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「核問題の解決には北朝鮮への制裁を緩和すべき」中国がそんな屁理屈を堂々と主張するワケ

プレジデントオンライン / 2021年8月20日 11時15分

北朝鮮の金正恩委員長を乗せたドイツ製の高級車=2019年2月26日、ベトナム・ハノイ - 写真=時事通信フォト

■非核化に向けたアメリカと北朝鮮の協議は停滞中

ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国に日本、アメリカ、中国、北朝鮮などを加えた計27カ国・地域による「ASEAN地域フォーラム(ARF)」の外相会議が8月6日、オンライン形式で行われた。

会議の主なテーマは、朝鮮半島の非核化と南シナ海問題だった。会議の中でアメリカのブリンケン国務長官は「朝鮮半島の完全な非核化」を訴え、中国に対して「軍事力を背景にした南シナ海での挑発的行動の停止」を強く求めた。

これに対し、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は、北朝鮮の核問題に触れ「国連の制裁措置の緩和こそが、いまの行き詰まった状態を打破する」と主張した。

非核化に向けてのアメリカと北朝鮮の協議は停滞していることは間違いない。トランプ前大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記によるトップ会談以来、表面的な動きはない。

王毅氏は「ここ数年、核と長距離ミサイル発射の実験を停止している」と北朝鮮を持ち上げ、制裁緩和が「対話と協議の再開のための雰囲気を作り出す」と強調する。なぜ、中国は北朝鮮の肩を持ち、膠着状態を解消する糸口として北朝鮮が切望する制裁緩和を求めるのか。

■習近平政権が最も恐れいているもの

国連安全保障理事会は、北朝鮮の核実験や弾道ミサイルの発射が相次いだ2017年に、石炭や鉄鉱石など北朝鮮の主要産品の輸出を禁止し、石油精製品の輸入量を9割減まで制限する制裁決議を採択し、各国がこれを実行してきた。

制裁によってただでさえ悪い北朝鮮の台所事情がさらに悪化し、これに新型コロナ禍や災害が重なり、経済が大きく困窮した。疲弊した北朝鮮の人々が国境を接する中国側に逃げ込んで来ることも多く、こうした脱北者が増え続けると、世界最大の人口(約14億4000万人)を抱える中国にとって経済的にも政治的にも大きな負担となる。仮に北朝鮮が崩壊した場合、脱北者の数は計り知れない。これを中国は恐れている。

制裁緩和の履行は、対立が強まるアメリカに屈辱を与えることになり、国際社会での中国の存在感が増す。中国は常にアメリカに圧力を加えることを念頭に置いているのだ。

たとえば、アフガニスタンからのアメリカ軍の撤退。イスラム原理主義勢力のタリバンが現政権を倒して実権を握ったことを、アメリカの評価を落とす好機として捉え、中国共産党機関紙「人民日報」系列の中国メディアを使って「ベトナム戦争の失敗以上にアメリカが無力であることを証明した」とアピールしている。

こうした抜け目のない中国を縛るには、日本と欧米の強固な協力が欠かせない。習近平(シー・チンピン)政権は民主主義国家の固い連携を一番、恐れている。それゆえに社会主義を強く掲げるのである。

■北朝鮮が「高級な洋酒とスーツ」にこだわっている理由

北朝鮮はアメリカとの対話に応じる条件として「鉱物の輸出」「石油製品の輸入」「生活必需品の輸入」の3つを挙げている。

3番目の生活必需品の中には、高級な洋酒とスーツも含まれている。これは金正恩氏が朝鮮労働党と軍の幹部らに高価な品を配給することで自らに対する忠誠心を高める狙いがある。

オンザロック
写真=iStock.com/GMVozd
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GMVozd

北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会副部長は8月10日、米韓合同軍事演習の事前訓練の開始について、次のような談話を発表した。

「韓国の背信行為に強い遺憾の意を表明する」
「我々の先制攻撃能力をさらに強化する」
「アメリカと韓国は重大な安全保障の脅威に直面することになる」

いずれの談話もこわもてだが、金与正氏は金正恩党総書記の実の妹で、常に兄を補佐するナンバー2の権力者といわれる。

■「中国の北朝鮮擁護 平和を脅かす対米共闘だ」と産経社説

8月14日付の産経新聞の社説(主張)は、今回の「ASEAN地域フォーラム(ARF)」外相会議を取り上げ、「中国の北朝鮮擁護 平和を脅かす対米共闘だ」との見出しを掲げ、こう訴える。

「交渉への呼び水として、制裁緩和を持ち出すのは間違っている。北朝鮮は過去の米朝協議で何度も、譲歩を引き出しては非核化への約束を破った。北朝鮮を話し合いへと突き動かしているのは、制裁をはじめとする圧力であることも忘れてはならない」

その通りである。国際社会は北朝鮮の約束破りという前例を踏まえて判断すべきである。北朝鮮が核・ミサイルの開発を諦めれば、制裁は解除される。見せかけの中止で国際社会を欺こうとするから制裁が解けないのだ。話は簡単だ。北朝鮮が核・ミサイルの開発を中止すればいいのである。

こんな北朝鮮に味方する中国は「国際平和を脅かす」と批判されて当然だ。

続けて産経社説は書く。

「国連安全保障理事会の決議が北朝鮮に求めているのは、世界の平和と安全を脅かす、核・弾道ミサイルの廃棄である。実験停止は評価の対象とするに値しない」
「現に、先ごろ明らかになった安保理の専門家パネルの中間報告書は、北朝鮮が新型コロナ禍での国境封鎖や洪水被害による食糧難で人道危機にあるにもかかわらず、核・弾道ミサイル開発を継続していると指摘している」

前述したように、中国は「開発を停止している」ことを強調して制裁の緩和を求めているが、愚の骨頂である。北朝鮮に求められるのは、見せかけの「停止」ではなく、核とミサイルの完全な「廃棄」だ。中国はそれを分かったうえで、制裁緩和を持ち出しているのだ。中国は国連安全保障理事会の常任理事国のメンバーにふさわしくない。

■輸入できないはずの欧州製高級車が北朝鮮にある

産経社説は指摘する。

「懸念されるのは、米中対立が深まる中、中国にとって対米カードとしての『北朝鮮の核・ミサイル』がより重要になり、中国が非核化の進まない、この現状を維持しようとすることだ」

中国が北朝鮮サイドに立つのは、アメリカと中国の対立が激化しているからだ。中国はアメリカに圧力を加えられるなら何でも使おうとする。日本と欧米はそこを牽制しながら制裁緩和という中国の要求を阻止し続ける必要がある。

金日成と金正日ポスター2018年4月14日、北朝鮮にて
写真=iStock.com/Omer Serkan Bakir
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Omer Serkan Bakir

産経社説は「中朝両国は7月、一方が武力攻撃を受けたとき、もう一方が援助すると定めた友好協力相互援助条約の締結60年を祝い、米国に対抗する共通の立場を確認した」とも指摘する。中国にとって北朝鮮はアメリカを攻撃するための絶好の材料なのである。

最後に産経社説はこう主張する。

「ARFは27カ国・機構で構成され、北朝鮮も参加する数少ない枠組みだ。閣僚会議では、各国が北朝鮮制裁決議の厳格履行の重要性を指摘したという。今は、制裁破りなどがないよう、緩むことなく目を光らせるときだ」

中国は北朝鮮にひそかに物資を横流ししているといわれている。北朝鮮が輸入できないはずの欧州製高級車が現地を走っているからだ。これは許しがたい制裁破りの行為だ。日本と欧米は協力して中国の不正を暴き、国連保障理事会で問題にすべきである。

■「ASEANは地盤沈下を食い止めねばならない」と読売社説

8月13日付の読売新聞の社説は「中国が影響力を拡大する中で、加盟国間の分断が深まり、地域の安定を導く役割を果たせないでいる。東南アジア諸国連合(ASEAN)は地盤沈下を食い止めねばならない」と書き出す。見出しも「ASEAN 地盤沈下に歯止めかける時だ」だ。

読売社説も「ASEAN地域フォーラム(ARF)」外相会議を取り上げ、次のように指摘する。

「王毅外相は、南シナ海の領有権問題を巡り、紛争防止に向けた規範作りがASEANとの間で進んでいると強調し、『域外国の介入が地域の安定の最大の脅威になっている』と米国をけん制した」
「新型コロナウイルス対策でも、中国産ワクチンを地域に大量に提供したとアピールした。中国が軍事力と経済力でASEANを切り崩しているのに対し、米国は守勢に追い込まれている」

「域外国の介入が最大の脅威」との主張は、他国に不正行為を正されて「内政干渉だ」と批判する中国の常とう手段と同じだ。中国の習近平政権はどこまでも歪んでいる。

中国のワクチンの効果は欧米のワクチンに比べて劣っている。それを大量に提供できたからといって自慢にはなるまい。

確かにアメリカが守勢に追い込まれている面はある。そこをカバーできるのは、やはり日本やヨーロッパの民主主義の国々である。一致団結して不正行為を続ける中国を追い込みたい。

■強権統治をとる国は、欧米よりも中国に傾斜しがち

読売社説は指摘する。

「ASEANは米ソ冷戦時代、大国間の紛争に巻き込まれないことを目的に発足し、政治体制や発展速度の違いを乗り越えて拡大してきた。現在の米中対立下でも一体性を保つ意義は大きいはずだ」
「だが、現実には、ASEANの地域機構としての役割は低下し、対中関係やミャンマー情勢などで存在感を発揮できていない」

「大国間の紛争に巻き込まれない」どころか、米中対立のはざまに立たされている。読売社説も終盤で「強権統治をとる国は、民主化を要求する欧米よりも、内政に干渉しない中国に傾斜しがちだ。『親中』と『親米』に加盟国の色分けが進めば、結束の維持はますます困難になろう」と解説している。

ASEANが機能しない理由について読売社説は「かつてはインドネシアとタイがASEANを主導していたが、今はそうしたリーダー国を欠いているのが一因だろう」と分析する。しっかりしたリーダー国が現れるまで、日本がASEANを牽引する必要があるかもしれない。

読売社説は「ASEANが求心力を回復するには、ミャンマーでの軍の暴挙を停止させ、民主派との対話を促進することしかあるまい」と訴える。たしかにミャンマーの民主化を再び軌道に乗せることができれば、ASEANの地盤沈下も防げるだろう。ここでも日本の役割が期待される。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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