経済力がイマイチなのにメダル数が多かった意外な「島国の名前」
プレジデントオンライン / 2021年8月11日 11時15分
■上位15カ国で約65%のメダル獲得
東京オリンピックが閉幕しました。今回は、オリンピックでの各国のメダル獲得数と、名目GDPとの関係を調べてみました。つまり、経済力とメダル獲得数は関係があるのかということです。結論的には、経済の大きさと獲得メダル数には関係があるが、個別の国々を分析すると違う側面も見えてくるということです。
図表1はメダル獲得上位15カ国の数字です。
金メダルで見ると、上位15カ国で234のメダルを獲得しており(1位米国39個、2位中国38個、3位日本27個)、全体の金メダル数337のうちの69.4%を獲得しています。同様に、銀メダルは総数で338のうち15カ国で216個、全体の63.9%を獲得しています。銅メダル獲得数は15カ国で234個、総数402のうちの58.2%です。東京五輪に参加した国・地域の数は206でしたが、上位15カ国(全体の約7%)が、金・銀・銅の約65%を獲得したことになります。
メダルに重みをつけるために、便宜的に金メダルを3点、銀メダルを2点、銅メダルを1点とすると、総点数は2089点で、上位15カ国では1368点、シェアでは65.5%ということになります。国別にみると、米国232点、中国196点と1位、2位は変わりませんが、日本は、銀メダルの数が比較的多いROC(ロシアオリンピック委員会)と英国に抜かれて5位ということになります。
■GDPシェアでは
ここで世界の名目GDPの数字を見てみましょう。名目GDPは実額での各国で作り出された付加価値の合計です(図表2、一部推計値を含みます)。
全世界では約88兆ドルの名目GDPが作り出されていると推計されますが、その4分の1は米国です。22兆ドル近くのGDPを作り出しています。2位は中国で約16兆ドル、3位は日本の5兆ドル強です。
先ほどのメダル獲得国上位15カ国の、世界全体のGDPに占める割合を見ると、72.1%という結果です。
先ほど見た点数のシェアは上位15カ国で65%程度でしたから、GDPシェアのほうがやや大きいと言えますが、金メダルのシェア(69.4%)で見るとほぼ同じです。
これは、GDPの大きな上位2カ国の米国と中国が、多くのメダルを獲得していることにも影響しています。GDP第3位で獲得金メダル数も3位の日本まで含めるとさらにその相関は強まります。
ここまで言えることは、GDPの大きな国、つまり経済力のある国のほうが、メダルを獲得しやすいと言えると思います。
しかし、各国ごとのGDPの世界シェアとメダル獲得のシェアを見ると、また違った側面が見えてきます。
■GDPシェアとメダルシェアを見ると意外な結果が
図表3は、ここまで検討してきたメダル数の点数のシェアと、GDPのシェアとの比較です。米国は先ほども見たようにGDPでは世界の4分の1のシェアを持つのに対し、メダル獲得のポイントでは11.1%しかありません。金メダル(39個)で見ても、総金メダル数の11.6%にしかなりません。メダル点数シェアをGDPシェアで割った数字(11.1÷24.9)は、0.45倍です。つまり、稼いでいるGDPほどメダルが取れていないということです。
意外なのは中国です。中国は「国を挙げて」オリンピックに取り組み、国威高揚を図っているようにも見えますが、GDPシェアの18.7%に対してメダル点数でのシェアはその半分ほどの9.4%しかありません。金メダルのシェアでも11.3%です。中国も米国同様、GDPほどメダルは獲得できていないと言えます。経済的な規模や強引なまでのプレゼンス拡大を考えると、少し意外な感じもします。来年の北京冬季オリンピックでのメダル獲得数に注目したいものです。
同様に、GDPの世界シェアに対して、メダル点数のシェアが低い国がドイツです。日本に次ぐ世界第4位の経済大国で、名目GDPは4兆3000億ドル、世界シェアは5%弱です。一方、獲得メダルでの点数シェアは3.3%しかありません。金メダルだけのシェアを見ると、獲得したのは10個ですから、全体の3.0%です。米国、中国とともに、経済力ほどのメダル獲得はできていないと言えます。
■経済力とほぼ同等のメダルを獲得している国々
一方、経済力とほぼ同等のメダル点数を獲得している国々は、日本、フランス、カナダです。先ほども説明したメダル獲得シェアをGDPシェアで割った倍率をみると、日本が0.97倍、フランスが0.94倍、カナダが1.05倍です。経済的プレゼンスとほぼ同等のメダルを獲得していると言えます。ブラジルも1.2倍と、経済力を少し上回るメダルを獲得しています。
よく見てみると、カナダ以外の国々は、日本が開催国、フランスは次期開催国、そしてブラジルは前回オリンピックの開催国です。日本は開催国としてかなりの「気合い」が入っていたことは間違いありませんが、これは偶然の一致なのかは私には不明です。
ちなみに、上位15カ国に次ぐ16位の韓国(金6、銀4、銅10)は、メダル点数のシェアでは1.7%、世界のGDPに占めるシェアでは1.9%なので、ほぼ、日本やフランスと同じレベルということができます。
■経済力以上のメダルを獲得している国々
最後は経済力以上のメダルを獲得している国々です。
図表3で確認すると、上位国でまず目につくのはROCです。国ぐるみのドーピング問題で、ロシアという国名では参加できませんでしたが、それでも、金メダル数では5位、点数で見た場合には、日本、英国を抜いて3位です。点数で見たシェアは6.7%です。
一方、世界のGDPに占めるシェアは1.8%ですから、メダル点数シェアとGDPシェアを比べた場合の倍率は、なんと3.7倍となります。経済力に比べて、メダル獲得数が格段に多いと言えます。
経済規模の小さな国では、ニュージーランド、キューバ、ハンガリーが目立ちます。メダル点数シェアをGDPシェアで割った数字は順に8.02倍、13.48倍、10.95倍。3国ともGDPのシェアでは0.2~0.1%程度しかありませんが、国の経済力に比して多くのメダルを獲得していると言えます。それだけ、オリンピックに資源を投入していると推測されます。
同様にオーストラリアやオランダも、経済力に比して多くのメダルを獲得している国だと言えます。GDPのシェアがそれぞれ、1.7%、1.1%とニュージーランドなどに比べて比較的経済規模は大きい国々ですが、メダルを多く獲得しているということができます(メダル点数シェアをGDPシェアで割った数字は順に、2.48倍、2.84倍)。
■1人当たりGDPとの関係はあまりない
図表2には、1人当たりのGDPも載せてありますが、それとメダル獲得数とはあまり関係がないようです。ブラジルやキューバのように1人当たりのGDPが1万ドルを切る国でも比較的多くのメダルを獲得しています。
図表にはありませんが、1人当たりGDPが4000ドル弱のモンゴル選手もレスリングなどで銀メダル1つ、銅メダル3つと活躍しました。2000ドル程度とかなり低いケニアは陸上を中心に4つの金メダル、4つの銀メダル、2つの銅メダルを獲得しています。
豊かさを糧にスポーツに打ち込むことのできる選手を擁する国々、貧困をバネにがんばる選手を輩出する国々、そして、国の支援の度合いが、メダル数となって表れていると思います。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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