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「健康保険証で50円引き」はなまるうどんで"世界初のクーポン"が生まれたワケ

プレジデントオンライン / 2021年8月19日 9時15分

値引きや特典が受けられる共通券のパネルを掲げる吉野家ホールディングス(HD)の河村泰貴社長(左)ら=2018年8月23日、東京都内 - 写真=時事通信フォト

どのように考えれば「本質的なゴール設定」ができるのか。クリエイティブディレクターの小西利行氏は「何事も『そもそも思考』で考えると、遠回りだが本質的な発見ができる。結論を急いではいけない」という――。

※本稿は、小西利行『プレゼン思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■「問い続けること」が、成功への近道

「安易なゴール」を避け、目指すべき「本質的なゴール」を設定するには、どう考えればいいのでしょうか?

この答えのひとつとして、本書では、「本当にその未来に生きていたいか?」と問い続ける方法をお話ししています。まさに、良質な「問い」を生むことが、本質的なゴールへの近道だからです。

小西利行『プレゼン思考』(かんき出版)
小西利行『プレゼン思考』(かんき出版)

たとえば、スタートアップ企業ではとにかく「つくりながら問う」ことで安易なゴールに縛られないようにしています。机上の議論に終始せず、研究し、つくり、検証し、失敗し、悩み、壊し、またつくる。それを繰り返すことで、最初は見えなかった「本質的なゴール」を探るわけです。

ちなみに、最近よく耳にする「デザイン思考」も概ねこのスタイルを指します。観察、課題設定、プロトタイピング、検証を繰り返すことで、本質的なゴールに向けた開発を、「つくりながら」していくからです。

ただし、デザイン思考はなかなか扱いが難しく、うまく成果が出せない企業も多いと言われています。おそらくその理由は、観察や検証から導く「課題設定」がうまくできず、結果的に間違ったゴールへ向けたプロトタイピングを繰り返し、疲弊してしまうからだと思います。

そこで僕は、難しいと言われる「正しい(本質的な)課題設定」と「目指すべきゴール設定」の両方を、よりカンタンに行う思考法を考え出しました。

その思考法が、「そもそも思考」です。

■結論を急がず「そもそもさあ……」から始める

当たり前を疑い、目先の答えにしがみつかず、たとえ結論に近づいたと思っても、「そもそもさあ……」と問いを続け、あえて、ふりだしに戻ってみる思考法です。僕は、本質的な問いを生む様々な「思考法」を試し、この「そもそも思考」に行き着きました。

そしてそれから25年もの間、実際に多くの仕事で使い、多くのCMや商品開発、さらに、プレミアムフライデーやホテル開発など、評価の高い実績をいくつもあげることができました。

先ほど、良質な「問い」を生むことが大切だと話しましたが、その方法こそが、この「そもそも思考」です。「そもそもこの商品がなぜあるのか?」「そもそもなぜ売れてないのか?」「そもそもこの解決策で良いのか?」と考えるだけで、安易なゴールへの呪縛を抜け、良質な問いが続けられます。

正直、周りの関係者にはちょっと邪魔くさい思考法ですが(笑)、結論を急ぎたくなる気持ちを抑え「そもそも思考」をすれば、視野が広くなり、より本質的なゴールが見つかるようになります。

【図表1】結論を急がず「そもそもさあ……」から始める
【図表1】結論を急がず「そもそもさあ……」から始める(出所=『プレゼン思考』)

■繰り返し、繰り返し聞く

僕は、クライアントや上司などからオリエンを聞く場でも、報告を聞く場でも、「そもそも、皆さんは何を目指していますか?」という質問をします。さらに「そもそもなぜその商品をつくったのか?」「そもそもその商品は人を幸せにするか?」などを繰り返し、繰り返し聞きます。

相手はおそらく「邪魔くさいな」と思っているでしょうし、「そんなことを聞いて意味あるの?」という反応もあります。でも僕は怯(ひる)まず聞き続けます。なぜならこの問いこそが本質的な課題とゴールを見つけ出す方法であり、後で説明する「ビジョン」の設定にとって大切な考え方だからです。

そして、この邪魔くさい回り道が、結果的には成功への最短ルートを見つける方法になるのです。

安易なゴールは蜜の味がします。先人がつくったコースを歩いたり、上司から言われたように走ったりすれば責任が発生しないし、何よりラクです。きっと多くの人がその蜜に惹かれ、その道を行きたいと思うでしょう。

でも、今は一歩先すら予測できない時代。安易な思考からは何も生まれないことは明白です。

まさに、「そもそも私たちはなぜ存在するのか?」「そもそも私たちは何を目指すのか?」「そもそもこの商品でどんな地球をつくるのか?」。そんな哲学のような自問自答を繰り返すことでしか、本当のゴールを見つけられない時代になったのです。

■「未来」がないと、提案として不十分

プレゼンと言えば「企業の課題を解決するためにアイデアを提案するもの」と思われがちですが、実は、それだと半分しか正解ではありません。そこで本稿では、もう半分の答えをしっかり意識できるようにお話ししていきたいと思います。

まず、企業の課題解決をするプレゼンについて考えましょう。たとえば、一般的なプレゼンのやりとりはこういうものだと思います。

「我社には××という課題があるんだが」
「では、その課題解決をしましょう」
「でも、何をやれば良いのかわからないよ」
「あ、それなら、■■をやれば良いと思いますよ」
「なるほど。でも、どうやるの?」
「はい、こうやってできます」
「お、それは良いね」

このやりとりには「課題設定」「戦略提案」「戦術提案」の3つが入っていますし、一見するとこれで良いと思えるのですが、実はこのやり方では不十分な答えしか出ていません。

なぜならここには、必勝方程式の「課題」「実現案」だけで、「未来」の提示がないからです。未来がないとゴールがないプレゼンになり、一本のロープが引けません。つまり、未来ヘ向けた課題解決にならないので、提案として不十分というわけです。

向かうべき本質的なゴール(未来)がわからなければ、提示された案そのものが良いのか悪いのかも判断できません。さらに、間違った答えを提案してしまう可能性も高くなるのです。

■本当のゴールの見つけ方

例を出して説明しましょう。たとえばあなたが、「100万円で、人材が集まるアイデアを考えてください」という依頼を出して、その提案として、「100万円でSNSに広告を出しましょう。ビジュアルアイデアはこれです」というプレゼンがあったとしたらどうでしょう?

きっと、求められている課題に対して解決策を提案されているから、やり方は正解で、あとは中身のアイデア勝負だな、と考えると思います。おそらくほとんどの人がこのプレゼンの仕方が間違っているとは思わないでしょう。

ただ、これを、前章でお話しした「そもそも思考」で考えると、話が変わってきます。「そもそもこの会社は何を目指しているのか?」「そもそもこの会社にはなぜ『人が集まらない』のか」という「問い」を追求すると、この会社に眠っている、より本質的な課題と、その課題を解決して向かうべき本当のゴール(未来)が見えてきます。

まず、そもそも思考を使って、「そもそもなぜ100万円で人集めを?」という問いを始めてみましょう。すると、

「だって人が集まらないからね」
「そもそも、なぜ人を集めたいのですか?」
「事業に人が足りないし、それに若者がいないと活気が出ないしね」
「そもそもなぜ若者が必要なのですか?」
「若い人のほうが新しい企画が考えられるでしょ……」

と続いたりします。ここまで聞き出せれば「なるほど、若者を集めて新しいアイデアを出したいのですね」というゴールにたどり着けます。これが、本当のゴール設定。つまり、プレゼンの相手が本当にワクワクする未来の設定の仕方です。

この思考プロセスを経ていないと、たとえば「リタイアした人を集めましょう!」というアイデアも出てくるわけです。でもそれでは、提案先のゴールと違っているから、相手が納得するはずも、ワクワクするはずもありません。

■「どうやるかではなく、なぜやるのか?」

だからプレゼンターが誠意を尽くしても、結果的にプレゼンは失敗に終わるのです。本当に向かうべきゴールを設定する秘訣(ひけつ)は、提示された課題やゴールを安易に飲み込まず、「そもそも思考」で考え直すことです。

「そもそも思考」は、近視眼的に考えがちなプレゼンを、より手前から、より広い思考へと変えてくれます。考えるスタート地点が少し手前になるとイメージすると良いでしょう。

そうすれば、足元に隠れて見えていなかった本質的な課題が見え、本当のゴールに行き着ける道筋がわかるようになります。

では、先のやりとりを、「そもそも思考」で正しいやりとりにしてみましょう。

課題
「我社には××という課題があるんだが」
「なるほど。でも、そもそもなぜ、××の課題を解決したいのですか?」
「それを解決すれば、○○がうまくいくからだよ」

未来
「では、そもそもなぜ、○○をうまくいかせたいのですか?」
「それは、○○がうまくいけば、将来的に会社がうまくいくからだよ」
「うまくいったとして、そもそも会社は、何を目指しているのですか?」
「そうだね、将来的には☆☆になると良いね」
「では、その☆☆というゴールに向けた、課題解決をしましょう」

実現案
「でも、何をやれば良いのかわからないよ」
「あ、それなら、■■をやれば良いと思いますよ」
「なるほど。でも、どうやるの?」
「はい、こうやってできます」
「お、それは良いね」

これで、「課題→未来→実現案」となり、しっかりとゴールに向かったプレゼンとなります。「そもそも思考」はこのように、本質的な課題とゴールを「問いかけ」で見つける、いたってカンタンな方法です。

なにしろ、そのとっかかりは、普段使っている「そもそも」と「なぜ?」だけ。「そもそも」で、思考をいったん手前に戻し、「なぜ?」という疑問で本質を見極めるのです。まさに、「どうやるかではなく、なぜやるのか?」を見極めることで、本質的な解決に向かう思考法です。

「そもそも思考」を始めると、普段の仕事にありがちな「とりあえず考えよう」という癖がなくなり、本質的なゴールに向かう目を持つことができます。

■「パーパスとは何か」と数時間議論する日本企業

ところで、TEDトークで話題となった、サイモン・シネック氏の『WHYから始めよ!』(原題『Start with Why』)も、この「そもそも思考」と同じスタンスの思考法です。

彼は、WHAT(何をするか?)、HOW(どうするか?)から発想していた従来の安易な思考をやめ、「WHY(なぜそれをやっているのか?)を起点に、Purpose(パーパス/存在する意義)」から発想することで、企業やビジネスが革新すると説いています。

WHYから考えれば、「安易なゴール」にしばられないため、効果も出やすく、かつシンプルな思考法なので、欧米で大流行したわけです。

ただ、日本人にとって「WHY」や「Purpose」は使い慣れている言葉ではないため、誰もがすぐにビジネスに活用できるかと言えば、そうではないかもしれません。

事実、「パーパスとは何か?」という議論を数時間している会議にオブザーバーとして参加して結局何も決まらなかったという苦い経験もあります(笑)。

それに対して「そもそも思考」は、日本語ゆえに考えやすく、本質的な課題やゴール(後で解説する「ビジョン」)の設定もしやすいため、誰もが日々のビジネスに活かせると、僕の25年の実践経験から実証されています。

まさに、「そもそも」という言葉から始めるだけ。でも、それだけで深い考察ができ、これからのビジネスを正しい方向へと進めるための本質的な発見ができるので、絶対に使うべき思考法だと思います。

■そもそもから生まれた「はなまるうどん」の意外なクーポン

さて、僕が以前に担当した「はなまるうどん」でも、この「そもそも思考」は活躍しました。

オリエンテーションで最初に聞いた仕事の課題は、「50円引きの紙のクーポンを発行するから、それのデザインを頼む」というものでした。これに「はいこれがデザイン案です」と出せば仕事は終わるのですが、「そもそも思考」だとそうなりません。

「そもそもなぜ、このクーポンを発行するのですか?」
「それは集客したいからだね」
「そもそもなぜ、この時期に、集客を?」
「春だし、新入社員とか新しい顧客を取り込まないと」
「なるほど、では新入社員を集客したいというわけですね」
「できるならそうしたいね」
「ところで、なぜ紙のクーポンにするのですか?」
「店頭のポスターだと広がりがないし、財布に入れていつでも使ってもらえればいいじゃない」
「なるほど……では、アイデアを考えてみます」

「健康保険証でサラダうどん50円引き」の広告
「健康保険証でサラダうどん50円引き」の広告(出所=『プレゼン思考』)

そうしてできたのが、「健康保険証でサラダうどん50円引き」のアイデアでした。春には、新入社員が健康保険証を初めて手にして財布に入れています。

それを「クーポンに見立てる」だけで50円引き施策が実現でき、かつ、新入社員などの顧客が取り込め、かつ、話題性があって広がり、かつ、健康的なサラダうどんまで売れるアイデアが生まれたわけです。

さらにこのアイデアの画期的な点は、クーポンの印刷代がかかっていないことです。クーポンも全国で展開すればバカにならない費用がかかります。でもこのアイデアなら、ポスターだけ。

しかもSNSで広がって、話題にもなるわけです。まさに、「そもそも思考」から生まれた革新的なアイデアでした。

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小西 利行(こにし・としゆき)
POOL inc. CEO&クリエイティブディレクター
1968年、京都府生まれ。大阪大学卒業後、博報堂を経て2006年に独立。CM制作、商品開発から、街づくりや国の戦略構築も行う。手掛けた広告は「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」を含め1000本以上。2017年に「プレミアムフライデー」を発案。2021年には「GOOD EAT COMPANY」にてブランディング&クリエイティブディレクションを担当。同社CXOにも就任。著書に『伝わっているか?』(宣伝会議)、『すごいメモ。』(かんき出版)がある。

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(POOL inc. CEO&クリエイティブディレクター 小西 利行)

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