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「生涯年収は"億"の差」非正規で働く氷河期世代で"正社員になれる人・なれない人"の決定的な違い

プレジデントオンライン / 2021年8月21日 11時15分

画像=厚生労働省「就職氷河期世代の方々への支援のご案内」より

30代半ば~40代半ばの就職氷河期世代にはやむをえず非正規で働く人が多い。政府はその対策として、6月に「彼らの世代の正規雇用を30万人増やす」ことを閣議決定した。どのような人材が正社員になりやすいのか。日本総研創発戦略センター スペシャリスト・小島明子さんが報告する――。

■政府「就職氷河期世代の正規雇用を30万人増やす」は実現できるか

「正規雇用を30万人増やす」――。

6月に閣議決定した内閣府の「経済財政運営と改革の基本方針2021」では、就職氷河期世代(30代半ば~40代半ば)への雇用支援などを通じて、この目標値を掲げています。

ここ数年は、氷河期人材の支援の一環として、氷河期人材を公務員として採用する動きや、マッチングイベントなどを通じて、人手不足である多くの中小企業への雇用支援を促す動きも出てきていますが、「30万人」を達成するためには課題は多いと言わざるをえません。

筆者が属する日本総合研究所では、令和2(2020)年度 経済産業省中小企業庁委託事業 地域中小企業人材確保支援等事業「氷河期世代人材活用促進等事業」報告書(以下、「報告書」と記載)を2021年3月にまとめました。

この報告書を踏まえて、氷河期人材が活躍するために今後どうすべきか考察していきます。

■1:“不本意非正規”の就職氷河期世代の4つのタイプ

今回、国(政府)を挙げて支援の対象となっている氷河期世代といわれる世代は、大学卒業後に希望する就職ができず、現在も不本意な非正規で働く40歳前後の人々が対象となっています。内閣府によると、大学(学部)卒業者の場合、就職氷河期の就職率が69.7%(その期間を除く1985年~2019年の平均は80.1%)と平年よりも10%ポイント以上低下しています。

以前にプレジデントオンラインで書いた「アラフォー女性が『私たちだけ辛酸』と話すワケ」では、とにかく就職が厳しい時代であったため最初に内定をもらえた企業にそのまま就職をした方や、就職しやすい業界を考えて就職した方、総合職ではなく一般職でなんとか就職した方など、希望する就職先に就職できなかった方々の当時の状況を紹介しました。

報告書によれば、現在、こうした不安定な就労状態にある“不本意非正規”の就職氷河期世代の人々は、正社員化への意欲と保有スキルの高さを軸に、4つのタイプに分けられることが示されています(下記のタイプ別名称は、報告書とは関わりなく、筆者が今までの経験や知見を基に明記したものです)。

①スーパー派遣タイプ

正社員になることへの意欲と保有スキルが高い方々です。大企業などで、専門性の高い業務を経験し、スキルやキャリアに一定の強みがある方々です。

②一般派遣・フリータータイプ

一定の就労経験はあるものの単純作業等への従事がメインの方々です。特筆した専門スキルや経験がないため、スキルやキャリアに自信を持てず、正社員になることにも消極的な方々です。

■4タイプの中で「正社員になりやすい人・なりにくい人」の特徴

③夢追いタイプ

若い時代に、競争が激しく、運に影響される要素が強い職業(例えば、お笑い芸人やミュージシャン、俳優など)で頑張りながら、生活のために派遣やアルバイト、パートなどを短期間で離転職を繰り返していた方々です。自身の強みや経験を話すことができますが、企業で働いていた経験が乏しく、スキルにおいては一定の課題がある方々です。

④日暮しタイプ

特に何か夢を持って頑張ってきた経験や就業経験が乏しく、働くことに対して意欲が低い方々です。

氷河期世代への支援といっても、これらの4タイプごとで本来、支援のアプローチは変えていくことが必要です。

タイプ①の方々は、スキルや経験もあり、正社員になることへの意欲も高いため、マッチングイベントなどの機会を増やすことが正社員化につながるといえます。例えば、非正規雇用であっても、さまざまな会社で、人事、経理、総務などを一通り経験している場合、中小企業のように一人で幅広い仕事をすることが求められる職場では、複数の部署で働いた経験が活かせる場合もあります。

高層ビルを見上げる男性
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

一方、対極的なタイプ④の方々は、経験と意欲いずれも乏しいため、より手厚い特別な就労支援が必要ですが、自治体などからの支援が得られやすい方々ともいえます。

■支援から抜け落ちてしまいそうな心配なタイプの人とは

少し心配なのは残りのタイプ②とタイプ③の方々です。意欲やスキルのいずれかが乏しい方々ですが、①や④の方に比べると、自治体などの支援からは抜け落ちてしまう可能性が懸念されます。

②の方々については、氷河期世代向けのイベントが開催されても、イベントに参加をする自信がない、会場内で企業の面接官にアピールする自信がない、あるいは、職場を休むと生活費の負担が重くなってしまうため就職活動をすること自体が難しい方々もいます。そのような方々のためには、イベント会場でキャリアコンサルタントに同席してもらう形で企業との面談を行うといった伴走型支援や、オンラインなどを通じた効率的なマッチングの支援が必要だといえます。

③の方々については、自分の経験や強みを話すことができる方々ですので、そのポテンシャルを踏まえ、採用したいと考える企業は少なくないと考えます。ただし、企業で働いた経験は乏しく、ビジネススキルが不足している可能性があるため、人材派遣会社あるいは採用を行った企業側で、ビジネススキルの教育支援が必要だといえます。

一概に不本意非正規の氷河期世代といっても、多様であるため、正規雇用への動きを加速するならば、タイプごとにより決め細やか支援を行っていくことが重要だと考えます。

■2:氷河期人材を採用している中小企業の2つの特徴

現段階では、氷河期人材を中途で積極的に採用している中小企業は、社会全体で見ても多くはないといえます。しかし、不本意非正規である氷河期人材が正規雇用として活躍していくためには、人手が不足している中小企業で働くことが選択肢の1つとして挙げられます。

では、どのような中小企業であれば、未経験の氷河期人材が活躍できるのでしょうか。報告書では複数の特徴が挙げられていますが、本稿では主な特徴を2つ取り上げます。

主な特徴の1つ目としては、人物を重視した採用方針が挙げられます。募集業務への関心の高さや仕事に対する向上心、謙虚さ、積極的などの人物面でのポイントを評価指標としており、経験の有無、年齢、前職の雇用形態は不問としています。

例えば、過去に夢中になって取り組んだ経験や趣味などを持つ人材は、採用後に活躍する人材が多いという現場からの声から、過去に没頭した経験や趣味に関する具体的な内容について質問を行った上で、採用を行っている企業(リサイクル商品を扱う業種)もあります。個人ユーザー向けに多種多様なリサイクル商品を扱っているため、生活全般のいろいろなことに興味を持ち、好奇心が旺盛であることは、仕事においてもプラスになっています。

ビジネスパーソンが連なって歩くシルエット
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

2つ目としては、未経験者である氷河期人材が活躍できる組織風土や人事制度の整備が挙げられます。今後の人手不足を考えると、未経験の人材を採用せざる負えない現実があるため、既存の社員が未経験でも受入れ、氷河期人材が疎外感を感じない風土づくりが必要であると考えます。未経験でも受け入れられるような方針を組織に発信し、しっかり育て、キャリアを積ませていく考えを持っている企業が事例では多く見られました。

年齢や過去の雇用形態を問わず、経験やスキルに見合った報酬を提供している企業や、タスクの細分化により未経験者が仕事をしやすい環境の整備、採用後の異動希望への対応、適材適所になるように努めている企業などが挙げられます。

氷河期世代は、バブル世代などに比べて、就職活動への失敗経験などから、性格が暗いといったネガティブな印象を持っている企業は少なくありません。ただし、採用したことで、真面目に一生懸命働き、定着率が高いなど、そのイメージが良くなる企業もあります。

従業員の多くがシニア層に偏っている中小企業であれば、氷河期人材を採用し、年齢層のバランスが良くなることは、今後事業を継続していく上でもメリットがあるといえます。

■3:実際に中小企業に採用された氷河期人材の特徴

報告書によれば、中小企業に採用された氷河期人材にも、共通の特徴があることが明らかになっています。

不本意非正規である氷河期人材の方で、新たに中小企業で正社員にチャレンジする人の多くは、未経験や経験値が浅くても自分が携わってきた経験やスキルを活かしたいという意欲をもっていることが特徴的です。

募集時に会社が必要としていたスキルではなくても、派遣社員時代に身に付けた類似スキルを活かしながら活躍している人もいます。

例えば、EC担当を求めていた企業に採用された人で、ECの経験はなかったものの、ウェブデザイナーのスキルが活かせたというケースです。非正規雇用の期間が長いことをネガティブにとらえず、今までの経験やスキルで活かせるものを考え、前向きな気持ちでチャレンジすることが何よりも重要だといえます。

就職面接のコンセプト
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

また、正社員化に成功した人の多くは、就職前に、さまざまな不安を抱えていましたが、自分の強み・弱みを改めて分析・把握し、面接時に適切な答えができるような準備や、ホームページで企業理解を深め、業界動向、魅力や課題などを調べるといった下準備を行っています。面接当日は、自信を持ち、明確で正直な受け答えを心掛けた人や、ポジティブさの心掛け、清潔感や丁寧さ、目に見える努力をアピールした方もいます。

氷河期人材を採用する中小企業は、前述した通り、人物評価で今後のポテンシャルを見る傾向があります。そのため、雇用形態ではなく、何よりも今までの自分の生き方に自信を持ち、ポジティブな気持ちで就職活動を行うことが必要だといえます。

実際、筆者がお伺いした方のなかに、総合人材サービスパソナグループの「就職氷河期世代 Middles Be Ambitious」という制度を利用し、今までのキャリアを活かして転身した男性(現在38歳)がいました。

この男性は、モデルに専念するために大学中退後、劇団の立ち上げや、居酒屋でのアルバイト、競走馬の飼育、パチンコ店などの仕事を経験したそうです。

その後、37歳の時にパソナグループのグループ会社(兵庫県淡路島)に採用され、現在は飲食店の店舗責任者兼エリアマネージャーの仕事を任され、今までの仕事の経験を活かしています。

正規、非正規という雇用形態にとらわれず、過去に夢中になって取り組んだ経験、多種多様な職業の経験は、今後のキャリアに何らかの形でつながっているのだと感じます。

一方、自信がなく、ネガティブな気持ちで臨んでしまうと、ポテンシャルのある人材としての魅力を感じてもらえなくなる可能性があります。氷河期世代を採用するために面談をしている時点で、未経験者や年齢の高さはクリアをしていますので、仕事に対する高い意欲をアピールすることが大切だといえます。

■4:不本意非正規を減らすことが少子化問題の解消にもつながる

アルバイトやパートを転々としていた氷河期世代のなかで、中小企業(製造業)で正社員として就職した方々にインタビューした際、印象に残ったことがあります。

正社員になったことで変化したこととして、「生活が安定したので、結婚をした」「家を購入した」「子どもが産まれた」という声が多く挙げられていたことです。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を基に、独立行政法人労働政策研究・研修機構がまとめた「ユースフル労働統計2019」によると、大学卒業後60歳まで勤務を続けた男性の生涯賃金(退職金含まず)は正社員で2億7000万円、非正規社員で1億6000万円、女性は正社員2億2000万円、非正規社員(フルタイム)1億2000万円だそうです。

花瓶に挿した一万円札
写真=iStock.com/Asobinin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asobinin

不本意非正規を減らし、正社員として収入が増え、安定した生活ができる人々が増えれば、個人の幸福度が上がるだけではなく、少なからず少子化問題の解消にもつながるのだと感じます。

前出の“不本意非正規”の就職氷河期世代を4つに分類した部分で、②や③のタイプは支援が手薄であると問題提起しましたが、この層に対する支援を強化することは、経済的な効果も大きく期待できるところではないでしょうか。

大局的な視点に立ち、雇用の安定に向けた施策をより優先度を上げて、取り組んでいくことが必要なのだと考えます。

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小島 明子(こじま・あきこ)
日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
女性の活躍推進に関する調査研究及び環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの企業評価業務に従事。主な著書に『女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる』(経営書院)、『「わたし」のための金融リテラシー』(きんざい、共著)などがある。

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石田 遥太郎(いしだ・ようたろう)
日本総研 リサーチ・コンサルティング部門シニアマネジャー
大手シンクタンクに勤務した後、2012年より医療福祉関連ベンチャーのスタートアップメンバーとして参画し、医療介護施設の開設及び運営のコンサルティングに従事。また管理部門の責任者として、経営管理全般(経営企画、財務、人事、システム等)を担当。2019年日本総合研究所に入社。リサーチ・コンサルティング部門にて、健康分野、医療介護分野における政策提言、調査研究、民間企業向けのコンサルティングに従事。

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(日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子、日本総研 リサーチ・コンサルティング部門シニアマネジャー 石田 遥太郎)

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