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あふれるゴミの中で見つけるオリジナリティ

プレジデントオンライン / 2021年8月16日 9時15分

ジャーナリスト 笹井恵里子氏

■あふれるゴミの中で見つけるオリジナリティ

世界の新しい側面を見せてくれるのが“良い本”だとするならば、間違いなくその一冊に数えられるだろう。

プレジデント誌でも連載を持つ笹井恵里子さんが上梓した新刊のテーマはゴミ屋敷だ。足の踏み場がないどころか、家に出入りするのも難しくなるほど、物にあふれた家はなぜ生まれるのか。外では普通の社会生活を営めているのに、自宅をゴミ屋敷にしてしまう人の存在や心の問題を知ったことが、本書の出発点になった。

2018年の春から何度も取材をしてきた。ただ、取材と言っても傍観者でいたわけではない。東京都大田区を中心に生前・遺品整理を行う「あんしんネット」の現場で、作業員の一員として物の整理やごみの処分を行った。

「実際に足を運んだ現場が読者にも見えるように」と描かれるゴミ屋敷の姿は壮絶だ。笹井さん自身は「読者に嫌悪感を抱かせないように気をつけました」と語るが、積み上がったゴミの臭いや部屋の湿度まで伝わってくる描写は、身震いしてしまうほどリアルだ。部屋には糞尿の入った容器や袋が散らばり、あちこちから虫が湧く。少しページをめくっただけで、作業環境の過酷さがわかる。

それでも取材現場に身を置き続けたのは、使命感によるものだ。

■追求してきたのはオリジナリティ

「これまで取り組んできた救急医療や家の問題も、人間が生きていくために必要なものです。生きるためのセーフティネットの存在に気づいてもらい、それを守るために記事を書いています」

笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)
笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)

ただ、使命感だけでは人の心を動かせないことも熟知している。過去には週刊誌の、現在はフリーの記者として活躍する笹井さんが追求してきたのはオリジナリティだ。

「どこかで見聞きしたネタでは、他の記者が書くものに勝てないんです」

あふれる情報の中で、まだ見たことがないものこそ、人は手に取って読みたくなる。記者が自ら清掃作業を行って書かれたゴミ屋敷とそこに関わる人々の姿は、オリジナリティの塊だ。実際に、本書発刊に先立ってネット配信されたゴミ屋敷の記事はたちまち注目を集め、大手配信サイトでもランキングのトップに入った。オリジナルな情報を見せることにこそ価値があることを、自らの記事で証明した。

“良い本”とはどんなものかという質問に、笹井さんは「明日もこの世界で生きていけると信じられる、生きていこうと希望を持てる。そんな結末を提示してくれる本ですかね」と答える。読者の見たことのない世界を見せてくれるだけでなく、生きる希望も詰まった“良い本”だ。

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笹井恵里子
ジャーナリスト。1978年生まれ。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。

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(加藤 圭悟 撮影=今井一詞)

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