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「女性にツルツル素肌を求める日本人の常識はおかしい」ドイツ出身作家の"強烈な違和感"

プレジデントオンライン / 2021年8月11日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

夏には「永久脱毛」の広告がやたらと目立つ。ドイツ出身のコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンさんは「ドイツでは、ワキの毛をはやしたノースリーブの女性を見かける。女性だからといって肌をいつもツルツルにしておく必要はないはずだ」という――。

■日本人は女性のムダ毛に敏感すぎる

暑い日が続いています。夏は肌の露出が増え、女性にとっては「素肌」が気になる季節でもあります。とはいえ日本では、ノースリーブを着る女性の肌はいつもツルツルで、どこを見ても「毛」は見当たりません。

それほど日本の女性は「毛」に敏感だといえますが、そもそもワキや腕の毛は「絶対にあってはならないもの」なのでしょうか。

今回はそんな気になる「毛」について海外と比べながら考えてみます。

まず、海外との違いで驚かされるのは、電車内の広告。日本で電車に乗っていると「毛」にまつわる広告の多さにびっくりします。男性の薄毛対策としての育毛剤やカツラの広告はもちろん、女性をターゲットとした「永久脱毛」の広告がやたら目立ちます。

脱毛にまつわる広告で気になるのは、「女性はやっぱりツルツルのお肌にしなくては」「脱毛で綺麗になれば夏も堂々とできる」などと、脱毛がデフォルトでありエチケットであると女性に思わせている点です。

これは人の劣等感をあおり、消費意欲を喚起する「コンプレックス広告」と呼ばれるようになり、昨年は、大手刃物メーカーが打ち出した、剃毛や脱毛を問い直す広告に反響が広がりました。

とはいえ、こういう動きは一部であり、かつ最近のこと。筆者は約20年前に日本に来ましたが、当時、脱毛の技術こそ今のように進んでいなかったものの「毛があることイコール恥ずかしいこと」だという価値観は今と同じでした。

筆者は来日してから長い間、「そういった価値観に洗脳されてたまるものか」と抗ってきたところがあります。そのため腕の毛は長いあいだ「そのまま」の状態で、筆者は特に気にしていませんでした。

ところが日本で暮らしているうちに、たとえ腕であろうと女性が毛を生やしていると、よほど精神的にタフではない限り厳しいものがあることも分かってきました。

■いつまでもかなわない脱毛の無限ループ……

筆者が腕の毛をそのままにした状態で、夏に半袖を着ている時のことです。

知人の日本人男性は「中学生ぐらいの女の子だと、そういう子(処理していない子)たまにいるよね」と、筆者の腕を眺めながら話すのです。

「そんなの気にしなければいい」――それはその通りなのですが、筆者のように「日本のツルツルに洗脳されてたまるか」という強い意志をもっていても、やはり精神的にちょっと弱った瞬間にそういった「指摘」をされると、意外とこたえるものです。

そんなこんなで、筆者も根負けしてしまいました。2年ほど前の冬、ついに腕の永久脱毛をすべくサロンに通い始めました。ところが一冬(ひとふゆ)で毛がなくなるはずが、今も完全には無くならず、今もたびたび腕の毛の照射のためにサロンを訪れています。

そうやってせっせとサロン通いをし、定期的に財布からお金が出ていっても、結果はあくまでも「毛が減ること」または「毛がなくなること」だけですから、筆者としてはあまり達成感がないのです。

でもここで脱毛をストップしてしまうと、かえって残った腕の毛が目立ってしまいます。大袈裟かもしれませんが、なんだかいつまでもかなわない脱毛の「無限ループ」に入ってしまったような気になることもあります。きっと筆者はどこかで「脱毛をしなくてはいけない」ということに納得していないのでしょう。

■ドイツでは「ワキ毛とノースリーブ」はマナー違反ではない

ドイツで育った筆者には、やはり心のどこかで「毛が生えていてもマナー違反ではないはず」と思いたい気持ちがあるのです。

念のために言っておくと、ドイツでも近年、ワキ毛を処理する女性は増えました。ただし日本のような医療用レーザーを使った「永久脱毛」は、ドイツでは値段が高いこともありあまり浸透していません。ワックスなどを使って定期的に毛を処理するのが一般的です。

日本との決定的な違いは、ドイツではワキ毛を処理している女性が増えてきてはいるものの、ワキ毛を処理せずにノースリーブを着ていたとしてもマナー違反にはならないことです。

バスルームで朝のスキンケアをするワキ毛の生えた女性
写真=iStock.com/LeoPatrizi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LeoPatrizi

たしかにドイツでワキ毛を処理しないまま電車などに乗れば、ファッションに敏感な人や若い世代など「処理している人たち」から「処理すればいいのに……」と言いたげな視線を感じることもあるでしょう。

でも日本のように、周りが「なんだかヤバイものを見てしまった……」という深刻な雰囲気になることはありません。実際にドイツのオフィスや公共交通機関でも、ノースリーブを着ながらもワキの毛が生えている女性は見かけるのです。

■ヨーロッパの「アンダーヘア・ゼロ」ブーム

話は少し下の方にそれますが、さらに興味深いのは「ノースリーブを着た女性にワキ毛があること」については寛容である一方で、近年のドイツでは男女ともに「アンダーヘアをゼロ」にしている人が多いことです。

欧州では「下がツルツルであること」がいわばマナーというか常識のようになっているといっても過言ではありません。

特にスポーツ好きやサウナ好きの人のあいだでは男女を問わず、「アンダーヘアは処理してツルツルにする」という暗黙の了解があります。そのため、もしドイツのサウナに行く場合、アンダーヘアを処理していないと、一瞬だけ皆の注目を浴びてしまうことになるかもしれません。

以前、サッカーの香川真司選手が欧州のあるクラブに所属していた際、メディアに「欧州の選手に合わせて、自分もアンダーヘアを全部剃っている」と話をして日本でも話題になったことがあります。

アンダーヘアを処理する理由について、一般的には男女ともに「スッキリするから」「便利だから」「衛生的だから」「恋人とおそろいにしたい(恋人もアンダーヘア・ゼロ状態)」などの理由があるようです。

ドイツの女性はスカートよりもパンツを穿きますが、ドイツのパンツは身体の線がハッキリ出るデザインのものが多いです。「ショーツの線が外に響いていないか」を気にする女性が多いためTバックが人気です。そして日常的にTバックを穿くとなると、やはりアンダーヘア・ゼロの状態が便利というわけです。

ただ気が楽なのは、「ワキ毛」や「腕の毛」と違って、アンダーヘアというのは、電車やオフィスにいて、第三者から見えるものではありません。たとえ処理をしていなくても、サウナにでも行かない限り、日常生活で知らない人からの視線を気にする必要はありません。

■同性からも厳しい視線が注がれる日本

それにしても、日本は「女性の毛」に対する視線がとにかく厳しいのです。

レストランで食事するオフショルダーの服を着た女性たち
写真=iStock.com/RyanKing999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

以前テレビを見ていたら、とある民放局の情報バラエティー番組が、旧東ドイツの歴史のことを取り上げていました。日本の著名人や芸能人がベルリンなど現地を訪れ、かつて東側で生活していた人の話を聞く様子が紹介されていました。

そのなかでおやっと思ったのは、日本の女性芸能人が「昔の東ドイツの女性スポーツ選手は男性っぽくて、とても女性とは思えなかった」といった趣旨の発言をしていたことです。

日本人にとって昔のオリンピックで旧東ドイツの女性スポーツ選手がワキ毛を生やしたまま出場していた時のインパクトが強かったのだと想像します。

昔も今も日本には「女性は、頭髪をのぞく『人の目に触れる体の部分』の毛は全てなくすべきである」という不文律が存在するわけです。でも美容を扱う番組でもないのに、女性の身体の「そういったこと」(つまり脱毛しているか・しないか)ばかりを気にしてしまうのは視野が狭い気もします。

■男女でこれほどまでに違う脱毛基準

話が飛び過ぎかと思われるかもしれませんが、「女性がツルツルの肌であること」や「毛がないこと」ばかりに目が行くようでは、男女平等はなかなか達成できないのではないかと思います。

「毛」にまつわる美意識について、日本では男性と女性とで基準に差があり過ぎると思うのです。

サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)
サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)

女性のワキについては「毛がないツルツルの状態」を「常識」だとしているのに、男性のワキ毛の処理はあくまでも「オプション」。だから5年前のリオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得した体操の内村航平選手が競技後に両手を挙げてポーズをとった際にワキ毛が全開になっても、そのことに違和感をもつ日本人はあまりいませんでした。

ワキ毛を生やしている内村選手にはもちろん何の否もありません。それでも筆者は「女性がワキ毛を生やしたままガッツポーズをしたら、あれこれ言われるのに……」となんだか悔しくなってしまいました。

ドイツを含むヨーロッパのスポーツ界では男女ともにワキの毛もアンダーヘアも処理している人が近年多いそうです。そのため内村選手の「ワキ毛」は当時むしろ欧米人の間で話題になりました。

でも前述どおり、一般人のワキ毛に関しては、感覚がゆるいためドイツでは「ワキ毛があってもマナー違反ではない」のです。日本ではなぜこうも有名人・一般人にかかわらず「女性の毛」に対して、あんなにも厳しいのでしょうか。

■「ツルツルにこだわるの、もうやめませんか」

女性が「毛のないツルツルの肌」を目指してせっせと脱毛サロンに通うのは、女性の生きにくさの象徴でもあるように感じます。ニッポンの女性が全員ツルツルになることに、なぜこれほど「こだわる」必要があるのだろう……と思ってしまいます。

相手はたかが「毛」なのですから、脱毛してもよし、しなくてもよし、ぐらいの雰囲気でよいと思うのですが、これは期待しすぎなのでしょうか。

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サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)など。

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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

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