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話が弾まない、気まずい会議で「あなたはどっち?」と意見を尋ねるのはなぜお寒いのか

プレジデントオンライン / 2021年8月27日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

世界一のエリートたちは「話し方」も超一流。ハーバード生に共通する話し方を学べば、会議が盛り上がること間違いなし! 「プレジデント」(2021年9月17日号)の特集「あなたの話がグングン面白くなる!」より、記事の一部をお届けします──。

■ハーバードMBAに共通する話し方とは

私が留学した頃のハーバード・ビジネス・スクールには、約80カ国からMBA取得を目指す人が集まっていました。今ではグローバルに活躍するエリートたちで、当時からみんなの話し方に共通点があると感じていました。

それは、相手を「ひとりの人間として敬う姿勢」です。雑談ひとつとっても、意見を戦わせる議論でさえも、常に「あなたを大切に思っていますよ」という気持ちがにじみ出るような話し方です。

例えば雑談は、「とりあえず何か話さなくては」という沈黙を埋めるためのものではなく、相手のことを知りたい、親密になりたいという想いがひしひしと伝わってくるものでした。例えば、話題からしてもあちこちに飛ぶようなことはありません。「犬を飼っているんだ」と話したら、「どんな犬なの?」「週末はその犬と過ごすの?」と、その話題が深まる質問が続きます。一つひとつの話題を丁寧に扱い、じっくり掘り下げていくのです。

また、その場限りだと思って話をしていないから、何年たっても過去の会話を忘れません。数年ぶりに話したのに、私の家族の名前がすらすら出てきます。「2年前に、仕事のことで悩んでいたよね。どうなった?」と、私が忘れかけていたことまで記憶しているから驚きです。

人の話を聞く姿勢からしてそうです。理解したら相づちを打ち、疑問があれば質問して、「こういうことだよね」と自分の言葉で言い直して確認します。そうやって相手の話を全力で聞いていることが行動として現れると、「自分のことを大切に想ってくれているんだな」と素直に思うことができるのではないでしょうか。

これは友人に限った話ではなく、ビジネスでも通じるところがあるでしょう。お互いに「私は○○会社の開発担当者」「私は△△会社の営業担当者」という「肩書レベル」でのお付き合いをするより、1人の人間として敬い、関係を築くほうが、仕事に有益なだけでなく人生も豊かになります。そういう意味では、なるべく仕事感を消し、「個人としての相手を大切に思う」姿勢を前面に出したいものです。

■日本の旧来のやり方は、グローバル社会では馴染まない

アメリカの文化人類学者で異文化コミュニケーション学の先駆者といわれるエドワード・ホールは、「日本人は公私の切り分けがとても強い」と指摘しました。仕事中は「公」の自分であることを前面に出そうとするあまり、自分のなかの「私」をなるべく殺そうとする傾向がありませんか。結果、ガードも固くなり、話題や話し方も固くなりがちに。もしかしたら、人間関係も肩書を中心とした無味乾燥なものになってしまうかもしれません。

グローバル社会において、ガチガチの公の顔だけを前面に出していくと「そっけない人だ」とか「自分に興味を持っていないのか」と取られてしまうかもしれません。それでは損ですよね。せっかくのあなたの人間味が伝わらない。日本人にとっても大切な考えである「一期一会」を有効活用できなくなってしまうかもしれません。

このように、日本の旧来のやり方が、グローバル社会では馴染まないことが多々あります。私は、その根本には、「多様性の扱い」に対する練度の違いがあると思っています。多様性の本質とは、「人と人は違う。それは良いこと」という信念です。人々の違いを「素晴らしいこと」と位置づける発想です。それは、同調圧力が生む「なるべく周りに合わせよう」という考え方とは、真逆に位置します。

例えば、恩師の退官祝いに皆で「お花でも贈ろう」と盛り上がっているところに、ひとりだけ「私はお花は贈りたくない」という人が現れたら、その意見を「これはむしろ、もっと気の利いたお祝いを考える機会である」と捉えるのが多様性を大切にしたグローバル的な考え方でしょう。一方で、「皆で盛り上がっているところに水を差すようなことを言って。協調性のない人だ。面倒くさい」とばっさり切り捨てるのは、同調圧力の強い考え方です。

グローバルは文化が違う!

グローバルで通じる、多様性を前提としたやり方(根本となる思想、コミュニケーション、ビジネスの進め方)を、私は「グローバル・モード」と呼んでいます。これは、グローバル社会だけでなく、社会の多様化が着実に進み、“多様性のダイナミズム”を活かすダイバーシティが重視されつつある日本の企業においても、大切なものと考えております。会議1つとっても、出席者の多様な英知を結集することができます。

脱日本型「グローバル・モード」のススメ

■仕組みを変えればアイデアが生まれる

グローバル・モードの会議のために工夫できることを、ここでは5つ紹介します。まず1つ目は「アウトプットを起点とする」ということです。

日本企業の生産性が低い原因の1つに「ムダな会議」を挙げる人がいます。明確な議題がなく、「とりあえず関係者を集めよう」と開かれる会議は、仲間内の慣れあいのようなもので、多様な才能を持つプロフェッショナルが集い、何かを創り出す場とはなりにくいかもしれません。

会議の主催者は、なぜ、この会議を開くのかをよく考え、特に「アウトプットは何か」といった根本的なところを明確にする必要があります。そうすれば、おのずと①議事(アジェンダ)と、②事前準備が明確になります。当日の会議においては、何をどういう順番で話すのか、という議事と、そのために会議の前に参加者にやっておいてほしいこと──多くの場合は、資料の読み込みや、事前に自分の意見を整理してもらうこと──がはっきりします。

議事がきっちりと定義されており、メンバーも事前準備に入念な会議は、進行もぶれず生産性も高くなります。さらに、参加者はこの会議自体にも、会議を招集した人に対しても評価を高くするでしょう。そこで、さらにそれを強調するための、2つ目の工夫が「アイスブレーク」です。

公私をビシッと分けたい私たち日本人は、会議の冒頭からいきなり仕事の議事に進む場合が多いかもしれません。ところが、いきなり議題に入ると、それこそ「仕事のためだけに集まっています」「あなたたちには興味がありません」ととられかねません。せっかくのチーム員の関係構築の機会が台無しです。お互いの緊張をほぐし、ミーティングを円滑にするためにも、少し雑談をしてみるのです。当然、アイスブレークは日本人同士の会議でも有効です。

「雑談って何を話すの?」とよく聞かれます。今はZoomなどのオンライン会議が多いと思いますが、例えば、Zoomの背景を見て、「○○様は、本日はリモートワークですか?」というお互いに共通したものの話からだと入りやすいですし、クスッと笑える小ネタを用意しておけば最強です。オンライン会議なら、「私の声、聞こえていますか? マイクがオフだと気づかなくて、ひとりで懸命に喋っていることがよくあるんですよ」と失敗談を話します。少しスキを見せて、「この人、自分の間抜けなところも話す気さくな人だな」と親近感を持ってもらえればアイスブレークは成功です。

緊張をほぐすアイスブレークを忘れずに

社内のオンライン会議などで、議論が硬直してきた場面にも有効です。例えば、背景画像をいきなり焼き肉の写真に替えます。「どうしたんですか?」と聞かれますから、「いや、最近、みんなで焼き肉に行けてないから、気分だけでも」と冗談を交えて緊張をほぐします。いずれも私が実際にやっていることです。アイスブレークはたっぷり織り込んでいいでしょう。

■会議の良し悪しはファシリテーター次第

3つ目の工夫は、「ファシリテーター」の配置です。ファシリテーターには、多様な意見が出る仕掛けを作ることを期待したいです。

前述のエドワード・ホールは、日本人のコミュニケーションを「高文脈」と呼んでいます。簡単にいえば、暗黙の了解(文脈)が多くあるなかで、ほんの少ない発話量でも十分お互いを察することができる、ということです。要は“空気を読む達人”なわけです。

この特徴は会議でも顔を出します。例えば、上司が会議中に「A案がよさそうだ」と興味を示せば、部下たちは「そこが落としどころか」と忖度して、その結論にむかって少しずつ“空気”ができていきます。そうなると反対意見が出なくなり、メンバーの多様な英知を活かせません。

そこで、ファシリテーターは多様な意見を引っ張り出す工夫をし、“空気”の読みあいを予防するといいのです。

工夫のひとつは、多様な意見を出す仕掛けです。例えば、「事前に全員が意見を書く」という方法があります。会議前に共有ができるグーグルのスプレッドシートを設定し、「この議題について、各自の意見を記入しておいてください」と連絡します。これだけでも、上司や他人の顔色をうかがわない意見を集めることができます。

あるいは意見出しのときに、「プロズ&コンズ」(Pros&Cons)という手法を使います。「プロズ」は利点、「コンズ」は欠点のことです。例えばA案とB案の是非を問いたいとき、1人ずつ「あなたはどっち?」と尋ねる方法はよくありません。発言力が強い人が「A案」と答えたら、「B案」と言いにくいなどの障害が生まれるからです。そこで、「プロズ&コンズ」を出そう、と言います。それであれば、意見の対立構造を生むことなく、全員が中立的に意見を述べることができます。

また、これに付随しますが、ミーティングを①ブレインストーミングと②意思決定のフェーズに切り分けることも有効です。「まずは、ブレストをしましょう。意見が多いほどいいから、反対意見もどんどん出してください」と促します。たとえ上司が「A案がいいな」と結論を急いでも、「B案をぶつけることで、A案の精度があがるかもしれません。B案のメリットも確認しましょう」とブレストを続行し、「まだ結論は出しませんよ」と念を押します。容易な「空気形成」に走らせないのです。

「賛成と反対」をやめれば会議は盛り上がる

■納得できる結論をリーダーが伝える

そして4つ目は、合理的意思決定のスキルです。

職場の会議には、最終的な結論を出すリーダーが必要です。A、B、Cの3つの案が出たなら、1つを採択するのは最終意思決定者のリーダーです。

わたしたち日本人が侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を好まない理由のひとつとして、議論が雑然となったら、決める人も困るし、自分の意見が採択されなかった人も肩身が狭くなるかもしれないという配慮も、少なからずあるのではないでしょうか。そこに「どれだけ意見を自由に出しても、最後には合理的に、皆が理屈として納得できる形で意思決定をしてくれる」という最強のゴールキーパーみたいな人が構えてくれていたら、ずいぶんと自由に発言しやすくなるでしょう。

そこで、合理的な意思決定に必要なのが判断基準の明確化です。

例えば、先ほどのA案とB案を選ぶとき。議論を通して「A案はローリスク・ローリターン」であり、「B案はハイリスク・ハイリターン」であると整理できたとします。ただ、ローリスク・ローリターンも、ハイリスク・ハイリターンも、どちらにも良いところと悪いところがあり、なかなかそれだけでは選びきれません。そこで大切なのは判断基準です。

判断基準とは、上位目的にさかのぼり、それを達成するためには何が良いのか、で見つけることができます。例えば、「今チームにとって大切なのは予算達成であるから、収益化の確度の高いA案に目がいきがちであるが、もう1度、わが社のミッションに立ち返ろう。このままの商売を続けていては、わが社のミッションに通じる“脱炭素”に踏み切れない。ここは、たとえリスクが高かろうが、皆の力を結集してB案を目指し、理念を現実に変えていこうじゃないか」といったチームにとっての判断基準を示し、それを起点とした結論を見出すことです。これはリーダーにしかできない、あるいはリーダーがやるべき仕事です。

合理的な意思決定の技術を持つリーダーのもとでは、メンバーは安心して意見を述べられます。会議が盛り上がるかどうかは、ファシリテーターの腕とリーダーの合理的意思決定のスキル次第なのです。

最後に、アリストテレスの言う「ロゴス(論理)」と「パトス(情熱)」の言語化です。

さまざまな価値観や職業倫理を持った多様性のチームでは、「仕事だから、よろしく」ではなく、物事を理屈にそって説明していくこと(ロゴス)と、皆の心を鼓舞すること(パトス)を言語化していくことが大切です。先ほどのB案を選んだ理由のように、なぜ私たちは働いているのか、何を成し遂げようとしているのか、それを言語できちんと相手に伝えるのです。

多様性が重視され、クリエーティブなアイデアが求められる今、たとえグローバル企業に勤めていないとしても、グローバル・モードの会議は、ビジネスの成功につながるはずです。

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児玉 教仁(こだま・のりひと)
グローバル アストロラインズ社長
1997年、三菱商事入社。2004年、ハーバード・ビジネス・スクール入学、06年MBA取得。11年7月三菱商事退社。同年グローバルアストロラインズ設立。著書に『グローバル・モード──海外の相手を動かすビジネス・ミーティングの基本』『ハーバード流宴会術』など。

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(グローバル アストロラインズ社長 児玉 教仁 構成=伊田欣二)

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