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「頭は良いがメンタルが弱い」夏休みは勉強漬けだった子の将来が心配なワケ

プレジデントオンライン / 2021年9月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

ストレスに強い人は、子供時代にどんな体験をしているのか。1万人以上の外資系社員と面談をしてきた産業医の武神健之さんは「比較的ストレスに強い人は、子供時代に“3つの感情”を味わっている。それは勉強だけでは得られないものだ」という――。

■学生時代に優秀だった人材がつぶれるケースは少なくない

9月の産業医面談では、社員さんたちと夏休みについての雑談をすることがあります。その中で、子供(学生)時代の夏休み等についての会話から、社員がどのようにストレスに強い大人へと育まれてきたのか、感じることがあります。

今回は、子供時代にどのような夏休みを過ごし、どのようなスキルを磨けば高いストレス耐性が身に付くのか、1万人以上の外資系エリートたちと面談してきた私の経験からお話しさせていただきます。

私の産業医クライアントには、いわゆる偏差値が高い有名大学から入社してくる社員が多くいます。日々、彼らと接する中で、学生時代に優秀だった人や、有名な会社から転職してきた人が、ストレスに悩み、心身ともに疲弊しつぶれてしまうというケースは決して少なくありません。一方、学生時代には目立った成績ではなかった人や、全く期待されていなかった中途採用者が、結果をしっかり出し、人望を集めて、どんどん昇進していくこともあります。

■ストレスに強い人は「非認知能力」を育てられてきた

比較的ストレスに強い人に子供時代について聞いてみると、多くの人に「認知能力」だけでなく、「非認知能力」の面でも継続的に育まれてきたという共通点がありました。

認知能力とは、テストの点数や偏差値、IQ等、数字で測定可能で、従来の学校教育等で重点が置かれてきたものです。“ハードスキル”とも言われ、言われたことをやる、テストの過去問を解く、塾や予備校での学習、丸暗記などの時間効率がよい勉強によって得られやすい特徴があります。

一方、非認知能力は“ソフトスキル”とも言われるものです。数字だけでは測れない、“総合的人間力”を意味します。

勤勉性、外向性、協調性、精神的安定性などが代表的ですが、このほかに、まじめさ、好奇心、社交性、利他性、自己肯定感、責任感、想像力、やり抜く力、自主性、積極性、コミュニケーション力、共感力、柔軟性、忍耐力などさまざまなものがあります。

なぜ“総合的”と呼ぶかというと、例えば、回復力(レジリエンシー)に優れる人がいたとして、その人は回復力に優れるという一点だけで、メンタルヘルス不調になりにくいのではありません。

そのような人は多くの場合、職場で日ごろから上手にコミュニケーションを行っています。また、分からないことを人に聞く素直さや謙虚さ、また、周囲を巻き込む行動力、そして自身の試行錯誤ややり抜く力など、さまざまな要素を持っています。そのため、そもそも回復力をそこまで要さない、仮に回復力を要する事態があったとしても周囲がサポートしやすい人なのです。非認知能力とは、このように複合的なものです。

■優秀なのにチームプレーが全然できない新入社員

一方、学生時代などには優秀だったのに、社会に出て苦戦する人は、「認知能力の獲得のために、非認知能力を犠牲にしてきた」ことの影響も小さくないと考えています。

ある有名大卒の入社1年目の男性社員は、仕事の飲み込みや分析力は新卒とは思えないほど優れていましたが、チームプレーが苦手で融通が利きません。部内で同僚と協調できず、次第に誰も彼に仕事を教えなくなり、孤立しました。産業医面談で、精神面から来る体調不良を認めるものの、本人は最後まで“上司が悪い”という気持ちを変えることはできず、結局、退職していきました。

暗い部屋の中で悩んでいる人
写真=iStock.com/Tzido
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tzido

彼との産業医面談の中で、気になった点がありました。中高一貫校時代にIT関係の読書や調べ物、プログラミング等々、興味の対象に没頭する時間がもてたことが、彼の今の長所に影響していると思われる一方で、部活動経験がなく、大学でもサークル活動など年齢を超えて他人と交わる機会に恵まれなかったことです。それが、社会人になってから周囲との協調性がない、チームプレーができないことにつながっているようでした。

また、ほかの会社で中途採用された女性社員のケースでは、博士号を持っているためか、周囲をやや小ばかにする傾向がありました。博士号という学歴は高い認知能力ともいえますが、決して総合的人間力ではありません。彼女の場合、締め切り間近に起こったトラブルで誰にも助けを求められず、結果として大失敗してしまい、そこからうつによる休職となりました。

■2人に共通する発言「自分のミスは自分で挽回すべき」

両者とも産業医面談では、このようなことを言っていました。「自分のミスは自分で挽回すべき、他人のミスまで気にしていられない」「自分の不勉強は自分で調べるから睡眠時間が少なくなってもしょうがない」(しかし翌朝起きられなくてチームにかかる迷惑には無言)。2人とも、認知能力は優秀でしたが、会社で求められる非認知能力は不足しているようでした。

■仕事で必要な「3種類の非認知能力」

このように、いくら認知能力が高くて優秀でも、社会では通用しないことは多々あります。仕事をする上では、学校の授業では教えてくれない3種類の非認知能力が特に必要だからです。

まず、学生時代は、試験など“自分の課題を解決すること”が求められていましたが、社会人になると“相手(お客さまやチーム)の課題を解決すること”が求められます。他人のために何かをするには、相手の問題を察したり、聞き出したりする共感力やコミュニケーション力、利他性などが必要です。

2つめは、協調性や忍耐力、回復力です。学生時代は仲のいい友達と過ごしていればよかったのですが、社会人になると上司やクライアントなど、苦手だったり気が合わなかったりする人たちともやっていかなければなりません。

3つめは、行動力、やり抜く力、責任感です。学生時代は勉強で知識をつけて試験で点を取るという“机上”での作業で評価されましたが、社会人は、知識を活用して結果を出す“行動”が求められます。

もちろん、仕事へのミスマッチから来るストレス原因は、どちらの能力不足でも起こり得るものです。単にその仕事に対する十分な認知能力(基本的能力)が欠けている場合もありますので、認知能力はある程度は必要です。ただ、ストレスに強くあるためには、認知能力を上回る非認知能力が必要なのです。非認知能力の高い人は、自分の知らなかった新しい世界の人々と交わっても、協調し、試行錯誤を繰り返し、転んでも立ち上がることができます。その姿勢こそが、ストレスに強いと言われるゆえんなのです。

■ストレスに強い大人は「3つの感情」を体験してきた

このような話になると、必ず聞かれるのは、「子供時代に何をやらせたらいいのでしょうか?」という質問です。野球? サッカー? ピアノ? バイオリン? くもん? 体操? 夏休みや冬休みにはどのような経験をさせればいいでしょう? 云々です。

しかし、何かこれという特定のやるべきものはありません。それよりも、ストレスに強い大人たちは子供時代に必ず、大人の応援のもと、“3つの感情”を繰り返し体験してきていることを知ってほしいと思います。

その3つの感情とは、①物事に対し純粋に楽しい、気持ちいい、うれしいと感じる気持ち、②挫折や失敗による悔しさを、頑張って挑戦や試行錯誤して乗り越えた後でのやったー! という気持ちの高まりや達成感、③1人ではできなくても仲間との協力や共同作業などで乗り越えられる、という共同感情や一体感です。

手をつなぐ人たち
写真=iStock.com/sutlafk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sutlafk

■「仲間とともに没頭する経験」が非認知能力を育てる

いずれも、子供(学生)時代に、何か好きなことを仲間たちとともに継続的に没頭してきたという経験からくる感情です。彼らは好きなことをやり続ける中で、まじめに集中すること、体を動かすこと、他人と協調すること、試行錯誤すること、転んでも起き上がることなどを身に付けたのでしょう。それこそが大人になってから求められる非認知能力なのです。

芝生の上を走っている子どもたち
写真=iStock.com/StockPlanets
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/StockPlanets

スポーツでも、楽器でも、趣味の何々でも、没頭し継続して続けることで、得られるものなのです。

2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンは、『幼児教育の経済学』の中で、非認知能力が高い人は学歴、職業、所得、生活保護、犯罪等の点において、低い人よりも恵まれた人生を送ったと述べています。そして、非認知能力を身に付けるのは、就学後よりも未就学児が効果的であること、成功や失敗などの体験から得られることが多いと述べています。

■未就学児は遊びに集中、学生時代はクラブ活動がいい

具体的には、未就学児であれば、好きなだけ遊びに集中して取り組ませてあげること、親(大人)と一緒に絵本の読み聞かせや料理・掃除・お片付けなどのお手伝いをすること、たくさん褒められること、また、うまくできることだけではなく、許容範囲内でうまくいかないことも経験することなどで、非認知能力は育まれると言われています。

就学後、つまり学生時代の非認知能力は、コミュニケーションを中心とした、さまざまな体験活動を継続できると育まれます。ただし、生活圏は広がっていきますので、就学前のように“家などで親(大人)と”という活動よりも、学校や地域における好きなクラブ活動などで、仲間たちとともに、挑戦・成功・失敗などの体験を継続することが重要になります。

■重要なのは「親のストレスコントロール」

非認知能力に長けた社員たちとの雑談の中で、その親との関係性においても、気がついたことがあります。

概して、そのような親は子供を過保護に育てていません。幼少のときよりさまざまな体験の機会を与えられ、好きなことに没頭することを応援された環境で育っているという共通点がありました。

ここでは親のストレスコントロールが重要になります。

例えば、サッカーにはまっている小学生やコーラス部活動に忙しい中学生が、家に疲れた顔をして帰ってきたとき、「いつも頑張っているね、お疲れさま。宿題も頑張ってね」と言うか、「疲れていても宿題だけはやるんだぞ!」と言うか、これは親次第です。

また、試合で負けた、大会で敗退したようなときに、子供自身が頑張っていたことを承認し、ねぎらい、次につながるような気分転換になる言葉をかけることは、大人自身に余裕がないとできません。

大人自身がストレスを上手にコントロールできていないと、余裕がないゆえに子供に優しく接することができません。その余裕のなさは子供にも伝染し、それでは子供の非認知能力は上手に育まれないのです。

現在の大人たちがこのようなことを認識し、未来の大人たちがストレスに上手に対処できるようになれるよう、関わってほしいと思います。コロナ禍ではありますが、多くの人が夏休みを取ったと思います。現在の大人たち自身が、自分の気分転換やストレス軽減のための時間を取れたことを祈ってやみません。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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