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「子供にコロナワクチンを打っていいのか」迷う人に現役小児科医が伝えているたった一つのこと

プレジデントオンライン / 2021年8月31日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/insta_photos

12歳以上の子供は新型コロナウイルスのワクチン接種ができる。だが、不安を感じて様子見をしている人もいる。小児科専門医の森戸やすみさんは「医師としては世代を問わずワクチンを接種してほしいと思うが、未知の物事を恐れるのは人間の本能。不安は“公平な情報源”に触れることで解消できる」と話す――。

■ワクチン不安は「先進国」に共通して生じるもの

ようやく12歳以上の若い世代で新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。私の小児科クリニックでも接種券をお持ちの方に個別接種を行っています。接種が終わるとみなさん一様にほっとされますね。まだまだ「様子見をしている」方が多いので、帰り際に「学校のお友達にもワクチン打ったよ、あんまり痛くなかったよって教えてあげてね」と声をかけるようにしています。

小児科専門医の森戸やすみさん。ビデオ会議にてお話を聞いた(画像提供=森戸やすみさん)
小児科専門医の森戸やすみさん。ビデオ会議にてお話を聞いた(画像提供=森戸やすみさん)

新型コロナウイルスワクチンに限らず、ワクチン接種そのものに漠然とした不安を感じる方は多いかもしれません。これは日本だけではなく、ワクチン接種が進み恩恵を受けている「先進国」に共通の現象です。

ロタウイルスワクチンの共同開発者であるポール・A・オフィット博士は、著書『反ワクチン運動の真実 死に至る選択(邦題)』のなかで「予防接種プログラムのプロセス」に触れています。それによると国のワクチン接種事業とワクチン接種に対する人々の感情は、つぎの三段階を繰り返す傾向があるそうです。

■感染症の怖さを忘れると、接種率が下がる

第一期 「人々が感染症を恐れている」:1940年代の米国では、多くの親がジフテリア、百日咳のワクチンを歓迎した。破傷風、ポリオ、麻疹、おたふく風邪、風疹ワクチンもほとんどの子供が接種している。感染した子供たちが、実際にどんな状態に陥るかを知っている人が大多数だったからだ。

第二期 「ワクチン接種により、感染症が劇的に減る」:ワクチン接種が進み感染症が劇的に減るなかで、感染症の怖さに対する記憶が薄れ、逆に因果関係が明らかではない“副反応”に注目が集まる。ワクチン接種率は横ばいになる。

第三期 「予防接種率が下がる」:ワクチンに対する恐れや不安が高まり、接種率が下がる。この結果、予防できるはずの感染症にかかる患者が増える。

日本をはじめとする経済的に豊かな先進国は、ちょうど第三期にあたります。ワクチン接種によって、感染症をこじらせ命を落とす子供たちを目にする機会が激減し、逆に感染症そのものよりも、実際の被害以上に「副反応」を恐れる逆転現象が起きているのです。

新型コロナウイルスワクチンは、「第一期」と「第二期」の過程をものすごいスピードで突っ走ってきましたようにも見えます。あるいは初めから「ワクチンのような人工的なものを体に入れるのは嫌だ」と思っていた人たちがSNSのためにつながりやすく、見えやすくなっているのかもしれません。しかし、昨年末〜今年春にかけて怒濤の勢いで接種が進んでいた米国やEUでも、ここに来て「コロナはただの風邪。副反応のほうが怖い」とワクチン不安を抱える人たちが接種を拒み、接種率が頭打ちになっています。このまま各国でワクチン接種率が伸び悩む限り、パンデミックの終わりは遠のいていくでしょう。

■未知を恐れるのは本能、不安は「具体的な情報」で埋める

とはいえ、「未知」の物事を恐れるのは人間の本能です。私自身は医師として、そして親の立場からも世代を問わずワクチンを接種してほしいと願っていますが、「mRNAって何?」「5年後、10年後に何か起こりそう」と考えてしまう気持ちもわかります。

その本能的な不安をなだめ、冷静に自分の利益になる行動を起こすには、不安をかき立てる相手を「知る」ことが必要です。

新型コロナウイルスに感染すると、どんな経過をたどるのか、どんな後遺症をもたらし、症状がいつまで続くのか──。ワクチンについても同じです。感染・発症・重症化予防効果や、副反応とその頻度、対応方法、妊娠を希望している女性や子供への接種は安全なのか、どんな影響があるのか、など自分自身が抱えている「不安」を具体的な事実で埋めていきましょう。その過程のなかで「感染vs.ワクチン接種」のメリットとデメリットを比べ、冷静に最善の行動をとろうとする気持ちが生まれてきます。

ところが、ここにも落とし穴があります。それがインターネットやSNSに氾濫する「フェイク・ニュース」です。

スマートフォンを操作する女性の手元
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

■誤った情報が「善意」で拡散されることもある

フェイク・ニュースといっても、悪意があるデマや、パンデミックに乗じて集客と広告収入を狙った金銭目的のものばかりとは限りません。なかには「善意」から拡散される誤った情報もあります。

もし、同じワクチン不安を共有する「ママ友」が「こんな情報があるんだよ」と勧めてきたとしたら? たとえ真偽がわからない情報だとしても、ばくぜんとした不安であれこれ迷い苦しむ必要がなくなるなら……と、つい飛びついてしまうかもしれませんね。ネット上にはびこるフェイク・ニュースは不安につけ込んできます。

特にSNSでは、自分と興味や関心が似た人が同じような情報・意見を繰り返しリツイートすることで、真偽を検証されることなく、誤った情報が「真実」かのように拡がる「エコーチェンバー現象」が生じます。たった一人が発信したフェイク・ニュースが、無批判に拡散されることで、いつのまにか「みんなが知っている事実」として一人歩きしていくのです。当然、新しい事実が判明しても、情報が修正されたり、更新されることはありません。

■公平な情報源は「複数の目で繰り返し検証」されている

もちろんネット上には、複数の目で検証を繰り返された公平な情報源もあります。この「複数の目で」「繰り返し検証される」点が公平な情報源のポイントです。

新型コロナワクチンの情報源でいえば、厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」と日米の専門医有志が立ち上げた「こびナビ-COV-Navi」が参考になります。まずは、ここで情報を集めましょう。

厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」
厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」

女性のみなさんは、日本産婦人科感染症学会が作成した「女性のみなさまへ 新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン)Q&A」が参考になります。妊娠・出産だけではなく、授乳や生理への影響などの疑問への回答が載っているのでぜひ、一読してみてください。

子供たちの予防接種に関する情報は2019年に刊行された、森戸やすみ・宮原篤『小児科医パパとママのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)にも詳しい。
子供たちの予防接種に関する情報は2019年に刊行された、森戸やすみ・宮原篤『小児科医パパとママのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)にも詳しい。

お子さんの接種については、日本小児科学会の「新型コロナワクチン〜子どもならびに子どもに接する成人に対する考え方」に関するQ&Aに詳しい解説が掲載されています。このほか、新型コロナウイルスワクチンに限らず、ワクチンで感染予防ができる、子供たちの命に関わる病気(VPD)については「VPDを知って、子どもを守ろう」というサイトに詳しい情報があります。こちらも参考にしてください。

繰り返しになりますが、こうした公の機関や複数の専門医が運営するサイトの情報は、公開前に何人もの厳しい目で検証されています。忖度や容赦は一切ありません。また、公開された後も間違いが見つかったり、情報のアップデートがあるとすぐに訂正が入るので、常に最新かつ公平な情報を手に入れることができます。個人の体験談や意見を発信するSNSやYouTubeを見る前に、まず、公平な視点を手に入れてください。

■欧米では、年齢に関わらず高い効果が認められている

公平な視点から、子供のワクチン接種について考えてみましょう。2021年8月末現在、12歳以上の子供が接種できるワクチンは、ファイザー/ビオンテック社製とモデルナ社製のmRNAワクチン2種類です。子供への接種が先行している欧米からの報告では、mRNAワクチンは年齢に関わらず、高い効果が認められています。

副反応も成人と同じように注射した部位の筋肉痛や熱がでますが、解熱剤などで対応が可能です。また、ひところ噂になっていた「新型コロナワクチンで不妊」という情報は、フェイク・ニュースであることがすでに明らかになっています(厚生労働省:ワクチンを接種することで不妊になるというのは本当ですか)。

■「様子見」によってリスクを負う必要はあるのか

新型コロナウイルスに対する免疫をつけるには、ワクチンを接種するか、感染するかの二つしかありません。「子供は重症化しないから、感染しても平気」と楽観できたのは、デルタ型変異ウイルスがまん延する前の話です。デルタ型変異ウイルスが猛威を振るい、新しい変異ウイルスの脅威に曝されている今の状況では、「子供も若者も重症化し、後遺症をもたらす可能性がある」と考えるほうが正しいでしょう。新型コロナウイルスの特効薬がないなかで「様子見」をして、子供たちに重症化リスクや後遺症のリスクを負わせる意味があるでしょうか。

新型コロナウイルスワクチンの接種は、パンデミックを乗り切るために欠かせない感染防御手段です。上にあげたサイトの情報を参考にしながら、お子さんと一緒にワクチンの接種について話し合ってみませんか。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ 聞き手・構成=井手ゆきえ)

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