「階段がきつい人は要注意」健康診断では教えてくれない下半身の"最重要筋肉"
プレジデントオンライン / 2021年8月22日 9時15分
■平均寿命と健康寿命の間を埋める「貯筋習慣」
厚労省の集計によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳、いずれも過去最高を更新しました。一方の健康寿命は、最新の2016年データでは男性72.14歳、女性74.79歳でした。
健康寿命とは、WHOが提唱した新しい指標で、平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間です。平均寿命と健康寿命の差(男性は9.5年、女性は12.95年)を埋めるように、健康寿命を延ばすことが人生の幸せには欠かせません。
そのために必要なのは適度な運動です。
運動で筋肉を貯える、いわゆる「貯筋」を習慣にする必要があります。
毎日コツコツと貯筋すると、日常生活やスポーツでの体の動きが良くなり、基礎代謝がアップし太りにくい体質になります。骨や内臓を衝撃から守ることにもつながります。元気に生活が送れてスポーツを楽しめ、脳の神経伝達物質を活性化させ、仕事の効率もアップ。認知機能低下予防にも役立つといった多くの恩恵が得られます。筋肉はあなたを裏切りません。
前回記事で紹介した、貯筋習慣で特に大切な3つのFの筋肉(腹筋、太もも、ふくらはぎ)の中で、腹筋とともに衰えのスピードが速い筋肉が、太ももです。
腹筋と太ももの筋肉は「座る」「立つ」といった日常生活の中で最も重要な役割を担っています。太ももの筋肉量は20歳のときに平均1.8kgありますが、緩やかに減少し、50歳以降は年1%の割合で減っていきます。階段の上り下りがきつい人、よくつまずく人は、太ももの筋肉が衰えている証拠です。
今回は、健康寿命を延ばすのに欠かせない3つのFの筋肉のうち、太ももとふくらはぎを鍛える方法について紹介したいと思います。
■「太もも前面・大腿四頭筋の貯筋」齋田流・スクワット
太ももの前面の筋肉は大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、太ももの後面の筋肉はハムストリングと言われる筋肉です。太ももの筋肉を鍛えるために私たちのチームがお勧めしているのは「スクワット」です。スクワットは太ももだけでなくお尻、体幹、ふくらはぎ、腹筋、背筋も鍛えられるため「キング・オブ・トレーニング」と言われています。太ももが鍛えられると、階段の上り下りが楽になり、転倒防止にもなります。
・両方の膝を一緒に1・2・3・4と数えながら、太ももとふくらはぎを約30度曲げます。
・30度がきついかたは、無理せずできる範囲で行います。
・太ももの前面が張っていることを感じてください。
・そのまま5秒止め、ゆっくり伸ばし、元の姿勢に戻ります。
*1セット10~15回行いましょう。
*お尻を椅子に座るように突き出しましょう。
*膝を前に出さないように注意しましょう。
*30度が余裕のかたは、できる限り90度(太ももとふくらはぎが直角)まで頑張りましょう。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/9/670/img_3930151b86c172ffd4b839fa2a44f207947319.jpg)
■「太もも後面・ハムストリングの貯筋」齋田流・足の後ろ上げ
太ももの後面の筋肉(ハムストリング)の貯筋の運動は「足の後ろ上げ」です。正しい姿勢やバランスの保持に必要な背中から太もも後ろ側の筋肉を強くします。
・ひざを伸ばしたまま、1・2・3・
・腰が反らない程度まであげて、そのまま5秒止め、
・上体が前傾しすぎないように注意しましょう。太もも裏が張らなくなります。
*1セット10~15回行いましょう。
*無理に伸ばしたり、反動をつけて行わないでください。
*痛みが出たり、痛みが増す時は、速やかに中止して下さい。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/f/670/img_3f7f90976e42bc007e7f62246128d825792664.jpg)
■かかと上げ下ろしと柔軟ストレッチでふくらはぎの貯筋
ふくらはぎ(下腿三頭筋)は「第二の心臓」と呼ばれています。
ふくらはぎに力を入れると、筋肉内部の圧力を高め、血液を絞り出す働きをします。力をゆるめると筋肉のなかに血流が流れ込みます。収縮と弛緩を繰り返すことでポンプのような働きをし、血液の循環を助けています。
下半身には全身の血液の70%が集まっています。下半身の血液を重力に逆らって心臓に戻すために、ふくらはぎは全身の血流においてとても重要な役割を果たしています。
■「ふくらはぎの貯筋①」齋田流・かかと上げ下ろし
ふくらはぎを鍛えるには「立った状態でのかかとの上げ下ろし(カーフレイズ)」を勧めています。ふくらはぎ全体にまんべんなく負荷をかけることができます。
・ゆっくりとかかとを上げ、限界と思うところで1秒キープします。
・ゆっくりとかかとを下ろします。
*10~20回を目安に行いましょう。
*かかとを下す際に、かかとを完全に床に付けずに、少し浮かすのがポイントです。
*かかとを床に付けてしまうと休憩になってしまい、貯筋効果が薄れてしまいます。
*膝が曲がらないように気をつけましょう。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/670/img_dee6d5aafaa26dfaa7c3c367149f2b78829725.jpg)
■「ふくらはぎの貯筋②」齋田流・柔軟ストレッチ
もう1つのお勧めは、かかとの上げ下ろしで鍛えたふくらはぎを柔軟するためのストレッチです。ふくらはぎの貯筋は柔軟性とセットで考えます。
・腕を伸ばし、身体を支えます。
・ストレッチする足を後ろに引きます。
・できる範囲で膝を伸ばし、かかとを床に付けます。
・ふくらはぎの伸長感を確認します。
・痛みのない範囲で30秒保持します。
・逆側のふくらはぎも同様に伸ばします。
・左右30秒ずつ1セット1分で、1日1~2回続けます。
*かかとが床から浮かないように注意しましょう。
*膝が曲がらないように注意しましょう。
*つま先がまっすぐ壁を向くようにしましょう。
*「ふくらはぎストレッチ」のYoutube動画(2分16秒)
患者さんが「朝晩1時間ずつウォーキングして、ふくらはぎがこんなにパンパンになりました」と自慢げにおっしゃったことがあります。実はこれは危険なサインです。
ふくらはぎの筋肉が固くなりすぎると、足首の背屈(そらすこと)が制限され、つまずきやすく、転びやすくなります。筋肉はしなやかでなければ痛める原因ともなります。
この患者さんには、「かかとの上げ下ろし」と「ふくらはぎストレッチ」を習慣にすることを勧めました。時間に余裕があっても、ふくらはぎの張り具合を見て、15~20分で軽く流す日も作るようにもお勧めしました。何事もほどほどとバランスが大切です。
■「貯筋」で、転んでケガをしない身体づくりを
日本理学療法士協会では、健康寿命を延ばすには転ばない身体を作ること、そのためには「立つ、歩く際に必要な筋力を保っておくこと」が重要と指摘しています。立つ、歩く際に必要な筋力とは、まさに腹筋、太もも、ふくらはぎの3つのFの筋肉です。
これらを鍛えれば、転びにくい身体になり、もしも転んだ時でも手を付けて転ぶなど、衝撃を吸収できるようになります。
コロナ、暑さなどで巣ごもりをしてると運動不足で下肢の筋肉が衰え、転倒やケガのリスクが高くなります。いつでもどこでも一人でも実践できる貯筋トレーニングで3つのFの筋肉を鍛えることがますます大切になります。文章やイラスト、動画を見て貯筋運動をスタートしても「自己流ではないか心配」という人は整形外科やペインクリニックを受診し、理学療法士のリハビリ指導を受けてください。
2回にわたり、腹筋、太もも、ふくらはぎという3つのFの筋肉の「貯筋」の大切さと簡単な実践法を6種類ご紹介しました。最初は10~20分かかるかもしれませんが、慣れてくると5~10分くらいで6種類全部こなせるようになります。
体調やご都合で時間や回数は調整しましょう。続けることが何よりも大切です。1人ではなかなか貯筋習慣を始められない人は、相性の良いパーソナルトレーナーを見つけて、コーチングを受けるのも良いでしょう。
※参考サイト
・公益社団法人 日本理学療法士協会ホームページ 理学療法ハンドブック
理学療法ハンドブック|理学療法士を知る|公益社団法人 日本理学療法士協会
・順天堂CO-CORE「ステイホームでも本格的なリハビリを!オール順天堂が実現させた在宅運動プログラム」(
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順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・再生医療講座 特任教授
順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・再生医療講座特任教授、整形外科・スポーツ診療科准教授、日本スポーツ外傷・障害予防協会代表理事、いわきFCクリニック(福島県いわき市)院長。関節痛やスポーツ外傷の新規治療「多血小板血漿(PRP)」注射を駆使した治療で、地域住民の健康増進とスポーツサイエンスの両輪を追及。中高年者から東京五輪金メダリストなどトップアスリートまで幅広い層から絶大な信頼を得る。かつて医師とプロサッカー選手との二刀流を目指した元アスリート。スポーツドクターとして世界最高峰のプロサッカーリーグ、イタリアACミランに帯同しヨーロッパ式科学的トレーニングや予防医学を体得。順天堂医院(東京お茶の水)にてPRP療法と再生医療「ASC(脂肪由来幹細胞)治療」を実施中。近著に『最強の医師団が教える長生きできる方法』(共著、アスコム)。PRP外来初診予約窓口03-5802-1932 (直通)https://www.juntendosrm.com/
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(順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・再生医療講座 特任教授 齋田 良知 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
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