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「健康診断の結果が激変している」コロナ自粛の水面下で広がる"あるリスク"

プレジデントオンライン / 2021年8月22日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuliya Apanasenka

新型コロナウイルスの爆発的な感染増加が続く中、水面下で別の“大きな健康リスク”が現実のものになりつつあると警鐘を鳴らすのが、『糖尿病の真実』などの著作で知られる水野雅登医師だ。最前線で患者の治療に当たる水野氏が直面した「恐るべき現実」とは──。(第1回/全3回)

■“健康リスク”が危険水域の人が激増

2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市で検出されたCOVID-19、新型コロナウイルス感染症は、瞬(またた)く間に全世界に広まりました。そして現在もなお、その衝撃は続いており、収束の気配はありません。

重症化した患者さんの厳しい状況はもちろん、回復後も続くさまざまな後遺症についてもメディアで取り上げられ、人々の恐怖をあおっています。

私自身も勤務先で、新型コロナ感染後に味覚障害などの後遺症を持つ患者さんを診察する機会が増えています。この病気に起因する直接的な問題への対処はますます切迫感を増しています。

その一方で、人々の自粛生活が1年以上にわたって続く中で、日本人の中で別の「健康リスク」が顕在化しつつあります。大きな危機感を覚える状況ですが、しかし、“派手なニュース”ではないためか、この点がメディア等で指摘されることは少ないのが現実です。

具体的には、「健康診断」や「人間ドック」の結果数値を診断する中で、血糖値や血圧、中性脂肪の数値が危険水域に達する人が非常に増加しているのです。しかも、これまで正常値(健康)だった人たちが、一気に「要再検査」「要精密検査」に転じるケースが如実に増えています。

明らかに今後、生活習慣病患者、もしくはその予備軍の人数が急増する可能性が出てきている、ということです。

■引き金は「急激な体重増加」

すべての疾患の引き金になっているのが、「体重の増加」です。パンデミック後から、患者さんたちの中で最も目立って悪い変化が表れています。

しかも、パンデミック前には問題なく体重を維持していた方でも、半年から1年という短期間に5~6kgも増加するなど、大きく跳ね上がっているのが特徴です。

実際、日経BPコンサルティングが行った調査では、「体重の増加、血圧・血糖値・コレステロール・中性脂肪の検診結果の数値に不安を抱く人が少なくない」という結果が現れています。

また、クロス・マーケティングが行った調査でも、パンデミック以降、4人に1人が「体重が増加した」と答えています。増加分は平均で3.7kg。中でも著(いちじる)しいのが40代女性で、その約4割に体重増加が見られます。

■“たかが肥満”で死亡率が高まるコロナ禍

多少体重が増えたとしても、今までは「いやー、最近太っちゃったなあ……」と気楽に構えていられました。しかし、パンデミックの渦中ではそうもいかなくなってきました。というのも、肥満は新型コロナ感染後の重症率、死亡率を高める要因となることがわかってきたからです。

アメリカのある調査によると、新型コロナと診断された6916人を解析したところ、BMI(ボディマスインデックス)が18.5~24の患者と比較して、死亡リスクがBMI40~44の人は2.68倍、BMI45以上の人は4.18倍高かったことが明らかになりました。

また、イギリス人を調査した大規模なオックスフォード大学の研究では、BMI23以上で新型コロナによる入院が増加し、BMI28以上で死亡が増加した、と報告されています。BMIは22が標準体重の数値ですので、それより少し重いだけで入院が増加した、という結果です。

■命を守るための自粛で命が縮む

私が健康診断を行う中で、体重増加が見られる方からよく聞くのが、テレワークで運動量が大幅に減った影響です。とくに営業を行っていたビジネスパーソンには、パンデミック前は外回りの仕事を毎日行い、よく歩く生活をしていたものの、テレワークに入ってからというもの運動量が激減し、体重増加が必ずといっていいほど起こっています。

実際に1日の歩数を調べた調査でも、それを裏づける数値がはっきりと出ています。

コロナ禍(か)以前の日本人の平均歩数は、6322歩でした(平成29年「国民健康・栄養調査」)。ところが、パンデミック後にある企業が行った調査によると、回答があった2万7018人のうち、自粛要請期間中(2020年2月末~3月)、1日の平均歩数が3000歩未満の人が20.1%、緊急事態宣言期間(同3月末~4月2週目)では28.4%と、全体的に1日の平均歩数が減っていることが明らかになりました。

■自粛→肥満→重症化・死亡リスク上昇…

自粛生活によって歩く機会が減り、趣味でスポーツをしていた方、ジムへ通うことが習慣だった方は、その機会が奪われてしまいました。読者の方にも思い当たるところがあるのではないでしょうか。

そのうえ、各種の制限による閉塞(へいそく)感などのストレスから、過食に走ってしまっている人が少なくありません。そもそも自宅でテレワークをしている人は、手を伸ばせばいつでも食べ物がある環境のため、食事量や間食が自然と増えてしまいます。

これらのさまざまな要因が重なり合うことで、多くの方が体重増加を加速させています。

パンデミックから身を守るための自粛生活が、肥満を呼び、重症化や死亡リスクの上昇へ……という流れを生んでいる、という実に皮肉な結果です。

■肥満が体の“質”を変えていく

コロナ禍で短期的に体重が増加したとしても、また以前のような生活に戻れば、運動量が増えて元の体重に戻るのではないか──と考えた方がいるかもしれません。

しかし、厳しいことを言うようですが、「自粛で動かなくなったから太った。だから、また動けば痩(や)せられる……」というのは、甘い考えと言わざるをえません。

なぜなら、一度体重が増加すると、身体状態が以前とは大きく変わってしまうからです。簡単に言えば、「太る反応が起こりやすく、痩せる反応が起こりにくい」体に作り替えられてしまうのです。

カギを握るのは、「筋肉量」「ホルモン」です。

私たちの身体は、「使わないものは衰える」ようになっています。わかりやすいところでは、「お酒をよく飲んでいた人も、しばらく飲まないでいるとお酒に弱くなる」ことなどが当てはまります。筋肉も、使わないでいるとどんどん衰え、筋肉量が減っていきます。

体重計に乗る女性
写真=iStock.com/fabrycs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fabrycs

つまり、運動量が減ると、筋肉量も減ってしまうのです。その体で筋肉量が多かったときと同じ運動をしても、消費するエネルギー量が少なくなっているために痩せづらくなっている、というわけです。

■悪性脂肪の「内臓脂肪」が悪さをする

肥満が引き起こす体の質の変化は、もう1つあります。それは、腹部の内臓まわりにつく悪性脂肪である「内臓脂肪」の増加です。

内臓脂肪は運動量が減ったとき、比較的短時間に増えてくるのが特徴で、しかも「運動量を戻せば体重も戻る」を成り立たなくさせる大きな要因になるのです。

内臓脂肪は、ホルモンのような作用を持つ数種類の「アディポサイトカイン」という物質を分泌することで、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効果を阻害することがわかっています。そのため、血糖値が上がりやすくなることから、さらにインスリンの分泌を乱発し、体の代謝を狂わせ、脂肪の燃焼を阻害して痩せづらくさせてしまいます。

アディポサイトカインの中には、血圧を上げたり、血管を詰まりやすくしたりする作用を持つものもあります。また、内臓脂肪に入りきらなかった脂肪が、今度は心臓、肝臓、膵臓(すいぞう)などの臓器に「異所性(いしょせい)脂肪」としてたまってしまうと、それらの臓器に炎症を引き起こすこともあります。

お腹まわりにつく脂肪は、単に見た目が悪くなるというだけでなく、病気に直結する危険度が高い、つまり、体重増加に伴い、さまざまな病気を発症するリスクが高まるということを頭に入れておいてください。

■“糖質のストレス食い”で内臓脂肪が増大

内臓脂肪の増大をさらに加速させるのが、「糖質」の摂取です。

糖質を摂取すると体内の血糖値が上がり、それを下げるためのホルモンであるインスリンがドバドバと分泌されます。インスリンは体に脂肪をため込む作用を持つため、「肥満ホルモン」とも呼ばれています。

水野雅登『糖尿病の真実』(光文社新書)
水野雅登『糖尿病の真実』(光文社新書)

つまり、糖質を摂取したら即、身体に脂肪がたまる反応が始まり、摂った糖質の量が多いほど、内臓脂肪は雪だるま式に増えていきます。

コロナ自粛の陰で、ストレスを抱えている人は確実に増えています。人は食べることでストレスを発散しようと過食に走りがちになりますが、このときに摂取するのは甘いものやラーメン、どんぶりなどの糖質過多な食べ物であることが多いのです。というのは、甘いものを摂ると心が落ち着く感覚が得られるためです。

これを裏づける研究として有名なのは、フロリダ州立大学の心理学者、マシュー・ゲイリオットとロイ・バウマイスターの実験です。彼らがさまざまな種類の自己コントロール実験を行いながら、血糖値の変化と意志力の相関関係を調べました。すると、血糖値が高いほど意志力が高まり、血糖値の下がり方が大きいほど意志力が低下することがわかったのです。

■「太りやすい体」が引き起こす5つの落とし穴

私たちはストレスがかかると、糖質をとって血糖値を上げがちです。そして、実際に血糖値が上がると自制する力が高まり、ものごとがうまくいきやすくなります。

一方で、肥満ホルモン(インスリン)は大量に分泌されます。体脂肪を燃やす体の反応はストップし、せっせと体脂肪を増やす体の反応が始まります。

運動量の低下、いつでも食べ物が手に入る環境、ストレスによる糖質の過食。そして、結果、体重が増加することでますます“太りやすい体の質”に作り替えられていきます。その結果、次のような変化が表れやすくなります。

①血糖値が上がる
②血圧が上がる
③中性脂肪やコレステロール値が上がる
④肝臓の数値が上がる

急激な体重増加は、体を変質させ、体内で各種の数値異常を引き起こして、私たちを「要再検査」「要精密検査」に追い込みます。

自粛生活、テレワーク生活であっても、そうした悪い変化の“引き金”となる体重増加をスルーしてはなりません。体重が微増したときには即、食事や運動でエネルギーを微調整して、短期に戻すことが重要です。

微増・微調整の段階であれば、体がまだ本格的に変質していませんから、元に戻すことも難しくありません。ぜひ今日から体重増加への対策をスタートさせましょう。

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水野 雅登(みずの・まさと)
医師
1977年、愛知県生まれ。2003年に医師免許取得(医籍登録)。日本糖質制限医療推進協会提携医。著書に『薬に頼らず血糖値を下げる方法』(アチーブメント出版)、『医学的に内臓脂肪を落とす方法』(エクスナレッジ)、『糖質オフ大全科』(主婦の友社)など多数。

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(医師 水野 雅登)

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