「女であるというだけで舐められる」20代フリーランスが驚いた取引先男性の"ある行動"
プレジデントオンライン / 2021年8月10日 15時15分
■頻繁に届く、まったく知らない男性からのメッセージ
駅などで女性をターゲットにして次々と体当たりをくりかえす男性、乗客が女性と見るや突然タメ口になったりセクハラ発言をしたりしてくるタクシードライバー、しつこい付きまといやナンパを無視したり断ったりすると容姿を侮辱するなど、罵詈雑言を浴びせてくる男性。
残念ながら、現代社会においては「女である」というだけであらゆる場面において舐められがちなのだが、日常生活だけでなく仕事においてもいろいろな理不尽を被るので、そろそろそんな陋習に終止符を打ちたい、と常々考えている。
私はノンフィクション作家・コラムニストとして顔と名前を公表して活動しているが、Twitterやインスタグラム、FacebookのアカウントのDM機能でまったく知らない男性から「タイプです。一度お会いしてくれませんか」など、まるでマッチングアプリか何かのように自己紹介と自撮り写真を添えたメッセージや、性的な(嫌がらせの)内容を含むメッセージが頻繁に届く。
まあ、顔を出して活動している女性に対してそういった連絡を送る人々が多いことは周りからもよく聞く話であったため、それについては想定の範疇だったといえばそうなのだが、予想外だったのは、仕事で、それも会ったこともない取引先の編集者の男性から、タメ口でメールが届いたことだった。
■「年下の女性」ならタメ口でいいという認識
最初に男性から連絡があった際には、「記事寄稿のご依頼」として送られてくる他のメールとさして変わらない、初めて連絡をする相手へのメールにふさわしい丁寧な文調だったと記憶している。だからこそ、その依頼を承諾したのだが、こちらから「こういうテーマで書くのはどうでしょうか」と提案したところ、相手からのメールが突然、驚くほどラフになった。
さっきまで「私」だった一人称は「僕」に変わり、ビジネスメールとして成立していた文体も「それ、いいね!」というように、まるで友達に対して連絡をしているかのようなものに様変わりしたのである。
その男性と連絡のやりとりをしたことがある私と同世代の男性数人は「タメ口でメールを送られてきたことなど一度もない」と驚いた様子で、さらに、私以外にも、同じようにタメ口対応をされている女性がいることが判明した。どうやら本人は「年下の女性」であれば、たとえ面識がないとしても、タメ口を使ってもいいと認識しているであろうことがわかった。この男性は、たとえ相手が年下であっても、男性であれば敬語を使い、女性であればビジネス上の付き合いであっても馴れ馴れしくタメ口を使い、性別で対応を変えているのだ。
その男性がおそらく自分より少し年上であることを考慮したとしても(そもそも年上だろうが年下だろうが関係ないが)、あくまで仕事上のみの繋がりであり、かつ面識もない、たった2~3通メールをやりとりしただけの“人間”に対して「OK、吉川さんの案でいいと思う! それでよろしく!」とメールを送ってくるその男性の神経を、正直、心底疑ってしまう。
■「あの女の子」問題
この問題の厄介なところは、こういった女性蔑視が、必ずしも「悪意」の下に行われているわけではない点だと思う。
私は職業柄、編集や校正業を依頼されることもあり、作家やライターが書いた文章に問題がないか、公開前にチェックすることがよくある。以前、とある原稿をチェックしていたとき、私が目を留めたのは「アシスタントの女の子」という言葉だった。もしかすると、この言葉について、特に違和感を抱かない人の方が多いかもしれない。
![夜間のラップトップ上のメモを比較する学生](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/d/670/img_3dd8df8d16159d83bbee6ddd81ecc9ef583494.jpg)
しかし私は、その原稿を書いた男性のライターを守るためにも、「アシスタントの女の子」という表現のなかにあるかもしれない無意識な女性軽視を公然にさらすわけにはいかないと判断し、一度、本人と話し合うことにした。
「もしもこのアシスタントの性別が男性であった場合に、等しく『アシスタントの男の子』と表現するなら『アシスタントの女の子』という言葉でも問題はないと思いますが、どうでしょうか」と聞いてみると、その男性は「確かに、彼女がもしも男性だったら『男の子』とは絶対に表現しなかった。職場にいる若手の女性を『女の子』と呼ぶことについて違和感を持ったことがなく、この原稿を書くときも、言われるまで全く気が付かなかった」と答えた。
彼は自分のうちにある「無意識な性差別」に驚き、同時に「他にもやってしまっているのではないか」といった危機感を覚えたと話してくれた。
■女性をアイコン的に扱うこと
その話とはまた別に、以前、会社経営者の男性から「この業界で、吉川さんを担ぎ上げさせてくださいよ」という申し入れがあった。私は現在、どこの組織にも所属しておらず、個人事業主として企業からの仕事を請けている。
会社という後ろ盾がないとはいえ、他人に対して「あなたを担ぎ上げたい」と意思表示をする人とはそのとき初めて遭遇したため、最初は思惑がよくわからなかった。しかしよくよく話を聞いてみると、どうやら「20代の女性」である私に「外部提携」という形で名ばかりの役職ポストを用意する代わりに“会社の顔”として役に立ってほしい、というのが本音だったらしい。
驚いたのは、相手は私に実務をさせる気もなく、報酬を支払う気もなく、要するに「アイコンとして顔と名前を貸してほしい」だけだったことだ。正直なところ、その会社は世間的に「イメージがいい」とはお世辞にも言えず、この打診は苦し紛れのイメージ戦略だったのだと思う。そのため、この提案に乗れば、自分にまで火の粉が降りかかる結果になるのは最初からわかっており、私にとってはデメリットしかないことは明白であった。
そこで「そのお話、私にとってのメリットはなんでしょうか」と尋ねると、男性は何の疑問も持たずに、有名になれるんだからいいじゃないですか、第二の○○さん(同業の著名な女性作家)として活躍してほしいんですよ、と意気揚々と語った。
私としては、この「担ぎ上げさせてくれ」問題については相手の男性に悪意がなかったとしても「非常に侮辱的な話である」と考えているし、そもそも組織に無関係である若手の女性を、アイコンやアイキャッチとして消費したいだけの話に「あなたを有名にしてあげたい」という免罪符(にもなっていないが)を付加して、さも善意からの提案であるように装うその卑怯な手口に、心底軽蔑している。
■もしも男性であれば同じことは起こったか
もちろんすべての男性が女性軽視的目線を持っているとは思わないし、女を記号として見るのではなく「一人の人間」として扱ってくれる男性もいるのだが、そもそもそれは当たり前のことであって、他者と関わる上で最低限必要なことであるはずだ。
仕事で、取引先や上司などから不当な扱いを受けたという女性の経験談を聞くたび、いつも「これがもしも男性であれば、このような扱いを受けることはあっただろうか」と考えるようにしているのだが、やはりほとんどの場合は「女性である」というだけで存在を軽んじられたり、高圧的な対応を取られたりしている。
その背景には、まだ日本社会においては権力構造のバランスが男性に大きく偏っていて、そのなかで強者的立場にいる人間が「大した権力を持たない女性を怒らせたところで自分が不利益を被ることはない」と高を括っていたり、「女性は男性に比べて職能が劣っている」と心から信じて疑っていなかったり、女性を成人としてではなく、まだ未熟な子供であるかのように扱っていたりするのだと思う。
だからこそ、こちらが侮辱的な扱いに強く抗議したり問題にしようとすれば、彼らは予想外の事態に狼狽したり、困惑したり、あるいは「生意気だ」と怒りを覚え、さらに攻撃的になったりする。
■正当な抗議をして干される女性たち
そうやって正当な抗議をした知人の女性たちが、いわゆる権力を持つ相手から「干された」状態になったのを聞くことも多い。そして私自身も同じように、正しい対応を求めたことがきっかけで二度と取引ができなくなった会社がいくつかある。
特に個人事業主である私たちにとって、取引先を失うことはダメージとなることに間違いないが、女性たちだってこのような理不尽な事態を黙って、何もせずに見つめているわけではない。私たちは水面下で情報を共有しあっていて、連携し、これから先、同じようなことが業界内で起こらないように証拠を集めたり、強者側の立場にいる協力者と繋がるなど、互いの身を守るための手段を用意している。
セクハラした女性からの告発をもみ消そうとすることも、女性にだけタメ口でメールを送る不遜な行為も、相応の報酬を与えず、女性を「記号」として消費しようとすることも、そろそろ通用しない時代へと移り変わっていることに、社会全体が早く気が付くべきではないか。
幸い現代には、これまでなら問題をなかったことにされてきた被害について、SNSで誰もが告発でき、意見を言い合える環境がある。権力構造の上にいる人々こそ「今後は昔のようには行かない」と気付けなければ、これから先、損をするのは自分たちの方なのではないだろうか。
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ノンフィクション作家
1991年生まれ。作家、エッセイスト、コラムニストとして活動。貧困や機能不全家族などの社会問題を中心に取材・論考を執筆。文春オンライン、東洋経済オンライン、日刊SPA!他で連載中。著書に『年収100万円で生きる 格差都市・東京の肉声』(扶桑社新書)。
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(ノンフィクション作家 吉川 ばんび)
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