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サムスン電子も急落…世界中の投資家がここにきて韓国株を売り始めた理由

プレジデントオンライン / 2021年8月23日 9時15分

ソウルにある韓国証券取引所(2013年3月2日) - 写真=dpa/時事通信フォト

■“メモリ半導体特需”に異変が…

8月上旬、世界の株式市場の中で韓国総合株式指数(KOSPI)の軟調さが目立った。個別株の推移を見ると、メモリ半導体分野で世界トップのシェアを持つサムスン電子の下落が目立つ。半導体企業が多く集積する台湾株も売られた。

韓国株が売られた原因は複数ある。最も重要と考えられるのが、メモリ半導体の一つである“DRAM(Dynamic Random Access Memory)”の不足がいくぶんか解消され、需給の逼迫(ひっぱく)感が一服し始めたことだ。それは、メモリ半導体などの輸出によって景気回復を実現してきた韓国経済の下振れリスクを高める要因といえる。

8月に入り、ウォンもドルに対して売られた。世界の主要投資家は、目先、DRAM価格が調整し、韓国経済の回復ペースがこれまでに比べていくぶんか弱まる展開を真剣に考え始めた。

サムスン電子などの韓国企業は、わが国企業から半導体の部材や製造装置を調達してきた。DRAM価格が追加的に調整すれば、韓国の半導体メーカーなどの収益下振れ懸念は高まるだろう。それはわが国経済にもマイナスの要因だ。

■DRAM需要の逼迫感は一服してきている

2017年から2018年にかけて、世界的なデータセンター投資の増加を背景に、IT機器上で作業中のデータを一時的に記録するDRAMなどメモリ半導体の需要が増加した。

データセンター投資の一巡や米中の通商摩擦によるサプライチェーンの混乱によってメモリ半導体市況は調整した後、5G通信の普及による世界的なデータ保存量の増加や、コロナ禍によるパソコンやサーバー需要の急増などによってDRAM需要は押し上げられ、昨年の秋ごろから需給が逼迫し始めた。DRAMなどの価格上昇によって、サムスン電子など韓国半導体メーカーの業績は拡大した。それは、昨年後半以降の韓国経済の急速な景気回復を支えた要素の一つだ。

ここにきて、DRAMの需給が徐々に落ち着きつつある。DRAMの価格データなどを取り扱うサイト「DRAMeXchange」が掲載している価格を確認すると、年初から6月下旬ごろまでDRAMの価格は上昇トレンドにあった。その後、7月に入ったあたりから価格の上昇ペースは鈍化し、徐々に価格が下落した。その背景の一つとして、2021年の前半に各国のパソコンメーカーなどが在庫の確保に優先して取り組み、DRAMの不足感が徐々に解消された。

■特にサムスン電子の“急落”は大きい

DRAM価格が調整するとともに、台湾や韓国の株価は上値が抑えられ始めた。7月ごろから韓国の株式市場ではサムスン電子の株価が軟調に推移し、8月に入ると、株価下落が勢いづいた。8月18日までの月初来で、サムスン電子は5.86%下落した。同じ期間、世界の主要半導体関連銘柄で構成されているフィラデルフィア半導体株指数は4.40%、世界最大のファウンドリである台湾積体電路製造(TSMC)は1.03%下落した。

サムスン電子の株価下落率は世界の主要な半導体関連企業の中でも大きい。サムスン電子はファウンドリ事業の強化のために設備投資を積み増し、世界の大手メモリメーカーから、TSMCのような世界の有力ファウンドリ企業への飛躍を目指している。しかし、サムスン電子をDRAMなどメモリ半導体のメーカーとみなす主要投資家は多い。TSMCとサムスン電子にはそれだけ競争力に差がある。

ソウルにあるSamsungのオフィス(2013年3月26日)
写真=iStock.com/georgeclerk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/georgeclerk

■今後、最先端分野の開発競争は一段と激化する

8月に入り、サムスン電子に加えて、米国や台湾のメモリ半導体メーカーの株も売られた。短期的に、世界全体でDRAMの需給逼迫感は徐々に落ち着き、半導体市況には若干の調整圧力がかかる可能性がある。

ただし、やや長めの目線で考えると、一時的な価格の調整を経て、世界の半導体需要は上向き、価格も上昇するだろう。特に、最先端のロジック半導体の製造技術の重要性が高まり、最先端分野の製造技術の開発競争は一段と激化する展開が予想される。

なぜなら、世界経済のデジタル化が加速しているからだ。わが国の工作機械が世界の需要を取り込んでいる背景には、工場の省人化などファクトリーオートメーションの進行がある。遠隔治療やテレワークの浸透も半導体需要を押し上げ、より多くのビッグデータの獲得、保存、分析のニーズは高まる。自動車の分野ではEVなど電動化シフトによってより多く、かつより高性能の半導体が求められる。中長期的に、世界経済全体で、IoT関連の投資は増加する可能性が高い。

■需要が供給能力を上回る状況が続くiPhone

IoTのインターフェースになるのがスマートフォンだ。IoT関連投資の増加とともに、スマートフォンの機能向上はこれまで以上に重要性を増す。アップルの供給能力を上回るiPhoneへの需要が発生していることはその裏返しだ。また、今秋にもアップルは新型のiPhoneやiPadを発表するとの観測がある。

多少の価格の調整を伴いつつも、最先端の民生機器分野において、より小型、かつ消費電力性能の高い演算装置への需要は増すだろう。そうした展開に対応するために、年内にTSMCは次世代の回路線幅4ナノメートル(ナノは10億分の1)のチップ生産の開始を予定し、さらに先端の3ナノまでロジック半導体の製造枠が予約で埋まっているとの観測もある。

DRAMメモリ
写真=iStock.com/scanrail
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scanrail

目先、DRAMの需給がいくぶんか落ち着き、それが世界の半導体関連企業の株価に調整圧力をかける可能性はある。ただし、メモリもロジックも一様に、需給バランスが落ち着き、緩むというよりは、最先端分野のロジック半導体の需給はタイト気味に推移する可能性がある。

■韓国経済の減速懸念は徐々に高まる恐れ

今後、韓国経済の減速懸念は徐々に高まる可能性がある。

5月に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は世界トップレベルの半導体強国を目指すと述べた。その意味は、韓国経済が中長期的な視点で成長を目指すために、サムスン電子のファウンドリ事業の重要性が一段と高まることだ。半導体強国の実現に向けてサムスン電子の事業運営は強化されなければならない。それが、文政権が同社のイ・ジェヨン副会長を仮釈放した理由だろう。

サムスン電子は、ファウンドリに加えて自社ブランドでの家電、スマートフォン、メモリ半導体事業を運営している。企業としての意思決定のスピードという点ではTSMCのほうが有利だ。最先端のロジック半導体の受託製造分野で、サムスン電子がTSMCとの競争力の差を縮めることは容易ではない。そうした見方から、DRAM価格の調整とともにサムスン電子株は売られた。

■日本経済にとってもマイナス要素となる

その結果、経済全体での先行き懸念が徐々に高まっている。その兆候として、8月に入り、通貨ウォンの対ドル為替レートが下落した。足許、韓国の製造業PMIは50を上回っており、全体として景況感は良い。ただ、DRAM価格の下落によって、徐々に景気回復ペースは弱まる可能性がある。

ウォン安のロジックは次の通りだ。サムスン電子のビジネスモデルに基づいて考えると、DRAM価格の調整圧力の高まりは、同社の業績悪化リスクを高める。サムスン電子の半導体事業の減速は韓国経済の輸出減少につながり、株式市場や雇用・所得環境にマイナスの影響を与える。

中国経済の減速懸念の高まりも韓国経済にはマイナスだ。そうした要素に影響されて年末にかけての韓国経済の回復ペースがこれまでに比べていくぶんか鈍くなれば、利上げ期待は低下して内外の金利差は縮小し、海外投資家がウォンを保有する動機は弱まる。

近年、韓国企業はわが国企業が製造する高純度の半導体の部材や製造装置を必要としてきた。同じことは、韓国以外の半導体メーカーにもあてはまる。素材や精密機械産業は足許の日本経済を下支えしている。世界のDRAMの需給逼迫に一服感が出始めたことは、わが国経済にとってマイナスの要素といえる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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