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「もしも入院制限にあったら…」コロナ自宅療養でわが身を守るために必須の"ある医療機器"

プレジデントオンライン / 2021年8月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

政府は8月2日、コロナに感染し中等症と診断されても、症状が軽い人や重症化リスクの少ない人は自宅療養とするという方針を決めた(5日に「中等症も原則入院対象」と軌道修正)。麻酔科医の筒井冨美氏は、「軽症でも中等症でも在宅療養者は、容体の急変で命を落とすことがないよう、重症化の目安となる血液中の酸素飽和度を測定できるパルスオキシメーターを準備すべき」という――。

■政府に見捨てられた? 入院できぬコロナ自宅療養者が用意すべきモノ

8月2日、政府は新型コロナウイルスの感染拡大が続く地域において、中等症患者であっても「症状が軽い」あるいは「重症化リスクの少ない」患者に関しては、「自宅療養」とする方針を出した。

この政府の新方針に対し、医療機関からは「(これまで通りに入院していれば)早期に治療できていたものが、対応が遅れて重症化し、かえって重症病床がより逼迫(ひっぱく)する恐れがある」といった懸念が噴出している。

与党や野党からも撤回要求が出たが、菅義偉首相は突っぱねようとしている。

※編集部註:8月5日、田村憲久厚生労働相は、「中等症の中で、比較的、重症化リスクの低い人は自宅で対応いただく」としたものの、「中等症は原則入院」「肺炎の所見があり、息苦しい人は入院するのが当たり前だ」と述べた。中等症で入院できなくなるとの懸念や批判を受け、軌道修正した形。

7月下旬の東京五輪の開会式以降、全国的にコロナ感染者が急増している。東京だけで感染者数が1日4000人以上の日もあり、1万人超も現実味を帯びてきた。

リスクが高まる中、もし、自分がコロナに感染して発症したらどうすればいいのか。入院もさせてくれないし、ホテルなどの施設にも入れてくれない。医師からは、ただ、自宅で療養してください、と冷たく言われたら……。こんなに心細いことはないだろう。

多くの人の脳裏をよぎるのは、今春、大阪で感染者が急増した際、入院を拒否され自宅で半ば放置されたような状態の患者が続出したことだ。自宅で容体が急変して亡くなった人も少なくない。

それと同じことが感染者の多い東京を含む首都圏中心に起こる可能性がある。一人ひとりにできることは感染防止対策を念入りにすることしかないが、感染力の強いデルタ株が拡大する中、いつ当事者になってもおかしくない。

■中等症、軽症の人の命綱「パルスオキシメーター」

そこで、改めて注目したいのが「パルスオキシメーター」という医療機器だ。ネットニュースやネット通販、書籍では下記のように“別名”で呼ばれることがある。

・サチュレーションモニター
・経皮的酸素飽和度計
・血中酸素測定器
・SpO2(エスピーオーツー)測定器

用語が入り乱れているが、これらはすべてパルスオキシメーターのことだ。入院させてくれないなら、これを少なくとも一家に一台、用意して自宅療養に備えるしかない。

パルスオキシメーター
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

ここで、パルスオキシメーターの仕組みを簡単におさらいしよう。

血液中には、酸素を体中に運搬するヘモグロビンという色素がある。コロナ感染関連のニュースでしばしば登場する「酸素飽和度」は「ヘモグロビンの何%が酸素と結合しているか」を示す指標である。

健康成人の正常値は96~100%だが、喫煙者・高齢者・肥満者などは約2~5%低下していることが多い。そして90%以下となると「低酸素血症(ハイポキシア)」と呼ばれて、酸素投与などの治療対象となることが多い。

酸素を結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)は鮮やかな紅色であり、酸素を結合しないヘモグロビン(還元ヘモグロビン)は暗赤色となる。低酸素血症となった患者が「顔色が悪い」のは、暗赤色の還元ヘモグロビンが増えるために唇や頬などがくすんだ色調になるからである。

このヘモグロビンの「酸素の有無で色調が変化する」性質を利用して、光を透過させることによって酸素飽和度をリアルタイムに測定できる機器がパルスオキシメーターである。

従来は、わざわざ動脈から採血しないと測定できなかった(この場合はSaO2表記される)データが、簡便に得られるようになり、酸素飽和度は「血圧・脈拍・体温・呼吸数に次ぐ第5の生体サイン」とも言われている。ちなみに、このパルスオキシメーターは1974年に日本の医療機器メーカーである日本光電(本社:東京都新宿区)によって発明された。

開発者である青柳卓雄氏はコロナ第1波渦中の2020年4月に亡くなり、ワシントンポスト紙などで世界に報じられた。

■「息が苦しい」と言う代わりに「酸素飽和度が98から92へ落ちた」と言え

パルスオキシメーターを入手したら、まずは平常時に測定して、ベースラインの酸素飽和度を把握することが大切である。女性の場合、マニキュアのある指では正確な数値が出ないので、足指など何も塗っていない部分で測定しよう。指先が冷たい場合も脈が拾いにくいので、暖房やお湯などで指を温めた上で測定すると出やすい。

また、近年、女性に流行しているジェルネイルは専門店でないと除去できないため、スムーズに自宅での酸素飽和度の測定が困難になる。患者数が過去最大を更新するようなコロナ流行期にはお勧めできない。どうしてもしたいなら、2021年夏は「手指のみジェルネイルだが、足指はジェルネイルなし、あるいは落としやすい通常マニュキュア(足指で測定)」にすることを強くお勧めする。

マニュキュアをした指にパルスオキシメーターを装着しても正確な数値の測定ができない
写真=iStock.com/Yuliia Kutsaieva
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuliia Kutsaieva

何らかの体調の変化を感じた場合、微熱であっても酸素飽和度をマメに測定し、「90%未満」あるいは「ベースラインよりも5%以上低下」がみられる場合には、「かかりつけ医師」「発熱外来」「保健所」などに電話して「受診すべき病院」や「入院が相当ではないか」などの指示を仰ぎたい。単に「息が苦しい」と訴えるよりも、「普段の酸素飽和度は98以上なのに、今朝から92~3」という数値化された情報は、医療機関における判断の助けになるだろう。

こうした数値の推移を記録しておけば、当初の扱いが「入院不要なコロナ軽症」だった人が、「入院可能な中等症」へ格上げされる可能性もあるかもしれない。

もっとも、入院治療といっても医療ドラマのように「ホテルのような部屋でイケメン医師やかわいいナースが献身的に治療」を期待してはいけない。「医師の回診は1日数分間、看護師は基本モニター越しの会話、配膳される病院食はビミョー」おまけに「4人部屋で、遅いwi-fi、消灯21時」というのが平均的なコロナ中等症病床の現状である。

酸素飽和度が95%以上あり、タブレットで動画を見たりSNS発信できるレベルの元気があるならば、「保健所に登録した上で自宅療法」というのも悪いアイデアではない。実際、酸素飽和度が正常範囲なのに強く入院希望するので無理やり病床を確保したら、「個室じゃない」「wi-fiない」「隣の患者のイビキがイヤ」のような理由で帰宅するコロナ患者も少なくない。これはこれで問題だ。

■「ハッピーハイポキシア(幸せな低酸素血症)」という深刻な状況

健康な成人が急に酸素飽和度が90%以下になるような低酸素血症に陥ると、通常は強い呼吸困難感に苦しめられる。医大生の実習でパルスオキシメーターを装着した後に「酸素飽和度が90%になるまで息を止めて」と指示しても、9割以上の学生は苦しくなって脱落してしまう。

ところがコロナ肺炎では、ウイルス感染によって酸素飽和度が70~80%のような重度の低酸素血症の状態になったにもかかわらず、患者が「息が苦しい」と訴えないことがある。そのため重症化の発見が遅れることが問題となっている。

この現象を科学雑誌『サイエンス』が「ハッピーハイポキシア(happy hypoxia:幸せな低酸素血症)」と呼んだことで世界中の医療関係者に知られることになった。

日本でも「自宅療養していたコロナ軽症者に医療機関が電話で容体を確認しても特別な訴えがなかったので特に警戒していなかったところ、その後に急変して死亡」というケースが報道されている。その陰には、ハッピーハイポキシアがあった可能性が指摘されている。

■中等症コロナで自宅療養を指示されたら~うつ伏せの効用~

コロナ中等症と診断されたものの、自宅療養と指示された場合、どんな治療がほどこされるのか。コロナ治療の基本は「酸素投与」と「ステロイドを中心にした薬物治療」であり、これは在宅療養でも変わらない。「一瞬で治る魔法の薬」「神の手を持つコロナ名医」は存在せず、「肺組織とウイルスの闘いに耐え、そのダメージからの回復を待つ」という地味な治療方針となる。

さらに自宅で可能な治療法を追加するならば腹臥位療法、要するに「うつ伏せで寝る」ことだろう。肺炎の療養中は長期間仰向けで横たわっている時間が多いので、どうしても背中側の肺組織に分泌物が貯まってダメージを受けやすい。

そこで、意図的に腹臥位の時間を設けて、肺の背中側のダメージを軽減すると、肺炎の重症化を予防できることが、かねて知られていた。コロナ肺炎も例外ではなく、今も多くのコロナ病棟で人工呼吸器やECMO使用中の重症患者を、うつ伏せにすることで肺を守っている。

笑顔を浮かべながら腹臥位で眠る男性
写真=iStock.com/paulaphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paulaphoto

腹臥位の有用性は中等症コロナにも共通する。パルスオキシメーターで測定すると、「仰向け→うつ伏せ」にするだけで酸素飽和度が2~3%上昇することもある。

もし「完全うつ伏せ」が困難ならば、枕などを活用して「左斜め下」「右斜め下」とパルスオキシメーターの数値を参考にしつつ交互に体位変換するのも有用である。自分や家族が感染した際の対処法として覚えておきたい。

■パルスオキシメーターの選び方

なお、このパルスオキシメーターは、以前は安くても数万~数十万円する高価な医療器具だったが、コロナ禍で製造開発が急速に進み、最近では医療機器認証を受けた製品でも数千円で販売されている。数十グラムのポケットサイズが数多く販売されており、持ち運びも簡単である。

筆者としては、医療機器認証を受けた製品をお勧めしたいが、患者急増もあってアジア製の非認証製品しか手に入らないこともある。非認証製品の信頼性を確認したければ、「パルスオキシメーターを装着した状態で息を1分程度止めたら数値が1~2%低下」すれば、当面の家庭内使用は可能と思われる。

パルスオキシメーター
写真=iStock.com/natatravel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/natatravel

測定方法もクリップのような機器で指を挟んで数秒待って、モニターに表示された数字(酸素飽和度と心拍数の2つが表示される)を読むだけであり、高齢者でも簡単にマスターできるだろう。

発熱患者が発生した場合、地域によってはパルスオキシメーターを貸し出しする施設もあるが、数に限りがあり、迅速に入手できるとは限らない。よって、流行が心配な地域や外出が必須の職業ではネット通販や家電量販店などで入手するといいのではないか。

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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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