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「これこそ恐怖政治だ」そんなミャンマー国軍の独裁体制を支持する中国・習近平政権の打算

プレジデントオンライン / 2021年8月12日 17時15分

ミャンマー・ヤンゴンで軍のクーデターに抗議する人々=2021年2月9日 - 写真=AFP/時事通信フォト

■暫定政府を樹立した国軍は市民940人を虐殺

8月1日、ミャンマー(旧ビルマ)の国家統治評議会(SAC)は暫定政府を発足させ、SAC議長で国軍最高司令官のミン・アウン・フライン氏(65)が暫定政府の首相に就任する、と発表した。SACは今年2月1日に軍事クーデターを起こしたミャンマー国軍が設置した意思決定機関だ。クーデターからちょうど半年のこの節目に国軍トップを首相の地位に据え、独裁体制を強化する狙いがある。

SACは「掲げてきた『憲法に基づく自由で公正な選挙の実施』の目標を速やかに達成するため暫定政府を樹立する」と強調したが、ミャンマー国軍はクーデター以降、抗議デモを繰り返して反発する市民に対し、武力による弾圧を続けている。

ミャンマー国内の人権団体「政治犯支援協会」の調査によれば、これまでに計940人もの市民が虐殺され、いまも5500人近くが身柄を拘束されている。国軍による恐怖政治はとどまるところを知らない。今後も国軍は民主化を進めてきたアウン・サン・スー・チー氏(76)ら民主派を徹底して排除し、このまま行くと、形だけの選挙によって国軍寄りの新政権が誕生する。すでに国軍の支配下にある選挙管理員会は、アウン・サン・スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の昨年11月の総選挙での大勝を「無効」と宣言している。

■国連は中露の反対で強い対応が取れない

いまこそ、国際社会が強硬な手段に出るべきである。しかし、国連の安全保障理事会は、ミャンマーと関係の深いロシアと中国の反対によって武器禁輸や経済制裁などの強い対応が取れないでいる。

とくに中国の習近平(シー・チンピン)政権は、国軍の今回のクーデターを契機にミャンマーを自国の支配下に組み入れようと動いている。ミャンマーは武器の輸出相手国としてだけでなく、国防上かつエネルギー上の“かなめ”に相当し、習近平政権が掲げる「一帯一路」構想の上部に置かれるからだ。

地理的にミャンマーは中国の雲南省などに接し、インドシナ半島を経由してインド洋に出るルート上に位置する。

有事の際、マレー半島とスマトラ島の間の太平洋とインド洋を結ぶマラッカ海峡をアメリカに封鎖される危険性があり、このミャンマールートは中国にとって国防上、欠かせない。ミャンマールートを使えば、マラッカ海峡を通らずに中東から原油や天然ガスをタンカーで運ぶことができ、エネルギーの供給に役立つ。習近平政権がミャンマーに固執するのは当然だ。実際、中国は軍事政権時代の1980年代から原油・天然ガスのパイプラインの建設を押し進め、数年前から本格的な輸送を開始している。

■国軍トップは「2023年8月までに総選挙を準備」と演説

最高司令官のミン・アウン・フライン氏は8月1日、国営テレビを通じて演説し、市民の抵抗を「テロ行為」と決め付け、「総選挙を必ず実施する。2023年8月までに準備を終える」と語った。

ミャンマー国軍はクーデターで非常事態宣言を発令したが、この非常事態宣言を2年間続けた後、半年以内に選挙を行う計画のようだ。選管は前述したように国軍によって牛耳られ、国軍の意を受けた政党のメンバーが当選し、国軍の傀儡政権が生まれる。国軍は「選挙の結果だ」と主張すれば国際社会も手が出せないと考えているのだろうが、そんな思惑は許されない。

ヤンゴン市の街並み
写真=iStock.com/sabirmallick
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sabirmallick

振り返ると、7月26日、選管は昨年11月の総選挙での不正が認定されたとでっち上げ、「選挙の結果を無効にする」と発表した。NLDの不正を解明するためにクーデターを起こしたと主張する国軍に錦の旗(正当性)を与えたことになる。国軍は今後、選管にNLDの解党手続きを進めさせ、アウン・サン・スー・チー氏らNLD幹部を裁判で有罪にして次期総選挙への立候補を妨害するとみられる。

ミン・アウン・フライン氏はミャンマー国軍の最高司令官のポストを今年限りで退く予定だったが、クーデター後に定年制を撤廃し、居座っている。許されない行為である。

そう言えば、中国の習近平・国家主席(党総書記)も定年制を廃することで権力を維持し続けようとしている。独裁者はどこの国も同じだ。世に恐ろしきは独裁者である。

■「民政移管」はまやかしの恐怖政治である

8月3日付の朝日新聞の社説は「力ずくで権力を握ったものが政府を名乗る。本来の選挙で勝った政党は解体させて、やり直し選挙をする。そんな『民政移管』は、まやかしだ」と書き出したうえで、「国軍はかねて自らの正当性を主張しており、民主体制への移行を示すことで国際社会の非難を和らげたい思惑のようだ」と指摘し、こう訴える。

「だがそんな行程を国軍が決めること自体、理不尽だ。昨年11月の総選挙が示した民意を踏みにじった事実は動かない」

ミャンマー国軍による独裁体制は、恐怖政治以外の何ものでもない。このままでは周辺のアジアの国々にも影響が及ぶ。国連の安全保障理事会は中国とロシアの反対を封じ込め、ミャンマー国軍に強い態度を示すべきである。

朝日社説は「国家顧問として民主政府のトップを務めていたスーチー氏らは拘束され、裁判にかけられている。次の選挙で国軍の息のかかった政党を勝たせる筋書きであることは明らかだ」とも指摘するが、国連など国際社会は形だけの偽りの選挙を認めてはならない。

朝日社説は「民主化にかじを切ったこの10年でミャンマーには外国の投資が流れ込み、高い成長率を遂げていた。その成果を壊し、国民を失望の淵に追いやった国軍に、国家運営を語る資格はないことを自覚すべきだ」とも指摘し、最後にこう訴える。

「日本政府は、市民生活への影響も配慮しつつ、ODAの全面停止など制裁の強化を模索するべきだ。進出する民間企業も、事業が国軍の収益源になっていないか、精査が求められる」

確かに経済制裁は大きな効果がある。北朝鮮が経済制裁で身動きが取れなくなり、アメリカとの直接交渉に活路を見い出そうとしているのを考えればよく分かるだろう。

日本政府はミャンマーと旧ビルマ時代から深い関係がある。その関係は現在も変わらないし、国軍にも影響力を持つ。日本政府はこれまでに養ったパイプを生かし、ミャンマーを正当な道へと導くべきである。それができれば、国際社会の中での日本の地位は必ず上がる。

■国軍支配への逆戻りを嫌う世論が支配的

8月3日付の毎日新聞の社説は「NLDを排除して国軍系政党に勝たせ、形ばかりの民政移管を演出しようとしているようだ。だが恐怖政治の下での自由で公正な選挙はありえず、国際的にも認められない」と訴え、現状を「国軍は、国民意識の大きな変化を見誤っているのではないか。当初はデモ隊を力で抑え込めると考えていたのだろうが、現在も監視の目をかいくぐって短時間のデモが続く」と書く。

間違いなく、「形ばかりの民政移管」であり、ミャンマー国軍の行動は、民主主義の国家では決して認められない。国際社会ではならず者扱いされる。

国軍は民主化を求める市民の力を恐れるからこそ、圧政を敷くのである。民主主義は独裁体制に打ち勝つ。歴史がそれを証明している。ミャンマーでも最後にはアウン・サン・スー・チー氏ら民主派勢力が勝利を収めると、沙鴎一歩は信じている。

■国軍の暴力をこれ以上、許してはならない

毎日社説も「半世紀近く続いた軍政が10年前に終わり、人々は民主化を経験した。国内外の情報にも自由に接することができるようになり、国軍支配への逆戻りを嫌う世論が支配的になっている」と指摘する。ミャンマーの民主派はSNSを駆使して水面下での連携を強めている。国軍はこうした市民の動きを無視できないはずだ。

毎日社説は「クーデター以降、国際社会は有効な手を打てずにいる」と書くとともに日本政府に対しても「日本政府は国軍とのパイプを生かして民主派との対話を促してきたというが、具体的な動きは見えない」と指摘し、最後にこう主張する。

「国軍の暴力をこれ以上、許してはならない。ミャンマーの混乱と圧政に一刻も早く終止符が打たれるよう、国際社会が圧力を強める時だ」

日本と欧米の民主主義の国々が力を合わせてミャンマー国軍を抑え込むことができれば、それは反国際社会的な振る舞いを続ける中国・習近平政権への大きな打撃にもなる。対ミャンマーという小さな枠組みではなく、対中国も含む民主主義vs.独裁体制という構図の中で対処していきたい。

■拒否権を持つ中露が、制裁に反対している

8月4日付の読売新聞の社説は「国際社会の及び腰の対応がミャンマー軍を増長させ、独裁体制の構築を許している。日米欧は中露も巻き込んだ形で軍に圧力をかけ、ミャンマー国民を支援すべきだ」と書き出す。見出しも「国際社会は軍の増長を許すな」である。

この読売社説の主張は正論だが、問題はどうやって中国とロシアを巻き込むかである。

読売社説は指摘する。

「人道危機の状態になっているにもかかわらず、放置してきた国際社会の責任は極めて大きい」
「国連安全保障理事会は分裂状態に陥っている。米英などが軍への制裁を求める一方、拒否権を持つ中露が頑なに反対し、実効性のある措置を打ち出せていない」

国連の力不足は以前から指摘されてきたことだ。いまこそ、その批判をはね返すときである。各国が打算抜きに中国とロシアに対し、強い姿勢で臨む必要がある。

読売社説も「9月の国連総会では、ミャンマーの国連大使を巡る信任投票が行われる予定だ。軍に反対する姿勢を示して解任された現国連大使と、軍が擁立した新たな大使候補の間で争われる」と書き、「できるだけ多くの国が現大使を信任し、軍の暴挙を認めない意思を示さねばならない」と訴える。

国連総会で現大使への信任票をより多く集め、中国とロシアに強い意思を示すことが重要だ。それが中国とロシアを巻き込むことにつながるからである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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