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「菅首相の頼みの綱」ワクチン接種率が上がるほど感染拡大する第5波の"不都合な真実"

プレジデントオンライン / 2021年8月7日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/insta_photos

東京五輪のさなか、第1波~4波を大きく上回る規模の新型コロナ第5波の感染爆発に襲われている。デルタ株の影響などいくつかの要因が挙げられているが、統計データ分析家の本川裕氏は「ワクチン接種率の高い国ほど再び感染拡大しています。接種したことで人々の気が緩み、安心感から行動抑制が効かなくなっている」と警鐘を鳴らす――。

■過去の第1~4波を超える第5波の感染爆発

東京オリンピック開催中のさなか、最近になって、過去の第1波~4波を大きく上回る規模の新型コロナ第5波の感染爆発に襲われている。医療崩壊への対策として政府が打ち出した「中等症患者の入院制限方針」に対して国民や与野党からは激しい批判が寄せられている。

こうした第5波の感染爆発の背景としては以下のような原因が挙げられている。

① 感染力の高いデルタ株の影響
感染力が1.5倍ともいわれるデルタ株への置き換わりが第5波の感染爆発の主犯とする説が支配的である。

② コロナ疲れによる危機感の減退
政府が発出する緊急事態宣言も「またか」と国民には真剣に受け止められず、公共機関や商業施設への厳しい休業要請もないこともあって感染抑制効果が限定的である。

③ ワクチン接種による気のゆるみ
高齢者へのワクチン接種が進み安心感から行動抑制が効かなくなっている。ワクチン接種が未完了の65歳未満層や若年層も自分が感染しても高齢の父母まで巻き込む可能性は低くなり、自己責任だけだからと気が緩んでいる。

④ ブレークスルー感染
ワクチン接種した人にも感染してしまう事例が多く報告されている。

⑤ オリンピック開催の影響
オリンピック開催で心理的な抑制が効かず、行政側も整合性からイベント等の制限を強制しにくくなっている。

⑥ 民間検査の急増による感染発見率の上昇
自費の民間検査が普及してきて感染が判明する割合が上昇している。

今回は、内外のデータを観察すると②コロナ疲れによる危機感の減退、③ワクチン接種による気のゆるみ、特に③の要因が大きいということを明らかにしたいと思う。

■ワクチン接種で死亡者数レベルが過去最低レベルで推移している

新型コロナ関連のデータの基本は、新規感染者数と感染死亡者数(陽性者のうち死亡するに至った者の数)である。

【図表1】ワクチン接種で「死亡者数は低減、感染者数はむしろ増加」という世界の動き

日本の両データの推移を見てみると(図表1参照)、明らかに5波に及ぶ感染拡大が認められる。第5波の特徴は何といっても感染者数の多さである。第3波と第4波のピークでは一日当たりの新規感染者数が6000人のレベルであったのに対して、第5波ではすでに1万人を大きく超えており、また、ピークが見通せない状況である。

第5波のもうひとつの大きな特徴は、これまでの波と異なって死亡者数の拡大が伴っていない点である。死亡者数の拡大は感染者数の拡大からかなり遅れるのが通例であるので、これから上昇に転じるという恐れがないとはいえないが、波形から判断すると決定的な差が生じていると見ざるを得ない。以下でふれる欧米の推移を考え合わせても、死亡者数の低減はまず間違いがないだろう。

これは、人口比のワクチン完全接種率(部分接種ではなく必要回数打ち終わった割合)のカーブからも、ワクチン接種が進んでいる影響であることは確かであろう。わが国では高齢者を優先して接種を進め、重症化や死亡につながりやすい高齢者に限っては2回の完全接種率は約8割に達している。これが死亡者数の低下をもたらしているのである。

テレビや新聞では感染者数のグラフはやたらと登場するのに死亡者数のグラフはほとんど見られない。しかし、著名人や身近な人の死亡事例が目につかなくなっていることから国民はこの点を実感し始めており、それが気のゆるみにつながっている点は否定できないのである。

一方、死亡者数の低減は政府や自治体も理解はしており、国民の行動抑制につながる強硬なコロナ対策が打ち出されない背景となっていると考えられる。

■自粛要請に応じ続けた国民の危機感は減退し、第5波の感染爆発

次に、日本の状況を先取りしていると思われる欧米の状況を見てみよう。

図表1には、欧州と米国の感染者数と死亡者数の推移を日本と同じ形式で掲げた。欧州の最新波は第4波、米国の最新波は日本と同じ第5波であるが、ともに、感染者数は拡大しても死亡者数はほとんど過去最低レベルを維持している点が特徴となっている。

日本と比べると第1波における死亡者数のレベルが欧米では非常に大きかったという点が見逃せない。これが、欧米諸国ではロックダウンという強制的な行動抑制の政策をとらせた大きな理由であった点は確認しておく必要がある。

これに対して、日本は、強制手段というより自粛要請というかたちでコロナ対策を打ってきたのも、第1~2波における死亡者数レベルの低さによっていることは言うまでもなかろう。しかし、それがかえって、徐々に国民の危機感の減退につながり、第3波以降の感染者数や死亡者数が第1~2波より大きくなる状況を許し、さらに第5波の感染爆発にまで尾を引いているともいえるのである。

なお、欧米でも、日本ほどではないにしても、ワクチン接種が進むにつれて感染者数は再び大きく増加している点には注意が必要である。ワクチン接種は、感染予防効果や重症化予防効果があるが、気のゆるみ効果が感染予防効果を上回って感染拡大にむすびついている点に日本も欧米も一緒なのである。

最近の感染拡大は、なお、米国ではピークに達したかどうか定かではないが、欧州ではどうやらピークをむかえているようである。ヨーロッパで感染者数の増加が頭打ちとなった理由としては、夏休みに入ったためとも集団免疫が獲得されてきたからとも論議されているようだ。

■ワクチン接種率の高い国ほど、感染拡大に見舞われている

欧米各国では、6月以降、ワクチン接種の進展とそれが功を奏したと見られる死亡率の低レベル維持を受けて、コロナ対策の行動規制の緩和に相次いで乗り出している。死亡率が上昇しないのに、政府としては、日本と比較してもかなりのストレスを国民に与えてきたこれまでの行動抑制策は維持しがたくなってきたのが理由だろう。

一方、民間での気のゆるみを象徴的に示した映像としては、7月上旬にはサッカー欧州選手権でイングランド代表の試合があるたびに、マスクなしのサポーターらがロンドンの一部の街頭を埋め尽くす状況が日本でも報道された。

感染者数が急増する中、死者数は比較的低く推移しているため、ワクチン接種の進展が効果をあげていると判断した英政府は7月19日にイングランドで残っていた行動規制をほぼすべて撤廃した。この英政府の判断に対し、世界各国の専門家が連名で英医学誌『ランセット』に「危険で非倫理的な実験に乗り出している」と批判する書簡を寄せ、再考を促したという(毎日新聞2021.7.31)。

国民意識を考慮した政府の政策に対して専門家が苦言を呈するという構図はわが国でも何回も目にしているものだ。

上にも述べたように、これまでかなり厳しい行動抑制を国民に強いてきた政策は、ワクチン接種の進展と死亡者数の低減を受けて維持しがたくなっているのが実情であろう。

こうした点をはっきり示すデータとして、図表2には、各国におけるワクチン接種率と感染者数の再拡大の程度との相関を示した図を掲げた。

ワクチン接種が進んでいる国ほど感染者数が拡大する傾向

図表2からは、ワクチン接種が進んでいる国ほど大きな感染再拡大に見舞われていることが見て取れる。ワクチン接種が2割以下とあまり進んでいないロシアやウクライナの感染拡大は2~4倍のレベルにとどまっているのに対して、5割以上の接種率のオランダ、英国では14~18倍の大きな感染拡大が起こっているのである。

■デルタ株を「感染爆発の真犯人」に仕立て上げたのは誰か

この相関図における日本の位置としては、おおむね、右上がりの曲線という傾向線上にあり、倍率は5倍とそれほど大きくないものの、実は、いったん感染が大きく収まっていない状態からの再拡大であるため、感染爆発が過去の波を超える状態に至っていると理解できるのである。

欧米や日本の最近の感染拡大については、感染力の高いデルタ株の浸透によると見なすのが各国でも通例となっているようであるが、ワクチン接種が進んでいるほど感染が大きく拡大しているというこうした事実を知ると、むしろ、行動抑制の解除につながるワクチン接種そのものが真犯人だと考えざるを得ない。

デルタ株が感染爆発の真犯人とされているのは、報道上で安直に枕詞にしやすい点のほか、国民を行動抑制へ向け説得できていないというコロナ対策の不備をつかれたくないため、国民の心理的な要因をあげたくない政府の意向も影響していると見ざるをえない。

■第5波は、全国の都道府県で一斉に感染が急拡大している状況

最後に、見方を変えて、都道府県別の感染推移の状況から、真相を探ってみよう。

図表3では、主な都道府県の人口10万人当たりの新規感染者数の推移を追った。

第5波の特徴は波の大きさと都道府県ごとのズレのなさ(同時性)

図表3は、これまでの5波にわたる感染拡大が各都道府県でどのように起こったかを示してくれている。第5波の特徴として、これまでの波と異なる点は、一斉に感染が拡大している点である。

第3波では北海道や大阪が先行し東京など首都圏や愛知などが追いかけた。第4波では沖縄や大阪が先行し、北海道や沖縄(再)が追いかけ、東京など首都圏はそれほどの感染拡大ではなかった。

第5波の特徴は、やや東京が先行したものの、ほとんど全国一斉に感染爆発が起っている点にある。

理由として考えられるのは、過去と異なって地域的な事情ではなく全国的な事情が働いているからと見るのが妥当だろう。そうだとすると全国統一的に地域ごとに大きな遅速なく進められているワクチン接種以外には考えられない。

厚労省の専門家会合(2021.8.4)では国立感染症研究所の推計では新規感染者のうちデルタ株に感染した人が占める割合は、8月初旬の時点で、関東で約90%、関西で約60%に達したことが明らかにされた。この地域差はインド等からの流入が早かったかどうかによっているとされる(東京新聞2021.8.5)。

しかし、デルタ株のこうした地域差は感染拡大の時期的な同時性とは矛盾する。関東で感染規模を増長したことは確かながら、デルタ株を第5波自体の主犯とする見方は退けられよう。

■直近で子供の誕生日があった世帯の感染率は誕生日のない世帯の1.6倍

ワクチン接種による気のゆるみを第5波の真犯人とするここでの主張は、あまりに心理的要因に重きを置きすぎた説だとの批判もあろう。しかし、感染症の拡大にとって心理的な影響は非常に大きいのである。

2020年1月~11月にかけての米国300万世帯のデータを分析した研究によると、直近2週間に誕生日を迎えた人がいる世帯では、そうでない世帯よりコロナ感染リスクが1.3倍高かった。また、子どもが誕生日の場合はさらに感染リスクが1.6倍になっていたという。誕生日パーティを開くこと、特に子どもがいる場合はそうだということがこうした結果につながったと見られる(東京新聞2021.8.4夕刊)。

ワクチン接種の進展が感染リスクを抑える以上に、心理的な効果で感染リスクを増したとしても不思議はないのである。

冒頭でふれた第5波の要因リストをもう一度掲げよう。

① 感染力の高いデルタ株の影響
② コロナ疲れによる危機感の減退
③ ワクチン接種による気のゆるみ
④ ブレークスルー感染
⑤ オリンピック開催の影響
⑥ 民間検査の急増による感染発見率の上昇

本稿での主張は、③が真犯人であるが、過去を上回る感染者数の拡大を招いている点には、もちろんその他の要因も大きく与(あずか)っていると言っていいだろう。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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