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「疎遠な親族から猛抗議」よかれと思った"墓じまい"が医者一族の決裂を招いたワケ

プレジデントオンライン / 2021年8月13日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazunoriokazaki

「終活」を成功させるには、どうすればいいのか。由緒正しい医者一族で、五人兄弟の末子という78歳の男性は、エンディングノートに「死後に墓じまいしてほしい」と記した。妻がそのとおりに墓じまいを実行したところ、疎遠だった親族から猛抗議を受けることになった。決裂の原因はどこにあったのか――。

■よかれと思って進めた終活が、マイナスの結果に

就活、恋活、婚活、妊活、保活……。数ある「○活」の中で、「終活」だけはどんなに頑張っても、その結果を自分で知ることができない特異な側面を持つ。万全な準備をしても、思わぬトラブルが起き、しかもそれを自分でコントロールできないもどかしさも残る。

高齢者の間でブームになって久しい終活は、「死後の準備」そのもの。葬儀の進め方や墓の在り方、相続を争続にしないための財産分与の方法を遺言であらかじめ示しておくなど、多岐にわたる。

家族や親族の意向に気を配り、万全の準備をしたつもりでも大きなトラブルを招くこともある。よかれと思って進めた終活が、マイナスの結果を生む可能性もある。逆に、終活を全くしなければ、それはそれで、死後に家族の深刻な対立を招くことにもなりかねない。

「終活の失敗」事例を振り返りながら、その対策を考えてみたい。初回は「墓じまい」について。

■末子ながら跡継ぎと墓守を託されたAさん

死後、故人をどう弔うか。その形態はこの20年ほどで大きく変わってきた。「○○家之墓」を建てるのが一般的だったが、海や山に骨をまく散骨、樹木葬など、墓そのものがない形も増えてきている。また、長く続く墓の維持に頭を悩ませる人も多い。

墓守をしていた人が亡くなり、遠方にある墓の維持が難しくなったなどの理由で、墓を引っ越す「墓じまい」。少子高齢化が進み、全国で増える傾向にある。厚生労働省の「衛生行政報告例」によれば、墓じまいの数、つまり改葬数は2019年に全国で12万4346件。その10年前、2009年の7万2050件から7割以上増えている。数が増えれば、それだけトラブルも増える。

2年前に78歳で亡くなったAさんの家は、江戸時代、某藩の藩医を務めていた家柄。先祖代々の墓所には、江戸期・天保年間からの墓が7~8基あった。墓所のある先祖のふるさとから昭和の初めころ、やはり医師だったAさんの祖父が県庁所在地へ移り、その後、隣県へ移る親族も出た。Aさん自身は五人兄弟の末っ子で、大手企業のサラリーマンを勤め上げたが、兄たちはいずれも開業医で、地元で名の通った医院を続けている。Aさんは末子ながら父にかわいがられ、跡継ぎと墓守を託された。

墓参と法事だけを、県庁所在地から車で1時間ほどかかる墓の近くのお寺で行う不便さを感じていたAさんは、がんと闘いながら書きつづったエンディングノートにこう書いた。

■百数十万円をかけて先祖の墓の墓じまいを断行

「ご先祖さまには申し訳ないが、墓が遠すぎて墓参にも管理にも苦労する。あなた(妻)にそんな苦労はさせられない。自宅近くの○○寺の住職と懇意にしているから、そこに小さな墓を建ててほしい。兄弟にも、それぞれに墓を建てるなりするよう、すでに伝えてある。先祖の墓は墓じまいすべきだと思うが、私にはもう時間がない。私の埋葬を終えたら、墓じまいしてほしい。以前、墓じまいする方向で兄たちに話をしたことがある」

Aさんの妻は、エンディングノートに従い、百数十万円をかけて先祖の墓の墓じまいを断行した。Aさん夫婦に子どもはいない。「勝手に墓じまいしてしまってご先祖さまに申し訳ないという気持ちはあったが、かといって『A家先祖代々之墓』を建てれば、その墓は誰が見るのかという問題は残ってしまう。それで、宗派を問わず永代供養してくれる宗教施設の永代供養塔に合葬してもらった」という。

墓じまいで多くの問題が起きるのは、墓のあったお寺の檀家(だんか)から抜けるために支払う「離檀(りだん)料」と呼ばれるお金。だが、寺の提示金額は「さほど高いとは思わなかったので、そのとおり支払い、すんなり決着した」。墓じまいを提案しただけで、檀家が減るのは困ると怒り出す住職も存在する中で、寺との関係でもめ事は起きなかった。

Aさんの家の墓は江戸時代から続くため、区画が大きく、また墓地の入り口付近にあって最もお参りしやすい場所にあったためか、墓じまいの申し込みをした直後に別の埋葬希望者が複数現れ、すぐに「売却済み」となった。これが、寺との間で問題が起きなかった最大の要因とみられる。

■墓じまいを知った長兄の長男が猛反発

墓じまいがすんなり終わると思った矢先、一部の親族から強硬な反対が出て、足をすくわれた形になった。

墓じまいに際しては、近隣に住む主だった親族には声をかけ、その同意を得た。誰からも異論は出ず「墓じまいまで、末弟に頼りっぱなしで悪いね」との言葉ももらった。しかしAさんの長兄の家には「以前に墓じまいの話をしたことがある」というエンディングノートの記述を信じて、墓じまいの直前に手紙で伝えた。

家族の問題について話している男
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

というのも、Aさんの父が亡くなり、跡継ぎになった際の遺産分割で兄弟がもめ、長兄が遺留分を求めてAさんを相手に裁判を起こした過去があるからだ。典型的な「争続」で、裁判終結以来、長兄の家族とは年賀状のやり取りもしないほどの断交状態になっていた。また、長兄家族は遠方に住んでおり、墓参もあまりしていなかったという。

ところが、墓じまいを知った長兄の長男Bさん(54)が猛反発した。Aさん側にとっては思いもよらない反応だった。

■最大の要因は親族間の連絡不足

長兄は認知症を患い、先ごろ他界したばかり。Bさんは「亡くなった父親の骨は、先祖代々の墓所に埋めるつもりだった。なぜきちんと同意を取らずに勝手に墓じまいするのか。私は反対だ。一部の区画でもいいから残してほしい。それに、最も問題なのは、勝手にご先祖さまを永代供養塔に合葬したことだ」と抗議の電話をかけてきた。

先祖の墓の区画は先にも書いたようにいわば「売却済み」で、今さら、一部だけ墓を残すこともできない。Aさんの妻にその気持ちもなかった。永代供養塔に合葬したのも、今後を考えてのことで、何が問題なのか、とも思っている。

Aさんの妻はBさんの狙いをこう推測する。

「すべて金銭負担の問題でしょう。新たな墓を建てるより、先祖代々の墓にお骨を納めるほうがお金がかからないですからね」

長兄の葬儀にも呼ばれなかったが、意に介してはいない。

「ふだんの親戚付き合いはないに等しく、墓参だって、長兄の家族は数年に一度程度しかしていない。墓掃除から何から、こちらに押し付けておきながら、先祖の墓だけ残しておけという。そんな道理は通りません」

一方、Bさんは「ご先祖さまを永代供養塔に合葬されると、自分のルーツを失ってしまう感じがある。墓じまいをするなら、親族が一堂に会して法要ができるような菩提寺を新たに設けるべきだ」といまだに反発を続けている。

このケースでは、Bさんへの連絡不足が問題をこじらせた最大の要因だ。早めにBさんに連絡し、説明に意を尽くしておけば、少なくとも、今に至る紛争の種にはならなかったのではないか。

すでに墓じまい自体は完了し、Aさんの妻とBさんとの不毛な感情的対立だけが残った。Aさんの妻にとっては、これまで実質的に親族付き合いをしていなかったBさんの動向を常に気にしなければならなくなり、Bさんにとっては、ご先祖さまの墓を無くされたという大きな不満が残った。

今回の事例では、事前にきちんとBさんへ墓じまいの連絡をしていたとしても、諍(いさか)い自体は避けられなかっただろう。だが、Bさんとしては、自分だけ直前まで連絡がなかったことで感情が逆なでされ、必要以上に事を大きくしてしまったのかもしれない。

「終活」をめぐる感情のもつれは、非常にデリケートだ。たったひとつの連絡の有無で、無用なトラブルを抱え込むことになってしまう。くれぐれも注意してほしい。

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畑川 剛毅(はたかわ・たけし)
ジャーナリスト
1960年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。1983年読売新聞社入社。89年朝日新聞社に転じる。経済部、オピニオン編集部、文化くらし報道部などを経験。88年には、世界最高峰チョモランマ(エベレスト)の遠征隊を取材。96年から97年にかけて、返還直前の香港に駐在。著書に『線路にバスを走らせろ-北の車両屋奮闘記』(朝日新書)、『負動産時代』(朝日新書・共著)、『看取りのプロに学ぶ幸せな逝き方』(朝日新聞社・共著)などがある。

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(ジャーナリスト 畑川 剛毅)

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