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「日本人の優しさが詰まっている」稲川淳二が"ホラー"ではなく"怪談"にこだわるワケ

プレジデントオンライン / 2021年8月18日 15時15分

撮影=横溝浩孝

かつて人気タレントだった稲川淳二さんは、20年ほど前から「怪談家」として活動している。その語りは「怪談」であって「ホラー」ではない。稲川さんは「怪談にはホラーと違って、人や土地の歴史、切なさや優しさがある。だから世代を超えて日本人に愛されてきた」という――。(前編/全2回)

■怪談が子守歌代わりだった

――稲川さんと怪談との出合いを教えてください。

私のオフクロが、非常に怪談がうまかったんですよ。ほんと、話が楽しくて、うまい人だったなぁ。しかも、娯楽のない時代でね、テレビもないから、子守歌代わりに怪談を聞いたもんですよ。

夏休みになると、私の家に泊まりにきた近所の子どもたちに、オフクロが「ギー」とか「カランコロン」とか擬音を交えて怖い話をする。そのたびに「きゃー」って、みんな大喜びでした。だから私の怪談の原点は、オフクロなんですね。

――怪談は、時代が変わっても、世代を超えて日本人に愛されてきましたが、どんなところに魅力があるのでしょう。

幽霊の手振りをする稲川さん
撮影=横溝浩孝

怪談って、夜の海岸や、雪深い山村が舞台になっているでしょう。私は東京の恵比寿で生まれ育ちましたが、怪談で語られる風景に、故郷やふるさと――日本の原風景を感じる気がするんですよ。

怪談を聞いていると、夏の夜風や、山の緑、雪の冷たさが感じられると言えばいいのか。怪談は、みんなの記憶や懐かしさとつながっているんじゃないかな。

それに、怪談には、人間のいろんな思いがこもっているでしょう。遂げられなかった願い、悔しさ、恨み、愛する人を残して逝ってしまった無念、あるいは、亡き人を思う切なさ……。そんな繊細な思いに、みんなが共感できたから、語り継がれてきたんじゃないかって思うんだ。

だから、怪談は、ただ怖いだけじゃなく、切なくなったり、悲しくなったり、優しい気持ちになれたりする。怪談は、感受性が豊かじゃないと楽しめないし、語れないと思うんですよね。

■ホラーに切なさや優しさはあまりない

ただ怖い話を楽しみたいだけなら、ホラーを見ればいい。私は、怪談とホラーを一緒にしないでほしいっていつも言ってるの。ホラーは、人の思いなんかお構いなしに、突拍子もない怪奇現象で、人を驚かすでしょう。怖い、というよりも、ショックや脅しに近い。それに、ホラーは人や土地の歴史や、切なさや優しさはあんまり描かれてない。

怪談って何かな、ってずっと考えてきて、思ったんですよ。怪談が語り継がれる背景には、日本人独特の鋭い感覚があるんじゃないか、って。

鋭い視線の稲川さん
撮影=横溝浩孝

料理もそうですよね。昔は日本人がつくる料理の微妙で繊細な味付けが、外国の人にはなかなか理解できなかったりもした。料理だけじゃなくて、怪談でもなんでもそうなんですよ。日本の絵画も曖昧な淡い色使いで、繊細に描かれていますよね。それこそが、日本人の民俗性ですよ。柳田国男さんじゃないけどね。

――柳田国男が書いた『遠野物語』(1910年)は日本民俗学の原点と呼ばれていますが、明治時代は怪談として読まれていたそうですね。

そうなんです。現代風に言えば、『遠野物語』は、明治時代に岩手県の遠野で語り継がれてきた都市伝説をまとめたものなんですから。どこの誰かが都市伝説って勝手に名付けただけで、都市伝説ももともとは怪談だったんですよ。

以前ね、柳田国男さんの故郷にお呼ばれして、お話をさせてもらいました。そこで柳田さんが、民俗学に専念するために55歳で新聞社を辞めて、日本のあちこちを旅したと教えてもらいました。

実は、私も怪談を中心に活動していこうとタレント活動をやめたのが、55歳。怪談は、足で稼がないと。あちこち歩いて、不思議な体験をした人たちを探して、話を聞いて……。でも、そのなかで、怪談として語ることができる話なんて、ほんの一握り。100話聞いて、1話くらいですからね。

■怪談集めは考古学に似ている

――人から聞いた話をヒントに怪談をつくるわけですか?

怪談って「つくる」「つくらない」ではなくて、自然にできあがっていくもんだと思うんだ。

稲川淳二『稲川怪談 昭和・平成傑作選』(講談社)
稲川淳二『稲川怪談 昭和・平成傑作選』(講談社)

たとえば、ある土地に幽霊が出るという話がある。私にその話をしてくれた人は、誰かに聞いたと言う。誰が最初に幽霊を目撃したのか、探っていくうちに、ある事件が代々語り継がれて、土地に定着していった話だと明らかになっていくようなことがある。

私は、よく怪談を集める作業を考古学者に例えて話すんです。発掘調査で骨が出てくれば、それが四足歩行の草食恐竜だと分かる。四足歩行の草食恐竜だとしたら、果たしてどんな色の肌をしていたか、どんな鳴き声だったのか……。いろいろな状況から推理していくしかない。怪談も同じなんですね。その町の歴史や、語ってくれた人の背景を知って、推理していく。もちろんインチキは、ダメですよ。苦労して、話を集めて、一生懸命に想像していく。そこが、怪談の面白さですね。

インタビュアーと楽しそうに話す稲川さん
撮影=横溝浩孝

■因縁を感じてドキっとした瞬間

ひとつ例を挙げるとすれば、こんな話があります。私が子どもの頃、竹馬の友の家に遊びに行ったんです。ヤツのお父さんがこんな話をしてくれた。

お父さんが子どもの頃、友だちと森に遊びに行った。そしたら、木から足が二本ぶら下がっている。お父さんは、その足に抱きついて、ブランコみたいにブラン、ブランしながら遊んだって言うんですよ。実は、それ、首つり死体の足でね。

胸に手を当てて話す稲川さん
撮影=横溝浩孝

あの話は、子ども心に、ショックだったなぁ。

それから私が大人になり、お父さんが入院したと言うので、病院にお見舞いに行ったんだ。そこで私は「このままじゃ命が危ないから両足を切断する」って聞かされた。

その瞬間、昔の記憶がふっと蘇(よみがえ)って、ドキッとした。

子どもの頃首つり死体の足で、遊んだお父さんが、足を切断する。なにかの因縁を感じたんだ。友だちには言えなかったけど……。

首つりの足と、両足の切断。そのふたつをムリにつなげる必要はないんだけど、私にはどうしても無関係だとは思えなかったんですね。

■若い怪談師に物申したいこと

――稲川さんは、そこに因果を感じたわけですね。

「稲川淳二の階段ナイト 2021」のフライヤー
「稲川淳二の怪談ナイト 2021」のフライヤー

最近、実話怪談ってよく聞くようになりましたよね。不思議な体験をした人から直接、聞いたお話を、そのまんま披露する若い怪談師が増えた。怪談をする若い人が、増えるのはとてもうれしいんだけど、「ここでこういうことがあった」と語るだけでは、ただの報告でしょう。なんで、そんな不思議な現象が起きたのか。なぜ、そんな幽霊が見えたのか。もっと足を使って土地の風習や歴史を調べて、想像して、語らないと。私も、若い人たちにそんな注意を偉そうにするようになったんですよ(苦笑)。

――そういえば、人気怪談作家の黒木あるじさんが、怪談の世界で稲川さんは、野球界の長嶋茂雄のような存在だと話していました。

それは、うれしいなぁ。コロナが終わったら、飲みに行こうって言っておいてくださいよ。

驚いた表情の稲川さん
撮影=横溝浩孝

この数年は、怪談ブームで、いろんな怪談コンテストや、イベントが開かれるようになったでしょう。昔は怪談やるのなんて、私、ひとりだったから……。本当にうれしくってね。怪談をたくさんの人が楽しんでくれているんだなぁ、って。

(後編に続く)

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稲川 淳二(いながわ・じゅんじ)
怪談家
タレント、工業デザイナー。1947年東京・恵比寿生まれ。桑沢デザイン研究所専門学校研究科卒業。深夜ラジオで人気を博し、「オレたちひょうきん族」「スーパージョッキー」などテレビ番組で、元祖リアクション芸人として活躍。また、ラジオやテレビでの怪談が好評を博し、1987年に発売されたカセットテープ「あやつり人形の怪 秋の夜長のこわ~いお話」が大ヒットとなり、以後「怪談家」としても活動。1993年8月13日金曜日にクラブチッタ川崎で行われた「川崎ミステリーナイト」に長蛇の列ができ、全国津々浦々をめぐる「稲川淳二の怪談ナイト」を開始。2021年で29年目を迎え、披露した怪談は約500話、動員数延べ61万人に達する。今年も50公演開催中。「稲川淳二の怪談ナイト」

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(怪談家 稲川 淳二 聞き手・構成=山川徹)

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