「ギラギラ系のチャーハンと餃子だけじゃない」冷凍食品売り場で起きている"大異変"
プレジデントオンライン / 2021年8月11日 8時15分
■高級スーパーのような雰囲気
こんにちは、桶谷功です。
冷凍食品の消費量は右肩上がりに伸び続けています(図表1)。
そんな中、最近、スーパーの食料品売り場に、ある変化が起きているのにお気づきでしょうか。
じつは冷凍食品の売り場がどんどん増えています。それも従来のように、冷凍食品だけが一カ所に集められているのではありません。
いつもの肉売り場の冷蔵ケースの横に、背の高い縦型の扉付き冷凍ケースを設置し、そのなかに冷凍肉や、肉を使った冷凍のお総菜を並べる。あるいは魚売り場のすぐ隣に、冷凍の魚の切り身や魚介類、そして「殻付きあさりのガーリックバター風味」「エビとブロッコリーのバジルバターペンネ」といった比較的高価な冷凍総菜も置く。こんなふうに、今までにない売り方をするようになったのです。
冷凍食品といえば、少し前はスーパーの安売りの目玉商品でした。毎日のように4~5割引のセールがおこなわれ、「半額!」という派手なポップが躍っていたものです。
しかし新しい冷凍食品売り場には、まるで輸入食材を扱う高級スーパーのような、落ち着いたムードが漂っています。いったいなぜ、こんな変化が起きたのでしょうか。
■手間暇かけてつくられた冷凍ギョーザ
まず冷凍食品そのものが、コロナ禍で売り上げを伸ばしていることが挙げられます。また冷凍技術が進化して、味もずいぶんおいしくなりました。
そんななか、味の素の公式Twitterがこんな発言をしました。
「冷凍餃子を食卓に並べたら、夫に手抜きだと言われた」というあるTwitterユーザーのつぶやきに対して、「冷凍餃子を使うのは、手抜きじゃなくて、手“間”ぬきですよ!」とコメントしたところ、喝采を浴びたのです。
じつは「手抜きじゃない、手間抜きだ」というのは、業界筋ではよく言われていたフレーズだそうですが、一般には知られていなかった。さらに味の素はこれを機に、冷凍ギョーザができるまでの144の作業工程を動画で公開。「こんなに手間暇かけてつくられています」とアピールしたのはさすがでした。
■代わり映えしない冷食にイノベーションを
実は私は、マーケティングの仕事でずっと冷食に関わってきました。冷食というものをブレークスルーさせたいと昔から思っていたのです。しかし冷食コーナーを見にいくと、どうも代わり映えしない。やっぱりメインはチャーハン、餃子にお弁当のおかず。せいぜいパスタの種類が増えたくらいで、価格帯も200~300円台のものがほとんど。
しかし、おせち料理や地方の名産品などを取り寄せると、冷凍された状態で届きます。カニのような高額商品が冷凍で送られてきても、「なんだ、冷凍かよ」とはならない。
ということは、冷凍という保存方法そのものが悪いわけではない。おそらくスーパーなどの量販店で売られている、いわゆる「冷食」に、「安物」「おいしくない」「手抜き」といったイメージが結びついているだけ。なんとかして、これを打ち破れないか……。
![冷凍食品売り場](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/6/670/img_96ba3702cdadb245ee2c57618ac0f2e2412044.jpg)
そんなときに出てきたのが、この新しい売り場です。
■ギラギラ派の「チャーハン・餃子」とは違った“そっけない”冷食
縦型の冷凍ケースの中をよく見ると、肉売り場なら1キロ、500グラムといった塊肉が売られています。あとは馬刺し、ラム、ホルモンなど、買う人が限られていて、生肉で仕入れたらロスが生じそうなものが並んでいる。加熱するだけで食べられる冷凍調理キットは、具材を透明な真空パックに包み、シンプルな文字だけのラベルが張ってあるものがほとんど。一般的な冷凍食品のパッケージが「ギラギラ」しているのに対し、あえて素気ない包装にして、中身が見えるようにしているのがオシャレな印象です。
こう言っては何ですが、いままでの冷凍食品はパッケージの調理例写真は豪華だけれど、袋をあけたらしょぼい具材がパラパラと入っているだけ、といったことも少なくありませんでした。しかしこうやって中身を見せると「ちゃんと牡蠣が3つも入っている」などと視認できる。もちろん値段はそれなりですが、このほうが納得して買えるということでしょう。
■売り場が変わるとマインドが変わる
このように冷凍食品の高級化が進んだのは、売り場が変わったからだと私は思います。これは私の仮説ですが、「冷凍食品はあまり買わないんだよね」という人は、いままで冷凍食品の売り場にほとんど行かなかったのではないでしょうか。売り場を素通りするから、永遠に買わない。
しかし新しい売り場では、生の肉や魚のすぐ隣に、冷凍ものの肉や魚が並んでいます。だからいつもの肉や魚を買いに来た人に、冷凍ものが目に留まるようになった。
逆にふだん冷凍食品をよく買う人にとっては、198円のシューマイの横に「パエリア980円」が置いてあると、「高い!」と感じてしまって、やはり買わない。でもそれにふさわしい売り場であれば、「買ってもいいかも」と感じるのです。
■まだリピート買いをするほど定着はしていない
人間は無意識に「ここでは何を探す」というマインドを持って買い物をしています。だからそこに突然異質なものがあると、並んでいるのに目に入らないということが起きる。また目に入ったとしても、心に決めた予算は、よほどのことがなければ変更されません。たとえばアイスを買いに行ったとき、ガリガリ君の横にハーゲンダッツがあっても、ガリガリ君はガリガリ君でおいしいから、「これでいいや」となる可能性がある。だから売り場を分けたのは大正解だと思います。
しかしこの新しい冷凍食品の売り方はまだ始まったばかり。僕が観察していると、商品を見ている人はけっこういるものの、まだお客さんが買っていく瞬間を目撃したことがないのです。
パッと来てパッと買う人が少ないというのは、値段が高いこともあるし、まだリピート買いをするまで定着していないということでしょう。そこまでいくには、まだ多少時間がかかりそうです。
しかし魚や肉の冷蔵ケースの横に縦型の冷凍ケースを置くには、おそらく店舗改装が必要だったはず。ということは、経営陣もそれなりに覚悟のうえで始めたことでしょう。しばらくは様子を見守りたいと思います。
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株式会社インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っている。
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(株式会社インサイト 代表取締役 桶谷 功 構成=長山清子)
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