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「ワクチン済みの人たちにガンガン経済を回してもらう」日本は早く青信号経済を始めるべきだ

プレジデントオンライン / 2021年8月11日 10時15分

交付された新型コロナウイルスワクチンの接種歴を証明する「ワクチンパスポート」=2021年7月26日、東京都品川区 - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルスのワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」の運用が各国で進んでいる。日本でも7月26日から発行受付が始まったが、対象は海外渡航予定者に限られている。国際カジノ研究所所長の木曽崇さんは「ワクチンパスポートの国内利用こそが、経済正常化を実現する唯一の手段だ」という――。

■いまだ大きく出遅れるワクチン接種率

新型コロナウイルスの感染爆発で、経済は危機的状況にある。帝国データバンクは8月3日、新型コロナウイルスの影響で破産などの手続きをとって倒産した企業や、事業を停止して法的整理の準備に入った企業は、コロナ禍が発生した去年2月からの累計で1860社になり、今年になって急増しているとするレポートを発表した。

業種別では「飲食店」が311社と最も多く、次いで「建設・工事業」が185社、「ホテル・旅館」が101社、「食品卸」が97社となっており、飲食業や観光業などコロナ禍で直接的な被害を受けているレジャー業種はもとより、そこから受注する業種である食品卸や建設・工事業などの間接業種までもが連鎖的に倒産するケースが増えている。

新型コロナウイルスの急激な感染再拡大に伴い、8月2日から、東京都と沖縄県以外の4府県においても緊急事態宣言が発出された。本来は「書き入れ時」となる夏の行楽シーズンを失ったレジャー産業の倒産も、今後ますます拡大することは確実だ。

さらにレジャー産業にとって悩ましいのは、現在直面している新型コロナウイルス感染の再拡大と、それに伴う各種営業制限に終わりが見えていないことだ。現在、政府と各自治体は新型コロナウイルスに対するワクチン接種を躍起になって進めているが、全国民のうち2回のワクチン接種を完了した者は4155万人(8月5日時点)、比率に直して32.7%にとどまっている。ここ数カ月のブーストでだいぶ追い付いてはきたものの、この比率はカナダ(59.47%)、イギリス(56.66%)、イタリア(52.76%)、ドイツ(51.87%)、アメリカ(49.31%)などと比べると(いずれも8月4日時点)、いまだ大きく出遅れている。

■ワクチン接種が完了してもwithコロナは続く

何よりも問題となっているのが、わが国よりも先行してワクチン接種が広がった各国において、「ワクチン接種だけでは感染拡大を止めることができない」ことが証明され始めていることだ。コロナ禍初期の分析では、全人口比率で60~70%のワクチン接種があれば社会的集団免疫が機能すると想定されており、各国はそれを目標として自国民に対するワクチン接種を進めてきた。

しかし、ここ数カ月の間に感染力の強い新型コロナの変異株が誕生したことで、その想定は完全に崩壊している。イギリスやアメリカなどワクチン接種で先行している国々でも、いったん縮小局面にあった新型コロナウイルスの新規感染者数が再拡大に転じ始めている。

日本においても、7月29日に行われた衆院内閣委員会の閉会中審査にて、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「仮に国民の70%に(ワクチン接種を)したとしても、残りの30%の人がプロテクトされることでは残念ながらないと思う」との見解を示した。

さらに言うのならば、現在接種が進められているワクチンの効果は1年間程度であり、それを持続させるには継続的なワクチン接種が必要であるとの認識が、ワクチン接種で先行する国々でも既に共有されつつある。希望者に対するワクチン接種がほぼ完了したと言われるイスラエル、イギリス、ドイツ、フランスなどでは、国民に対する3回目のワクチン接種準備が既に始まっている。

すなわち、ワクチン接種が国民の間で一通り完了したとしても、そこで人類と新型コロナウイルスの戦いが終わるわけではなく、皆が毎年一回ワクチンを打ち続けながらコロナと共に生きてゆく「withコロナ」の時代が少なくとも当面は続くということだ。

■ワクチン接種先行国で広がるワクチンパスポート

「皆が当初思い描いていたような『afterコロナ』の時代は来ない」。このような現実の中で、われわれが改めて考え直さなければならない重要な事案が「ワクチンパスポート」の活用である。

ワクチンパスポートとは、新型コロナウイルスのワクチン接種を証明する公的文書のこと。ドイツ、イタリア、オーストリアなどを中心に、既に30カ国以上で導入または検討されているほか、いまだ国単位での導入がなされていないアメリカやイギリスなどにおいても各地域単位でその利活用が進んでいる。

その運用のあり方に関しては、飲酒を伴う店やスポーツイベントの利用にあたって提示を義務付けるものから、出入国に伴う隔離期間の免除などの優遇措置を設けるものまでさまざまである。いずれもワクチン接種者に対して特別に各種行動制限を解除するという点では共通だ。

アメリカでは既に「民間によるワクチンパスポートの利用は国民の権利制限にはあたらない」とする裁判所の判断も出始めており、企業、病院、学校がその従業員や学生に対してワクチン接種証明の提出を義務付ける動きも急速に広がっている。

■「青信号経済」の形成が急がれる

ワクチンパスポートに関しては、日本でも7月26日から本証明書の発行受付を各市町村の窓口において開始したが、あくまで海外渡航を予定している者のみを対象として発行されるものであり、少なくとも現時点においては国内での利用は前提とされていない。

その理由について政府は「(ワクチンパスポートは)使い方によっては差別を助長する懸念がある」と説明している。これはどうも解せない。日本政府は海外渡航者向けには発行するつもりだからだ。つまり、①海外であればワクチンパスポートによる差別が行われても構わないと考えている、もしくは、②海外と違って日本人は特にこのパスポートを特別差別的に利用する懸念があると考えている、のどちらかということになる。しかし、いずれも政府のスタンスとしては不適切だ。

ワクチンパスポートの利用は「皆が当初思い描いていたような『afterコロナ』の時代は来ない」という現実の中で、経済正常化を実現する唯一の手段だ。現在、政府が目指している「希望者全員へのワクチン接種完了」が達成されたところで新規感染者数の増加は止まらないとするのならば、いずれかのタイミングで「新規感染者数はさておき、重症患者さえ増えなければ良い」という前提で、国民の社会生活を正常化する方針へと転換せざるを得ない。すなわち、「新型コロナに感染したとしても、少なくとも重症化しにくい状態にあるといえるワクチン接種者」を中心とする「青信号経済(Green Light Economy)」の形成だ。

渋谷のスクランブル交差点を渡る人々
写真=iStock.com/MarsYu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsYu

■ワクチンパスポート国内利用の本格検討が必要だ

例えば、特に高齢者における新型コロナ感染のクラスター発生源と名指しされてきたカラオケ喫茶は、いまだ多くの地域において厳しい営業制限を受けている業種の一つである。だが、高齢者のワクチン接種率が既に80%を超えた今、少なくともワクチン接種者を対象とした営業は再開されても良いはずだ。

全国の観光地はいまだ閑古鳥が鳴いているが、ワクチン接種を完了した者から順番に都道府県境を超える移動が解除されるのならば、少しずつその営業を再開できるようになる。

その前提として必要なのが、ワクチン接種者と非接種者と峻別する為のワクチンパスポートの利用である。少なくとも日本国民の海外でのワクチンパスポート利用を許容している日本政府が、その国内利用に二の足を踏む理由はそこにはない。

非常に残念なことではあるが、われわれがコロナ禍当初に思い描いていたような「afterコロナ」の時代は来ない。われわれはその現実を真正面から受け止め、一連のコロナ禍への対策方針を大きく転換せざるをえない。日本政府はいち早く、ワクチンパスポートの国内利用の本格検討を始める必要がある。

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木曽 崇(きそ・たかし)
国際カジノ研究所所長
1976年、広島県生まれ。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)、日本で数少ないカジノの専門研究者。米国大手カジノ事業者にて内部監査業務を勤めた後に帰国し、2004年にエンタテインメントビジネス総合研究所に入社。主任研究員としてカジノ専門調査チームを立ち上げ、国内外の各種カジノ関連プロジェクトに携わる。’05年より早稲田大学アミューズメント総合研究所カジノ産業研究会研究員として一部出向、国内カジノ市場の予測プログラム「W‐Kシミュレータ」を共同開発。

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(国際カジノ研究所所長 木曽 崇)

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