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「万引きGメンは見た」セルフレジを堂々とスルーする犯人に共通する"ある行動"

プレジデントオンライン / 2021年8月12日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/laymul

商品の登録から支払いまでをお客に任せる「セルフレジ」の導入が広がっている。一方で、「ちゃんとレジを通した」といって代金を支払わない新手の万引き犯も増えている。これまで5000人以上を捕まえたという万引きGメンの伊東ゆうさんは「不審な人には共通する動きがある」という。『万引き』(青弓社)より一部を紹介する――。(第2回)

■盗むつもりがないのに「未払い」で持ち帰ってしまうことも

普段通っているなじみのスーパーで、図らずも盗んだと疑われても仕方がないことをした経験がある。無論、商品をエコバッグに隠匿するような行為をしたわけではない。商品の読み取りから会計まで、すべてを自分ですませるフルセルフレジで精算して家に帰り、ポイントを確認するべくレシートをチェックしたところ、レシートに記載されていない商品があったのだ。

その商品は2キロの新米。バーコードを読み取り機に当ててチェック音を聞いた記憶もあるのに、なぜだか支払いがなされていない。店に電話をかけて、使ったレジの位置と時間、ポイントカードの番号を伝えて事情を説明すると、次回の来店時に支払ってくれればかまわないという。それも気持ち悪いので、すぐに行って支払いをすませることにした。

「このたびは、失礼しました。こういうことって、ほかにもあります?」
「ええ、たまにありますよ」
「ピッていう音、鳴っていたんですけどね」
「混雑する時間ですし、ほかのお客さまの音と混同されたのかもしれませんね。重い商品なので、読み取るときに揺らいで、うまくスキャンできなかったとも考えられます。どうか、お気になさらないでください」

サービスカウンターに出向いて事情を話すと、電話口に出たと思われる女性スタッフがいやな顔ひとつ見せずに対応してくれた。帰りの道中、過去にあったセルフレジを悪用した捕捉事案と、自分の行動を照らし合わせながら家路をたどる。

[もし、現場で同じことをする人を見かけたら、きっと声をかけていることだろう。悪意がないとはいえ、もし声をかけられていたら、どうなっていたことか……]

少しでもタイミングが悪ければ自分のキャリアが崩壊していた可能性まで考えられ、肝が冷える思いがしたものだ。ここでは、フルセルフレジを悪用する万引き犯について話していく。

■セルフレジ導入で「商品を隠す万引き犯」はいなくなった

当日の現場は大型ショッピングセンターYだった。挨拶のため総合事務所に到着すると、店長は休みで、強面の副店長が対応してくれた。挨拶をすませていつものように注意事項を確認すると、副店長が苦虫を噛みつぶしたような顔で言う。

「ここは、セルフレジでチェッカーをスルーする人が、たくさんいてさ。導入してからは、売り場で商品を隠す人を全然見かけなくなったくらいなんだよね」

この店は将来的に店舗の無人化運営を見据えているようで、店員が商品をスキャンして支払いだけ機械でするセパレート式のセルフレジだけではなく、精算行為のすべてを客がおこなうフルセルフレジも複数台導入している。客に精算の手間を預けることで、確かに人員コストは下げられるかもしれないが、不正行為による被害を考えると、逆に収支が合わない気がしてならない。

「そういう人も、捕まえられるの?」
「はい、何人も扱ってきました。否認する人が多くて、大変なんですよ」

■高性能な防犯カメラで「犯意」は確認できる

フルセルフレジでの犯行は、捕捉後に犯意を否認されることが多く、その処理によけいな時間がかかる。悪い目つきで監視スタッフの様子をうかがい、おかしな手つきで商品を隠しているにもかかわらず、精算したつもりだったと居直る人が多いのだ。

一見して、言い訳しやすい環境と思われるからだろうが、各台には比較的高性能な防犯カメラが設置されていて、とっさに思いついたような嘘は通用しない。精算の様子は一部始終記録されていて、その映像からも犯意を確認できるのだ。

「そうなんだ。大変でしょうけど、きょうはセルフレジを中心に警戒してもらえるかな。期待していますよ」

セルフレジを中心にと言われても、商品を手にするところから見ないとなにも始まらない。通常どおりに巡回をして不審者の発見にいそしみ、その結果として、そうした手口を用いる被疑者が現れるのだ。いつもどおり、比較的高価で万引きされやすい商品を手に取る人たちを確認して回ることに決めた私は、化粧品や高級食材などの売り場を中心に警戒することにした。

■バーコードを手で隠して商品をレジ袋へ

すると、勤務中盤にさしかかったところで、五十代前半とおぼしき髪の長い痩せた女性が目に留まった。ポイントデーでもないのに比較的高価なオリゴ糖と蜂蜜のボトルを3本ずつカゴに入れるところを目撃してしまい、ちゃんと買うのか気になったのだ。

追尾すると、次に複数の輸入調味料をカゴに入れた女性は、牛すね肉、スペアリブ、菓子パン、モッツァレラチーズ、そして最後に高価な赤ワインを2本カゴに入れて、レジのほうへと向かっていく。

入り口に設置された5円のレジ袋を手に取ってフルセルフレジのエリアに入った女性は、サポート役の店員からいちばん離れた台に陣取った。店員に背中を向けるようにして、レジ袋をスキャンしないまま精算台にセットすると、何食わぬ顔で商品の精算を始める。

レジでバーコードを読み込ませる
写真=iStock.com/frantic00
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/frantic00

ちらちらと女性が店員のほうを気にしている隙に、女の手とレジのモニターが確認できる位置まで移動して精算状況を確認すると、バーコードを手で隠す手口でレジを通さないまま、いくつもの商品をレジ袋に隠しているのを現認できた。

会計時、酒類を購入したことから年齢確認のためにサポート役の店員が駆けつけたが、女の悪事に気づいている様子はない。店員が離れ、スキャンした商品だけの精算をすませた女は、かなりの早足で店を出ていく。後方を振り返りながら店の外に出た女が、出入り口脇に止めた電動自転車に手をかけたところで、そっと声をかけた。

■買ったモノより盗んだモノの方が多い

「あの、お客さま? 店の者ですが、そちらのお会計、ちょっと確認させていただけますか?」
「はあ? なんですか? お店開けなきゃいけないから、時間ないんですけど」
「すぐに終わりますよ。申し訳ないですけど、レシートの確認だけさせてください」
「ええ、これですけど……」

なぜだかわからないが素直にレシートを出してくれたので、レジ袋に入れた商品と照合させてもらうと、案の定、複数取りした商品の精算が一部しかなされていない。はっきり言ってしまえば、買ったモノよりも盗んでいるモノのほうが多い状況だ。

「お支払いすんでないモノ、たくさんあるんですけど……」
「え? ウソ? 私、全部通しましたよ」

そう言い張るので、直接本人に照合してもらうと、どこかわざとらしく狼狽した様子をみせた女が、意味不明の言い訳を始めた。

■「もしかして、機械が壊れているんじゃないですか」

「あれ? ホントだ。なんでだろう? もしかして、機械が壊れているんじゃないですか?」
「お釣りまで出ているのに、壊れているわけないじゃないですか。そんな言い訳、通りませんよ」
「はあ? あたし、本当に知らなくて……。以後、気をつけますね。お金、払ってきます」

店内に戻ろうとする女を呼び止め、事務所で払ってもらうよう促すと、時間がないと言いながらも同行に応じてくれた。事務所に到着して、身分証明書の提示を求めると、女は52歳。ダンナと二人、隣町で小さな洋食屋を営んでいるそうで、店を開けないといけないので時間がないのだと繰り返している。

この日の被害はレジ袋を含めて計10点、合計8000円ほどになった。

どうにも落ち着かない様子の女は、被害品の伝票を確認して、現金の持ち合わせがないのでカードで払いたいと、まるで悪気がない感じで話している。

パトカーとおまわりさん
写真=iStock.com/akiyoko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/akiyoko

■「ブラックリスト」に写真が載る常習犯だった

すると、事務所内のロッカーから「不審者ファイル」を取り出してパラパラとめくっていた副店長が、興奮ぎみに声をあげた。

「ウチのブラックリストに、あんたの写真があるんだけどさ、同じこと何度もしているよね?」
「いえ、本当に払ったつもりでいました。すみません。これからは気をつけます」
「いや、あんた出入り禁止だから、二度と来ないでくれる? きょうは、いままでの被害も含めて、きちんと警察に調べてもらいますから」

伊東 ゆう『万引き』(青弓社)
伊東 ゆう『万引き』(青弓社)

おそらくは言い訳を用意したうえでの犯行と思われ、保安員に声をかけられたときの対応もシミュレーションしてきたのだろう。間もなく臨場した警察官に引き渡された女は、否認を続けたことが影響したのか、犯歴がないにもかかわらず基本送致されることになった。

「店で使うモノだって話しているから、仕入れ目的みたいな感じだろうね。本人は認めないけど、計画的にやっている感じだよ。コロナのおかげで、お店やっている人の万引きが増えてきたよなあ」

処理を終えて警察官と一緒に地域課を出ると、女のガラウケ(身柄引受人)にきていたダンナが、廊下に設置されたベンチシートに大股を広げて座っていた。前を通ると、憎悪にあふれた目でにらまれ、目を合わせぬよう早足で通過した。

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伊東 ゆう(いとう・ゆう)
万引きGメン
1971年生まれ。99年から5000人以上の万引き犯を補足してきた現役保安員。万引き対策専門家。著書に『万引き老人』(双葉社)や『万引きGメンは見た!』(河出書房新社)。テレビ出演や映画『万引き家族』の製作協力も。大学や警察、検察、自治体での「万引きさせない環境作り」講演も多数。

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(万引きGメン 伊東 ゆう)

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