デキると評判の人が仕事相手の心をすぐにつかむために使っている「ある質問」
プレジデントオンライン / 2021年8月12日 9時15分
※本稿は、浅川智仁『仕事ができる人は、3分話せばわかる 信頼を勝ち取る「準備・具体性・ストーリー」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■話は「分解」して、イメージを明確にする
私が、物事をより具体的に掘り下げたいとき、大切にしているのは、「分解」という行為です。
たとえば、「幸せになりたい」という言葉。
人によって、「お金持ちになりたい」のか、「悩むことなく過ごしたい」のか、「家族と一緒に平凡に暮らしたい」のか、それぞれ「幸せ」のイメージは異なります。
「お金持ちになりたい」としても、「年収1000万円でよし」とする人もいれば、「1億円はほしい」という人もいる。
分解して掘り下げないと、具体的なイメージがわかりません。
たとえば私は、研修の注文を獲得してきた社員に、次のように深掘りして尋ねます。
「この会社さんは、どうして研修をやりたいの?」
「えーと、営業パーソンの営業力を上げたいらしいです」
「その営業パーソンって、どの層の営業パーソンなの?」
「えっ?」
「研修によって営業力をアップさせたいのが、新入社員なのか、入社2~3年目の若手なのか、10年そこそこの中堅なのか、店長クラスなのか、マネジメントクラスなのか、層によって研修の中身は変わるよね。どの層への研修を望まれているの?」
「……すみません、聞いてないです」
「いや、そこは聞こうよ!」っていう話です。
さらに、ひと口に「営業力アップ」と言っても、「営業としての心がまえの強化」なのか、「営業テクニックの強化」なのか、それによっても研修内容は変わります。
相手のニーズに正しく応えるためには、このように、「分解」して掘り下げ、イメージを明確にする必要があるのです。
■「御用聞き営業」から「頼りになる相談役」へ
もし、質問をして、相手の要望を分解して掘り下げれば、
「マネージャー層の、会社に対する忠誠心が、創業期はめちゃくちゃ強かったのに、社員が増えることでだんだん弱まってきている。ここを変えたい」
「中堅クラスの営業パーソンたちの、『自社の商品でお客さまに貢献しよう』『世の中のために尽くそう』という思いが、最近弱まってきている。それを思い出させたい」
「若手営業パーソンたちのアポ獲得率が低い。クロージングのパーセンテージが、昨年より3割も落ちている。なので、アポ取りとクロージング率を上げたい」
そんな具体的なニーズがわかるはずです。
「営業力が落ちているんです」と相談してきた研修の発注者に、
「ありがとうございます。『営業力が落ちている』とは、成約の件数が落ちているんですか? それともクロージング率ですか? 売上の金額ですか? 利益率ですか?」
って聞くと、それだけで、相手がドキッとすることもあります。
「調べてから、また相談します」となって、発注担当者の成長にもつながります。
そうして、「調べた結果、受注件数が落ちていました」とわかれば、今度は、「件数を上げるために何が必要か?」「行動量が少ないのか?」「狙い先リストが少ないのか、あるいは弱いのか?」など、さらに「分解」して一緒に考えてみる。
それで、もしも「リストが少ない、弱い」ということが営業力低下の原因なら、「ウチで研修をしなくても、リストを充実させてくれるサービス会社がありますから」などと、別の解決策を提案できるかもしれません。
それはもう、ただの「御用聞き営業」を超えた、「頼りになる相談役」ですよね。
できる人はそれを知っていて、分解して深掘りすることで信頼を得ているのです。
■「幸せになりたい」を分解することで幸せになれる
「幸せになりたい、それはそうですよね、ちなみに、○○さんの考える『幸せ』というのは、健康的な幸せですか? 経済的な幸せですか? それとも仕事についての幸せなのか、人間関係の幸せなのか。強いて言えばどれでしょう?」
「あー、そう言われると、人間関係ですかね」
「ありがとうございます。ちなみに人間関係で言うと、上司、部下、同僚など、職場における人間関係か、それとも両親、奥さん、お子さんなど、家庭における人間関係か。どちらなんでしょう?」
「その意味では、職場ですね」
分解することで、相手はとりわけ職場における人間関係に、悩みを抱えていることがわかりました。
さらに具体化するために、分解を続けます。
「となると、先ほどお伝えしたように、上司、部下、同僚、どれなんでしょう?」「上司です」
「その上司というのは……? 差し支えなければ教えてもらえますか?」
「部長ですね」
「ということは、今、○○さんにとっての幸福度に一番インパクトを持っているのは、部長ということでよろしいですか?」
「そうですね」
こうなると、その人にとっての今の「幸せになりたい」は、「部長との人間関係のストレスをなくしたい」ということになります。
分解するように質問することで、曖昧だった言葉の正体が明確になるわけです。
■相手のニーズを明確にするための質問
では、続いて「営業力をアップさせたい」についてのトーク例。
「ちょっと聞かせてください。営業力をアップさせたいというのは、具体的に、どの年齢層の営業パーソンを元気にしたいな、とかいう希望はありますか? もっと言うと、誰に元気になってもらいたいとか、具体的な人物は浮かびませんか?」
「あー、そう言われると鈴木君かな」
「ありがとうございます。ちなみに、鈴木さんを元気にしたいっていうのは、どうしてなんでしょう?」
「実は、私が人事採用担当になった最初の年に彼らは入社して、入社時の鈴木君はすごくキラキラしてたんですよね。でも、この前、事務所に見に行ったら、ちょっと落ちこんでいた。ぜひ、彼に売る力をつけてもらって、もう一度元気になってもらいたい」
ここまでの質問で、相手は「鈴木さん」をイメージされていることがわかりました。
そこで、鈴木さんを中心に、どんな内容の研修にするかを明確にしていきます。
「鈴木さん世代の営業パーソンは、何人ぐらいいらっしゃるんですか?」
「40人です」
「その40人は、何年目の方ですか?」
「入社3年目です」
「じゃあ、その入社3年目の40人の方々に、元気が出る研修を行なうということは、メリットがありそうですか?」
「そうですね、ぜひ、お願いします」
という感じでしょうか。
このように、質問することで、だんだんとイメージが具体的になってきます。
■一歩踏み出せない原因を突き止められる
もっと言えば、お客さまとの予算の交渉も、「分解力」がものを言います。
怖れることなく、
「差し支えなければ、予算がおいくらなのか、だいたいの幅でもかまいません、教えていただけますか?」
と聞けばいい。
金額を伝えて「高い」と言われたら、これも分解する質問で返せます。
「ありがとうございます。ちなみに何と比べて高いのか、教えてもらえますか?」
と聞けばいいのです。
お客さまから「高い」と言われると、それで終わってしまう人がいます。
とくに不動産会社の営業研修のときによく言うのですが、「高い」とお客さまが言ったときに、「ですよね」で終わるのでは、営業パーソン失格です。
そこでどうして、「何が高いのか?」と聞かないのでしょう。
「今、お客さまが高いとおっしゃるのは、何について高いと感じられたのでしょう? 物件価格が相場に比べて高いということですか? 仲介手数料でしょうか? それとも手付金の額ですか?」
「手付金が高いかな」
「ありがとうございます。今回、仮に物件価格の10パーセントとしたら、250万円から300万円ぐらいの手付金が必要になります。それが若干高いっていうことで、間違いないでしょうか?」
「間違いないです」
分解することで、金額のなかでも、とりわけ「手付金」が高いことがわかりました。
そうすると、手付金にしぼって、さらに分解して質問を続けます。
「たとえば仮に、できる、できないはちょっと横に置いておきますが、150万円になったとしたら、現実的ですか?」
「そうですね、150万円になったら現実的ですね」
「月々のお支払いは若干上がりますが、手付金が150万円だったら現実的ですね?」
「現実的です」
「180万円ではどうですか?」
「180万円でも現実的です。でも、200万円以上はキツい」
「わかりました。200万円はちょっとしんどいってことですね。では、少しお時間をください。私、上司と交渉しますから。180万円まで下げられたら、前に進めましょう」
「ああ、じゃあ、お願いします」
いかがですか?
質問して分解すると、イメージが具体的になるだけでなく、相手の真の目的や、もう一歩を踏み出せない理由も明らかになります。
そして、交渉のアプローチの幅もグッと広がるのです。
できる人の「質問トーク」。
ぜひ、参考にしてください。
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営業コンサルタント、ライフデザインパートナーズ代表取締役
1978年山梨県生まれ。早稲田大学卒業。グローバル展開をしている能力開発企業で、入社2年で年間トップセールスを獲得したのち、独立。営業コンサルタントとして、1万1000人以上のビジネスパーソンや経営者の成績アップに貢献している。2010年8月には『The Japan Times』が選ぶ『アジアを代表する次世代の経営者100人 2010』に選出。著書に『できる人は、3分話せば好かれる』(三笠書房)、『お金と心を動かす会話術』(かんき出版)、『できるリーダーは、こう話す』(PHP研究所)などがある。
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(営業コンサルタント、ライフデザインパートナーズ代表取締役 浅川 智仁)
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