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「基礎的な会話ができない」28歳の私が結婚相談所で出会った男性に持った強烈な違和感

プレジデントオンライン / 2021年8月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sutlafk

現在、ツイッターでフェミニズムに関する発信を続けている笛美さんはかつて、大手広告代理店で働いていました。そして28歳のある日、結婚相談所に入会。長時間勤務で疲れ切った体に鞭打って男性に会う日々は、「墓場を探してさまよい歩くゾンビ」のような生活だったと語ります――。

※本稿は、笛美『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)の一部を再編集したものです。

■なぜ20代で婚活を始めなくてはいけないのか

結婚相談所の最初のカウンセリングで、アドバイザーさんにこう言われました。

「女性は30代になったら成婚率がグッと下がるから、20代のうちに始めるのは賢い選択ですよ」「年収は実際より低めに書いた方がいいですよ」

翌週、ネットで予約した写真スタジオに婚活用のプロフィール写真を撮りにいきました。当時私はショートカットだったのですが、ロングにしておけばよかったと後悔しました。

でもなぜだろう? 広告の写真を撮るときはあんなにワクワクするのに、婚活の写真撮影は楽しくないのです。撮影スタジオの男性カメラマンさんが言いました。

「20代で婚活なんて……本当にしなくちゃいけないんですかね?」

この人は何を言ってるんだろうと思いました。

「あなたは私のことを知らないからそう言えるんでしょ。私は泣く子も黙るバリキャリで、出会いがないんだよ。早くしないと卵子が老化するんだよ。なにを悠長なことを言ってるの?」と心の中で叫んでいました。できあがった写真の自分はすごく優しそうで家庭的で、ちっとも好きじゃない自分でした。

■「私はあなたより下にいるよ」

20代という年齢に惹かれて、会いたいと言ってくれる人は多かった気がします。1日に3、4人に会うこともあり、誰が誰だかわからなくなり、目が回るようでした。50代の男性に頼みこまれてお見合いをしたこともあります。でも私の若さに惹かれているだけで人間性に惹かれているわけでないことくらい20代の小娘にもわかってしまうんです。

驚いたことは基礎的な会話ができない人があまりにも多いこと。こちらが質問すれば答えてくれるけど、向こうから私への投げかけがなかったり、盛り上がらない会話を必死で盛り上げて場をつないで……。

彼らに必要なのは女性ではなくて、コミュニケーションの講師なのではないか? というか結婚とか関係なく、日常的な女性との、というか人間との接触なのではないか?

なぜ結婚相談所に登録したのかと聞くと、私のように職場に出会いがなかったり、家族にプレッシャーをかけられて来ていた人も多くいました。なんだか気の毒になりつつも、結婚は彼らの課題を解決するツールとして正しいのかと、疑問を持ってしまいました。

なぜかわからないけど、結婚相談所にいる彼らからは、幸せの匂いがしないのです。私からもその匂いはしていなかったと思います。

男の人に口説いてもらうためには、彼らと対等のポジションにいてはだめで、むしろ自分が下だとアピールをしてあげなきゃいけない気がしました。

まるで交尾の合図をするメスみたいに「ほら! 私はあなたより下のポジションにいるよ。今がチャンスだよ。早く私の上に乗ってごらん!」

そこまで合図してあげることで、彼らはやっと安心して私にマウントすることができ、安心して私を口説くことができるような気がしました。

■墓場を探してさまよい歩くゾンビ

激務の平日に続いて訪れる週末の朝。身体中が痛くて重い。

「子供がほしかったら早く動け。それが生物として理にかなっているんだ」

どこからともなく声が聞こえてきます。心はベッドの中にいたいのに、体は外に出ていかなければいけない。寂しい休日を埋めるように婚活に勤しんでいた私も、次第に疲弊していきました。「結婚は人生の墓場だ」という既婚者がいますが、私はまるで自分が入る墓場をさがして婚活市場をさまよい歩くゾンビみたいでした。

結婚相談所の入っているフロアには英会話スクールも入っていました。そこでは同年代の男女が楽しそうに談笑していました。身だしなみも整っていて、会話をすることもできる男性は職場にも世の中にもたくさんいるのに。

なぜ私はお金を払ってそうではない人と会っているのだろう? なぜ一緒にいて楽しくない彼らをニコニコして、持ち上げなきゃいけないのだろう? そして最終的には抱かれなきゃいけないのだろうか? それに結婚相談所に通っていることが職場にバレたらきっと笑われてしまう。人並みに結婚して、人様に恥ずかしくない女になるためには、ここまで惨めな思いをしなきゃダメなの?

■愛され記事と2ちゃんねる

世の中は「愛され」「モテ」「女子力」が全盛でした。ネットで彼氏ができないという悩みを検索すると、「愛される女子になるためには」「28歳の崖っぷちOLが結婚するには」「男性が引いている女性の行動」「すごい、さすが、知らなかった」「男は手のひらで転がして育てろ」「バリキャリでも男をキュンとさせる方法」などが目に入ってきました。

またその頃2ちゃんねるを見るようになりました。そこには、今まで見たことのない世界が広がっていました。

「JS最高」「合法ロリ」「非処女死ね」「28歳のBBAをやり捨てにした」「30歳以上は産業廃棄物」

そうか、自分は30歳になったら、産業廃棄物になるんだ。いまチヤホヤしてもらえているのは、私が20代だからで、それを過ぎたら人生は終了するんだ。30歳を超えた他の女性たちは、産業廃棄物だから私より下なんだ。じゃあ30歳になるまでに死にたいと思いました。

2ちゃんねるの言うように10代前半の頃にセックスして子供を作っていればよかったのかな? それはあまりにも過酷すぎないだろうか。でも10代はもう過ぎてしまったことだ。もし後悔したくなかったら、この子宮が機能している間に、私は女として成果を出さねばならない。男に私と結婚して子供を作るよう発破をかけて決心をさせるのだ。

男性には私以外にもたくさん選択肢があるように見えました。

私より若くてかわいくて学歴が低くて年収が低い女の子たちは、毎年次々にやってくるのです。男たちはその女の子たちを選びたい放題で、遊びたい放題。さらにはアイドルやアニメやゲームなど、もっと自分の思い通りになる架空の女の子たちもいるのに、わざわざ歳をとったスペックの高すぎる私を伴侶として選んでもらうのは並大抵のことではない。もっと努力をしなければいけないんだ。

クレーン
写真=iStock.com/vchal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vchal

■仕事の成果と「婚活リップ」

女性向けメディアには、男性の都合のいい存在になる方法が書かれ、男性向けメディアには、女性を好き放題に扱っていいと書かれている。両方の言い分をまとめると、女性は自分を守る術もなく男性にどんなに嫌なことをされてもニコニコして受け入れる生き方しかできなくなってしまいます。でもそのリスクに気づくことはなく、恋愛とはそういうものだと受け入れました。男性向けメディアのいう痛い女やBBAを笑いながら、女性向けメディアのいう愛される女を目指しました。

20代後半にもなると仕事の面では、次第にこれまでの努力が実り始めました。競合プレゼンに勝ったり、賞をもらったり、少しずつ自分がしたい仕事に近づいているような気がしました。

でも仕事で大きな成果を上げて祝福された日も、私の胸の中はヒリヒリとしていました。「どうしよう、こんなに成功したら、生意気な怖いモテない産業廃棄物になってしまう!」

受賞のお祝いに同期からもらったプレゼントは当時流行していた「婚活リップ」でした。「仕事がうまく行ったら、次は彼氏だね」

婚活リップは薄いピンクで唇が程よく色づいて見え、男性から好ましく思われる効果があるのだそうです。私が「彼氏ほしい」と連呼していたので、別々の人から合計で2本も婚活リップをもらいました。

■貯金額に絶句される

将来のことを考えると、結婚するにせよ独身でいるにせよ、お金は貯めておいた方がよさそうでした。人生無計画な私もさすがに心配になって、本格的に貯金をしようと思い立ちました。久しぶりに昼休みに郵便局に行き、定期貯金の手続きをしました。窓口で応対してくれたのは同じ20代くらいの女性でした。通帳を見せて「定期貯金にしてください」とお願いすると女性の表情がさっと曇りました。

「なんでこんなに貯金があるんですか?」

私は気まずさを取り繕うように言いました。

「それは、お給料の半分は使わないようにしてるんですよ~」

「私と同じ年齢なのに……なんで……」

彼女は席を外し、なぜか代わりに男性担当者が来て、保険商品の勧誘をはじめました。貯金の代わりに保険に入れば、利息がもっともらえるという話でしたが、まったく頭に入ってきませんでした。

同世代の女性が自分と同程度のお給料をもらえているとはさすがに思っていませんでしたが、それでも、私よりちょっと少ないくらいかなとは思っていました。まさかショックを受けられるほどの差があるとは。郵便局は安定した仕事だろうし、きっとお給料も安定してるはずなのに、本当はそうじゃないのかな? それに男性から見たら彼女のような人の方が男性から愛されるのだろうと思いました。「女は男に貢がせてなんぼ」なんでしょ? そういう生き方を選んだのは彼女自身なんでしょ? 自分でその道を選んだのだから、自己責任だよね。

■専業主婦が妬ましい

残業が続いたある日のこと、寝不足で朦朧としながらコンビニに行くと、ベビーカーを押す同年代の女性がいました。ヒラヒラの服を着て、髪を巻いて、きちんとお化粧をして、彼女そっくりの素敵なお母さんと楽しそうにお買いものをして……。ああ、きっと私の会社の男性社員の専業主婦の奥さんもこんな感じなんだろうな。彼女たちは王子様に大切にされるお姫様で、自分は王子様に仕える奴隷のような気がしました。

笛美『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)
笛美『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)

「大丈夫だよ、需要が違うんだから」というルミネの広告が頭をよぎりました。

私はひとりぼっちで働いているのに。一生この戦いから降りられないのに。

私の妬みは男性社員の奥様にも向けられました。私が働いているあいだ、上司や同僚の奥様たちは、家でのんびりお昼寝してワイドショーでも見ているのかな?

奥様たちは立派で甲斐性のある旦那さんがいて、「幸せな女性」として世間的にも認められているのだろう。男性社員とその奥様は、家族を持ち子孫を残せる。でも私は残せない。彼氏すらできない。それは私という人間が、淘汰されるべき劣った人間だからなんだ。

いま振り返ると、まるで「インセル」と呼ばれる女性を憎悪する非モテ男性のような発想をしていました。完全におかしかったです。私も。私を取り巻く社会も。

■名誉のない「名誉男性」

私のような女性のことを「名誉男性」というのでしょうか。でもそこに名誉なんてなかった。あのときの私の心情には、「欠落」「欠陥品」「不良品」という言葉が、いちばん当てはまっていました。そんなに辛いなら、とっとと辞めろよと思われるかもしれませんが、自尊心が地に落ちた人間は、どこにも行けないのです。というか世界の中に職場しか居場所がないのです。私を育て、承認し、お金をくれる場所を、どうして捨てられるでしょうか。

私のメイン世界を構成する男性は、その世界の外にいる女性よりも、ずっとリアルでした。彼らの世界をおかしいと思うことは、自分の属する世界を否定するようなことでした。男社会の外にいる女性たちとの接点も、あまりにも少なすぎるのでした。

たまに接する「外の女性たち」の情報といえば、彼女の惚気話、OB訪問に来る女子大生、奥さんの愚痴、ヤった、ヤリたい女の話でした。いま思えば男性のフィルターを通した女性しか見えていなかったのです。

本当は女性が自分のしたい生き方を実現できない社会の方が問題なのに。私は男社会で別の役割を演じる女性に、恨みの矛先を向けていました。それが女性を分断して団結できないようにする男性社会の思うツボであることも知りませんでした。

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笛美(ふえみ)
2020年5月8日にTwitterに投稿した「#検察庁法改正案に抗議します」を作った張本人。ハッシュタグは瞬く間に広がって、400万を超すツイートを生み出し、Twitterトレンド大賞2020の2位に。現在も広告関連の仕事をしている。

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(笛美)

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