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「感染拡大防止を最優先に」なぜ菅首相は堂々とそんなウソを繰り返せるのか

プレジデントオンライン / 2021年8月21日 11時15分

経団連の十倉雅和会長と会談する菅義偉首相=2021年8月18日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■誤ったメッセージを送って人流を急増させた

「新型コロナウイルスの感染拡大防止を最優先に取り組んでいく」

記者会見や記者団のぶら下がり取材の度に私たち国民に向けて発した菅義偉首相の言葉だ。一国のトップとして当然の発言である。

だが、この言葉を聞けば聞くほど本気で感染防止を進めてきたのか、疑わしくなり、菅首相が信じられなくなる。こんな人物に日本という国の舵取りを任せておいていいのだろうか。

思い出すのが、菅政権の肝いりで推進した昨年のGoToキャンペーンだ。感染拡大が収まっていないにもかかわらず、飲食や旅行を割引料金で後押しした。その結果、「感染と飲食は関係ない」「旅行しても構わない」という誤ったメッセージが国民に伝わり、人の移動を急増させて感染リスクを高めてしまった。

東京オリンピックの開催(7月23日~8月8日)もまったく同じだ。世界最大の祭典は人心を高揚させ、結果的に感染を拡大させる。にもかかわらず、菅首相は五輪を強行開催した。感染症対策の専門家らが感染力の強いインド由来の変異ウイルス「デルタ株」の流行を懸念していることを重視しなかった。

朝日新聞の社説をはじめとするメディアの論調には開催中止が目立ち、世論の半数も中止や延期に傾いていた。沙鴎一歩もこの連載で中止を主張した。菅首相の周辺からも開催中止を求める声が上ったが、菅首相は聞く耳を持たなかった。

残念ながら、東京パラリンピック(8月24日~9月5日)の開催も強行される模様である。

■首相を続投することしか念頭にない

緊急事態宣言の発令やまん延防止等重点措置の適用を繰り返し、思い切った新たな対策が打てない菅政権を見ていると、「感染拡大防止を最優先に取り組んでいる」とは思えない。

たとえば、17日の新型コロナウイルス感染症対策本部で打ち出した人流の抑制のための新対策は、百貨店や地下商店街などの大型商業施設への入場整理の要請と、人が集まりやすく混雑する場所への外出半減の呼びかけぐらいだ。いずれも斬新な政策とは言えない。しかも緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が繰り返される都心では、若者を中心に政府の呼びかけに応じない人たちが増えている。新型コロナの患者が入院する病床や宿泊療養施設の確保は、感染拡大の急増に追いつかない。

いま必要なのは、菅首相の政治決断によって欧米のロックダウン(都市封鎖)に近い強硬策に踏み切ることだと思う。その間に医療提供体制などを立て直すことだ。それは国民の反発を覚悟したうえで自らの政治生命を賭けての決断である。しかし、それは菅首相にはできないだろう。なぜなら、秋の自民党総裁選と衆院解散・総選挙に勝って首相を続投することしか念頭にないからだ。

■「抗体カクテル療法」は病院でなければできない

最近、ワクチンと並んで菅首相の発言からよく出てくるのが「抗体カクテル療法」だ。新型コロナウイルスに対する抗体を体内に作り出す、2種類の薬を混ぜて治療するもので、菅首相は「デルタ株による急激な感染拡大の中にあって、軽症や中等症の方が重症化するのを70%防ぐと言われている。極めて対策として大事だ」と評価する。

だが、2つの薬はいずれも経口投与ではなく、点滴投与だ。このため医療施設でないと扱いにくい。新たに施設を設けたとしてもそこには医師や看護師が必要になる。菅首相はこの根本的問題をどう乗り越えるつもりなのか。

一方、ワクチンは一時、供給が需要に追い付かず、不足という事態が表面化した。抗体カクテル療法が登場する前は、与党内でも「1本足打法」と批判された。菅首相の頼りがワクチンしかなかったからだ。このワクチン、菅政権は10月から11月にかけて希望者全員の接種が終わると判断しているが、果たしてその思惑通りに進むだろうか。

■首相官邸のホームページが「感染拡大を最優先に」とミス

ところで、政府は8月18日に首相官邸のホームページで菅首相の17日夜の記者会見の要旨を公開した。しかし「感染拡大を最優先に」と誤った文言を掲載していた。内閣広報室はメデイアからの問い合わせでこのミスに気付き、「感染拡大の防止を最優先に」と「防止」の言葉を入れて修正したが、なんとも注意力が散漫で呆れる。

この記者会見で首相は衆院解散・総選挙のタイミングに自ら触れ、「選択肢はだんだん少なくなってきているが、その中で行っていかなければならない」と解散に言及した後、「(それでも)最優先すべきは新型コロナ対策だ。いずれにしろ感染拡大を最優先にしながら考えていきたい」などと話した。

国会議事堂
写真=iStock.com/uschools
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/uschools

「感染拡大を最優先に」は菅首相の言い間違いだ。菅首相はその間違いに気付かずに記者会見を続け、首相官邸のホームページにはそのまま掲載された。

菅首相の言い間違いは聞いていれば分かるし、重大な過ちではないと思う。しかし、ホームページにそのまま間違いを文章として載せるべきではない。こうしたミスが出るのは、菅政権自体がほころびかけてきているからだ。

■感染拡大の最中に衆院解散・総選挙を進めるおかしさ

17日の新型コロナ対策本部で人流抑制の新対策を打ち出したと前述したが、

この対策本部で政府は7府県に対する緊急事態宣言の発令と、10県へのまん延防止等重点措置の適用を新たに決定した。期間は8月20日から9月12日までとなる。

この決定にともない、宣言発令中の東京など6都府県と、重点措置適用中の北海道など6道県の期限も8月31日から9月12日に延長される。これで宣言と重点措置の対象は計29都道府県となり、47都道府県の6割に上った。

菅首相は対策本部で「これまでに経験のない感染拡大が続いている。重症者数も急激に増加した。首都圏を中心に医療体制は非常に厳しい状況だ」と語ったというが、その一方で東京パラリンピックや自民党総裁選、衆院解散・総選挙の準備を押し進めている。危機管理意識の欠如したおかしな話である。「感染拡大防止を最優先に」とは到底思えない。

■「宣言や重点措置を小出しにする泥縄式の対応」と朝日社説

8月18日付の朝日新聞の社説はこう書き出す。

「感染力の強いデルタ株の広がりを見込んで、専門家は早くから、今日のような新型コロナの感染爆発と医療逼迫に警鐘を鳴らしていた。にもかかわらず、ワクチン接種の加速に期待をかけ、医療提供体制や検査の拡充など、十分な備えを怠ってきた菅政権の責任は極めて重い」

菅首相はこれまでワクチンに頼り過ぎてきた。接種を広げればそれで感染が下火になると考えたのだろう。だが、予防接種というものに対する理解が不足している。インフルエンザのワクチンがそうであるように、ワクチンは重症化を防ぐ手段であり、接種したとしても感染はする。接種直後はまだしも、接種後は時間とともに獲得した免疫力が弱り、効果が薄れてくる。イスラエルなどワクチン接種の進んだ国でも3回目を打つ必要に迫られている現状を見れば、よく分かるはずだ。

朝日社説は「菅首相は7月初め、東京都に4度目の宣言を決めた際、『東京を起点とする感染拡大は絶対に避ける』と述べたが、その約束は果たされなかった。『先手先手で予防的措置を講ずる』という言葉とは裏腹に、新規陽性者の急増を受け、宣言や重点措置を小出しにする泥縄式の対応に終始した。国民への行動抑制の呼びかけに矛盾する東京五輪の強行もあった。これでは、国民に危機感は伝わらない」とも指摘する。

国立競技場
写真=iStock.com/Tom-Kichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tom-Kichi

「宣言や重点措置を小出し」にする菅首相の手法は、「泥縄式」と批判されても仕方がないだろう。もはや、これまでの宣言や重点措置はあまり効果がないと考えるべきだ。

■「次の首相を後進に譲ります」と訴えてみてはどうか

朝日社説は指摘する。

「百貨店の地下食品売り場などでクラスターの発生が相次いだことを受け、政府は従来の飲食店での酒類提供停止に加え、1千平方メートル超の大規模商業施設への入場制限の要請を新たな対策に盛り込んだ。しかし、専門家が求める人出の大幅削減につながるかは心もとない」

確かにこの朝日社説の指摘の通りかもしれない。新型コロナのような新興感染症への対策は、その病原体が人類の初めて遭遇するウイルスだけに難しい。しかし、だからと言って対策の手を緩めてはならない。大きな効果が得られない対策でもそれらを結集すれば、効果は上がるはず。大規模商業施設への入場制限の要請もそうした対策のひとつである。

続けて「首相が最近、強調するのが、自宅療養中に酸素の投与が必要になった場合に対応する『酸素ステーション』の設置や抗体カクテル療法への期待だ。これらの措置が、必要とする人に迅速に届くよう手だてを尽くすのは当然である。ただ、同時に、首相に今、求められるのは、政府の総力をあげて、できることは何でもやるという強い覚悟を示して、国民の理解と協力を得ることではないか」とも指摘するが、首相の記者会見をテレビで見ていると、やはり「覚悟」が伝わってこないのだ。

菅首相は「私は次の首相を後進に譲ります。その代わりに感染拡大の防止にご協力ください」と訴えてみたらどうだろうか。内閣支持率は確実に上がるだろうし、菅首相は後世に残る政治家になるはずだ。

■繰り返される「今回の宣言が最後となるような覚悟」

8月18日付の産経新聞の社説(主張)は大きな1本社説で訴える。

「全国の新規陽性者が1日2万人を超える日もある。新型コロナワクチンの接種がまだ行き渡らない中で、現役世代、若者を中心に感染が広がっている。日本中で危機感を共有し、あらゆる手立てを講じて抑え込みたい」

「あらゆる手立て」が肝要だ。ただ問題は菅首相の覚悟のなさなのである。

産経社説も「7月12日に東京に発令されてから、緊急宣言はこれで2度目の延長だ。首相は最初の延長と対象地域拡大を決めた7月30日の記者会見で『今回の宣言が最後となるような覚悟で、政府を挙げて全力で対策を講じていく』と語った」と書き、こう指摘する。

「その覚悟が果たされていないのは残念だ。政府、都道府県の対応はなお後手に回っている」

確か、「今回の宣言が最後となるような覚悟」というフレーズは以前の記者会見でも聞いた。今度は言葉だけでなく、菅首相の覚悟をしっかり見せてほしいと思う。

■「都職員を大規模投入すべき」という産経社説は無理筋

産経社説はその後半で「首都圏では病床不足が顕著で、助かる命を助けられない事例が発生している。救急隊員が、症状の悪化した患者を搬送したくても入院先が見つからない。酸素の投与が必要なのに装置が足りない事態も生じている。医療従事者から『制御不能』『災害レベル』との声が出ている」と指摘し、次のように訴える。

「東京都は、感染経路や濃厚接触者を調べる保健所の積極的疫学調査を事実上、縮小した。保健所業務の逼迫が理由だが、なぜ都の職員を大規模に投入する準備を整えてこなかったのか。入院、宿泊療養体制の不備と合わせ、小池百合子都知事は猛省すべきである」

「都の職員を大規模に投入する準備すべきだ」との産経社説の主張には無理がある。職にはどうしても限りがある。大勢の職員を回すと、日常の都政の業務に影響する。

それに新型コロナは人から人へと飛沫感染する呼吸器感染症だ。積極的な疫学調査で感染ルートを洗い出し、感染源やクラスター(感染集団)を潰すやり方は感染拡大が進めば進むほど困難になる。風邪やインフルエンザを封じ込められないのと同じだ。

最後に産経社説は「全国のワクチン接種は1日100万回超で推移し、総計1億1千万回を超えた。少なくとも1回接種した人が半数に迫る。死亡リスクの高い高齢者の感染率は下がってきている。デルタ株が蔓延する中でも効果は期待できる。現役世代や若者への接種を急がなければならない」と主張するが、3回目の接種が必要となるなどワクチンの問題点にも触れるべきだろう。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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