるようになった。時期的に最も早く研究が始まったのはアウトバーンのあるドイツで、2005年からドイツ運輸省とアーヘン工科大学が中心となり、トラック4台による隊列走行の実験が始まった。近年、EUでは複数のプロジェクトが開始され、異なったブランドのトラックによる有人隊列走行実験が続いている。

フリーウェイの発達したアメリカでは、すでに実用化の段階に入っている。日本のデンソーや三井物産も出資するPeloton Technology(ペロトン・テクノロジー)社は、同一ブランドのトラック2台が利用可能な隊列走行技術を2019年から商用化している。同社のウェブサイトによれば、トラック2台を最短40フィート(約12メートル)の車間距離で電子連結して走らせた場合、2台を平均すると7.25%の燃料節約効果があるとPRしている。後続車は運転手によるハンドル保持が必要で、省エネ対策に主眼が置かれている。

ユニークなのは、クラウドベースのネットワークを使って、同社のシステムを導入している走行中のトラックに対し、ペアリングが可能と判断されれば双方に通知されることだ。ドライバーどうしが無線で連絡を取り合って、その場で隊列を形成できるのだ。もちろんプラトゥーニングを事前に計画することも可能である。

■日本でも隊列走行の商用化に向けて実験が重ねられている

一方、日本ではNEDOが、2008年度から大型トラックの自動運転による隊列走行の実験を開始した。その最初の成果として2010年には大型トラック3台で時速80キロ、車間距離15メートルの隊列走行に成功した。2013年には、車間距離を4メートルにまで接近させることに成功した。2016年度には、トヨタグループの総合商社である豊田通商が経済産業省と国土交通省の研究開発・実証事業を受託した。これには東大発の自動運転開発ベンチャー「先進モビリティ」も参加している。2017年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、高速道路でのトラック隊列走行について早ければ2022年の商業化を目指すことが、目標として策定された。

2018年6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、隊列走行の商業化を目指した目標が引き続き明示されると同時に、後続車無人隊列走行システム開発の前提として、より現実的な後続車有人隊列走行システムの商用化を目指すことが盛り込まれた。経済産業省と国土交通省では2018年から翌19年にかけて、有人と無人の隊列走行の実証実験を新東名高速道路で行っている。なお、無人隊列走行であっても安全のため、後続車に運転手を乗車させている。

■5Gで隊列走行はどう変わるか

次に、5Gが隊列走行にどのように活かされているのか、見てみよう。2017年度からの3年間、総務省の5Gに関する調査検討事業として、実証実験が行われた。5G移動通信システムが持つ「超高信頼低遅延」「超高速大容量」の無線能力が評価されて、隊列走行に導入されることになったのだ。

CACCでは先頭車と後続車との間で、常に情報がやりとりされる。先頭車からはアクセルやブレーキ、ハンドル操作の情報が送られ、後続車の運転操作が自動的に行われる。後続車からはカメラや電子ミラーの映像が先頭車両に伝送され、先頭車の運転手が車線変更しようとする際などの安全確認ができるようになっている。そのやりとりには、わずかの遅れも許されない。

例えば時速80キロで走行するトラックは、1秒間に約22メートルも移動する。5Gの伝送遅延は4Gの10分の1とされているだけに、より一層の安全性が確保され、より高速での走行が可能となる。車間距離も、遅延が少なくなる分、より短くすることができるようになる。

車両間で通信される情報は、大きく2種類に分けられる。ひとつは車両の位置情報をはじめ、アクセルやブレーキ、ハンドル操作など車両制御系の情報だ。数十バイトから数百バイトという少量のデータが頻繁にやりとりされる。もうひとつは後続車の周囲を監視するなど、映像監視系の情報だ。トラックに搭載されたカメラや電子ミラーで撮影された映像が、後続車から運転手のいる先頭車へリアルタイムで伝送される。この際の伝送は数十メガbpsという大容量のデータとなる。

■時速80キロ、わずか10メートル間隔での自動隊列走行に成功

こうした大容量通信は、5Gの得意とするところだ。遠隔監視センターが遠隔監視を行う場合、先頭車と後続車の双方から、センターへ映像が送信される。センターでは映像を見ながら、隊列走行に異常がないかどうか監視する。先頭車の運転手に何らかの異変が生じた場合、センターからトラックに緊急停止信号を送信することも、将来的には可能だ。2020年2月には、新東名高速道路のトンネルを含む試験区間約20キロで、3台のトラックが時速約80キロで走行しながら、わずか10メートルの車間距離で隊列を維持することに成功した。この実験では、後続車の自動操舵制御が新たなテスト項目として加わった。それまで後続車のハンドル操作は、後続車の運転手がしていただけに、無人隊列走行の実現に向けて、大きく一歩を踏み出した。

もちろん、今後の課題も多い。高速道路では隊列走行ができたとしても、最終目的地が違えば、人手不足の解消対策にはならないという意見もある。隊列走行を組むにしても、高速道路に乗る前に隊列を組む場所がないという現実的な課題もある。逆にいえば、こうした課題をクリアできれば、トラックの隊列走行は実用化される可能性が高い。まずは空港や港湾など、一般車両の入らない専用道で実現するかもしれない。

■5Gが実現する無人トラック隊列走行のこれから

トラックのみならず、バスの隊列走行の研究も一部で始まっている。JR西日本とソフトバンクは、自動運転と隊列走行技術を用いたBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)の開発プロジェクトを開始すると2020年3月に発表した。このプロジェクトには、先進モビリティも参加し、異なる自動運転車両がBRT専用道内で合流して隊列走行を行う「自動運転・隊列走行BRT」の実現を共同で推進するとしている。

中村尚樹『最前線で働く人に聞く日本一わかりやすい5G』(プレジデント社)
中村尚樹『最前線で働く人に聞く日本一わかりやすい5G』(プレジデント社)

内閣府では物流事業の労働生産性を20%以上向上させるとして、「スマート物流」サービスの実現に向けた検討を重ねている。そのためにトラックの積載効率の向上、モノの動きの見える化、輸送手段の共有化や物流センターの自動化など、様々な取り組みが検討されている。そのスマート物流を支える重要な構成要素のひとつがトラック輸送である。

同時に、新型コロナウイルスにより外出が制限されたり、自粛が要請されたりした中で、トラックによる物流のニーズが格段に増加した。運輸業界の仕事は社会にとって必要不可欠な、いわゆるエッセンシャルワークであり、トラック運転手の負担軽減、人材不足の対応策として、自動運転と5G技術を使った隊列走行への期待が高まっている。

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中村 尚樹(なかむら・ひさき)
ジャーナリスト
1960年、鳥取市生まれ。九州大学法学部卒。専修大学社会科学研究所客員研究員。法政大学社会学部非常勤講師。元NHK記者。著書に『ストーリーで理解する日本一わかりやすいMaaS&CASE』(プレジデント社)、『マツダの魂 不屈の男 松田恒次』(草思社文庫)、『最重度の障害児たちが語りはじめるとき』『認知症を生きるということ 治療とケアの最前線』『脳障害を生きる人びと 脳治療の最前線』(いずれも草思社)、『占領は終わっていない 核・基地・冤罪そして人間』(緑風出版)、『被爆者が語り始めるまで』『奇跡の人びと 脳障害を乗り越えて』(共に新潮文庫)、『「被爆二世」を生きる』(中公新書ラクレ)、共著に『スペイン市民戦争とアジア──遥かなる自由と理想のために』(九州大学出版会)などがある。

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(ジャーナリスト 中村 尚樹)

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