「臭いがすごい3LDK」要介護3の90歳父が住む家の整理代97万円が安いと感じたワケ
プレジデントオンライン / 2021年8月5日 11時15分
※本稿は、上大岡トメ『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』(黒田尚子監修・主婦の友社)の一部を再編集したものです。
■父に続き、まさか母が倒れるとは! 頼りになったのは先を行く友!
◆私の介護体験CASE 1 キングジョージさん(55)の場合
東京都在住。父(85)と母(79)は神奈川県の自宅で二人暮らし。父は5年ほど前にパーキンソン病を発症、母が父の世話を全面的に担っていた。その母に多発性骨髄腫が見つかり、緊急入院。
父(85)は5年ほど前から急激に衰えだし、パーキンソン病と診断された。そんな父の介護を全面的に担っていたのが、6歳年下の母(79)だった。正直、母が病気になるとは想定していなかったし、あったとしてもまだ先だろうとタカをくくっていたので、介護保険についても私(55)はまったく無知な状態だった。
ところが、母に多発性骨髄腫が見つかり、緊急入院することになってしまったのだ。最大の課題は、母の入院中に父をどうするか。東京と神奈川はさほど離れているわけではないが、私も仕事があるので実家でつきっきりの介護はできない。
まずは要介護認定を受けなくちゃ! 当時、弟は海外駐在中。父と母二人の介護保険の申請、母の入院手続き全般、母の入院中の父の預け先探しを私ひとりでやらなければならなかった。膨大な書類を処理するための能力・気力・体力が足りず、その場で判断&選択しなければならないことがあまりに多い。
自分でも驚くほどに追い込まれ「先に倒れるのは私か?」と何度も思った。認定を受けたあとも、どんなサービスを利用するか、どこの事業者と契約するか、決定までに面談や話し合い、書類の記入などが次々にやってくる。「やるしかない」と気力をふりしぼり、地域包括支援センターのかたに助けられ、なんとか乗り切ることができた。
■介護サービスは「遠足のおやつ」方式
二人に要支援2の認定がおりてからも一苦労だった。介護サービスには上限額があり、その範囲内でサービスを選ばなくてはいけない。遠足のおやつと同じだ。200円で大きなお菓子を1つ買ってもいいし、10円、20円の駄菓子を組み合わせてもいい。
でも、何がベストな選択なのかは、私には見当もつかない。そんなとき心強かったのは同世代の友人たちの存在だった。「うちの親はこうだった」「こんな話も聞いたよ」という実体験と口コミが本当に役に立った。
それと並行して、実家を大改造した。実家は2階にキッチンや居間、寝室があったが、母の退院までに生活の基盤が1階になるよう移動させた。たくさんの物を処分したが、母自身が要・不要の判断をしてくれたので助かった。
母にとって最大の気がかりは父の世話ができないことだった。母の回復と家庭平和のためにも、母の負担を減らすサービスも探した。
たとえば父の服薬管理は、薬局にお願いして1回に飲む薬をまとめて個包装してもらった。食事は宅配サービスを利用することに。「こういう部分を助けてほしい」と思ったら、あきらめずに調べる・問い合わせることはとても大切だ。そしてお金で解決できることもけっこうあるので、お金はあるに越したことはないというのが正直な気持ちだ。
■2人の老親の介護をひとりで背負った58歳娘が潰れなかったワケ
◆私の介護体験CASE 2 にゃんこちゃんさん(58)の場合
鹿児島県在住。母(92)は要介護4で現在同居中。父(90)は要介護3で、老健(介護老人保健施設)に入居している。兄が1人いるが、病弱で実際に介護するのはむずかしい。困ったときには相談に乗ってもらっている。
母(92)はこの4年間に2回骨折(股関節と大腿骨)して2カ月ほど入院したが、どちらも術後、院内でゆるやかに拘束されてしまった。そのためか「せん妄」がひどく、このまま治らないのではないかと不安になるほどだった。二度目の退院のあとは、夜間頻尿がひどくなり、ひどいときには10分おきに「おしっこ!」。おむつをつけてもおむつでは排尿できず、トイレに連れていかなくてはいけない。
母をわが家に引きとり、父(90)は3LDKのマンションにひとり残ることになった。しばらくして父の部屋を訪れると、部屋は汚し放題。父は足が萎えてうまく歩けず、トイレに行くのもままならない。部屋じゅうにおうが「これでいい」と言う。しばらくして、父は熱中症で緊急搬送されて入院し、退院後は施設に移ることになった。それを機に、部屋を引き払うことにした。
■3LDKをまるごと処分。予算オーバーの97万円でも大満足の理由
私(58)と父は長年の確執があり、父の持ち物には何の未練もない。必要最低限のものを残してあとは処分することに決めた。家財整理の業者をいくつかあたったが、「トラック1台につき○○円」と提示されていたり、「1時間××円」と時間で決まっていたりと、統一された金額設定がなく、比較しようがなくて迷った。
結局、土・日・祝日対応で作業工程を細かく示してくれる業者に決めたが、提示された料金は97万円。予算は50万〜60万円だったので迷ったけれど、結果、大満足だった。わくように出てくる荷物、エレベーターのないマンション。3階まで階段で何度も何度も往復してくれた屈強なお兄さんたちには感謝しかない。部屋の処理を自分でした場合、奪われる体力と気力は100万円で補えるものではないと思った。
■介護を悲痛なものにするか、笑えるネタにするかは「自分しだい」
現在同居中の母は、相変わらず夜中に「おしっこ!」と叫び、私は十分な睡眠がとれないでいる。でも、日中の母は明るくほがらかで、トンチのきいた楽しい人だ。「施設に入れたら?」と言う人もいるが、母との暮らしには絶えず笑いがある。
「あんなにしっかりしていて、いつもきれいだった母が……」と悲しくなる瞬間もあるが、いまの暮らしを悲痛なものにするか、笑えるネタにするかは自分しだいだと思っている。
そのために私が決めているのは、自分の仕事と趣味には手を抜かないことだ。デイサービスや訪問看護をフル活用し、仕事はもちろん、コーラスの練習にもコンサートにも落語会にも出かけている。「お母さん、ごめんね」の多少の後ろめたさがあるからこそ、母に接するときに優しくできるという側面もあると思っている。
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イラストレーター/エッセイスト
東京生まれ横浜育ち。東京理科大学工学部建築学科卒。建設会社を経てイラストレーターに。一級建築士、講道館柔道初段、日本ヨーガ瞑想協会登録教師。著書にミリオンセラー『キッパリ! たった5分で自分を変える方法』、『のうだま1』(池谷裕二氏と共著)、『日本のふくもの図鑑』、『老いる自分をゆるしてあげる』など多数。
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ファイナンシャルプランナー
CFP1級FP技能士。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書に『50代からのお金のはなし』など多数。
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(イラストレーター/エッセイスト 上大岡 トメ、ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)
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