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「売上高は過去最高に」スシローがコロナ禍にアクセル全開で突っ走るワケ

プレジデントオンライン / 2021年8月13日 9時15分

堀江陽社長(左)と聞き手の寿司リーマン(右)。スシロー本社(大阪府吹田市)のお膝元、江坂店の前で撮影。 - 撮影=加藤慶

回転すし「スシロー」などを展開するFOOD & LIFE COMPANIES(F&LC)の2020年10月~21年3月期の連結決算は、売上高にあたる売上収益が1190億円、営業利益が131億円、純利益が78億円でいずれも過去最高となった。なぜコロナ禍でも絶好調なのか。あきんどスシローの堀江陽社長に聞いた――。

■人口減少を見据えた省人化が、偶然コロナ禍で生きた

——コロナ禍で外食業界はどこも苦戦しています。なぜスシローは絶好調なのですか。

業績を伸ばすことができた背景には、国内外の積極出店があります。上期の出店は国内で24店。そのうち3店はテイクアウト専門店で、駅ナカ、駅前ビルなど既存店ではカバーしきれなかった立地に出店しました。海外は6店を出店し、3月にはタイのバンコクに同社最大規模となる350席の大型店を開業しました。

コロナ禍でも積極出店できたのは、非接触サービスやテイクアウト・デリバリーにいち早く対応したからです。これらは実はコロナ禍の前から取り組んでいたことなのです。

日本の未来を見据えたときに、間違いなく人口が減っていきますよね。人材確保が難しくなってくる中で、「うまさ」に関わること以外の部分は、機械がやってもいいんじゃないかと思ったんです。要は「省人化」というテーマでいろいろな取り組みを進めていました。例えば「自動案内」「セルフレジ」「自動土産ロッカー」そして、皿のカウントをAIのカメラ画像処理で行う「画像認識による自動会計システム」などの導入です。こうした省人化への取り組みを実験的に導入していく中で、ちょうどコロナ禍がやってきた。省人化の取り組みが、結果的に「極力、人との接触を避ける」というコロナ対策にも繋がったのです。

自動案内
写真提供=スシロー
自動案内 - 写真提供=スシロー
セルフレジ
写真提供=スシロー
セルフレジ - 写真提供=スシロー
自動土産ロッカー
写真提供=スシロー
自動土産ロッカー - 写真提供=スシロー

——偶然タイミングが重なったというわけですね。「『うまさ』に関わること以外の部分を機械がやる」ことに関しては、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。

人がやらなくてもいいことをシステムで解決することで、「もっとうまいすしをつくる」「もっと活気のある店をつくる」というところに人材リソースを活用したい。それによって味、接客の品質を強化したい。そうした狙いもあって省人化の取り組みを進めてきました。

■帰り道にすしを気軽に買ってもらいたい

スシロー店内
撮影=加藤慶

——21年4月に上方鮨のテイクアウトなどを展開する京樽を買収しました。その狙いは何でしょうか。

もともと京樽を買収する前から、スシローはテイクアウトへの取り組みを始めていました。スシローは今や全国に600店舗以上ありますが、そうは言っても、スシローのことを知らない方やスシローのすしをまだ食べたことがない方がいらっしゃる。そういう方たちに、どうやったらスシローのすしを届けられるんだろうと考えました。

そこで、「お客さまの生活動線にスシローを置きにいく」と決めたんです。駅を出たところにテイクアウト専門のスシローの店を出すことで、帰り道にすしを気軽に買ってもらう。そのようなことをやろうとした時に、これもたまたまなんですが、コロナ禍がやってきた。

スシロー To Go JR 我孫子駅店の外観(イメージ)
写真提供=スシロー
スシロー To Go JR我孫子駅店の外観(イメージ) - 写真提供=スシロー

——これまた偶然のタイミングだったわけですね。

テイクアウトへの取り組み強化とコロナ禍で何が起こったかというと、イートインのお客さまとテイクアウトのお客さまの比率が大きく変わったんです。

都市型店舗であっても郊外型店舗であっても、今までは「お客さまにわざわざ来ていただく」ということで成り立っていました。ところがテイクアウト型店舗だと、「お客さまの生活している導線の中にスシローがある」のです。それをわれわれは「買い物動線」と呼んでいます。買い物動線上にスシローを置けば、わざわざ店舗に足を運ばなくても、すしを食べたい時に「あ、スシローがあるからすしを買って帰ろうかな」となるわけです。

それがコロナ禍のタイミングとたまたま重なったということもあり、テイクアウト型店舗には大きな手ごたえを感じました。京樽の買収は、テイクアウトのノウハウを吸収したいという狙いがありました。

■スシローと海鮮三崎港はカテゴリーが違う

——京樽系列には回転すしチェーンの海鮮三崎港もあります。スシローと海鮮三崎港はどちらも回転すしですが、どのように差別化しているのでしょうか。

同じ回転すしでも両者はカテゴリーが違います。われわれスシローは「100円回転すし」というカテゴリーで、海鮮三崎港は「グルメ回転すし」というカテゴリー。ちなみに、もっと上のカテゴリーには「回らないすし屋」がありますよね。

スシローはこれまで「100円回転すしなのにここまでやるのか!」という挑戦をしてきました。その背景には、「グルメ回転すしがやっていることを、うちでもっと安くやろう!」という想いがあったんです。そうすればグルメなお客さまもスシローにやってきてくれる。

■相互の良さを掛け合わせてシナジーを生みたい

——グルメ回転すしである海鮮三崎港が持っているノウハウを学びたいという想いがあるのでしょうか。

スシロー店内
撮影=加藤慶

具体的にはこれから進んでいくところですが、海鮮三崎港にあってスシローにはない大きな違いが「職人気質」です。海鮮三崎港は人がすしを握るというオペレーション。スシローはどこまでいっても機械が握ったシャリにネタを載せるというオペレーション。ここは大きな違いです。海鮮三崎港の職人気質な部分をスシローに取り入れられないか。あるいはスシローがこれまで培ってきた食材の調達力を海鮮三崎港に取り入れられないか。そうした相互のシナジーが生まれたらいいなと感じています。

スシローに入社して20年、うまいすしにこだわってきた私からすると、どこが仲間になっても無限大の可能性があると考えています。例えば海鮮三崎港の職人さんに、スシローの店長の前で、「その職人さんが考えるすしとは何か」といった話をしてもらうだけでも、モチベーションが全然変わってくると思います。そういったシーンを想像すると、やっぱり楽しみでしかないです。

■「個人経営のおすし屋さん」にヒントあり

——堀江社長は以前、「予算などの制約がなければ、銀座の高級すし屋で出している品質のものを低価格で出したい」と発言されています。まさに、すし業界のいいところをどんどん吸収してスシローを進化させていきたいという理念を感じます。

自分の考え方として、「自分がおいしいと思わないものは、絶対売らない」と決めています。だから今でも店舗で提供される新商品たちは、必ず私が最終チェックをやらせてもらっています。

今は社長業ですが、2年前までは仕入れの責任者をやっていましたし、今でも実際に全国各地のおすし屋さんに足を運びます。特に「個人経営のおすし屋さん」にヒントがあります。何が楽しいって、そのお店それぞれに、参考になるものが山のようにある。大体そこの店の大将と会話をすると、何でも平気で教えてくれるんですよ。しかもレシピまで(笑)。

スシローの外からそうしたヒントを持ち帰って商品化することもあるし、食材の調達先を紹介していただいたりすることもあります。銀座の一等地の高級すし屋でもいい。街中にある大衆的なすし屋でもいい。みなさんが持っていらっしゃるものの中で自分が共感できたものを、スシローでも販売してみて、お客さまに喜んでもらえるかを試してみる。スシローの責任者として、常にその視点は大切にしています。

新商品プレゼンの様子
写真提供=スシロー
新商品プレゼンの様子 - 写真提供=スシロー

■コロナ禍でもアクセルを踏み続ける

——回転すし業界の競争において、くら寿司やかっぱ寿司を抑えてスシローはトップを独走しています。その要因はどこにあると思われますか。

コロナ禍でもブレーキを踏まなかった、というのが一番大きいと思います。私が社長に就任してちょうど半年後のタイミングで新型コロナウイルスが猛威を振るってきた。その時私はスシローの社長として、5万人の従業員をどうやって守ろうかということを考えました。

「全店舗で営業をしない」という選択肢も考えました。でももしそれで会社がつぶれてしまったら、5万人の職場がなくなるということもありえる。雇用の責任もある中で、ブレーキを踏むべきか、アクセルを踏むべきか悩みました。その時に、感染対策についての正しい情報が世の中に出てきた。であれば、やるしかない。やるならば徹底的にやろう。その時に決めました。

新規出店は計画通りに行いましたし、期間限定キャンペーンのCMもやめませんでした。全部アクセルを踏み続けたんです。FOOD & LIFE COMPANIES CEOの水留浩一も同じ考えでした。とにかく、今まで通り全部やる。何も止めない。その結果が今に至っている、と考えています。

■コロナ禍で身に染みた、お客さんのありがたみ

——確かに、コロナ禍でもスシローのCMはよく見かけました。コロナ禍で暗い気分になっていたからこそ、スシローのおいしそうなCMを見て元気が出た方も多かったのではと思います。

2020年5月の渋谷ジャックの様子
写真提供=スシロー
2020年5月の渋谷ジャックの様子 - 写真提供=スシロー

緊急事態宣言の真っただ中だった20年5月「すしで、笑おう」というメッセージで渋谷をジャックさせてもらいました。回転すしチェーンを運営していて、われわれの存在意義がどこにあるかというと、「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」という企業理念。コロナが猛威を振るっていた20年5月ごろは、お客さまも通常の半分ほどでした。そんな状況下でも来ていただけるお客さまに、一番うまいすしを届けよう! というメッセージを従業員には伝えていました。

そんな中で「お客さまが来てくれることが、こんなにうれしいと思ったことはないです」と従業員が口をそろえて言っていたんです。普段は店を開ければお客さまがわんさか来てくれていましたが、コロナ禍では来ない。それは本当に寂しかったですよ。でもコロナ禍という逆境を通して、会社としてひとつになれたという気もしますね。

■店内放送の内容はスタッフに一任

——コロナ禍があったからこそ、企業理念に立ち返ることができたということですね。

私は社長になった時に、企業理念に「もっと」を付け加える、という方針を打ち出しました。「もっとうまいすしで腹一杯、もっとうまいすしでもっと心も一杯」にこだわるんだ、と。

スシローは店内調理方式ですが、同じ原材料で同じレシピなのに店によって全然違うすしになってしまうことにもなりかねません。それがすしの面白さでもあり難しさ。だからこそ「すし塾」を復活させ、「すし屋の基本」を学び直すことにしました。ネタの切りつけ方やシャリの炊き方などについて、普段やっていることをもう一度徹底的に見直そうよ、と。

それに加えて、活気のある店づくりにも着手しています。せっかくなら活気がある雰囲気の中ですしを食べた方がもっとうまくなる。コロナ禍で対面接客がなかなか難しい中で、店内の活気をどう生み出していくか。そこで行き着いたのが店内放送です。

店内放送の内容にマニュアルはなく、「各店舗ごとで考えて、元気よくやってみなさい」とスタッフたちに任せています。だから店舗によって店内放送の内容も違うんです。例えばとある地方のスシローにいくと、その地方の方言が使われていたりなど、店長が現場でさまざまな工夫をしてやってくれています。

店舗オリジナルのレーンポップがレーンに流れる(スシロー江坂店で撮影)。
撮影=加藤慶
店舗オリジナルのレーンポップがレーンに流れる(スシロー江坂店で撮影)。 - 撮影=加藤慶

■スシローだけが元気でも意味がない

——ほかの外食がコロナ禍で苦戦しているのをどうみていますか。

スシローが元気でも、外食全体が沈んでいてはお客さんは来てくれません。みんなが元気じゃないと困るんです。その中でスシローを選んでもらえるか、競合他社に負けないうまいすしを提供できるか。これが私の考え方です。漁業者、流通、すし屋、お客さまというサプライチェーンがみんな元気なうえで、われわれは良いものを提供したい。

一方でコロナ禍を経て、完全に元通りの世界になるかというと、そうではないと思うんです。そこは会社としてコロナの状況を見極めながらも、今まで通り、アクセルを踏み続けて戦っていきます。

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堀江 陽(ほりえ・よう)
あきんどスシロー 社長
1970年、兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、保険会社勤務。98年にスシロー(旧屋号:すし太郎)のトラックドライバーになる。2000年あきんどスシロー入社。仕入部長、商品部長、商品企画部長などを経て、19年10月にあきんどスシロー社長に就任。

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寿司リーマン(すしりーまん)
会社員
25歳で訪れた石川県の名店「太平寿し」をきっかけに寿司屋の奥深さを知り、全国300軒以上の予約困難店を食べ歩く28歳のサラリーマン。月給の6割を寿司に投資し、累計10000カンの一流寿司を食す。そこでの実体験から編み出した「一流の寿司屋はビジネススクール」という独自の価値観で、寿司の価値を再定義し、発信している。各種SNSはこちらから

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(あきんどスシロー 社長 堀江 陽、会社員 寿司リーマン 聞き手・構成=寿司リーマン)

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