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「東京五輪は感染拡大の原因ではない」なぜ菅首相はそこまで自信満々に明言できるのか

プレジデントオンライン / 2021年8月6日 9時15分

新型コロナウイルス感染拡大防止のため無観客で行われた東京五輪の開会式当日。会場の国立競技場周辺では五輪モニュメント(左奥)の前で撮影する多くの人たちの姿が見られた=2021年7月23日、東京都新宿区 - 写真=時事通信フォト

■尾身茂会長「最も今までの中で重要な危機に直面」

8月2日、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県に「緊急事態宣言」が発令され、東京都と沖縄県に発令中の同宣言も延長された。北海道など5道府県に対しては「まん延防止等重点措置」が適用された。期間はいずれも2日から31日までである。

これらは、7月30日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部会議で決まった。会議後、菅義偉首相は記者会見で、「首都圏や関西圏の多くの地域でこれまで経験したことのないスピードで感染が拡大している。病床が逼迫する恐れがある」と話し、東京オリンピック(7月23日~8月8日)の開催については「感染拡大の原因になっていない」と強調しながらも、「自宅のテレビで声援を送っていただきたい」と国民に求めた。

一方、記者会見に同席した新型コロナ分科会の尾身茂会長は「非常に急激な感染拡大に日本社会がどのように対応するのか。最も今までの中で重要な危機に直面している」と語った。

菅首相は東京五輪と感染拡大は「無関係」と明言した。しかし、本当に関係ないのだろうか。

■都内では「お酒が飲めます」と貼り出す飲食店も目立つ

都内ではオリンピック開催前日の7月22日に1979人の感染者を記録した後、27日(2848人)、28日(3177人)、29日(3865人)、30日(3300人)、31日(4058人)とうなぎ上りに感染者が増えた。全国でも感染者は増え、29日に10698人と1万人を突破し、30日(10743人)、31日(12340人)と1万人台が続いた。

この感染者の急増は、オリンピックの開催で国民の気分が高揚して新型コロナに対する危機感が薄れた結果だと、沙鴎一歩は考えている。夏休みも重なり、人々は「世界中から何万人もの選手や関係者が集まってオリンピックをやるぐらいだから問題はないだろう」と判断されたのだろう。

事実、五輪会場のオリンピックスタジアム(国立競技場、新宿区)の周辺では記念撮影に興じる人たちの姿が見られる。人が街中に繰り出すのに合わせて、都内では自粛を求められているアルコールを出す飲食店も目立つ。

■デルタ株の感染力の高さで「局面が変わった」

五輪会場に足を運ばなくとも、自宅のテレビ観戦で日本の選手やチームが金メダルを獲得するシーンを目にすると、晴れ晴れしくなるし、彼らが「支えてくれたみんなのおかげです」と涙声で語ると、テレビを見ているこちらも思わず涙がこみ上げてくる。

新国立競技場
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ryosei Watanabe

その意味でオリンピックは新型コロナ禍で落ち込んだ私たちの心に潤いを与え、癒やしてくれる。いい気分転換になる。

しかし、世界最大の祭典である五輪は私たちを夢中にさせるあまり、危機感を喪失させる。直接的には「無観客」「バブル開催」で感染が避けられても、間接的には間違いなく感染の拡大につながる。五輪開催が感染拡大に無関係とは言えないはずだ。

大切なのは、オリンピックに夢中になって失いかける危機感を保つバランス感覚だろう。物事には必ず、良い面と悪い面がある。五輪も同じである。

厳しい状況の背景には、インド由来の変異ウイルス「デルタ株」(L452R)の感染力の高さがある。

アメリカのCDC(疾病対策センター)によると、デルタ株の感染力は1人が5人~9.5人に感染させる可能性があり、従来の新型コロナに比べかなり高い。空気感染する「水ぼうそう」のウイルスと同じぐらいの感染力に匹敵するという。

さらにCDCは、重症化したり、死亡したりするリスクが高くなる傾向にあり、ワクチンを接種した人でも接種をしていない人と同じように感染を広げる可能性を指摘。「感染の局面が変わった」と注意を呼びかけている。

■「行動変容につながるメッセージを打ち出せ」と朝日社説

7月31日付の朝日新聞の社説は「菅首相や小池百合子都知事は今こそ、専門家や医療現場の強い危機感を正面から受け止め、国民の行動変容につながるメッセージを打ち出さねばならない」と冒頭で主張し、最後にこう訴える。

「根拠なき楽観を排し、言葉を尽くして現状を説明して国民に協力を求めるべき時だ。首相にその先頭に立つ覚悟があるのかが、問われている」

見出しも「宣言地域拡大 根拠なき楽観と決別を」である。

緊急事態宣言を出す感染状況のなかで、オリンピックを開催する。「楽観」というよりも異常である。菅首相には現状を一歩引いた鳥の目で俯瞰してほしい。

朝日社説は指摘する。

「政府は当初、新たな措置に慎重だった。感染者が増えても、ワクチン接種のおかげで、重症化しやすい高齢者は大幅に減り、重症者は抑えられているというわけだ。しかし、ここ数日の感染者の急増に押され、判断を一転させた。そのこと自体、現状認識や見通しの甘さを如実に示している」

この朝日社説の指摘は正しいと思う。菅政権の現状認識と見通しは甘過ぎる。甘いから緊急事態宣言の地域の延長や拡大など小手先の対策しか取れないのである。どう考えても国民は緊急事態宣言に慣れ、緊張感には結び付かない。しかも感染の拡大につながるオリンピックまで開催してしまった。

■菅首相は五輪開催国の義務と責任を自覚しているのか

続く8月1日付の朝日社説は「五輪折り返し 安全・安心を見直して」との見出しを掲げ、「問題は、持てる力を存分に発揮できる環境を、主催する側が物心両面で用意しているかだ」と指摘し、「パンデミック下で強行されたことで調整不足の選手が多く、記録は総じて低調だ。加えて周囲に感染者が出て、本番直前の練習の自粛を余儀なくされたというケースも出ている」と書く。

アメリカ疾病予防管理センター
写真=iStock.com/sshepard
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sshepard

パンデミックという非常事態のなかで開催されている東京五輪は、否応なしに今後のオリンピック史に残るだろう。多くの反対意見を押し切って開催した以上、菅政権は覚悟を持つべきだ。「持てる力を存分に発揮できる環境」を用意することは、開催国日本の義務であり、責任である。

朝日社説は指摘する。

「ウイルスが国外から持ちこまれるのも、日本から国外に広がるのも防ぐ。その約束はどこまで果たされているか。立派な行動規範をつくっても守られなければ意味がない。違反行為に対する罰則も含め、大会開催の条件とされたものがうやむやになってはいないか」

東京五輪の開催に強く反対し、「中止の決断を首相に求める」(見出し)と5月26日付で掲載した朝日社説らしい指摘である。

朝日社説は「他にも選手・関係者を乗せる専用バスの運行トラブルや弁当の大量廃棄など、招致時のアピールポイントだった運営能力や大会の理念そのものに疑問符がつくことが、開会後も相次ぐ」とも指摘し、最後にこう主張する。

「祭典を開催する側の姿勢と責任は、最後まで問われ続ける」

繰り返すが、菅首相には義務と責任を自覚してもらいたいと思う。

■「新しい視点から実態に応じた手法に切り替えろ」と読売社説

7月29日付の読売新聞の社説は書き出しで「東京都で新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を記録するなど、コロナ禍は重大な局面を迎えた。これ以上の感染爆発につながらぬよう対策を一層強化する必要がある」と主張し、こう呼びかける。

「ただ、これまでと異なる特徴も表れている。冷静に状況を見極め、新しい視点から実態に応じた手法に切り替える時機ではないか」

WHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言したのが、昨年の3月11日。あれから1年半近くがたち、感染の状況は変化している。新たな局面に応じて対策を切り替えるのは当然である。

読売社説はこれまでと異なる感染の特徴を挙げる。

「感染者の中心は若年層で、都内では30歳代以下が全体の7割を占める」
「ワクチンの接種が進む65歳以上は、感染者の割合が全体の3%程度で、コロナ禍が始まって以来の低水準にある。全体の重症者数も第3波の半分程度だ。死者数がゼロの日も増えている」
「40~50歳代の重症者が増え、病床の逼迫が心配されている」

若者中心の感染増で、高齢者の感染が少なく、重症者数も抑えられているとは言え、楽観はできない。相手は人類が初めて遭遇した新型ウイルスである。感染者の数が増えれば、それに応じて重症者や死者の人数も増えてくる。この重症者と死者の増加は、感染者数の増加から遅れて現れるため注意が欠かせない。

■重要なのは、影響を認めつつ、対策を検討することだ

「緊急事態拡大 緩みは五輪のせいではない」と見出しを立てた7月31日付の読売社説には驚かされた。

東京オリンピックでの日本勢の快進撃を具体的に挙げた後、「気がかりなのは、新型コロナの感染状況だ」と書き、「一部には、こうした感染拡大と五輪開催を結びつける意見があるが、筋違いだろう」と指摘する。

読売社説は無関係の根拠として「今大会は、感染防止を最優先に、大半が無観客で開催されている。これまで、競技会場や選手村で大きな集団感染は起きていない。無観客という苦渋の選択が奏功していると言えよう」と書くが、「無観客」は分科会の尾身会長ら専門家の求めであり、当初、菅首相は有観客に固執し無観客に反対していた。競技会場や選手村での集団感染についても本当に発生していないのか、疑問である。

それに読売社説は、世界最大の祭典が人々の気分を高揚させ、危機感を喪失させる危険性については一言も触れていない。五輪は4年に一度の世界規模のイベントだ。それが行われていれば、軽はずみな行動が増えてしまうというのは仕方ない。重要なのは、影響を認めつつ、対策を検討することではないだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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