1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「計5000万円以上の受給も可能」年84万円の障害年金をもらうカギは10代に受診した内科・耳鼻科

プレジデントオンライン / 2021年8月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pinkybird

障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などに支障が出た場合に、現役世代を含め、受け取ることができる年金だ。障害基礎年金(2級)および障害年金生活者支援給付金の合計で年約84万円、仮に20~80歳まで受給すると計5000万円超だが、受給にはクリアすべき要件がある。現在25歳のうつ病の女性は当初、要件を満たしていないと判断されたが、その後、10代の頃に受診した診療データが残っていることがわかり、受給することができるようになった――。

■「あなたの娘さんは障害年金を請求することができません」

「長女はうつ病を抱えており、症状が重い時は布団から起き上がることもできません。一日中寝ていることもあります」

ある日、筆者のもとへマネー相談に訪れた母親(53)はひきこもりの長女(25)のことについて語りだしました。うつ病で働ける状態ではなく、収入の見通しも立たないため医師に相談をしたそうです。すると医師から「障害年金を請求してみてはどうか?」というアドバイスを受けました。

その後、母親は長女の代理で市役所の年金課へ相談に行きました。しかし、そこで全く予想もしなかった説明を受けてしまったのです。

母親は当時のことを思い出しながら語気を強めました。

「市役所の職員の方から『保険料の納付要件を満たしていないので、障害年金は請求することができません』と言われてしまいました。でも、長女の国民年金は20歳当時の分から現在まで父親がきちんと払っているので未納ではありません。何だかおかしいですよね?」

それを聞いた筆者の脳裏には悪い予感がよぎりました。確認のため、筆者はいくつか質問をすることにしました。

「ご長女様が初めて病院に行った日はいつ頃ですか?」
「大学在学中だったので21歳頃です」
「国民年金の保険料は20歳になった当時から遅れずにきちんと支払っていましたか?」

この質問で母親の顔は急に曇りだしました。

「当時、長女も親も大学生であれば勝手に学生の免除(本来は「学生納付特例」という)になると思っていました。長女が社会人になったら本人がさかのぼってまとめて支払うつもりでいたので、保険料は支払わず、何も手続きをせずにそのままにしていました……。でも長女が大学を退学した後に親がまとめて支払っています。それなら未納ではありませんよね?」
「すると保険料をまとめて支払ったのは、初めて病院に行った日よりも後ということですよね?」
「はい。そうなります」

母親は何がいけないのか? というような顔をしています……。

■月7万円の障害年金をもらうための「要件」とは

働くことが難しく収入のないひきこもりの子どもにとって、障害年金はとても頼りになる年金です。ひきこもりの子どもの場合、その障害の原因になった病気で初めて病院で診療を受けた日は20歳前または国民年金加入中になることが多いことでしょう。そのようなケースでは障害基礎年金を請求することになります。障害基礎年金は1級と2級があり、より障害状態の重いほうが1級です。仮に、受給者の多い障害基礎年金の2級に該当した場合、金額は次のようになります。

障害基礎年金の2級に該当した場合

無収入のお子さんにとって月7万円の収入は大きいですが、障害年金は誰でももらえるものではありません。さまざまな条件をクリアする必要があるからです。条件のひとつに「保険料の納付要件」というものがあります。簡単に言うと「年金の未納(未払い)が多すぎないか?」というものです。年金の未納が多すぎると、そもそも障害年金を請求することができないのです。

実は、国民年金の場合、未納期間のうち、現在から過去2年前までの部分はさかのぼって支払うことができます。そうすると未納ではなくなるので、65歳からもらえる老齢基礎年金の額が減額されずにすみます。

コーヒーを入れて飲む、朝の習慣
写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

ところが、障害年金における保険料の納付要件では話が変わってきてしまいます。市役所でも説明を受けているはずですが、母親に聞いたところ「請求できないと言われて頭に血が上ってしまい、当時の説明はよく覚えていない」とのことでした。そこで筆者は障害年金のパンフレットを机の上に置き、保険料の納付要件のページを開きました。

「保険料の納付要件はものすごくわかりづらいですが、このようになっています」

(原則)
初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。
(特例)
①初診日が令和8年4月1日前にあること
②初診日において65歳未満であること
③初診日の前日において、初診日がある2カ月前までの直近1年間に保険料の未納期間がないこと
上記①から③をすべて満たしている場合、特例として保険料の納付要件は満たしているものとされる

筆者はゆっくりとした口調で母親に告げました。

「この説明文にもありますが、初診日の『前日』までに未納状態を解消しておかなければなりません。病院に行った後に保険料を支払っても初診日の前日時点では『未納状態』とされてしまいます」
「医師からも障害年金の請求を勧められているのに……やはり障害年金は請求できないのでしょうか? もう駄目なのでしょうか?」
「そうですね……。保険料の納付要件を満たさないことには、残念ですがもうどうすることもできません」

筆者はそう答えました。

■うつ病の25歳娘は親亡き後も暮らしていけるのか

それを聞いた母親はうつむき、固く口を閉ざしてしまいました。室内には重苦しい沈黙が降りてきました。しばらく様子をみた後、筆者は長女のお金の見通しを把握してみようと思い、家族構成や現在の収入支出などを母親から聞き取ることにしました。

家族構成
父親 56歳 会社員
母親 53歳 パート主婦
長女 25歳 無職
※長男27歳は独立別居。独身。
現在の収入
父親 年収 700万円
母親 年収 90万円
長女 無収入
現在の支出
基本生活費や固定資産税など 月額30万円
住宅ローン 月額12万円
長女のための貯金 月額3万円
親の財産など
預貯金 2500万円
自宅マンション 2000万円

母親からは次のような見通しのお話も出てきました。

・56歳の父親は少なくとも65歳まで、可能であれば70歳まで仕事をする予定。
・25歳の長女の国民年金は60歳になるまで支払う。
・住宅ローンの残債は父親の退職金で繰り上げ返済をする。
・両親と長女は当面今のマンションに住み続けたい。
・両親亡き後はマンションを売却し、長女は小さめの住宅に住み替え、残りのお金は生活費に充てていく。
・27歳の長男(独立)は今のところ両親からの相続は全く期待しておらず、親の財産はすべて長女に相続してもらって構わないと言っている(ただし口約束なので、いずれは遺言状などの作成もしておきたいと思っている)。

世帯収入は手取りで50万円以上あり、月の家計は黒字です。また、親の預貯金は現在2500万円あり、2000万円程度の退職金も入る予定……母親から収入と支出の状況を聞くと、長女がお金の見通しについてはそれほど悲観する必要もないことがわかりました。

しかし、そのことを伝えても母親の表情は一向に晴れないまま。何やら難しい顔をしています。筆者がうながすと、母親はぽつりぽつりと長女の様子について語りだしました。

「実は長女が少しでも外の世界とつながれるようにと月3万円のお小遣いを渡しているのです。でも長女はそのお金を使うといったことがほとんどありません。どうやら親からもらったお金を使うことに抵抗があるようで……」

さらに母親は長女が抱いている願望も教えてくれました。

「本当は就労支援などの支援も受けてみたい。でも交通費などにお金がかかる。親からお金をもらって支援を受けるのは気が引ける。自分のお金なら気兼ねなく支援を受けることができるのに……」

長女は悲しげにそうつぶやいたそうです。

病室で患者の手をつないでいる女性医師
写真=iStock.com/FG Trade
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FG Trade

長女自身の収入があれば、その先の道が開ける可能性がある。でも、このままではどうすることもできない。他にいい方法はないものか?

頭を悩ませた筆者は念のため母親に次のような質問をしてみました。

「ご長女様が体調を崩された後、精神科を受診する前に内科や耳鼻科にかかったことはありませんか?」

すると母親ははっとした表情をし、何かを思い出すように視線を宙に向けました。

「そういえば17歳の頃から近所の内科にずっと通っていました」
「そうなんですか! もう少し詳しくお話いただいてもよろしいですか?」

まだ望みはあるかもしれない。筆者は心の中でそうつぶやきました。

■17歳の時に級友との人間関係トラブルで内科を受診した

長女が17歳の頃。高校の級友との人間関係がうまくいかず、勉強にも集中できなくなっていきました。成績もどんどん落ちていき、進路や受験について強いストレスを感じるようになったそうです。食欲は落ち、夜もよく眠れない。イライラや焦りの感情が消えることがない。常にお腹を下している。そのような状態になってしまったので、近所の内科を受診することにしました。内科では睡眠薬と安定剤を処方されていたそうです。

心身の不調が消えることはなかったので、その後も同じ内科に通い続けました。そのおかげもあり大学は何とか合格。相性の悪かった高校の級友とも別れを告げることができ、気分一新、楽しい学生生活を満喫しようと思っていました。

しかし、長女の思いとは裏腹に現実は厳しいものでした。

生服を着た学生たち
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

履修届の作成がうまくできず、授業単位が足りないことが後で判明する。アルバイト先ではお金の計算をよく間違え、お客さんと口論になってしまう。店長や他のアルバイト店員との人間関係もうまくいかず、職場で感情を爆発させてしまい職場にいづらくなる。その結果、アルバイトを次々と変えることになり長続きもしない。

また、友人たちと旅行に行くことになった際、旅行の手配は長女がすることに。観光ルートの下調べや宿泊先を探して予約をする役割になったのですが、それがうまくできなかったそうです。

そのことに長女は大きなショックを受けてしまいました。

友人たちからは「そんなに気にしないで。大丈夫だよ」と励まされましたが、どこか空々しく聞こえてしまい長女の心に響くことはありませんでした。

「自分は何をやってもうまくいかない。なんて駄目な人間なんだろう」

長女はそのような感情を強く抱くようになり、自分を責め続けていったそうです。そんなある日のこと。あまりにも強いストレスを受け続けた長女は、内科の医師から「今のような状態では内科ではなく精神科を受診したほうがよいでしょう」と精神科を受診するよう勧められました。

そのアドバイスに従い長女は精神科を受診。しかし精神科を受診しても長女の状態は悪化の一途をたどりました。

自分に自信を失ってしまった長女は次第に大学へ足が遠のいていきました。そして授業の単位が足りずに留年。それをきっかけに大学は退学しました。退学後、長女の国民年金の保険料は親がまとめて支払うことになったのです。

当時の状況がつかめてきた筆者は、母親に次のようなお話をすることにしました。

「国民年金の加入は20歳からです。もし(長女の症状における)初診日が17歳の頃であれば、国民年金に加入する前に医師の診療を受けているので、そもそも納付要件を問われることはありません。つまり、ご長女様は障害年金の請求をすることができます」
「そうなんですか! それは知りませんでした」

母親は驚きの声を上げました。しかし、すぐに母親の表情は暗くなりました。

「でも、市役所での相談では『請求はできません。駄目です』と言われてしまいました。それでも大丈夫なのでしょうか?」
「そうですね。おそらくですが、お母様がはっきりと『初診は21歳の頃で精神科です』とおっしゃったので、そこから先は詳しくヒアリングをされなかった可能性があります。もし『精神科の前に内科にかかっていた』いうようなお話が出れば、少しは状況が変わっていたかもしれませんね」
「そんなものなんですね。でも、内科を初診としても大丈夫なのでしょうか? 認められるものなのでしょうか?」

その問いについて、筆者は次のような回答をしました。

「実務では内科や耳鼻科などが初診になるケースもしばしば見受けられます。『お腹が痛い。体がだるい』といったことで内科を受診したり、『耳鳴りがする』といったことで耳鼻科を受診したりするのですが、検査の結果、特に体の異常はみられない。ひょっとしたらストレスによるものかもしれないので、念のため心療内科や精神科を受診するように医師に勧められる。その結果、精神科などでうつ病などの診断が下される。このようなケースでは、初診は精神科ではなくその前の内科や耳鼻科になることも多いのです」

■「請求が通るかはわからないですが、可能性はゼロではありません」

そこまで説明した後、母親に筆者の意見を伝えることにしました。

「もちろん、ご長女様のケースで内科が初診として認められるかどうかは今のところわかりません。こればかりは『請求してみないと結果はわからない』というのが正直なところです。ですが可能性はゼロではありません。請求してみる価値はあると思います」
「可能性が少しでもあるのなら請求してみたいです。具体的にはどのような行動からすればよいのでしょうか?」
「まずは内科に問い合わせをしてみるところから始めます。初診日の証明は、医師の書く書類(受診状況等証明書)ですることになるからです。さらに病歴・就労状況等申立書という書類に17歳当時の様子を詳細に記入する必要があります。17歳が初診であることを主張するためです。なお、病歴・就労状況等申立書は医師ではなくご本人やご家族の方が記入します」

すると母親は自信なさげにつぶやきました。

「いわゆる作文みたいなものですよね? 果たして私たちにできるものなのでしょうか」
「その点に関しては当時の様子をさらに詳しく教えていただければ、私のほうで病歴・就労状況等申立書の作成のお手伝いをすることができます」

それを聞いた母親はほっとした表情を見せました。

「請求に向けて動き出す前に、まずはお母様からご長女様に事情を説明していただき同意を取るようにしてください」
「わかりました。長女にも伝えます」

母親は力強くうなずきました。暗闇の中をさまよっていた家族に一筋の光が差し込んだようにも見えました。

薄暗い部屋に座り込む孤独な女性
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

その後、長女の同意も無事得られたので、まずは内科に問い合わせをすることにしました。すると内科には当時のカルテがまだ残っており、しかも内科から精神科へ紹介状を書いていたことも判明しました。

内科の医師にお願いしたところ、初診日の証明書は書いてもらえることになりました。

念のため筆者は精神科の病院で紹介状のコピーももらうことにしました。

次は病歴・就労状況等申立書の作成です。体調を崩した17歳頃の様子、内科に初めて受診したときの様子、その後通院していた頃の様子などをご家族から詳細に聞き取り、内科が初診であることを主張する文章を書きました。最後に診断書やその他の添付書類もそろえ、障害年金の請求をしました。

■請求から4~5カ月経過……母親から電話がかかってきた

請求から4~5カ月がたった頃、母親から電話で連絡がありました。

「おかげさまで障害年金が認められました。ご相談する前はもう駄目かと諦めていましたが、先生(筆者)に相談して本当によかったです。長女もとても感謝しています。年金が出たおかげで長女も少しは気持ちに余裕が出てきたようです。今は親子で就労支援を受けるための情報収集をしています」

そう話す母親の声は明るく軽やかなものでした。母親から連絡をもらい、筆者もほっと胸をなで下ろすことができました。

今回のケースでは、長女は障害年金を受給することができましたが、すべてのケースでうまくいくとは限りません。手を尽くしても残念ながら受給することができなかった、ということもあります。それでも家族だけで何とかしようとするより、専門家の力も借りてみる方が受給の可能性が高くなることがあるのです。

最後にお話は変わりますが、筆者はご相談時に「お子さんの国民年金の加入状況はどのようになっていますか?」と質問をすることにしています。すると「子どもに任せているので知りません」や「年金制度は難しいのでよくわかりません」といった回答をする家族もいます。

国民年金は、たとえ子どもが働けずに収入がなくても20歳から60歳までの40年間は加入する義務があります。国民年金は子どもの大事な収入源になりますし、障害年金では保険料の納付要件を問われてしまいます。

いま一度「お子さんの国民年金の加入状況はどのようになっているのか?」を親子で確認しておきたいところです。

確認方法としては、誕生月に送られてくる『ねんきん定期便』または日本年金機構が運営している『ねんきんネット』があります。インターネットを活用したねんきんネットは初回の登録に少し手間はかかりますが、24時間365日いつでも利用することができるので非常に便利です。

もし、子どもの国民年金の保険料が支払われておらず、さらに免除や猶予の手続きもしていないことが判明したら、すみやかに市区町村役場の年金課または年金事務所の国民年金課で相談をするようにしましょう。

----------

浜田 裕也(はまだ・ゆうや)
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー
平成23年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本『第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え』を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことからひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりのお子さんをもつご家族のご相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりのお子さんに限らず、障がいをお持ちのお子さん、ニートやフリータのお子さんをもつご家庭の生活設計のご相談を受ける『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。

----------

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください