「『愛読書は何ですか』はアウト」採用面接で絶対にしてはいけない"意外な質問"リスト
プレジデントオンライン / 2021年8月24日 8時15分
■就職差別につながる不適切な質問
「あなたは、どんな本を愛読していますか?」――。就職面接で採用担当者にこう聞かれたらどう答えるだろうか。というより、この質問自体が禁句であることを知っているだろうか。
実は愛読書については「就職差別」につながる「不適切な質問」として厚生労働省が質問しないように指導しているのだ。なぜか。その根拠は日本国憲法14条が保障する基本的人権を守ることからきており、厚労省はこう説明している。
「基本的人権の一つとして全ての人に『法の下の平等』を保障していますが、採用選考においても、この理念にのっとり、人種・信条・性別・社会的身分・門地などの事項による差別があってはならず、適性・能力のみを基準として行われることが求められます」(厚生労働省「公正な採用基準をめざして」)
また、憲法22条の「職業選択の自由」に基づく「就職の機会均等」を実現するために不合理な理由で就職の機会を奪われないように雇用する側が、応募者に広く門戸を開いて適性・能力のみを基準とした「公正な採用選考」を行うことを求めている。つまり、採用選考は応募者が職務遂行上必要な適性・能力を持っているかどうかを基準に判断すべきであり、適性・能力とは関係のない事項について応募用紙や質問で把握することは就職差別につながるおそれがあると言っている。
■愛読書を聞いてはいけない理由
なぜ愛読書を聞くことがだめなのか。厚労省は「思想・信条」にかかわることであり「採否の判断基準とすることは、憲法上の『思想の自由』(19条)、『信教の自由』(20条)などの精神に反する。採用選考に持ち込まないようにすることが必要」(同上)だとしている。
愛読書がだめなら愛読しているマンガや好きな映画はどうなのかという疑問も沸いてくる。だがそれはさておき厚労省は毎年、都道府県やハローワークなどを通じて企業に注意を呼びかけている。
例えば滋賀県教育委員会は今年7月1日~31日の期間を「なくそう就職差別 企業内公正採用・人権啓発推進月間」に設定し、従業員20人以上の企業への啓発活動を実施。7月8日には今年3月に卒業した県内の高校生に対する「不適切な質問」調査結果を公表している。それによると「不適切な質問」を行った企業は823社中33社。件数は37件だが、最も多かった質問は「愛読書」で20件だった。
■厚労省が掲げる“不適切な質問”13項目
実は不適切な質問はそれだけではない。就職差別につながるおそれがある質問・選考方法として厚労省は以下の13項目を挙げている。
<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること(注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
<c.採用選考の方法>
・身元調査などの実施(注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
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確かに本籍・出生地や家族に関することを面接で聞くのは誰もがおかしいと思うだろう。昔、お堅い企業が興信所を使って身元調査をしたり、実家暮らしではない女子学生を採用しないという差別もあったが、今もやっている企業があるのだろう。2020年度に不適切な採用選考に関するハローワーク調査(797件)では「家族に関すること」が46.9%で最も多く、次いで「思想」(13.1%)、「住宅状況」(10.9)となっている。
■一般社員はかなり甘いケースも多い
こうした「不適切な質問」は新卒採用の現場では常識なのか。研修・教育会社の人事課長は「もちろん知っている、常識だ」と語る。
「面接を担当する社員とは、どのような視点で学生をみるのか、どんな流れで実施するのか、事前に打ち合わせを行う。その際に質問内容の注意事項として『不適切質問』について伝えている」
ただし新卒採用の面接では人事部だけではなく、一般の社員も多く駆り出される。全員に周知徹底できているのだろうか。新卒採用支援を手がけるモザイクワークの髙橋実副社長はこう語る。
「基本的にまともな採用担当者はほぼ理解していると思うが、趣旨を理解しないままやっている採用担当者も多いのではないか。一般社員になるとかなり甘いケースも多いだろう。人事と現場が一緒になって新卒採用に取り組んでいるところは遵守していると思う。不適切質問など面接留意事項を徹底しているかどうかは、コンプライアンス意識の強い会社とそうでない会社と相関があると思う」
■面接の話の流れでつい聞いてしまう
実際に学生との会話の流れで「不適切質問」をしてしまうことがあると語るのは飲食チェーンの人事課長だ。
「面接に慣れていない社員が質問してしまうのが、家族の職業だ。話の流れで『ご両親は何をやっているの?』と聞いてしまう人が多い。その人の知識や考えを知りたいために『どんな本を読んでいるの?』とか『日経は読んでる?』と聞く人は少なくない」
とくに最近はコロナ禍の巣ごもりもあるのか、エントリーシートに「趣味は読書」と書く学生も少なくないという。前出の研修・教育会社の人事課長は「どんな本を最近読みましたか、という質問は出がち。また、学生の方から話の流れで読んだ本をあげてくる人もいる。そこを少し深く聞いてみようという流れがほとんどだ。そういう意味では『愛読書を聞く』ということとは、ニュアンスが違う」と語る。
面接担当の社員に対する事前指導は必要だが、どのように話すのかなど質問の仕方をよほど徹底しなければ学生に誤解を与える可能性もある。また、適性・能力を見極めるといっても、人柄や人物重視が中心の日本の新卒採用では思わず聞いてしまいそうな質問もある。
■「将来どんな人になりたいか」もNG
以下は大阪労働局が例示している「聞いてはいけない」具体的な質問例だ。
・あなたの両親は共働きですか?
・あなたの家庭はどんな雰囲気ですか?
・あなたは転校の経験がありますか?
・あなたの信条としている言葉は何ですか?
・尊敬する人物は誰ですか?
・あなたは、自分の生き方についてどう考えていますか?
・あなたは、今の社会をどう思いますか?
・将来、どんな人になりたいですか?
思想・信条に関わるものとして「人生観」も聞いてはいけないという。しかし、人生に対する向き合い方を尋ねるのは人柄を知るのに役立つ。また「あなたは、自分の生き方についてどう考えていますか?」「将来、どんな人になりたいですか?」という質問は、キャリア観に通じるものがある。いわゆる就活の「面接本」に出てくる定番の「あなたにとって働くことの意味は何ですか」という質問との違いも微妙だ。
■自分から家族のことを話す学生もいる
親の職業や家庭の質問はタブーだといっても、前出の髙橋副社長は聞きたいと思う人も多いのではないかと語る。
「幼少期の経験は人格形成に大きな影響があるのも事実。両親との関わりも少なからずその人を作っている部分であり、本音で言えば入社後にでも知りたいと思う。しかし、信頼関係ができていない相手から質問を受けると、何でそこまで聞くのか、と反応してしまう。ただ、お互いに知りたいという面接をしていれば親の職業や生まれ育ちなどの話が出ることもある。ここは差別の問題と、面接合否を決める『自社とのマッチング』という難しい問題だ」
定番の質問に「今まで苦労したことは何ですか。それをどう乗り越えましたか」というのがある。学生の中にはサークルやゼミの活動以外に、家族に絡んだ話を始める人もいるかもしれない。この場合「趣旨を応募者に説明し、これらのことについて話す必要はないことを一言伝えてください」(大阪労働局)と言っているが、事前に準備してきた学生からすれば聞いてほしいと思うだろう。
■最終選考での経営者の不適切質問が後を絶たない
ところで採用担当者が注意し、一般社員に対する面接指導を徹底していてもフライングしてしまいがちなのが経営者だという。
「採用担当者がよく理解していても、トラブルになることが多いのは最終選考での経営者の不適切質問だ。経営者は面接がアマチュアであることのほうが多い一方、下の社員から指摘しづらい。『お父さんは何をやっている人なの』『好きな本はどんな本?』と、直接聞いてくる。ブラック企業とまでは言えないが、オーナー企業の経営者では起こりがちだ」(髙橋副社長)
企業の中には中途採用で要職につけるようなケースの場合に「身元調査」を命じたり、面接で健康状態や精神状態に不安定な面が見られる学生に健康診断をさせたがる経営者も結構いるという。
こうした経営者に出会ったら、コンプライアンスやハラスメントに対してルーズな会社だと思ったほうがよいかもしれない。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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