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「国内市場に迫る勢い」中国で絶好調の資生堂がこれから直面する"あるリスク"

プレジデントオンライン / 2021年8月27日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

中国の事業を伸ばす資生堂。コロナ禍の2020年度の決算で中国の売り上げは前年比9.0%のプラスでした。マーケターの桶谷功さんは「そんな絶好調な資生堂にも、実は大きなリスクがある」と指摘します――。

■資生堂の中国事業が好調

こんにちは、桶谷功です。

資生堂の中国事業が好調です。同社の2020年度の決算報告では海外比率が全体の60%以上を占めていて、その中でも特に売れているのが中国。日本国内での売り上げが全体の33%であるのに対し、中国は全体の26%と日本に迫る勢いです。しかも海外のほかの国は新型コロナウイルスの影響で売り上げが低迷しているのに、中国のみが前年比9.0%プラスを達成している。これは中国がいち早くコロナ禍から脱したことを示しているのでしょう。

また2021年のセグメント別売上高の見通しを見ると、日本が3460億円、中国が3135億円となっています(図表1参照)。それとは別に空港の免税店や機内販売などの「トラベルリテール」という免税事業のセグメントもあり、こちらは1065億円の売り上げがある見通し。そのなかには香港のすぐ近くにあるリゾート地「海南島」での売り上げも含まれています。海南島は、いま免税アイランドの一大リゾート地となっており、中国人観光客も外国人と同じように免税で買物ができます。そのため、新型コロナ禍で海外旅行ができない富裕層が、中国全土から殺到し、免税品を買いまくっているのです。

2021年セグメント別売上高の見通し

■「中国人向け」の商品をつくるリスク

このような状況ですから、資生堂は中国事業を強化しようとして、中国に研究開発拠点を新設し、中国の消費者向けの商品を開発して、それを売ろうとしています。しかしそこには大きなリスクが潜んでいると思われてなりません。

実は中国の人たちは、自分たちに向けてつくられた製品を嫌います。製品の製造過程に、自国の中国人が関与していなければいないほどいい、というのが中国の主要都市で数多くの家庭訪問調査を行い、実際にインタビューをした結果です。

いちばん避けたいと思われているのが、中国人によってつくられ、中国人によって流通している一般の中国製品。だから中国の人たちは赤ちゃん向けの肌着、おむつ、哺乳瓶、粉ミルクのように安全性が気になるものや、大人用でも直接肌に触れる下着やスキンケア用品などは、中国製より信頼できる外国製品を選びたいという気持ちが強いのです。中国南部の広州市に住む、ある子育て期のお母さんは、絶対に中国製の粉ミルクを飲ませたくないので、わざわざ香港まで日本製の粉ミルクを買い出しに行くということでした。

■中国におむつの工場をつくってはいけない理由

一時期、中国の人たちが日本に来て、日本製のものを大量に買う「爆買い」をしていたことがあります。P&Gやユニ・チャームなどのおむつメーカーは、早くから中国に工場を建て、中国人向けの製品を現地生産するという戦略をとっていました。しかし中国の人からすると、それは全然うれしくない。

なぜなら中国国内に工場を建ててしまうと、そこで働くのは中国人です。いくら日本向けと同じ仕様でつくるよう指示されていたとしても、それが守られるかどうかは別の話。「安い原料にすり替えて利幅を増やすに違いない」などと想像してしまう。それに「工場が中国にあると、配送の途中でニセモノにすり替わるかもしれない」と言います。だからみんな日本に来て、直接買っていたのです(いまは信頼性の高いECサイト経由で「爆輸入」が行われています)。

2カ月の赤ちゃんと積み上げたおむつ
写真=iStock.com/Polina Strelkova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Polina Strelkova

ですから単純に日本企業の製品というだけではダメ。メイドインジャパンであり、なおかつ中国人の手を経ることなく、手元に来たものがいいのです。

■出遅れた花王がラッキーだった

このような中国の消費者の意識の高まりにつれて、P&Gやユニ・チャームの現地生産のおむつの売れ行きが振るわなくなる一方で、花王のおむつ「メリーズ」は爆買いされて品切れになるほどでした。

実は花王も中国への本格的な進出を検討していたものの、その機会を逃したため、現地生産品はあまり流通していませんでした。そういう状況のとき、中国で流通していないが日本に良いおむつがあることを知った中国の人たちが、わざわざ日本まで買いに来たり、転売業者が代理購入(代購)したりしたので、日本の店頭からメリーズが消えた。つまり花王は出遅れたのが幸いしたのです。

日本企業の多くは、中国が大事な市場だと思うと、中国の人たちに合わせた商品を開発しようと現地に研究所をつくったり工場を建てたりしてしまいます。しかし中国に関してはそれが裏目に出るリスクが高いのです。

■「自分たちのためにつくられたもの」がうれしくない心理

資生堂は、製造は日本国内の工場で生産するとしています。しかし、商品開発はあくまで中国の消費者向け。スキンケアであれば、中国の人の肌に合わせた商品を開発することになりますが、売り出すときにそこをアピールするかしないかは、本当に慎重に決めるべきだと思います。

人間には不思議な心理があって、ものによっては「あなたのための商品です」と言われると、欲しくなくなるところがある。たとえばシニアの女性が、シニア向けと露骨にうたわれている化粧品を買いたいかといえば、いくら機能性に優れていても買いたくないでしょう。なかには「シニア向け」とはっきりうたったほうがいいものもありますが、化粧品などのプロモーションのときは実際のターゲットよりも若干若めに設定するのが王道というもの。

■自分たち向け=低品質と連想してしまう

あるいは男性向けのゴルフクラブを売るとき。実際にゴルフをプレーするのは年配の男性が多いけれど、「シニア向けの打ちやすいクラブですよ」といって売り出したら絶対に売れません。「アスリート向け」を装ったうえで、実は力のないシニアでも飛距離が伸びる、というふうにしなければいけない。

中国の人たちにも、そういうところがあります。今まで、欧米や日本のメーカーが中国で現地生産してきた製品は、たいてい本国で売られている製品より廉価版のものが多かったため、「私たち向けの製品って、どうせ安い低品質のものなんでしょ」という連想が働くようです。だから、「中国の人向けに開発しました」と大々的にうたうと、そっぽを向かれるおそれがある。それよりも、「日本でヒットした商品を中国に持ってきました!」と言ったほうが、むしろ好意的に受け止められる可能性があります。

■中国人特有の消費傾向

さらにいえば中国の人たちには、特有の消費傾向があります。それは「世界に向けてつくられた、最高品質のものが好き」というもの。この傾向が富裕層だけでなく、幅広い層に見られるのです。つまり中国人は日本製が好きではあるけれど、実際のところはそれよりもっといいもの、つまり「世界で一番いいもの」を求めています。

日本人は「松竹梅」のランクがあれば、真ん中の「竹」を選ぶ人が圧倒的多数でしょう。ところが中国の人たちは、「松竹梅」なら「絶対に松」という人が多い。

たとえば日本国内でも高価なオーガニックコットンの赤ちゃん用おむつは販売されていますが、決してそれが売り上げの第一位にはなりません。ところが中国では、そういう最高級品が発売されるとみんながそれに殺到する傾向があります。一番価格の高いものが一番人気になる、という逆三角形を描くのです。

ましてや化粧品のようにイメージが重要な商品では、一番人気がランコムやエスティローダーなど欧米のブランド。次に日本のブランド。その次に中国のブランドという順番です。

■欧米の高級ブランドが圧倒的に強い

越境ECの天描(Tモール)ダブルイレブン(独身の日)セールでの化粧品の売り上げでも、仏ロレアルパリ・仏ランコム・米エスティ ローダーがトップ3を独占。資生堂ブランドは8位、クレ・ド・ポー ボーテは18位でした。

かつて、クレ・ド・ポー ボーテの高額商品がインバウンドで爆買いされたことが大きなニュースになりましたが、それは日本という旅行先で買物をするとしたらという条件付き。日本の中ではクレ・ド・ポー ボーテが最高のブランドとして人気を集めたのです。しかし、越境ECのように世界中のブランドが集結する場では、欧米ブランドの人気が圧倒的なのです。

いま日本の製品は、高品質なのに割安という理由から好調に売れていますが、それは社会の真ん中の層にいる人たちが、まだ世界の最高級品には手が出ないので、やむをえず日本製を選んでいるだけという可能性があります。今後、中国がさらに豊かになれば、日本製は厳しい状況に置かれるおそれがあるのです。

いまは日本のブランドも好調に売れていますが、それは社会の真ん中の層にいる人たちが、まだ世界の最高級品には手が出ないので、やむをえず日本製を選んでいるだけというおそれがあります。今後、中国がさらに豊かになれば、日本製は厳しい状況に置かれる可能性があるのです。

■技術があるからこそ……資生堂に必要な“ある力”

このような特徴のある中国市場を制するのであれば、資生堂は世界一を目指さなければいけないでしょう。資生堂は、技術開発力はとても高いだけに、コンセプト開発力をもっともっと高めていく必要があるのではないでしょうか。ヘアケア製品の「TSUBAKI」ブランドを、利益が出ないという理由でファンドに売ってしまいましたが、「日本の女性は美しい」以降のブランドコンセプトを打ち出せませんでした。新興ブランドの「ボタニスト」が「植物と共に生きる、ボタニカルライフスタイル」というコンセプトで、TSUBAKIよりも高価格帯(高利益率)の市場を開拓したのとは対照的です。

また、機能を超えて人々を魅了する、ブランドコンセプトが必要です。ヘアケアのような日用品でも、ナンバーワンブランドのラックスには、「ハリウッドスターのようなプリンセスになる」という明確な魅力があります。ましてや、化粧品ブランドなら、理屈を超えた、憧れやドキドキするような魅力が必要でしょう。

しかし、資生堂に取材した記事などを読んでいると、「何がいちばんの売りですか」という質問に対して延々と技術的な説明をしているケースが多い。ひと言で人をハッとさせたり、ドキドキさせたりするキーワードやコンセプトが出てこない気がします。

■メッセージが伝わってこない

世界的なブランドを目指す「SHISEIDO」が、スキンケアに注力して発売した美容液「アルティミューン」も、「血のめぐり」に着目して「美のめぐり」というブランドコンセプトを作り上げたことはわかるものの、このブランドが伝えたいメッセージや心に響くエモーショナルな(情緒的な)魅力、社会的な存在意義などはあまり伝わってきません。その状態でいきなり「ブランドアンバサダーは宇多田ヒカルさんを起用します」と発表されているのは、いかにも残念です。

「どうやったらブランドのプレステージを高めていけるか」「こういうブランドになれば世界でいけそうだ」という根本的な戦略が構築されないまま、「肌をきれいにする、こんなメカニズムや成分を発見」「よし、宇多田だ」となる。かつて資生堂はいいものをつくって、あとは広告の力で「どうだ!」と売り出すのを得意としていましたが、いまも根本的には変わっていない印象を受けます。

技術的な研究開発力があり、非接触の肌診断機器などの新しい取り組みにも積極的な資生堂。それらを統合し世界を魅了するブランドコンセプトの開発力が高まったとき、最高峰ブランドを求める中国でも欧米ブランドを凌駕してナンバーワンブランドになる日がくるに違いありません。

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桶谷 功(おけたに・いさお)
インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ

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(インサイト 代表取締役 桶谷 功 構成=長山清子)

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