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「英語もエクセルもいらない」経営学者が新卒の娘に語った"成功を掴む3つの要点"

プレジデントオンライン / 2021年8月15日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/35mmf2

ビジネスセンスを磨くにはどうしたらいいか。経営学者の楠木建さんは「エクセルや英会話を学習してもビジネスセンスは身につかない。私は自分の娘が仕事を始めるときに、『機嫌よく挨拶を欠かさない』『できる人の仕事を見る』『顧客視点で考える』というビジネスセンスに関わる3つのアドバイスをした」という――。

※本稿は、楠木健、山口周『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■新卒の娘に伝えた三つのアドバイス

【楠木】僕の娘が学校を卒業して仕事を始めるとき、どうせ人間は三つぐらいしか同時に意識してできることってないので、毎年三つずつアドバイスをしようと思って、1年目に次の三つを挙げたんです。

一つ目は「常に機嫌よくしていて挨拶を欠かさない」ということで、これはものすごく大切なことだと思っています。

【山口】それはまさしくコンピテンシーですよ。『幸福論』を書いたアランも「上機嫌」を最高の美徳として挙げてますからね。

【楠木】1年目は知らない人でも誰でも「おはようございます」「ありがとうございました」、何か言われたら「はい」。もうこれが最初に必要な能力の8割ですね。そして二つ目が「視る」ということ。

「これは!」と思う仕事ができる人を決めてずっと「視る」。「視る」というのは、漫然と眺めているというよりは自覚的に視る、“視破る”というニュアンスです。

それで「なんでこの人はこういうことをこの局面でして、なんでこういうことはしないのか」ということを、答えがわからなくても常に考えていろと。もう全部が文脈に組み込まれていることですから。

そして三つ目が、僕はこれ、仕事の基本だと思っているんですけど、「顧客の視点で考えろ」ということ。取引先というだけではなく会社の中にもお客さんはいて、「相手が自分に何をしてもらいたいのか」「あの人は何を欲しているのか」ということをまず考えてから、それに向けて仕事をするのがいい。

この三つを最初の年に言ったんですね。

■センスがない人は自分のセンスのなさに気づいていない

この三つは全部センスに深くかかわっていると思うんですよ。1年目から「エクセルでこれができなきゃダメだ」とか「英語はこのぐらいできるようになれ」なんてことを言ってもあんまり意味がない。

それは自然とフィードバックがかかるんです。スキルの重要な特徴として、TOEICが300点だと、やっぱりさすがにもうちょっと英語を勉強しようかなという気になるものでしょう。だから放っておいてもいい。

ところが、センスはフィードバックがかからないので、ない人はないままいくことになる。これがセンスの怖いところ。なぜかと言えば、センスのない人はそもそも自分にセンスがないということがわかっていないんですよね。

だから洋服のセンスがない人はいつまでたってもない。フィードバックが自然にはかからないから。

【山口】フィードバックに気づくということ自体がもうセンスですからね。

【楠木】そうですよ。だからセンスを身につけるためには、本人が気づいていないようなところで第三者の助言が有効になると思うんです。

【山口】おそらくセンスにおける事後性の問題というのは、昔もあったと思うんです。それでもやっぱり師匠に対する信用であったり、ずっとこういうふうにやってきて師匠の師匠もそうだったんだというようなことが、ある種のクレジットになっていたのかもしれない。

【楠木】そうでしょうね。少なくとも主観的にはクレジットがないと成立しない。ただそういった「修行」によってひどい目にあった人もいっぱいいて。

【山口】それはきっといますよね。

人工知能(人工知能)のコンセプト
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■島田紳助が若手芸人に「努力するな」と断言したワケ

【山口】2011年に芸能界を引退された島田紳助さんが、吉本の若手に対して明確に言っているのは「努力するな」ということなんですね。その発言がDVD(『紳竜の研究』2007年製作/アール・アンド・シー)にも残っているんですけれど、ここで言う努力とは漫才やコントの稽古ということですね。

若手は不安でしょうがないのでじっとしていられない。すると何をやるかというと、やたらと漫才の練習をしちゃうわけです。だけどそんなことは紳助さんに言わせたら順番が違うと。

「どうやったら売れるか」という戦略のないままにひたすらに漫才の稽古をする、そんな不毛な努力をするならまずは「笑いの戦略を立てろ」と紳助さんは言っている。お笑いというのはマーケットであり、実は競合がいるんだと。

紳助さんの当時だとB&Bだとかツービートだとかオール阪神・巨人といった面々がいるなかで、彼らがお笑いのマーケットでどういうポジショニングを取っていて、自分の笑いのセンスや見た目だったら、誰のポジションの近くだったら取れるか、芸能界でどこのポジションが狙えるのかと、それだけを考え続けろと言っているんですね。

【楠木】なるほど。

【山口】紳助さんが実際に何をやったかというと、まずは売れている芸人の漫才をすべて録音して書き起こして、どこでどうボケて、どうツッコミ、どういう種類の笑いを取っているのか、ということを分析していく。

すると「落ちのパターンは8割一緒」「つまらないネタを直前に入れると面白いオチが光る」といった具合に言語化が可能になるんですね。紳助さん自身は「お笑いには教科書がなかったので自分で教科書をつくろうと思った」と言っていますけど、もう完全に笑いの経営学なんです。

だけど、それをほかのみんなはやらない。なぜかというと、努力していると安心するからです。

【楠木】鋭い。

■「ひたすら漫才の練習をする」では成功できない

【山口】漫才の練習をしているとなんとなく前に進んでいるような気がして安心する。確かに、それで多少は漫才がうまくなるということもあるでしょう。

ですが、自分がお笑いタレントとして本当の意味での生きていく場所を見つけないことには、職業として続けていくことはできないわけです。紳助さんの場合、その努力のレイヤーというか、努力の質がほかの芸人さんたちとは違っていたと思うんですね。

【楠木】だからスキルを身につけていく努力と、センスに至るまでの……それを努力と言うかどうかは別にして、そこはやっぱり違いがあると思うんですよね。

【山口】「センスに磨きをかけていく」という、やっぱり紳助さんが言っているのもそこにつながることだと思うんです。だから、自分の持っている間合いとか、話し方とか、見た目とか、お笑い芸人として自分をどうプロデュースするか、という視点ですよね。

自分自身はどこだったら勝てるのか、それをもう意図的に自分らしさを磨いていくということが、ほかの人から見たら努力に見えないかもしれないけれども、そっちのほうが本当の努力なんだと。

だから、お笑いタレントとして一流になりたければ、「ひたすらに漫才の練習をする」というわかりやすい努力ではなく、その上位のレイヤーにある「お笑い芸人としての戦略を考える」という努力をやりなさいということを言っているんですが、これはお笑い以外の世界で生きている、私たちのようなビジネスパーソンにとっても示唆に富んだ話だなと思うんですよね。

■修業的な努力が定着したのはなぜか

【楠木】そうですね。「努力」という言葉を使っちゃうと第二レイヤーの努力と混同されてしまいそうなので、仮にそれを「錬成」、錬り上げていくという言葉を使って区別しておきますが、錬成の非常に古典的な方法というのは、さきほども少し触れましたが、修行ですね。

つべこべ言わずに10年、まずこれをやれと。修行というのはたぶん事後性を克服するために人間社会が編み出した方法論だと思います。そこにはロールモデルとしての親方がいて、日本料理の世界でも「なんとかの上にも3年」というのがあるじゃないですか。あれも最近は評判が悪いですよね。

確かに、それはそれで無駄な面もいっぱいあるんだけれども、やっぱりやむにやまれず定着した方法でしょう。センスの錬成において、事後性の克服方法としてやっぱりわりと強力なんですね。

ただ本来的な意味での修行ということになると強制力が働かないとなかなかできない。究極になると禅寺みたいなことになっていく。

【山口】禅で言うところの「只管打坐(しかんたざ)」ですね。つべこべ言わず、ただひたすら壁に向かって座っていろ、みたいな。

【楠木】そういう修行となるとちょっと一般性がないんですが、全員で生活を共にするというのは大いに理由があることだと思うんですね。センスというものの本来の性質に戻ると、きわめて総体であり、全体であり、綜合的なものなんですよね。

■センスを鍛えるためのいちばん手っ取り早い方法

ということは、裏を返すとセンスというのはその人の一挙手一投足すべてに表れていると思うんですよ。プレゼンテーションのスキルを学ぶとなれば、観察する対象がプレゼンテーションをしてくれていないと学べないんですね。

楠木建、山口周『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社新書)
楠木建、山口周『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社新書)

その人がプレゼンをしているところを見ないと意味がない。

ところがセンスについては、ひとつ有利な面があって、それはセンスがある人の一挙手一投足、メモの取り方、商談相手への質問の仕方、会議の取り回し方、そしてデスクの配置、ご飯の食べ方、鞄の中に何が入っているのかというところまでも含めた、そのすべてにセンスが表れている。

だから一緒にいれば、なんでも学びになるわけです。確たるセンスを錬成する方法はないし、人によってそのセンスのあり方も千差万別なので標準的な習得方法はないのですが、センスがある人が身近にいればその人をよく視る。

これがいちばん手っ取り早いセンスの錬成法ですね。

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楠木 建(くすのき・けん)
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授
1964年生まれ。89年、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部助教授、同イノベーション研究センター助教授などを経て現職。『ストーリーとしての競争戦略』『すべては「好き嫌い」から始まる』『逆・タイムマシン経営論』など著書多数。

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山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。

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(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授 楠木 建、独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周)

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