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「スシローはネタ以上にシャリにこだわっている」堀江社長が明かす"うまさ"の秘密

プレジデントオンライン / 2021年8月14日 11時15分

堀江陽社長(左)と寿司リーマン(右)。スシロー本社(大阪府吹田市)のお膝元、江坂店で撮影。 - 撮影=加藤慶

回転すしチェーン首位の「スシロー」は、なぜ人気なのか。月給の6割を寿司に費やし、この3年間に600万円分は食べたという28歳会社員の「寿司リーマン」が、あきんどスシローの堀江陽社長にうまさの秘密を聞いた――。

■シャリの肝は「甘さ」と「ほどよい柔らかさ」

【寿司リーマン】私は週5回のペースですし屋に足を運んでいます。そのうちの2回はスシローに行くくらい、スシローファンです。今回はスシローのうまさの裏側に迫りたいと思います。

【堀江社長】よろしくお願いします。

【寿司リーマン】スシローさんは本当にうまくて安い。味へのこだわりについて聞かせてください。

【堀江社長】「味」については、実は2つに分かれているんです。それは「シャリ」と「ネタ」です。もちろんネタにも徹底的にこだわっていますが、もっとこだわらないといけないのは「シャリ」なんです。ウチのシャリについて、寿司リーマンさんはどう思いますか。

【寿司リーマン】柔らかくて甘いですよね。

【堀江社長】ですよね。でも、高級すし屋にいくと、そんなシャリってほぼないですよね。

【寿司リーマン】むしろ高級店は、かたくて塩っ気のあるシャリが多いです。

スシロー店内
撮影=加藤慶

【堀江社長】実は、そこにスシローのうまさの秘密があるんです。回転すしが高級すしと違うのは、万人向けかどうかということ。万人にうまいと思ってもらうためには、「甘さ」と「ほどよい柔らかさ」が必要なんです。スシローはシャリに徹底的にこだわってきました。私が社長になった時に全国の店舗を見て回ったんですが、シャリの味が店舗によってバラバラだったんですよ。

【寿司リーマン】何が原因だったんですか。

■すしロボットが握るシャリの「密度」や「高さ」まで微調整

【堀江社長】米と酢を合わせるタイミングが店舗によって違っていたんです。米が炊けてからすぐに酢を混ぜ合わせるのがうまいシャリの基本です。でも、作業効率の追求や店が忙しいことを理由に、その時間がブレてしまっていました。

また、スシローでは、「炊いてから4時間以内のシャリがうまい」としています。作業効率だけを考えたら、朝にまとめて一気に炊いてしまう方がラクですよね。でも、うまさにこだわるスシローは手を抜きません。

スシロー店内
撮影=加藤慶

【寿司リーマン】酢を合わせるタイミングや、炊いてからの時間へのこだわりもしっかりあるんですね。他にもシャリへのこだわりはありますか。

【堀江社長】「人肌」にこだわっています。スシローでは、基本的にタッチパネルで注文されたすしは35~36℃の人肌のシャリで出す、ということを指示しています。人肌温度のシャリで食べた時と、冷たいシャリで食べた時では、うまさが格段に違います。スタッフにも実際に食べ比べをしてもらって、人肌のシャリのうまさを感じてもらう。そうやって、「どうすればうまいシャリを提供できるか」に向き合っています。

スシローのシャリは、すしロボットが握ります。炊き立てのシャリと3時間たったシャリは“顔”が変わってくる。時間に合わせてすしロボットが握るシャリの「密度」と「高さ」を微調整しています。シャリひとつとっても、味が何万通りにも変わってくる。ここがすしの面白いところです。

【寿司リーマン】シャリひとつとっても、そこまで細部までこだわっているとは驚きです。堀江社長のすし愛をひしひしと感じます。

■商品プレゼンでは堀江社長が大きな権限を持っている

【寿司リーマン】スシローでは、定番商品も新メニューも、経営層で試食をしてGOサインを出しますよね。

【堀江社長】はい。でも、役員全員が味のジャッジをするプロフェッショナルかというと、そうではありません。最終的にはFOOD & LIFE COMPANIES CEOの水留浩一と私がジャッジをしています。多数決で決めているわけでもありません。もし水留がNOと言っても、私がYESと判断すれば商品化することもあります。

【寿司リーマン】そうなんですか!?

【堀江社長】経営のジャッジは水留にはかないませんが、味のジャッジには自信があります。

【寿司リーマン】スシローにとって、堀江社長の味覚力は会社を左右すると言っても過言ではないですよね。その感度はどうやって磨いていらっしゃるんですか。

■子供時代から研ぎ澄まされた味覚

【堀江社長】そこは親に感謝していますね。私が子供の頃は、うま味調味料や冷凍食品が普及し出した時代です。ところが母親は、それらを一切使わない人だった。だから私は味の本質か分かる味覚を持つことができました。何も添加物が入っていないものを食べると、スーッと喉元で味が切れる。一方、添加物が入っていると、喉元で味が引きずられる。親のおかげで、「味の本質を検知する味覚」をもつことができました。

【寿司リーマン】小さい頃の食生活が、今のスシローのうまさを背負っているんですね。

スシロー店内
撮影=加藤慶

【堀江社長】あとは、とにかく「すしを何カン食べたか?」ですね。先代社長の豊﨑賢一の部下だった時代には、山のように食べさせられました。うまいすしも、そうでないものも、とにかく食べる。食べた数が増えれば増えるほど、「味覚データベース」が自分の中にたまっていきます。

まず、試食の時に、そのすしの味がこれまでの人生の中でどの位置にいるかを考えます。次に「で、これナンボなら出せる?」と考えて、その商品の味と値段が合格かどうかを見極めているんです。

【寿司リーマン】確かに味だけでなく、値段も重要ですよね。

【堀江社長】「相場がこうだからこの値段」っていうのは商売として全然面白くないじゃないですか。ウチはどこまでいっても、「このすしが100円でお客さまがうれしいかどうか」が勝負なんです。

■すしをひたすら食べて体重が25kg増加

【寿司リーマン】これまで堀江社長はどれくらいの数のすしを食べてきたんですか?

【堀江社長】いや~、仕入部にいた頃は、体重が70kgから95kgまで増えました。びっくりするくらい食べましたからね。今は現場を離れたので、10kg減量しました。

【寿司リーマン】それだけ食べてもすしって食べ飽きないですよね。

【堀江社長】そう。「満腹でも食べられるすし」こそが本当にうまいすしなんです。スシローが目指しているのは、「満腹でも食べられるすし」です。1日に5~6軒店舗巡回することも多いのですが、最後のほうになってくるともうおなかパンパンです。でも、その店舗のすしがうまくて店内の雰囲気がよければまだ食えるんですよ。そうしたところも味の判断基準になりますね。

【寿司リーマン】堀江社長がスシローで一番好きなネタはなんですか?

スシロー店内
撮影=加藤慶

【堀江社長】天然インド鮪の中トロですね。とにかく脂が甘い。「魚のくせに甘い」っていうのが、たまらなく好きなんです。

【寿司リーマン】スシローのすしは直感的にうまいです。いや、「うまい」というよりも「うまっ!」というガツンとワイルドな感じです。

■価格を上げてでも「もっとうまい」ものを出したかった

【寿司リーマン】さて、スシローは1皿100円から食べられるというのが大きな魅力ですが、気づけば150円皿や300円皿を手に取ってしまいます。なぜ100円以外の商品が誕生したのでしょうか。

スシロー店内
撮影=加藤慶

【堀江社長】将来、原価は上がっていくと思われます。人件費も上がっていくでしょう。そこに対しての対策として、100円皿の他に、かつて180円、280円というプライシングを行いました。顧客単価を上げたいという目的ではありません。100円でできることをある程度やり尽くした時に「世の中にあるもっとうまいネタを提供したいけど100円じゃ出せないから、次の皿を用意したい」という思いで始めました。

【寿司リーマン】中途半端なものを100円で出すなら、価格を上げてでも「もっとうまい」ものを出すことにこだわっていらっしゃるんですね。

■「感動皿」というネーミングに込めた決意

【堀江社長】そうは言っても、100円皿しか召し上がらないお客さまも一定数いらっしゃいます。絶対決めているのは、100円の定番メニューのクオリティーは死守すること。店舗巡回をする時に私が重要視しているポイントは、100円皿のクオリティーです。レーンを流れている定番商品を実際に食べて、味にブレがないか確認しています。100円皿のクオリティーは絶対に落としません。

【寿司リーマン】今では100円皿以外に、150円の「お値うち皿」と300円の「感動皿」がありますよね。

ふわとろ煮穴子一本にぎり(300円)。※商品はなくなり次第終了となります。また、一部店舗では品目・価格が異なります。
写真提供=スシロー
ふわとろ煮穴子一本にぎり(300円)。※商品はなくなり次第終了となります。また、一部店舗では品目・価格が異なります。 - 写真提供=スシロー

【堀江社長】それぞれ「お値うち皿」「感動皿」という名前をつけた理由は、スタッフに自戒の念を込めさせるという意味もあります。感動皿を提供するからには、感動するネタじゃなきゃダメ。徹底的にうまさにこだわって、「300円だけど、うまかったから満足!」とお客さまに思ってもらえるようなクオリティーを目指しています。

【寿司リーマン】「お値うち皿」「感動皿」とネーミングをすることで、お店のスタッフさんも手を抜けなくなりますね。

【堀江社長】ネタが崩れたりした写真がネット上に投稿されていたことが以前ありました。それを見て私は営業部長たちを集めて、これが感動皿だとわかっているかと伝えました。感動皿というネーミングをしたことによって社内を引き締める、という効果もありますね。

■スシローは接客を褒められたことがなかった

【寿司リーマン】スシローが目指している「うまい」へのスタンスは、接客にも表れていますよね。

【堀江社長】例えばマクドナルドさんはよく「接客が良い」と言われていますよね。一方、ウチは「すしがうまくて安いよね」とよく言っていただいていますが「接客が素晴らしいよね」とは一回も言われたことがない。「接客が良いからスシローに行こう」と思われていないんです。

私が社長になって、「すし屋の基本」という品質基準を作り、全国の店舗を巡回していました。その時に、普通じゃ考えられないようなパフォーマンスをしている店舗があったんです。

【寿司リーマン】どんな店舗だったんですか?

店内の活気付けに、店舗オリジナルの店内放送を流すスタッフ。
写真提供=スシロー
店内の活気付けに、店舗オリジナルの店内放送を流すスタッフ。 - 写真提供=スシロー

【堀江社長】夏の時期だったのですが、まず入店すると、天井に浮輪がぶら下がっているんです。驚いたのは、企業秘密である「スシローのシャリ6カ条」という社内向けのノウハウを模造紙にデカデカと書いて壁に張り出していたんですよ。思わず店長を呼び出して、なにをしているのかと声をかけました。すると店長は「そこまでしてまで、ウチの店舗ではうまいシャリを提供するとスタッフみんなで約束したんです」と言うんです。そこまで言われたら「しゃあないか」となるじゃないですか。

さらに、その店舗では、私も好きな「天然インド鮪7貫盛り」をスタッフが運んでくると同時に、そのスタッフのオススメの食べ方をプレゼンテーションしてきたんです。

■理想のすし屋像は「昔ながらの大衆的なすし屋」

【寿司リーマン】チェーン店だとどうしてもマニュアル接客になりがちですが、個性があふれていて活気のある店舗だったんですね。

【堀江社長】私はその時に、「これだ!」と思いました。スシローにまだまだ伸びしろがあるとしたら、ここだ! と。「うまいすしが手軽に食べられる」だけでなく、「楽しくて元気になれる」という店づくりにも取り組もうと。そこで、1年前から店長会議の内容を変えました。座学中心からロールプレーイング形式に変えたのです。外の会議室を借りて、全店長で接客のロールプレーイングを行い、各店舗で生かしてもらう。それを繰り返し行うことで、以前よりも店内に活気が出てきたように思います。

【寿司リーマン】堀江社長が理想としているスシローというすし屋の姿はどこから来ているんですか?

スシロー店内
撮影=加藤慶

【堀江社長】「昔ながらの大衆的なすし屋」かもしれません。ガヤガヤしている中で、大将の「へい、らっしゃい!」という威勢の良い声や、「はい、お釣り300万円!」というダジャレなどが飛び交う雰囲気。この感じがいいんです。だから私は、「いい接客」よりも「活気ある接客」をしましょうという方針を出しています。

それからは接客への意識も、だいぶ変わってきましたね。「当店のオススメは」ではなく、「ウチのオススメは」というスタッフが増えてきました。そのほうがすし屋っぽくていいじゃないですか。

■堀江社長が考える「すしと焼き肉の違い」

【寿司リーマン】スシローグローバルホールディングスは、今年4月にFOOD & LIFE COMPANIESに社名変更されましたね。そこに込められた思いは「すしのある生活」。すしを中心に突き進んでいかれるスシローの未来がとても楽しみです。

【堀江社長】すしと焼き肉の違いは「毎日食べても飽きない」こと。こんな食べ物、朝の食パンかおすしくらいです。

(レーンを流れているマグロを指さして)これ見てくださいよ。マグロとシャリだけですよ。こんなにシンプルなのに、マグロの産地や部位の違い、シャリの酢の配合などの組み合わせで何万通りにもバリエーションが広がるのがすし。社長の自分のさじ加減によって、お客さまや従業員が笑顔になってくれるかどうかがわかる。責任重大ですが、非常にやりがいを感じています。

【寿司リーマン】すしにはロマンがあり、無限の可能性を感じますね。

スシロー店内
撮影=加藤慶

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堀江 陽(ほりえ・よう)
あきんどスシロー 社長
1970年、兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、保険会社勤務。98年にスシロー(旧屋号:すし太郎)のトラックドライバーになる。2000年あきんどスシロー入社。仕入部長、商品部長、商品企画部長などを経て、19年10月にあきんどスシロー社長に就任。

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寿司リーマン(すしりーまん)
会社員
25歳で訪れた石川県の名店「太平寿し」をきっかけに寿司屋の奥深さを知り、全国300軒以上の予約困難店を食べ歩く28歳のサラリーマン。月給の6割を寿司に投資し、累計10000カンの一流寿司を食す。そこでの実体験から編み出した「一流の寿司屋はビジネススクール」という独自の価値観で、寿司の価値を再定義し、発信している。各種SNSはこちらから

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(あきんどスシロー 社長 堀江 陽、会社員 寿司リーマン)

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